地震波形の研究 Earthquake Wave Study
EWS10 2004年新潟県中越地震波形を詳しく調べよう

黒月解析研究所 黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)

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 2004年新潟県中越地震

 2004年に私は何をしていたかというと、故郷で再々…(何度目になるか数えられない)就職して、地震波形のことなぞすっかり忘れ、釉薬の調合のためのプログラムを作り、これまで不可能だと思われていた釉薬を生み出していました。
 そのころ、新潟県で大きな地震があったそうですが、何も記憶にありません。
 今、ウェブで調べてみると、1995年の神戸の地震以来2度目の震度7を記録したそうです。動画で残されているニュース画像を見ると、放送中に大きな余震があって、リアルな緊迫感が伝わってきます。
 気象庁の「主な地震の強震観測データ」[1]に列挙されているだけでなく、それらの中でも、特に大きな地震だったようです。
 ウェブに「人工地震」を入れて調べてゆくと、この地震も、その疑いがあるということのようです。
 1995年の阪神淡路大震災から始まって、2018年9月6日の北海道胆振東部地震まで、震度7と記録される地震が何度も起こっています。
 これはやはり、何かおかしいことが起こっていると考えざるをえません。
 この地震についての観測波形[2] を詳しく調べてゆきたいと思います。

 川口町川口 (震央距離) 2.8km

 気象庁のデータ [1] で、震央距離が最も短い、「(新潟市)川口町川口」の地震波形を観察します。ここで注目すべき点は、NS波形やEW波形の、振幅の最大値や最小値の値です。ここでの向きは、北や東を正としているだけなので、最大と最小の意味はありません。これらの絶対値の最大値に注目すべきです。
 図1は加速度波形ですので、単位は[gal]=[cm/s/s] です。
 NS波形の振幅の絶対値の最大値は、1142 [gal] です。EW波形だと 1676 [gal] ですし、UD波形でも 869 [gal] もあります。
 参考として、地球表面での重力加速度は 980 [cm/s/s] = [gal] だったと思います。
 UD波で、この値に近いのですから、一瞬ですが、地球の重力を打ち消してしまいます。そして、その一瞬の次に、2倍の重力が作用することになります。
 振幅を大きくすると、これらの波形が黒く伸びて、混じってしまい、拡大したとき、分からなくなってしまいますので、図2のように、NS波形(赤)、EW波形(緑)、UD波形(濃い黄)の3色で表現するモードを作りました。
 図3は図2の加速度波形を漸化式の手法で積分したもので、速度波形となります。単位は [cm/s] です。
 図4は図3の速度波形をさらに積分したので、変位波形です。単位は [cm] です。
 図4の変位波形によれば、EW波形の東西方向で、西へ向かって、(数字の17のところ、56分7秒のときの)5分の1秒に、7.7cm動きます。これを想像すると、すごい揺れだと分かります。

図1 川口町川口 (震央距離) 2.8km 加速度波形 AMP[1], TIME[1] (1200-2736)
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図2 川口町川口 (震央距離) 2.8km 加速度波形(3色) AMP[2], TIME[1] (1200-2736)
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図3 川口町川口 (震央距離) 2.8km 速度波形(3色) AMP[2], TIME[1] (1200-2736)
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図4 川口町川口 (震央距離) 2.8km 変位波形(3色) AMP[2], TIME[1] (1200-2736)
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 この地震におけるP波とS波の平均速度

 はんざつになるので、ひとつひとつの読み取り画像は掲載しませんが、次の表1に示した、14か所の観測点における地震波形について、@振幅の倍率を上げる、Aウェーブレット解析で周波数ごとの波形を観察する、B全体の振幅や周波数の変化を観察する、などの技法を使って、P波の初動時刻とS波の初動時刻を読み取りました。

表1 震央距離と震源距離とP波S波の初動時刻



 これらの観測点についての、震央距離とP波の初動時刻やS波の初動時刻を、次のグラフにプロットし、これらの値について、回帰直線を求めて描きました(図略)。
 ここから、P波とS波の平均速度を求めたところ、表2のような値となりました。

表2 P波とS波の平均速度



 次に、震央距離ではなく、震源からの距離とP波の初動時刻、S波の初動時刻を、次のグラフにプロットし、これらの値について、回帰直線を求めて描きました(図5)。
 ここから、P波とS波の平均速度を求めました。(表3)
 上記の解析結果と見比べると、S波速度の違いはわずかですが、P波速度の値で、大きく異なります。P波速度が、ほんとうは、もっと遅かったということになると、P波のトラベルタイムがより大きくなり、P波の初動位置に記した青い矢印が、もっと右にゆくということになります。
 図5で示した、震央距離を横軸にとるという方法は便宜的な方法です。論理的にも正しいのは、図6のような、震源からの距離を横軸の指標とする方法です。こんなに違ってくるとは思っていませんでした。まだまだ素人です。
 このあとの解析をやり直す必要が生じました。

