E=Mc2の初等的証明の誤り

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)

キメラミームのページへ戻る

 世界でもっともよく知られた物理公式

 アインシュタインが生み出した物理公式の中で、一般相対性理論の中核となるテンソル形式での微分方程式を書き記せる人は、めったにいない。
 特殊相対性理論 [1] [2] のベースであるローレンツ変換だと、(何度も書き記したので覚えてしまったが)5つの公式のうち、YとZについては、とくに覚えることもなく、X成分の変換公式、時間の変換公式、それと、βと記号化されることの多いローレンツ因子が書ければよい。慣れると、これらの逆変換の公式も書き下せるようになるだろう。
 それらより、もっとずうっと有名で、ほとんどの人が「知っている」と答えそうなのが、「質量とエネルギーの等価性の公式」、すなわち、E=Mc2 である。
 原水爆のエネルギーが、この式に従って生み出されると、されている。
 この式が正しいとか間違っているとかを議論するのは、やめておこう。
 しかし、アインシュタインがこの式を生み出したとされる「質量とエネルギーの等価性の初等的証明」 [3] における誤りがどこにあったかということなら、議論をすすめることができる。

 質量とエネルギーの等価性の初等的証明 [3]

 この論文は日本語訳でわずか3ページであり、Technical Journal, vol. 5 (1946), pp. 16〜17 と記されているように、原論文としてもわずかな内容である。
 アインシュタインの論文としてはめずらしく、図1と図2が添えられ、これに基づいて論じられている。
 原論文の内容の要約をしよう。

(1) 利用した法則
 T. 運動量保存の法則
 U. 輻射圧の式、すなわち一定方向に進む輻射の複合体の運動量
 V. よく知られた光行差の式(恒星の見かけの位置に対する地球の運動の影響――ブラドレー)

(2) 図1による静止系K0の状況
 (a) 座標系K0に物体Bがある。物体Bは力を受けずに静止している。
 (b) 二つの輻射複合体S, S’がある。これらは、おのおのE/2のエネルギーをもって、それぞ正負のx0方向に進み、最後にBに吸収される。
 (c) この吸収によってBのエネルギーがEだけ増加する。
 (d) 物体Bは対称性の理由によりK0に対して静止を続ける。



(3) 図1における運動系Kの状況と図2による視点
 (e) 同じ過程をK0に対して一定の速度vで負のz0方向に動いている座標系Kから眺めたとしよう。その場合、Kに関しては上の過程の記述は次のようになる。
 (f) 物体Bは正のz方向に速度vで動いている。
 (g) 二つの輻射複合体は今度はKに対してはx軸と角αをなす方向をもっている。
 (h) 光行差の法則によれば、第1近似でα=v/c (ただしcは光速度)である。
 (i) K0における考察から、Bの速度はSおよびS’の吸収のあとで変わらないことが分かる。



(4) 座標系Kにおいてz方向の運動量保存則をこの系に適用してみよう。(吸収のまえ)
 (4a) 吸収のまえのBの質量をMとする。
 (4b) Bの運動量はMv
 (4c) おのおのの輻射複合体のエネルギーはE/2 (古典力学より)
 (4d) おのおのの輻射複合体の運動量はE/c2 (マックスウェル理論より)
   これは、SのK0に関する運動量である。
 (4e) vがcに比べて小さければ、Kに関する運動量も2次の微少量(1に対してv2/c2)を無視すれば同一である。
 (4f) 運動量のz成分は (E/2c)sinα 
 (4g) あるいは十分な正確さで(高次の量を無視して) (E/2c)α=(E/2c)(v/c) である。
 (4h) SとS’を合わせて Ev/c2の運動量をz方向にもっている。
 (4i) 吸収のまえにおける系全運動量は Mv + (E/ c2)v

(5) 座標系Kにおいてz方向の運動量保存則をこの系に適用してみよう。(吸収のあと)
 (5a) 吸収ののちのBの質量をM'とする。
 (5b) エネルギーEを吸収したため質量が増加したことが予言される。
  (これは考察の最後の結果に矛盾が生じないために必要である。)
 (5c) 吸収ののちの運動量は M'v
 (5d) 運動量保存則をz方向に対して適用すれば
    Mv + (E/ c2)v = M'v
 (5e) M'−M = E/ c2
 (5f) この式は、エネルギーと質量の等価性を表す。
 (5g) エネルギーの増加Eに対して質量の増加 E/ c2 が伴う。
 (5h) エネルギーは付加定数だけ不定のままである(通常の定義)。
 (5i) E=Mc2 になるようにエネルギーを選ぶことができる。

