地震波形の研究 Earthquake Wave Study
EWS16 謎の先行波と異常な上下振動のP波

黒月解析研究所 黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)

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 これまでの地震波形研究のまとめ

 これまでに調べてきた、「謎の先行波」と「UDひし形波」に関係する地震について、EWS15の「考察」でまとめた、「謎の先行波」と「UDひし形波」に関係する地震 の「表2」を、ここであらためて表1として再録します。

表1 「謎の先行波」と「UDひし形波」に関係する地震



 EWS15でまとめてみたものの、ほんのわずかなコメントを添えただけでは、この表が示していることの意味が伝わらないかと思い、ここで詳しく説明しようと思います。
 EWS1からEWS6までのところで何をしようとしていたのか、少しまとめておきます。

 EWS1 もう一度地震波形の研究をしよう ◇ これはある種の決意表明だったと思います。およそ20数年前に、仕事で地震波形の研究をしていたこと。ウェブの世界で、地震の専門家が記す、ほとんど理解できない、正式な論文のようなページばかりが並んでいたこと。その対極で、最近起こっている大きな地震のいくつかが「人工地震」だと主張する人々の、あまりにとぼしい科学知識。このような、ある種の生態学的な状況をみて、そこにまったく空白のニッチ(Niche, 立ち位置、役割、生存領域)があると判断したわけです。

 EWS2 地震波形の解析ソフトを組み立てよう ◇ 気象庁が公開している地震データ(加速度としての地震波形の数値)を読み込んで、その波形を表示するプログラムをC言語(ちなみにTurbo Cで作っています)で組み上げました。K-NETや気象庁のサイトで図として表示している地震波形は、時間軸がきょくたんに縮められたものであり、さらに、振幅の正規化が、NS, EW, UD の各チャンネル波形の最大値で行われています。これだと、一般的に小さな波形のUDチャンネル波形が強調されすぎてしまいます。これらのことを考慮せずに、これらをコピペして判断するのは、まったく愚かなことです。地震波形のことを詳しく知ろうとするなら、時間軸や振幅を、自由に取り扱えるようにするのが、さいしょの基本です。
 このあと、地震波形解析プログラムは、どんどん進化していったのですが、ここでは、とりあえず、この基本を満たしたプログラムについて説明しました。

 EWS3 P波が無いから人工地震というのは誤りです ◇ ウェブでよく、北朝鮮で行われた地下核実験で起こった地震の波形を気象庁がとらえて解析したものを取り上げ、日本で起こっている地震のいくつかのパターンが、これに似ているとして、「P波が無いから人工地震」と主張しています。これは、いくつかの点で誤っています。まず、地下核実験の地震波形のはじめのところの振幅が大きいのは、これが自然地震のS波と同じものではなく、あきらかに大きな振幅のP波なのです。二つ目として、日本で起こった地震の波形をK-NETや気象庁の提供図で見るとき、震源から近いものでは、P波の区間が短いことと、S波より振幅が小さいので、ほとんど見えなくなっていることを理解していません。

 EWS4 自然な地震でP波とS波の初動を調べよう ◇ 日本で起こったいくつかの地震が、人工地震として起こされた、と主張する前に、自然な地震による波形というものが、どのようなパターンをもっているのかということを確認しておく必要があります。何年も地震について研究や仕事をしている者にとっては、このようなことを確認する必要はないのでしょうが、そのような人はごく一部です。

 EWS5 ウェーブレット解析で地震波形を観察しよう ◇ 20世紀が終わる前に、それまで使われてきたフーリエ解析に代わって、ウェーブレット解析という数学的な技法が現れました。当時、ある学会に所属していた私は、さっそく学び、地震波形を利用して地質調査をするという、当時の仕事に取り込んで使い始めました。記録を調べたところ平成12年(2000年)の春の学会で発表しています。20世紀の最後の年でした。それから18年経って、ウェーブレット解析を、もう一度使うことになったわけです。

 EWS6 ウェーブレット解析で地震波形の何が分かるか(1) ◇ 複雑な地震波形を、ウェーブレット解析で、いろいろな周波数の波として、取り出してゆくことにより、S波の特性としての、ある周波数の波が始まる時刻を判定しやすくなります。
 とはいえ、かつて観察していた、ダイナマイトなどを震源として記録していた、地表近くの軟弱な地質を伝わる変位波形と、気象庁などが提供している、地下の深部も通ってゆく、本格的な地震の、加速度波形とは、いろいろなことが異なってきます。中には、ウェーブレット解析を使っても、S波の初動位置がつきとめられないケースもあります。

