地震波形の研究 Earthquake Wave Study
EWS14 異常な上下振動から始まる地震波形は他に見つかるか
2018年6月18日の大阪府北部地震で不思議なこと(3)

黒月解析研究所 黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)

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 異常な上下振動から始まる地震波形

 2018年6月18日の7時58分におこった、大阪府北部地震の地震波形を観察すると、NS(北南)波形やEW(東西)波形は自然なパターンのように見えていますが、UD(上下)波形のP波のさいしょのあたりが、大きな振幅で、ひし形のような形になっています。

図1 2018年大阪北部地震の「高槻市桃園町」
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 EWS13で、大阪府北部地震についていくつかと、他の多くの地震から震央距離の小さなものについて一例ずつの地震波形を見てもらいました。
 大阪府北部地震においても、震央距離が大きくなると、この特徴がだんだんと薄れてゆきましたので、このような特徴を調べるには、震源から近い地震波形を見る必要があると判断したわけです。
 このようにして、比較的震央距離の小さな、数多くの地震波形を観察しましたが、やはり、大阪府北部地震のUD成分波形のP波のところに現れている、大きな振幅の、ひし形波形は、とてもユニークなものです。
 どのようなメカニズムで、このように極端な上下振動から地震が始まるのか、ということを考える前に、他の地震波形で、このようなものが見つかるかということを調べてきました。
 EWS13の図2系では、AからQまでの、17地震について確認したわけですが、日本で起こっている地震は数えきれないほどあります。
 気象庁が地震波形の加速度値のデータを公開しているのは、強い揺れのものだけです[1]。それでも、すべてに目を通すけにはいきません。
 どこかに、大阪府北部地震の「UDひし形P波」のようなものはないのだろうか。そう思って、新たなデータも取り込みながら調べてゆきました。

 熊本地震(1)の「宇城市松橋町」

 まったくそのとおりのパターンのものが見つかりました。
 @ UD波形成分の、A P波のさいしょのところから始まる、B 大きな振幅で、C 全体として、ひし形の、D 高周波の振動です。
 文章で一気に記しましたが、@〜Dの5つの条件があります。
 図2で示した、熊本地震(1)の「宇城市松橋町」の地震波形[2] は、かんぺきなものです。

図2 熊本地震(1)の「宇城市松橋町」
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 ここで「熊本地震(1)」としているのは、気象庁の「主な地震の強震観測データ」[1] のサイトページにある、熊本地震として取り上げられた7つの地震について、時間が早い順に数字で区別したものです。

表1 主な熊本地震の内容



 これらの7回の地震のうち、(2)と(6)を除いて、「宇城市松橋町」の地震波形がありましたので、(3), (4), (5), (7) のものを、次に示します。それぞれの地震で震源の位置が変わっていますので、震央距離が違っていますが、おおよそ、震源からもっとも近い観測点のデータとなっているようです。

図3 熊本地震(3)の「宇城市松橋町」
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図4 熊本地震(4)の「宇城市松橋町」
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図5 熊本地震(5)の「宇城市松橋町」
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図6 熊本地震(7)の「宇城市松橋町」
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 (4)と(7)では、上記5つの条件のうち4つは満たしているかもしませんが、A P波のさいしょのところから始まる、という条件を満たしていません。

 熊本地震(1)の「益城町宮園」

 熊本地震の「宇城市松橋町」の観測点での地震波形で、2018年大阪府北部地震の「高槻市桃園町」など、震源に近い観測点のデータで認められる、@ UD波形成分の、A P波のさいしょのところから始まる、B 大きな振幅で、C 全体として、ひし形の、D 高周波の振動、と同じものは、熊本地震の「宇城市松橋町」の観測点データにおいて、さいしょにおこった熊本地震(1)のものにだけ認められます。
 追記しておきますと、熊本地震においては、震源から遠くなった地震波形では、あまり明瞭なものは見つかりませんでした。
 上記の解析を補強するデータとしては、次の図7の、熊本地震(1)の「益城町宮園」(震央距離5.2km) があります。熊本地震(1)の「宇城市松橋町」は震央距離が15.8kmでしたから、それより近いものです。このデータは気象庁の地震計ではなく、地方公共団体の地震計で記録されたもの[3] です。貴重なデータとなりました。


図7 熊本地震(1)の「益城町宮園」(震央距離5.2km)
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 この図7で、問題の部分を観察すると、大きな振幅でひし形のP波の前に、かすかな振動が記録されています。それが「ほんとうのP波」だとしたら、NS波形やEW波形のP波の「立場」というより「意味」がなくなってしまいます。
 ここでもP波の前に「地震前の振動」があったということなのでしょうか。