 輻射エネルギーは熱エネルギーに変わるのではないか

 上記思考実験では、運動系のK系から、静止系のK0で起こる現象について、K系からの見かけの動きからの運動量として、MvとEv/c2を考えている。
 そして、輻射エネルギーが吸収されたあと、物体Bの質量が増えると仮定している。
 しかし、通常の現象として、輻射エネルギーが物体に吸収されたとき起こるのは、その物体の熱エネルギーが増えるということである。
 輻射が赤外線であれば、このことはよく知られていることである。

 物体Bは静止系にあり、静止系では運動量のz成分は何もない

 物体Bは静止系にあり、二つの輻射も静止系にある。
 これらにおいて、z成分の運動量のようなものは何も存在しない。
 この現象について、運動系から見たとき、これらにz成分の運動量が見積もられると言っても、これは見かけ上だけのことであり、ほんとうの現象として観測できるものではない。
 よって、静止系で起こっていることについて、運動系での物理量を考えてゆくというのは、ほんものの物理現象として認められることではない。

 あとがき

 静止系の物理現象を運動系から見たとき、静止系には存在しなかったz方向での運動量が生じるとみなして、ここからの式の変形で、有名な E=Mc2 を導いたとしている。
 (5b) エネルギーEを吸収したため質量が増加したことが予言される。
  (これは考察の最後の結果に矛盾が生じないために必要である。)
のところも、「証明」とは呼べない構造となっている。
 ここのところは「予言」ではなく「仮定」としておくべきところだろう。
 それで「矛盾」が生じたとしたら、「仮定」を疑う、というのが、ギリシャ時代からの、この世界における常識である。
 静止系と運動系という、異なる二つの視点から生ずる数式を、混在させるという、特殊相対性理論に特有の「誤り」を指摘するまでもなく、いくつもの欠陥をもっている。
 このようなことから有名な E=Mc2 が導かれたとは、とうてい考えられない。
 そのように思ったのは黒月樹人だけではなかったようである。

 この公式についてのウィキペディアを調べたところ、次のように記されていた。

 この E = mc2 と言う関係式は、アインシュタインによる公式の中で最も有名なものではあるが、経験則に基づく仮説として、長年の間厳密な証明はされないままであった。しかし、原子核の核子を構成するクォークと核子同士を結び付けるグルーオンは、それぞれ質量が全体の5%および0であるにもかかわらず、これらクォークとグルーオンの動きや相互作用によって発生するエネルギーが原子核の質量の源となるという論文が、2008年11月21日発売のアメリカの学術誌『ネイチャー』に掲載された[5][6]。このことにより、これまでは仮説だったこの関係式が、ようやく実証されたことになる[6][7]。

 ここのところの参照項目を調べたところ、次のサイトへとつながった。
 欧州物理学チーム,特殊相対性理論の「E=mc2 」をついに証明

 【11月23日 AFP】理論物理学者アルバート・アインシュタイン(Albert Einstein)が1905年に発表した特殊相対性理論の有名な関係式「E=mc2 」が、1世紀余りの後、フランス、ドイツ、ハンガリーの物理学者のチームが行ったコンピューターによる演算の結果、ついに証明された。

 アインシュタインは証明したと思い込んだだけで、単なる仮説だったわけである。
 でも、この仮説が100年以上経って、1905年ごろには無かったコンピューターを使って証明されたということだ。コンピューターもなく、そのような仮説を証明しようとしたアインシュタインをたたえるべきなのだろうか。
 (Written by KLOTSUKI Kinohito, Aug 5, 2018)

 参照資料

[1] 「運動している物体の電気力学について」、アインシュタイン選集1、湯川秀樹(監修)、中村誠太郎・谷川安孝・井上健(訳編)、共立出版(刊)、昭和46年3月1日
[2] 「アインシュタイン 特殊相対性理論」、内山龍雄訳・解説、岩波文庫、井波書店刊 1988-11-16
[3] 「質量とエネルギーの等価性の初等的証明」、アインシュタイン選集1、湯川秀樹(監修)、中村誠太郎・谷川安孝・井上健(訳編)、共立出版(刊)、昭和46年3月1日
[4] 「物体の慣性はその物体の含むエネルギーに依存するであろうか」、アインシュタイン選集1、湯川秀樹(監修)、中村誠太郎・谷川安孝・井上健(訳編)、共立出版(刊)、昭和46年3月1日


キメラミームのページへ戻る