図5 2004年新潟県中越地震のP波とS波の速度グラフ

表3 P波とS波の平均速度



 震源距離と平均速度から、S(初動)→O(発震)→P(初動) の時刻を求める

 「先行波」が存在するかどうかを見極める方法について、震央距離49.4kmの「月潟村月潟」のデータで説明します。

 (1) 地震波形を観察してS波の初動時刻を読み取ります。
 このデータは56分00秒から始まっていますので、数字がそのまま秒となります。ここではS波の初動位置は(56分)17.8秒です。

 (2) このあとの操作は、EWS8で説明した手順となります。
 図5の解析で求まった、震源から0kmでS波の回帰直線のが交わる時刻(56分2秒)を、この地震の発震時とします。

 (3) 発震時(O)からS波の初動時刻(S)までを求めます。
 ここでは17.8-2.0=15.8 [秒] となります。これがS波のトラベルタイムです。
 このときの経路長は、深度13kmと震央距離49.4kmから、ピタゴラスの定理より、51.1kmです。
 ここから、51.1÷15.8=3.23 [km/s] が、ここでの局所平均S波速度となります。
 全体の平均速度の3.40 [km/s] の0.95倍です。
 この割合で、P波の 4.86 [km/s] から、ここでの局所平均P波速度 4.62 [km/s] を求め、この値で51.1km を割り、P波のトラベルタイム11.1秒を出し、これを発震時の2.0秒に加えて、P波の初動時刻 13.1秒を求めます。

 (4) P波の初動位置より前に現れている振動部分は、この地震が起こる前に生じていた振動です。この部分を赤い枠で示しました。
 NS, EWの成分波形でも、P波の初動時刻の前に振動があります。これらも、この地震が起こる前の振動だと考えられます。

図6 月潟村月潟(震央距離) 49.4km 加速度波形 AMP[4], TIME[1] (300-1836)
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 同様の手法で、「燕市秋葉町(震央距離) 40.7km 加速度波形」についても、P波の初動位置を推定しました。

図7 燕市秋葉町(震央距離) 40.7km 加速度波形 AMP[4], TIME[1] (1200-2736)
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 図5の震央距離40kmから60kmの他のデータも、すべて調べました。いずれも、これによく似たパターンで、P波の初動位置は、振動が現れるところから3秒ほど遅れた位置となります。
 このあと、さらに遠い3つの観測点におけるデータで調べることにします。

 さらに遠い観測点におけるデータ 338) 北橘村真壁

 震央距離が92.0kmの「北橘村真壁」の地震波形データについて調べました。
 S波の初動位置は、ウェーブレット解析の結果も見て判断しました。
 ここで求まったP波の初動位置前後の地震波形の様子を調べるため、あらためて、AMP[X](10倍)、TIME[1] で描いたものが図9です。

図8 北橘村真壁(震央距離) 92.0km 加速度波形 AMP[2], TIME[2] (100-3172)
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図9 北橘村真壁(震央距離) 92.0km 加速度波形 AMP[X], TIME[1] (100-3172)
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 さらに遠い観測点におけるデータ 339) 高崎市高松町

 震央距離が108.9kmの「高崎市高松町」についても、同様の解析を行いました。

図10 高崎市高松町(震央距離) 108.9km 加速度波形 AMP[X], TIME[2] (0-3072)
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図11 高崎市高松町(震央距離) 108.9km 加速度波形 AMP[L](50倍), TIME[1] (800-2336)
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 さらに遠い観測点におけるデータ 18) 埼玉県久喜市下早見

 震央距離が155.0kmの「埼玉県久喜市下早見」についても解析しました。
 図13では、図12で求められたP波の初動位置そのものではなく、地震波形のパターンの変化を考慮して、ほんの少しずつ、左へ変えてあります。
 こうして求めた「地震の前の振動」のパターンは、スプーンのような形になっています。北海道胆振東部地震で見つかった「P波直前の先行波」のパターンとよく似ています。

図12 埼玉県久喜市下早見(震央距離) 155.0km 加速度波形 AMP[X], TIME[4] (0-6144)
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図13 埼玉県久喜市下早見(震央距離) 155.0km 加速度波形 AMP[L], TIME[1] (1600-3136)
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 まとめ

 EWS7とEWS8では、北海道胆振東部地震で、不思議な謎の先行波があることを示しました。
 EWS9では、他の地震で、同じような先行波があるかどうかを調べました。
 このとき、2004年の新潟県中越地震で、先行波があるかもしないとの解析結果が得られました。
 そこで、このEWS10では、2004年の新潟県中越地震の、いろいろな観測点での地震波形を詳しく調べました。
 その結果、北海道胆振東部地震の先行波とよく似た、スプーン形の「地震前の振動」が存在していることが分かりました。
 ここから何が分かるか。これはまだよく分かりません。
 しかし、時間も場所も大きく隔たっている、巨大地震の2つに、不思議な謎の先行波という共通点があったわけです。
 (Written by KLOTUKI Kinohito, Oct 6, 2018)

 参照資料

[1] 気象庁の「主な地震の強震観測データ」
[2] 2004年10月23日17時56分 平成16年(2004年)新潟県中越地震

 

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