ローレンツ変換で時間と空間を混ぜると世界が消滅

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)

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 時間と空間を混ぜてもよいと考えられた

 時間と空間は、もともと別のものであった。
 時間は過去から現在、そして未来へと、一方方向にしか進めない。
 空間はどうやら3次元らしい。ひょっとすると、そうではないかもしれないが、超能力者でも霊能力者でもない、ごくごく平凡なわたしたちには、3次元としか認識できない。
 重力によって地表近くに引き付けられているとはいえ、気球や飛行機などを使って、3番目の次元の移動もできるようになったので、あるていど自由に、この3次元空間を移動できる。
 前後左右と上下の3軸に沿って、進んだり戻ったり、くるりと回ったりもできる。ここのところが時間とは違うところだ。
 時間はかなり抽象的で、それ自体を見ることはできず、意識と記憶を使って、過去のことや未来のことを、現在と比較して想像することになる。
 これに対して、空間のほうは具体的で、広がりを見ることもできるし、移動することによって実感することもできる。
 このように、色々と違うものであるはずの、時間と空間が、100年と少し前あたりから、互いにまじりあうものとして考えられるようになった。
 ほんとうにまじりあっているかどうかは、よく分からないが、ローレンツ変換というものが成立するためには、時間と空間がまじりあうと仮定してゆかなればならなかった。
 もっとも分かりやすいのが、ポアンカレがダランベルシアンを使ってローレンツ変換の公式群を導き出すという手順を示したときの、ローレンツ変換のためのスタートの式である。
 このスタートの式では、相対的な基準となる静止座標系(定常系, x, y, z, t)に対して、X軸方向に沿って一定の速度vで移動している運動座標系(運動系, ξ, η, ζ, τ)への変換式が、未定係数 p, q, r, s を使って、次のように表される。

   ξ=px+qt, η=y, ζ=z, τ=rt+sx             (1-1)

 ポアンカレがダランベルシアンを利用して、条件を果たし、これらの未定係数を決めてゆく手順には問題があり、このようなプロセスが正当化できるかどうかは疑わしい。
 アインシュタインは、これとは異なる、かなり込み入った方法でローレンツ変換の公式群を導いている。このときも、空間座標の x と、時間座標の t が組み合わさって、運動座標系の ξ や τ が決まるように、巧みに状況が仕組まれている。
 この時代の物理学者たちにとっては、静止系の空間座標と時間座標が関係しあって、別の運動系の空間座標と時間座標が決まる、というのが、このときの問題解決の、中心的な流れであると考えられていたようである。
 ローレンツ変換では、このような考えが当然のごとく組み込まれ、次のような表現式となった。

   ξ=β(x−vt), η=y, ζ=z, τ=β{t−(v/c2)x }     (1-2)
   β=1/{1−(v/c)2}1/2                  (1-3)

図1 静止系と運動系

 ところが、こうして成立したローレンツ変換について、時間と空間の関係を詳しく調べてみると、とんでもない状況が生まれるということが分かってきた。

 ローレンツ変換でも静止系の時間と運動系の時間が等しくなる位置がある

 これまでの認識として、ローレンツ変換にともなう時間のパラドックスがいくつか知られていた。
 有名な「双子のパラドックス」があるが、これについての解決法がいろいろと語られている。SF 小説や SF 映画のネタの一つとして使われてきた。運動系の時間が静止系の時間より遅く流れるというのが、その中心的な要素であるが、これは、厳密には間違って解釈されていた。
 これまでの解釈では、光速に近い速度の宇宙船に乗って旅する双子の一人の時間が遅くなるため、地球に残った双子のもう一人ほど歳をとらないとされていることだろう。
 ところが、静止系のX座標原点では、逆に、静止系の時間のほうが、運動系の時間より遅くなるのである。これは、ローレンツ変換から簡単な計算によって導かれる逆変換という体系により、何の矛盾もなく導かれることである。
 これでは「双子のパラドックス」は成立しない。
 ところが、このような解釈でも、やはり間違っている。
 運動系での時間の遅れは、運動系全体で一様に、同じように遅くなるのではなく、これまで知られていた関係式は、実は、運動系の原点(ξ=0)でのみ成立するものであったのだ。
 同様に、静止系での時間の遅れの関係式も、静止系の原点(x=0)でのみ成立するものだった。
 このことに気づくことができたとき、さいしょに求めようとしたのは、静止系の原点と運動系の原点の間にあるはずの、静止系の時間と運動系の時間が等しいという位置である。
 この位置は、次のように求めることができた [3]。

