クールペッパーページ05「重力座標系」/黒月樹人
Cool Pepper Page 05 “Gravity Coordinate System”/Kinohito KULOTSUKI

 早坂秀雄がジャイロを使った実験を行って、上から見て左回りのジャイロでは質量の変化が生じないにもかかわらず、右回りのジャイロでは、時間当たりの回転数に比例して、質量が軽くなることを明らかにした[1]。このジャイロの質量が175.504グラムのとき、104rpmの回転周波数で、およそ9ミリグラム軽くなるという。比にすると0.009175.5040.00005125.12×105なので、この現象だけで、ジャイロの質量が無くなって、無重力になるわけではないが、この実験は、このような現象についての科学的な検証実験として、これまでの考えを変えるものであるから、このように小さな数値であっても、やはり、驚くような結果である。

このことを紹介した本[2]の中で、質問者が、周囲に重力源の星が無いような宇宙空間では、ジャイロの右回りと左回りの区別がつかないということを問いかけたところ、早坂は、この現象は、地球の重力に対して観測されたもので、このような状態のもとでの、重力の鉛直線の上側から見たときの、右回りと左回りとで違いがあるということを確認している。これは、重力についての現象であるから、重力がほとんどないところでは、ジャイロの右回りと左回りについて何の区別もないのは当然のことであろう。ところが、このことは、相対性原理を主張する理論においては、大きな違いとなる。

有名なアインシュタインの特殊相対性理論[3]は、物理現象に関して、慣性座標についての相対性原理を主張しているが、このとき、静止座標系と運動座標系を指定して、静止座標系で成立する物理法則が、運動座標系でも成立すると考えている。しかし、このような原理は、初めに決めた静止座標系と運動座標系の立場を入れ替えても、同じように成立するはずだということを、暗に示している。つまり、運動座標系とともに運動している観測者にとっては、静止座標系のほうが運動しているように見えるのだから、立場を入れ替えることができるはずなのである。

このような考え方に立てば、ミューオンの寿命が延びるとされる現象で、地球を静止座標系とし、ミューオンを運動座標系として、ミューオンの時間を遅らせるだけでなく、立場を入れ替えて、地球のほうの時間も遅らせることになり、時間の遅れなぞ観測できなくなるし、理論的には矛盾の式が現れて、このような現象が生ずる理由が見いだせなくなってしまう[4][5]。特殊相対性理論については、矛盾が生ずるのだが、不思議なことに、地球を静止系として、ミューオンを運動系としたときの、時間の遅れに相当する現象が観測されているという。これは不思議なことである。

この謎を調べるための手がかりの一つは、地球が特別な座標系であるということを主張できる理由があればよい。例えば、地球をある種の絶対静止系として見なすことができることを、窪田登司が、航空機の姿勢制御などで使われているジャイロコンパスを実例として説明している[6]。また、「ポアンカレの相対性理論」や「ローレンツの相対性理論」と言われる立場では、「好ましい座標系」という視点が主張され、これを地球の座標系と同一視して論じられているようだ[7][8]

ミューオンに対して、地球が特別な存在だと主張できるのは、相対的な運動ではなく、比較的大きな(ある意味で絶対的な)重力をもっているということであろう。つまり、重力を指標としたときの、好ましい座標系というものを考えることはできるはずである。ジャイロの回転の向きは、この座標系に対して考えられている。北極での上から見て右回転のジャイロと、南極での上から見て右回転のジャイロは、上記の効果において、同じような結果を生むかもしれないが、遠い宇宙空間から、これらのジャイロだけを見ると、まったく逆の回転をするものとして見える。もちろん、地球を含めてジャイロを眺め、トポロジーの視点で変化させれば、同一視できるものとなるだろう。

もし、ミューオンの時間というものではなく、単純に、絶対時間は一つだけあるとして、その中で、単にミューオンの寿命が延びているだけだとしたら。もちろん、これは特殊相対性理論で保証されるものではなく、まだ見出されていない、何らかの法則や性質として、この地球の重力場の中で、ただ、ミューオンの生存時間に違いが生じているだけであるとしたら、この謎は解けるかもしれない。

しかし、それではなぜ、地球の重力の影響で、ミューオンの生存時間が延びてしまうのか。大気の上層から地表面へと移動する向きの現象であれば、そのような理由を考えることもできるだろうが、地表に設けられたサイクロトロンやシンクロトロンなどの装置の中で、やはりミューオンの生存時間が延びるとしたら、これについて重力を関係づけるのは難しい。重力と同じ意味をもつものとしての「加速度」だろうか。サイクロトロンやシンクロトロンなどでは、粒子はもっぱら円運動している。厳密にいえば、これは等速度のもとでの慣性系というものではなく、常に加速度を受けている運動座標系である。すると、特殊相対性理論は無効だが、一般相対性理論は有効で、重力や加速度によって、粒子の生存時間は、何らかの影響を受けるということなのかもしれない。しかし、一般相対性理論から見出された重力の解であるシュヴァルツシルト計量の式を使って、どのように説明すればよいものか。この式の導き方と使い方については学んだが[9]さらなる応用となると、難度は飛躍的に上がってしまう。とはいえ、これらは単なるアイディアである。どちらかというと、SF小説のトリックの種になるかどうかといったレベルのものであり、科学的な、何らかの理論になるかどうかは、いまのところ分からない。(2008.12.14)

参照文献

[1] Hideo Hayasaka and Sakae Takeuchi, Anomalous Weight Reduction on a Gyroscope’s Right Rotations around the Vertical Axis on the Earth, PHYSICAL REVIEW LETTERS, VOLUME 63, NUMBER 25, 1989

この論文は、[1a]のページにある[1b]で得ることができる。

[1a] http://www.geocities.co.jp/Technopolis/1228/

[1b] Weight Reduction on Gyroscope's Right Rotation around the Vertical Axis on the Earth

[2] 早坂秀雄, 宇宙船建造プロジェクト, 徳間書店, 2007

[3] Einstein, Albert (1905d), "On the Electrodynamics of Moving Bodies", Annalen der Physik 17: 891–921 .

http://www.fourmilab.ch/etexts/einstein/specrel/specrel.pdf

[4] 黒月樹人, タバスコキメラミーム34「ミューオンの寿命/運動の相対性」
http://www.treeman9621.com/Tabasco_Chimera_Meam_of_KK_34_muon_lifespan_relativity_motion.html

[5] Kinohito Kulotsuki, MUON LIFESPAN AND RELATIVITY OF MOTION

http://www.treeman9621.com/TCM34_MUON_LIFESPAN_AND_RELATIVITY_OF_MOTION.html

[6] 窪田登司, http://www.d1.dion.ne.jp/~kubota_t/ein-kubota.html

[7] トム・バン・フランダーン, 全地球測位システムは相対性理論について私たちに何を語るかWhat the Global Positioning System Tells Us about Relativity

http://www.metaresearch.org/cosmology/gps-relativity.asp

[8] 日本語への翻訳は、黒月樹人 (KINOHITO KULOTSUKI, treeman9621.com) による

http://www.treeman9621.com/What_the_GPS_Tells_Us_about_Relativity_Japanese.html

[9] 黒月樹人, タバスコキメラミーム12「シュヴァルツシルト計量」

  http://www.treeman9621.com/Tabasco_Chimera_Meam_of_KK_12.html