 熊本地震(1)の「嘉島町上島」

 さらに、熊本地震(1)について、地方公共団体の地震計で記録されたもの[3] を調べて、次の図8の熊本地震(1)の「嘉島町上島」(震央距離4.6km)が見つかりました。
 「A P波のさいしょのところから始まる」の条件どおりではなく、微動が続いた後のパターンですが、P波がこんなに大きな振幅となって、ひし形のパターンを生み出すというのは、やはり、自然な断層地震では説明できないと思われます。

図8 熊本地震(1)の「嘉島町上島」(震央距離4.6km)
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 熊本地震(1)の「熊本(市)南区城南町」

 やはり [3] のサイトから、図9 熊本地震(1)の「熊本(市)南区城南町」(震央距離8.3km) を見つけました。UD波形のP波の振幅が大きくて、微動のあとはひし形です。

図9 熊本地震(1)の「熊本(市)南区城南町」(震央距離8.3km)
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 考察

 この少し上のところで、ウェブオンは明日にしようと思って眠ったのでしたが、ちょっと変な夢を見て、2時間ほどで目が覚め、ふと気がつきました。
 ひし形のP波の前にある微動は「先行波」あるいは「地震前の振動」ではないのか、と。
 さっそく、この熊本地震(1)のP波S波速度グラフを構成して(図13)、発震時が26分36秒であることを求めました。
 また、このグラフから、平均P波速度は6.67 [km/s]で、平均S波速度が3.50 [km/s] となります。

 P波の初動時刻を求めるための解析手順
 地震波形からS波の初動時刻を読み取ります。発震時との差を求めて、S波のトラベルタイムを出します。震源からの距離を、このトラベルタイムで割って、S波の局所平均速度を求めます。上記の平均速度と照らし合わせて、ここでの局所P波速度を求めます。これで震源からの距離を割って、P波のトラベルタイムを出し、発震時に加えて、P波の初動時刻を求めます。

 次の図10から図12に示したように、本来のP波の初動位置が青い矢印のところとなって、赤い枠の中にある振動は、この地震が起こる前のものであったことが明らかになりました。
 熊本地震(1)でも、「謎の先行波」がP波の初動の前に存在していたのです。
 これは、驚くべき展開です。
 これまで謎だったことの説明がつくかもしれません。
  (Written by KLOTUKI Kinohito, Oct 10, 2018)

図10 熊本地震(1)の「益城町宮園」(震央距離5.2km)のP波初動時刻判定
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図11 熊本地震(1)の「嘉島町上島」(震央距離4.6km)のP波初動時刻判定
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図12 熊本地震(1)の「熊本(市)南区城南町」(震央距離8.3km)のP波初動時刻判定
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図13 熊本地震(1)のP波とS波の速度グラフ

 追記

 ここまで調べてみると、図2の熊本地震(1)の「宇城市松橋町」では、ひし形のP波の前に小さな波は無いのか、ということを調べておくべきでしょう。
 熊本地震(1)の「宇城市松橋町」は、あまりに特徴的なので、分類番号の2)と70)と213)で重複して解析できるようにしていました。次の図はその213)のものです。
 震央距離は15.0kmですが、震源からの距離に直すと18.6kmとなります。震源時を36.0秒として、S波の初動が41.2秒なので、S波のトラベルタイムは5.2秒となります。18.6kmを5.2秒で割って、S波の局所平均速度3.57 [km/s] を求めます。全体のS波平均速度 3.50 [km/s] の1.02倍なので、P波の局所平均速度を 6.67×1.02=6.80 [km/s] とします。18.6kmを、このP波速度で割って、P波のトラベルタイム2.7秒が出ますから、震源時の36.0秒に加えて、P波の初動時刻は38.7秒となります。
 赤い枠で囲った部分が「地震前の振動」となります。ちなみに、この先頭の時刻の37.7秒で計算すると、発震時に生まれたものなら、10.9 [km/s] の速度となります。そのような速度で伝わる弾性波の存在はなかったはずです。だから「地震前の振動」と考えざるをえません。
 図15は、熊本地震(1)の「宇城市松橋町」のP波前の「地震前の振動」です。A[L](50倍)としてあります。振幅は小さいものの、何らかの「発震」パターンがあるように見えます。
 これが何を意味するかは、よく分かりませんが。
  (Written by KLOTUKI Kinohito, Oct 10 14h, 2018)

図14 熊本地震(1)の「宇城市松橋町」のP波初動時刻判定 A[4]
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図15 熊本地震(1)の「宇城市松橋町」のP波前の「地震前の振動」 A[L](50倍)
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 参照資料

[1] 気象庁の「主な地震の強震観測データ」
[2] 強震波形(熊本県熊本地方の地震)
  2016年4月14日 熊本県熊本地方の地震
 (2016年4月14日21時26分 北緯32度44.5分 東経130度48.5分 深さ11km M6.5)
[3] 熊本地震(1)について、地方公共団体の地震計で記録されたもの

 

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