ローレンツ変換はマクスウェル方程式を変換していない

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)

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 1. アインシュタインの特殊相対性理論の T. 運動学の部

 ここでアインシュタインが述べようとしたことを、かんたんに要約しよう。

 (1) 相対性原理が、互いに等速で移動している二つの座標系において成り立つ。
 (2) 光速度不変の原理が一つの座標系で成り立つ。
 (3) 静止系と運動系では、時間のとらえ方が異なるようにとらえることができる。
 (4) 運動系での光のふるまいを、静止系へと移したモデルと同一視することにより、運動系と静止系とで時間が異なることを表現する(タウ関数の)方程式を構成することができる。
 (5) このときの(タウ関数の)方程式を核として、さらに条件を加えて変形してゆくことより、ローレンツ変換の公式群を導くことができる。
 (6) ローレンツ変換から、動いている方向で物体の長さが収縮すると示すことができる。
 (7) ローレンツ変換に位置条件を組み込むことにより、静止系の時間に比べて、運動系の時間が小さくなる(遅く流れる)と示すことができる。
 (8) ローレンツ変換における速度の合成では、とくべつな公式が成り立つ。

 アインシュタインは、「前書き」のところで、「動いている物体の関与する電磁現象を、マックスウェルの電気力学を用いて説明しようとする場合…」と書き出し、「1個の磁石と、1個の電気の導体との間の電気力学的相互作用について考えてみよう」と続けている。
 ここのところの話の流れは、あまり分かりやすいものではなく、なんとなくつながってゆき、「光エーテルという概念を物理学にもちこむ必要のないこと」が暗示される。
 ここは論証の部分ではないので、とくに分析するほどのこともないが、ここで「マックスウェルの電気力学」が取り上げられており、この「T. 運動学の部」に続いて、次の「U. 電気力学の部」があることから、この論文の中心的な部分は、こちらの方だとみなせる。
 しかし、こちらの方についての解説書などは、ほとんど見当たらない。
 アインシュタインの特殊相対性理論というのは、ほとんど「T. 運動学の部」のことだと思われていることだろう。

 2. アインシュタインの特殊相対性理論の U. 電気力学の部

 ここのところは、物理学の中でも、電磁気学について、よほどの知識と思考力をもつものでないと分からないだろうということが、さいしょに表示されている数式群を見るだけで分かる。
 この分かりにくさを生み出している原因について考えてみた。

 (1) アインシュタインはここで、「(X, Y, Z)は電気力のベクトルを、(L, M, N)は磁気力のベクトルを表す」として、これらを使っているが、現代物理学の電磁気学では、電場E(EX, EY, EZ)と、磁束密度B( BX, BY, BZ) を使う。
 [1] ではアインシュタインの記述法のままだが、[2] の内山龍雄(訳)では、注釈があって、現代の表現スタイルとして訳したとある。ただし、少しミスプリがあるので、これは[1]と見比べて正すことにした。

図1 真空中でのマックスウェル-ヘルツ方程式を静止系Kから見たもの(式(1))

 (2) アインシュタインは、これらの「マックスウェル-ヘルツ(Maxwell-Hertz)方程式」に、§3で導いたローレンツ変換を適用すると「次式を得る」と説明して、6つの複雑な数式群を並べているのだが、(1)の式から、この式へと、どのように変形させればよいのか、見当がつかない。

図2 式(1)についてローレンツ変換を行ったもの(式(2))
(1つ目のみ、他の5つは略)

 ここのところにも [2] では注釈がある。ここを見ると、他に2つの関係式が必要だということである。その2つの関係式とは、現代の電磁気学でマクスウェルの方程式とされる、divD=ρ (ただしρ=0として)と、divB=0 なのである。
 アインシユタインは、現代の電磁気学でマクスウェルの方程式とされる4つから、3番目と4番目を書き下して、1番目と2番目については式の変形で(とりあげるほどのこともないと思ったのか)こっそりと使っているわけである。

