三つの時間のパラドックス

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)

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 運動系の時間は遅くなる

 特殊相対性理論がSF映画で使われるときの、もっとも有名な要素が、時間の遅れである。
 双子のパラドックスが、多くの、特殊相対性理論の解説書で取り上げられている。
 これはかなり自由に拡大解釈されてきた。
 アインシュタインが、これを導くときの数式処理の意味が、正しく理解されなかったからである。
 原論文 [1] の「T. 運動学の部」の「§4. 運動する剛体と運動する時計について得られた方程式の物理的意味」のところの、後半が、「運動系の時間の遅れ」である。
 運動系の時計による時間τを、定常系から見たとき、この時計の速さはどうなるであろうか、と問われる。このあと少しばかりは、引用によって示そう。式についての(1-1)などの記号は、説明のために入れたもの。

 時計の位置について決まる量 x, t および τ の間には、明らかに
    x=vt                         (1-1)
の関係が成り立ち、かつ
    τ= [ 1/ {1-v2/c2 }1/2 ] ( t - vx/c2 )          (1-2)
である。したがって
    τ= t {1-v2/c2 }1/2                   (1-3)
     = t - (1- {1-v2/c2 }1/2 ) t              (1-4)
となる。
([1] p32)

 (1-4) の式は、アインシュタインによる、このあとの説明のために変形されたものである。
 (1-3) において{1-v2/c2 }1/2 の項が常に1より小さいので、
                         (1-5)
と表現される。
 この式だけについて言葉で述べれば、「運動系の時間は遅くなる」ということになる。「時間の値が小さくなる」ということは「時間が遅くなる」と理解されるようだ。
 ここで、多くのSF映画やSF小説が誤解しているのは「運動系のすべての領域で同じように時間が遅くなる」と思ってしまっていることである。
 アインシュタインがここで用いた方法について、ゆっくり眺めれば、(1-1)という関係式を使っているということに気がつく。この式の意味は何かというと、x座標の値としてvtを指定したということである。
 ローレンツ変換の公式による、運動系のX軸の値ξの式は
    ξ=β(x-vt)                         (1-6)
    β = 1/ {1-v2/c2 }1/2                   (1-7)
となっているから、この(1-6)に(1-1)を代入すれば、
    ξ=0                            (1-8)
となる。
 (1-5) や (1-3)となるのは、ξ=0 の運動系の原点についてのことなのである。

 運動系kから定常系Kを見ると

 ローレンツ変換は、定常系Kに対して、運動系kがvの速度をもって並進運動していることから、これらの座標系についての変換を行うものである。
 並進運動というものは相対的なものであるから、運動系kから定常系Kを見ると、−v の速度で運動していると考えることができる。
 このときのローレンツ変換の公式に対して、x, y, z, t と ξ, η, ζ, τ を取り換え、さらに速度 v のところを -v に置き換えた式へと、ローレンツ変換の式から、単なる式の変形によって導くことができる。
 これは逆変換と呼ばれる。

図1 ローレンツ変換と逆変換(X軸と時間Tのみ)

 この逆変換において、
    ξ= -vτ                     (2-1)
の位置を指定すれば
    x = 0
のところで、
    t = β(τ-v2τ/c2
     = β(1-v2/c2)τ
     = τ [ 1-v2/c2 ] 1/2              (2-2)
となる。
 このとき、
    [ 1-v2/c2 ] 1/2 < 1              (2-3)
なので、
                       (2-4)
となる。
 運動系kの原点ξ=0ではであり、定常系Kの原点 x=0 ではとなるというのである。それなら、これらの二つの原点の中間にとなる位置があるに違いない。
 このように思ったものの、実は「中間」では、にはならなかったのである。

 二つの時間がt=τとなって一致する位置がある

 アインシュタインは (1-1) として、x=vt を使った。
 「中間点」は
     x = (1/2) vt                    (3-1)
と考えた。
     ξ=β{ (1/2)vt - vt } = β(-vt/2)          (3-2)
     τ=β[ t - (v/c2)(vt/2) ] = β[ 1 - v2/(2c2) ] t     (3-3)
 このとき
     τ=t                         (3-4)
となるのだとしたら、
     1=β[ 1 - v2/(2c2) ]                 (3-5)
ということになる。これを変形しよう。
     [ 1 - v2/c2] 1/2 = [ 1 - v2/(2c2) ]  
     1 - v2/c2 = 1 - 2v2/(2c2) + v4/(4c4)
     0 = v4/(4c4)                   (3-6)
 ここからは
     v = 0                       (3-7)
しか出てこない。しかし、この解は矛盾している。
 これは、(3-4) で τ=t と仮定したことによるものと考えられる。
 x = (1/2) vt の位置ではτ=t とならないのである。
 同様にして、ξ=-(1/2) vτ の位置でも τ=t とならないことが確認できた。

 少し時間をおいて考え直した。
 「中間点」で τ=t となると、勝手に思い込んでしまったが、これは間違っていた。
 それなら、逆に考えて、αを変数とおいて
     x = αvt                      (3-8)
 τ=t を条件として使い、このαの値を決めればよい。
     τ= β [ 1 − αv2/c2 ] t              (3-9)
 このとき τ=t なので
     1 = β [ 1 − αv2/c2 ]              (3-10)
となる。式を変形する。
     β-1 = 1 −αv2/c2
     αv2/c2 = 1 − β-1
     α = (c2/v2)[ 1−{ 1−v2/c2 } 1/2 ]       (3-11)
 ルート記号を使って表すと、次のようになる。
      (3-12)
 このとき (3-8)のxを求めようとしたが、このままでは決められない。
 数値計算をすることにした。
     v = 0.8 c                     (3-13)
と決めたとき、αは次のような値になる。
     α = { 1/(0.8)2 } [ 1 − { 1 − (0.8)2 }1/2 ]
       = ( 1/0.64 ) [ 1 − { 0.36 }1/2 ]
       = 0.4/0.64 = 0.625             (3-14)
 (3-8)に代入して
      x = 0.625 vt                  (3-15)
の位置が、v = 0.8 c のとき、τ=t となるところとなる。
 これが図2の中に、うすい青色で描いた〇の位置となる。
 赤色の〇の位置は、
     ξ=−γvτ                     (3-16)
とおいて、τ=t の条件のもとにγをもとめたときの位置である。ちなみに、このときのγはαと同じ値になる。v = 0.8 c のときの数値計算では
     ξ=−0.625vt                  (3-17)
となる。
 うす青色の〇と赤色の〇の位置が離れているように見えるが、ローレンツ変換の式に従って変数を置き換えると、同じであった。

図2 三つの時間

 考察

 これまでは、運動系の原点でとなることと、これとは逆に、静止系の原点でとなることが知られていた。これらの関係は、運動系や静止系で、原点だけでなく、それぞれの座標系で同じように成り立つものと考えられた。
 これは誤りであった。これらの関係は、それぞれの原点だけで成立することである。
 ここから、それらの間にとなる位置があることに気がつく。
 すると、静止系に対して運動系が動き出すときから、これらの位置と時間の関係は、おおきく分けて、(1) , (2) , (3) の3つの時間帯((2)は境界)に分かれることになる。
 もし (2) の位置にとどまる観測者がいたとしたら、(1)や(3)の世界で起こることを、どのように理解すればよいのだろうか。
 (Written by KLOTSUKI Kinohito, July 20, 2018)

 参照資料

[1]「運動している物体の電気力学について」、アインシュタイン選集1、湯川秀樹(監修)、中村誠太郎・谷川安孝・井上健(訳編)、共立出版(刊)、昭和46年3月1日

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