   x=  (c2/v) [1−{1−(v/c) 2} 1/2] t        (2-1)
   ξ=−(c2/v) [1−{1−(v/c) 2} 1/2] τ        (2-2)

図2 静止系の時間と運動系の時間が等しくなる位置

 このような発見から、ただちに、ローレンツ変換がかかわることにより、静止系の時間 t と、運動系の時間 τ の大小関係が、それらの座標系の位置に従って、連続的に変化する関係式が成立してゆくということが示されることとなった。
 静止系の原点と運動系の原点は、速度 v と時間 t の関数として、刻々と広がっているが、これらの間の位置に応じて、二つの時間(t, τ)の大小関係も、どんどん変わってゆくのである。しかも、位置を細かく分割してゆけば、その関係も、どんどん細かく違ってくる [4]。
 このような世界では、ゆうちょうに、「双子のパラドックス」などと言っている場合ではない。双子でも三つ子でも間に合わない。クローンで意識体が生み出せるとしたら、「無数のクローン意識体のパラドックス」という物語を考えてゆかなければならない。

 ローレンツ変換で運動系の時間が止まる位置がある

 アインシュタインが特殊相対性理論で示したのは、x=vt という位置条件を (1-2) の τ についてのローレンツ変換の式へ代入して、次の (3-1) を導いたということである。

   τ=tβ-1                        (3-1)

 x=vt を (2-1) の ξ の式に代入すれば分かるように、この位置は ξ=0 と限定される。
 この解析法を応用すれば、α を正の値をとる未定係数として、

   x=αvt                         (3-2)

という表現式で、ξ=0 ではない位置を調べることができる。
 かんたんな数式の操作により、運動系の時間 τ がゼロとなる位置を特定することができるということが分かった [5]。
 (1-2) の τ の式に、(3-2) を代入して整理しよう。

   τ=β{t−(v/c2)αvt }
    =β{1−(v/c)2α } t                (3-3)

 この (3-3) で τ=0 とおいて α を求めよう。

   α=(c/v)2                      (3-4)

 光速度 c を越える大きな値となるが、何かが光速度 c を越えて運動するわけではないので、特殊相対性理論の体系の中で矛盾するわけではない。
 速度vが光速度 c より小さい限り、β も t も、ある値としてとどまるので、{1−(v/c)2)α }のところが、ただゼロとなるだけである。
 (3-4) を (3-2) に代入すれば、次のようになる。

   x=(c2/v) t                      (3-5)

 あるいは、

   x=(c/v) c t                      (3-6)

とすれば、(c/v) のところは、単なる係数となるから、ct という距離の何倍になるかということである。
 光速度 c の値が大きいので、何か問題が生じるのではないか、とも思えるかもしれないが、静止系の時間 t を十分小さくすれば、(3-6) も、扱いやすい値になることだろう。
 これまでの解析では、v=0.8c という値を決めて数値計算し、このような値の意味を感じ取りやすくしたが、ここでは、煩雑になるので、そのような計算は割愛する。
 (3-6) で求まった、運動系の時間 τ がゼロとなる位置を、運動系の空間座標 ξ で読み取るためには、(3-6) を (1-2) の ξ の式に入れて整理すればよい。

   ξ=β{(c/v) c t−vt}
    =β{(c/v) 2−1}vt 
    = t(c/v){c2−v2}1/2               (3-7)