 (3) 3番目の方程式群は、(1)における、静止系でのマックスウェル-ヘルツ(Maxwell-Hertz)方程式が、相対性原理にしたがって、運動系kで表されるものである。
 ここのところは、記号の入れ替えだけなので、分からなくもない。

図3 真空中でのマックスウェル-ヘルツ方程式を運動系kから見たもの(式(3))
(1つ目のみ、他の5つは略)

 (4) 少しいろいろな計算があって、4番目としてまとめられる方程式群がある。
 これらの (1) (2) (3) (4) の数式群の関係が、かんたんにはつかめないので、ここのところの論理は、まったく「藪の中」状態となってしまう。
 これについては、次の計算例についての説明を終えてからにしよう。

 3. Maxwell理論の現代電磁気学によるベクトル表記

 計算例に移る前に、Maxwell理論の現代電磁気学によるベクトル表記について、まとめておこう。

  
  
  

 4. マックスウェル-ヘルツ(Maxwell-Hertz)方程式を現代ベクトル表記する

 アインシュタインの特殊相対性理論の「U. 電気力学の部」は「§6. 真空中におけるマックスウェル・ヘルツの方程式の変換. 磁場内にある物体の運動に伴って生ずる起電力の性質について」から始まる。
 次の式は、(a) 真空中でのマックスウェル-ヘルツ方程式 を (b) 静止系Kから見た ものであり、これについて「正しいと見なしてよい」としている。
 数式は6つある。これから計算するのは、その一つだけであるが、全体的な流れを理解するため、ここでは、それらをすべて記しておこう。ここでは [2] の表記にしたがう。

   (4-1)

 これらの方程式が、現代の電磁気学における、Maxwell理論のベクトル表記のどれに対応するかを調べることにした。そのため、アインシュタインによる、これらの方程式のベクトル成分表記から、どのようなベクトル表記になるかを、次に記した。ここで太字はベクトルを意味する。 

   (4-2)

 この6つの方程式のうち、右列の3つは、上記Maxwell理論のベクトル表記の(M4)とまったく同じである。これはよいのだが、左列の3つに対応するものが見つからない。

         (4-3)

 これに次の関係を代入する。

             (4-4)
       (4-5)

 ここで、電流が流れていないとして j を0とし、真空中とみて、マクスウェルの方程式における電磁波の速度の関係を使えば、対応したものとなる。

 5. マックスウェル-ヘルツ(Maxwell-Hertz)方程式のひとつについての計算

 図1「空中でのマックスウェル-ヘルツ方程式を静止系Kから見たもの」の式(1)から、向かって左上の、さいしょの式を取り出す。

           (5-1)

 次に、図2「式(1)についてローレンツ変換を行ったもの」を、ここに再録しておこう。

(5-2)

 この式は、ここのところの計算の、さいごのあたりで見返すことになる。いわば、ここでの計算の目標となる式である。
 ところで [2] の注釈において、内山龍雄氏は、次の(5-3)と(5-4)も使わなければならないと述べてくれている。これらの式も確認しておこう。


               (5-3)


             (5-4)

 さて、ローレンツ変換において、運動系kの時間τは、静止系Kの変数としてtとxを持っている。

             (5-5)

 このことから、τ(x, t) は変数2つからなる関数であり、Exをτで偏微分するときは、次の公式に従う。

      (5-6)

 (5-5)の逆変換を求めると(5-7)である。また、(5-8)もローレンツ変換の逆変換として求められる。
 これらの関係から、(5-6)の中にある項の値が(5-9)として求められる。これらを(5-6)に代入すると(5-10)となる。

               (5-7)
                 (5-8)
               (5-9)
           (5-10)

 求めたいのは、(5-2)の左辺が、右辺のようになるかである。(5-2)の右辺は、この上にある(5-10)の両辺に 1/c2 を掛けたものとなる。ここから計算をスタートしよう。
 このあと、∂Ex/∂x を(5-3)を使って置き換えるが、このときのローレンツ変換では、y座標とη座標が同じなので、∂yを∂ηで置き換えることができる。z座標とζ座標も同じなので、∂zは∂ζで置き換えられる。
 ∂Ex/∂t は(5-1)を使って置き換えた。ここでも、∂yや∂zは、∂ηや∂ζとした。

