同じ速度vの運動系どうしでタウ関数による変換は無意味

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)

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 要旨

 定常系の中で動いている運動系があり、これらの間でローレンツ変換が必要とされたのではなく、定常系の中で、同じ速度 vで動いている、二つの運動系の間で、長さと時間がともに関わり合って変わる性質をもつタウ関数が考えられ、時間の性質が異なるものとされた。これらの二つの運動系は同じものとみなせるので、このような変換は無意味である。よって、タウ関数をツールとしてローレンツ変換を生み出すことはできない。

 定常系Kと運動系k

 アインシュタインの特殊相対性理論のベースであるローレンツ変換は、静止系(定常系)Kと運動系 kの位置座標と時間についての変換である。
 よって、このとき、さいしょに持ち出される τ(タウ)関数も、静止系の座標と時間の x, y, z, t から、運動系の時間 τ への変換のための関数である、と思った。
 すると、アイシュタインは、この τ 関数の x 成分の座標値を間違えているのではないか、と考えた。

         (1)

 この式の右辺は、運動系kτ1に対応する、「光が反射する」事件についてのものであるから、静止系での位置は x’ ではなく、次の値となるはずである。

             (2)

 ところが、そうではなかったのである。

図1 定常系と運動系

 定常系Kの中のK’系と運動系k

 アインシュタインの特殊相対性理論の原著 [1] [2] の、タウ関数が定義されるあたりを詳しく読むと、次のように書かれている。[P] や [Q] は、引用文の識別記号である。

 [P] いま x-vt を x’と書くことにすれば、k系に静止している任意の点は、x’, y, z という 3個の数値の組によってその位置が規定される。k系に静止している物については、これらは時間の経過に関係なく一定である。ところで、まず τ を x’, y, z および t の関数として表してみよう。([2] p26)

 このあと少し、ここでの思考実験の状況の説明があって、運動系kの中での光のふるまいと、@光の放射、A光の反射、B放射位置に戻る、の3事件における時間が定義され、次の式が「成立するはずである」として、記される。

                 (3)

 このあとに続くのが、上記の(1)であるが、この間にある説明文を引用しよう。

 [Q] 静止系Kで、光速度不変の原理を用い、また独立変数 x’, y, z, t を用いて τ を、τ(x’, y, z, t) の形に書くと、上の関係は次のようになる。([2] p27)

        (1)

 引用文の [P] を読み、図1は正しくなく、次の図2のようにとらえるのが正しいと考えた。

図2 定常系Kの中のK’系と運動系k

 この図2では、静止系Kの中に、特別区のようなK’系を設けた。
 静止系Kから特別区のK’系への変換公式は、

   x’ = x-vt             (4)

である。
 [P] により、特別区のK’系の座標(x’, y, z)は、k系に静止している点(ξ, η, ζ)と、速度vの影響を受けずに対応している。
 [P] では、「まず τ を x’, y, z および t の関数として表してみよう」と説明している。

 [P] でアインシュタインが説明しているように、静止系の中の特別区であるK’系の位置座標と、運動系kの位置座標とは、まったく同じなのである。いずれにおいても、速度vの影響は、これらの位置座標に現れない。
 つまり、運動系 kと同じ状況が、特別区であるK’系においても生じているので、K’系は運動系だとみなすことができる。しかも、運動系 kと「合同」と言ってもよいくらい、重なっていると考えられる。  このとき、一つの疑問が生じる。

 重なっているともみなせる、まったく同じ運動系なのに、それらの時間だけを、すべての空間座標と時間を成分としてもつ、タウ関数で変換しなければならないというのは、なぜなのだろうか。

 考察

 アインシュタインはタウ関数を導入するにあたり、静止系Kの中に、位置に関する座標系としては、まったく一致する、K’系と運動系kを考え、これらの時間だけが異なるものとして、ローレンツ変換の構成を進めてゆこうとしている。
 静止系Kと運動系kとでは、確かに、相対速度vが違ってくる。光の、速度vに関するふるまいも変わってくる。ここから、事件が起こったときの、時間の表し方が違ってくるかもしれない。
 しかし、特別区のK’系と運動系kとは、静止系Kとの相対速度vが同じであり、座標値も、記号の表記が違うだけで、その値は対応しているのである。離れているように描いたが、実は重なっているとも考えられるものである。
 このとき、特別区のK’系における、光のふるまいがどのようになるのかということを考慮しないまま、時間について、静止系Kと同じとするのは、論理的な思考とはいいがたい。
 仮に、特別区のK’系と運動系kとで、時間が異なるとしても、空間座標については、まったく同じ対応が成り立つのだから、タウ関数の中に空間座標が成分として入り込む理由はなく、τ(t)のように、tとτとの1対1対応となるべきである。
 もちろん、このようにすると、それまでに知られていたローレンツ変換のスタイルは生まれない。
 すると、ローレンツ変換の応用のような、ローレンツ収縮、時間の遅れ、光速度を決して超えない速度の合成などを含む、特殊相対性理論とまとめられる体系も生まれなかったし、それによって派生する、数々のパラドックスも生まれなかったはずである。
 (Written by KLOTSUKI Kinohito, July 25, 2018)

 参照資料

[1]「運動している物体の電気力学について」、アインシュタイン選集1、湯川秀樹(監修)、中村誠太郎・谷川安孝・井上健(訳編)、共立出版(刊)、昭和46年3月1日
[2] 「アインシュタイン 特殊相対性理論」、内山龍雄訳・解説、岩波文庫、井波書店刊 1988-11-16

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