図3 運動系の時間が止まる位置(赤色の

 この位置で τ はゼロとなるが、t はどうなるのだろうか。
 逆変換の t の式に τ=0 を入れると、(3-8) となる。

   t=β(v/c2                   (3-8)

 この (3-8) に (3-7) を代入して整理する。

   t=β(v/c2)(c/v) {c2−v2}1/2
   t={c2−v2}1/2 / [c{1−(v/c) 2}1/2]
   t=t {c2−v2}1/2 / {c2−v2}1/2
   t=t                         (3-9)

 t のほうは t のままであり、何の影響も受けないということになる。

 ローレンツ変換で静止系の時間が止まる位置がある

 静止系のほうでも、時間 t がゼロとなる位置を見つけることができる [9]。
 α を正の値をとる未定係数として、(4-1) としよう。

   x=−α                      (4-1)

 ローレンツ変換により

   ξ=β(−α−vt)
    =−β(α+vt)                (4-2)

 逆変換を利用して

   t=β{τ+(v/c2)ξ}
   =βτ−β2 (v/c2)(α+vt)            (4-3)

 (4-3) を t について求めると、(4-4) となる。

   t=τβ-1−(v/c2                (4-4)

 t=0 とおいて α を求めると、(4-5) となる。

   α=τ(c2/v)β-1                 (4-5)

 (4-5) を (4-1) に代入すれば x が決まる。

   x =−τ(c2/v)β-1
    =−τ(c/v) {c2−v2}1/2           (4-6)

図4 静止系の時間が止まる位置(青色の

 この位置では t=0 となるが、ここに使われている運動系の時間 τ はどのようになるのだろうか。
 このときも、上記 (3-8) と (3-9) の計算と同じような対応が成り立ち

   τ=τ                       (4-7)

が残ることになる。静止系の時間tがゼロとなっても、運動系の時間 τ には、その影響は及ばないようだ。

 ローレンツ変換で運動系や静止系の時間が負になる領域がある

 運動系でも静止系でも、それぞれの原点の位置では、他の時間に比べ、それらの座標系の時間が小さくなる。これらの二つの座標系の原点の間に、異なる座標系の時間が等しくなる位置がある。
 静止系の時間 t と運動系の時間 τ が等しいという t=τ の位置から、外へと向かって、それぞれの原点を通過して、さらに進んでゆくと、時間が止まる位置がある。運動系の時間 τ が止まるとき、静止系の時間 t には影響が及ばない。静止系の時間 t が止まる時も、運動系の時間 τ には影響がおよばない。
 それぞれの座標系での時間が止まる位置の、さらに外側では、その座標の時間はどのようになるのか。
 自然な予想として、負の値になるだろうと予測できるだろう。
 このことは、運動系の場合、時間 τ がゼロとなる ξ の位置に、さらに、正の値で を考えて、ξ+ を作って調べてゆくことにより、τ の値が負となることが証明できる [6]。

 α を未定係数として、次の位置を考えよう。

    x=αvt                     (5-1)

 これを (1−2) の τ に代入する。

    τ=β{t−(v/c2)αvt }
     =β{1−(v/c)2)α}t            (5-2)

 τ=0 とする α を求めると、次のようになる。

    α=(c/v)2                  (5-3)

 △ を正値として、τ=0 となるときの α に加える。

    α=(c/v)2+△                (5-4)

 この (5-4) を (5-2) に代入しよう。

    τ=β[1−(v/c)2){(c/v)2+△}] t
     =β[1−(v/c) 2(c/v)2−(v/c)2△] t
     =β[1−1−(v/c)2△] t
     =β[−(v/c)2△] t
     =−β[(v/c)2△] t             (5-5)

 β と (v/c)2 は明らかに正であり、△ は正値と定義し、静止系の時間 t は(運動系では常に)正である。
 よって、τ は負の値となる。

 静止系の場合も、時間 t がゼロとなる x の位置に対して、正の値で を考えて、x− を作って調べてゆくと、t の値が負となることが証明できる(省略) [10]。