  (5-11)

 計算の結果、(5-2)の式が導けた。ここで、赤い箱と青い箱を描いてあるが、この後の対応を見やすくするためである。
 ここに得られた(5-2)でもある(5-11)を、図3「真空中でのマックスウェル-ヘルツ方程式を運動系kから見たもの」と見比べる。次に示したように、対応する部分が同じ色の箱で囲ってある。

  (5-12)

 これらの箱について、同じ色ずつまとめると、次のようになる。

  (5-13)

 ここで計算したのは、6つの関係式のうちの1つだけであるが、アインシュタインによれば、これらのすべてを調べると、さらに、次の関係式が現れるという。上記の計算のプロセスを考えると、おそらく、6つの関係式の2つ目を計算すればよいだろう。ここまで手順を明らかにしたので、この計算はかんたんに行える。上記のような画像を作るのはたいへんなので、紙に手計算で行ってみた。その結果はアインシュタインが導いた、次の(5-14)と一致した。
 電場と磁場に整理して、まとめると(5-14)のようになる。
 これが「4番目としてまとめられる方程式群」である。

   (5-14)

 ローレンツ変換はマクスウェル方程式を変換していない

 計算の結果が合って、めでたしめでたしと思ってしまうことだろう。
 しかし、この計算の結果は、アインシュタインにとっても、意外なことではなかっただろうか。
 「これらの式の意味を理解するために…」と書き始めて、長い文章が続いてゆくが、ここを読んでいっても、何が言われようとしているのか、よく分からない。
 上記の計算の結果、定常系と運動系における電場と磁場の成分のうち、相対性原理に従って、同じ表現形式になるのは、運動系の速度vが作用している、定常系でのX成分、運動系でのΞ(グザイ)成分だけである。
 その方向とは異なる、Y軸とZ軸に対応する、H(イータ)軸やZ(ゼータ)軸では、相対性原理にしたがうどころか、電場と磁場が複雑にかかわりあう関係式となっている。
 ローレンツ変換はダランベルシアンを定常系と運動系で同じ形とする、というが、マクスウェル理論の方程式を調べてみると、これがダランベルシアンで表現されるのは、特殊な変換をしたときであり、それでクリアーできる方程式もあるが、ダランベルシアンではうまく表現できない方程式もある。
 これらのすべてを、定常系と運動系で相対性原理に基づき、同じ表現式とするのは、不可能なのではないか。
 さらに考えれば、この世界の物理法則というものは、光や電磁気だけで片づくものなのだろうか。
 もっと表現形式の異なる物理法則があったら、それらについても、上記の計算のように、ローレンツ変換によっても変わってしまう部分については、あらためて、それをローレンツ変換の体系に沿うように、新たな変換式として規定する必要がある。
 しかし、上記の計算で、ローレンツ変換でもうまくいかなかった部分が、定常系から運動系へと移るとき、はたして、そのように(自動的に)変換してしまうのか、これは証明もされていなければ、観測もされていないことである。
 このことから判断できることは、ローレンツ変換はマクスウェル方程式を変換していない、あるいは、ローレンツ変換はマクスウェル方程式を完全には変換していない、ということではないだろうか。
 これでは、ローレンツ変換が何のために生み出されたのか、疑わざるをえない。
 (Written by KLOTUKI Kinohito, Aug 7, 2018)

 参照資料

[1] 「運動している物体の電気力学について」、アインシュタイン選集1、湯川秀樹(監修)、中村誠太郎・谷川安孝・井上健(訳編)、共立出版(刊)、昭和46年3月1日
[2] 「アインシュタイン 特殊相対性理論」、内山龍雄訳・解説、岩波文庫、井波書店刊 1988-11-16

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