 ローレンツ変換で時間と空間を混ぜると世界が消えてゆく

  物理現象として、時間は常に正の値をとっている。
 時間が止まるということや、負の値をとって、時間が逆に流れるということは、観測されたことがないことである。
 ローレンツ変換が正しいものとして仮定することにより、まず、運動系の空間に、運動系の時間 τ がゼロとなる位置が見つかり、それより外側の領域では時間が負の値をとることとなり、物理世界において理解できない状態となる。
 運動系が存在していなかったときは、静止系の全体にわたって一様な時間 t が支配していたはずであるが、ひとたび運動系が存在するや、運動系の時間 τ に比べて、静止系の時間 t が小さくなってゆき、ある位置で、時間 t がゼロになってしまうのである。
 この時間 t がゼロとなる境界に対して、運動系から遠い領域では、静止系の時間 t が負の値をとることになる。時間が逆に流れるのだ。
 そんなことはありえない。

図5 ローレンツ変換による静止系と運動系の時間と空間の変化

 ここまでの考察では、一つの静止系に対して、一つの運動系の影響を調べただけである。
 もし、複数の運動系があって、静止系の原点に対して、色々な方向へ動いていったとしたら、この静止系の空間において、時間の嵐は、いったいどのように吹き荒れるというのだろうか。
 まったく想像がつかない。

 時間と空間を混ぜてはいけない

 はじまりは静止エーテルに対する運動系としての地球の動きを、光を使って調べようとしたことだった。そのための有名なマイケルソンとモーリーの実験の結果を解釈するために、当時の物理学者たちは、時間と空間が、このような運動座標系においては、静止系での時間と空間の値を組みあわせて、微妙に変化すると考えた。
 ローレンツが提唱したのは実験式のようなレベルでのものであった。
 ポアンカレは、ダランベルシアンを使うことにより、理論的な根拠があると示そうとした。
 アインシュタインは、これらの結果をすでに知っていて、すでに存在していたローレンツ変換の公式群へたどり着くための、巧妙なトリックと表現できる方法を編み出した。
 アインシュタインが提唱した特殊相対性理論においては、ローレンツ変換における、時間と空間に関する、上記のような、複雑怪奇な変化については、ほとんど調べられることなく、一部の性質だけを取り出すことにより、ほとんど定性的な認識にとどまった。
 このため、誤った解釈によるパラドックスのところで、思考が止まっていた。
 しかし、ここまで詳しく、ローレンツ変換によって、運動系と静止系の、時間と空間が、ほとんど解釈不能の状態へと突き進むことを知ってしまえば、時間と空間を混ぜて理論を構築しようとしたことが誤りだったと考えざるをえない。
 問題が解決すると見えたため、時間と空間を混ぜた、ローレンツ変換のスタートの式を使い始めたのだろうが、これは迷路の行き止まりへと進む道だった。
 ここまで調べることにより、時間と空間を混ぜてはいけないということが、ようやく分かって来たということなのかもしれない。
  (Written by KLOTUKI Kinohito, Aug 30, 2018)

 参照資料

[1] 「運動している物体の電気力学について」、アインシュタイン選集1、湯川秀樹(監修)、中村誠太郎・谷川安孝・井上健(訳編)、共立出版(刊)、昭和46年3月1日
[2] 「アインシュタイン 特殊相対性理論」、内山龍雄訳・解説、岩波文庫、井波書店刊 1988−11−16
[3] 三つの時間のパラドックス
[4] 無数の時間のパラドックス
[5] 時が止まるパラドックス
[6] 消える運動系のパラドックス
[7] 電磁波は運動座標系で飛べるか
[8] 電磁波は静止座標系の時を止める
[9] ローレンツ変換で静止系の時が止まる
[10] ローレンツ変換で静止系が消えてゆく
[11] 「相対性理論」、内山龍雄(著)、岩波全書、1977年3月24日(刊)

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