 (1) 謎の先行波を実際に見る

 きっかけは、平成30年9月6日の午前3時8分に起こった「平成30年北海道胆振東部地震」についての、東京大学地震研究所の「研究速報」[3]を見ると、P波の前に「P?」という記号をつけて、「奇妙な揺れ」、「P波の到着前にも小さな揺れ(P?)」とコメントされてあり、それについて、「地震に先立って別の小さな地震が起きたのかもしれません」とありましたが、これで終わってはだめだろうと考えたことです。
 これを「小さな地震」と考えてしまっていては、この現象についての調査は、ここで終わってしまいます。
 気象庁の「主な地震の強震観測データ」[1] は6月18日の大阪府北部地震までで、9月6日におこった北海道胆振東部地震のデータは、ここには並びませんでした。やがて、長周期地震動に関する観測情報(試行)というリンク先に、気象庁にある北海道胆振東部地震の観測データがあることが分かり、それをたどってゆきました。
 いくつかの観測点(50か所くらい)のデータを調べ、その中の「名寄市大通(震央距離191.9km)」の地震波形のP波の前に、NS, EW, UD の3つのチャンネルで、そろって、ほぼ同じ(スプーンのような)パターンの、高周波の振動があることが分かりました。
 ここまでがEWS7で分かったことです。
 次のEWS8では、この地震の気象庁の観測データの中で、震源にもっとも近い「厚真町鹿沼」でのデータを調べました。
 このとき、この地震におけるP波速度とS波速度のグラフを作り、P波速度とS波速度の回帰直線が、震源からの距離0のあたりで交わらないことから、P波の回帰直線にズレがあると考えました。
 そして、このようなグラフの解析結果を利用し、「厚真町鹿沼」の地震波形で、S波の初動位置を読みとり、発震時(O)をグラフからもとめ、これらを基準にして、この地震で生じたP波の初動時刻を求めました。
 すると、その前にある振動部分が「謎の先行波」あるいは「この地震が始まる前の振動」となります。
 「名寄市大通(震央距離191.9km)」の「高周波の先行波」とよく似た、スプーンのようなパターンでした。

 (2) 「不思議な先行波」を手掛かりとして「2004年新潟県中越地震」へたどりつく

 EWS9は「不思議な先行波は他の地震でも見つかるか」というタイトルです。
 「不思議な先行波」というものが、他の地震でも見つかるか、という観点で、取り込んである多くの地震波形を調べつくしました。P波の直前にくっついているやつです。仮にそれが「小さな地震」であったとしても、P波の直前にきちんとくっつくという「偶然」は、そんなにないはずです。
 ところが、まさに「偶然」ともみなせる現象が、これまでに人工地震の疑いがかかっていた、いくつもの地震に共通して見つかるというのでは、「偶然」と言い切ってしまうわけにはいきません。
 EWS9で見つけたのは「2004年新潟県中越地震」でした。確かな情報ではないとしておくべきですが、この地震には、人工地震の疑いがかかっていました。
 EWS10のタイトルは「2004年新潟県中越地震波形を詳しく調べよう」と、かなりひかえめなものです。もっと人目を引こうとするなら、ストレートに「2004年新潟県中越地震波形にも不思議な先行波が見つかった」とでもすればよかったかもしれません。
 小さな振動が比較的長く続いて、最後に少し大きな振動となって、本物のP波の初動に続きます。いわゆる、スプーン形の高周波振動です。北海道胆振東部地震の先行波とよく似た、スプーン形の「地震前の振動」となります。
 このEWS10では「時間も場所も大きく隔たっている、巨大地震の2つに、不思議な謎の先行波という共通点があったわけです」としめくくっています。
 この研究のドラマが、ひとつのクライマックスシーンを迎えたような気分でした。
 ところが、この、本物の世界における、謎の探求というドラマは、かんたんに結末へと向かわせてくれません。

 (3) 異常な上下振動のP波としてのUDひし形波を探す

 もうひとつ、自然な地震としてこれまで知られていたものには見当たらないものとして、次のようなことがあります。
 2018年の6月18日7時58分におこった大阪府北部地震の、上下振動を記録しているUDチャンネルのP波部分が、他のNS, EWチャンネルのP波部分に比べ、かなり大きな振幅で、さらに、小さな振幅からしだいに大きくなり、そして小さくなってゆく、全体として「ひし形」のパターンになっているのです。
 この波形を物語として解釈すると、上下動だけが、0.5秒くらいの(地震の世界の感覚で)比較的ゆっくりとした時間で、少しずつ大きくなる高周波振動ののち、しだいに小さくなっていった、ということになります。
 何らかの爆発が起こったとしたら、もっと素早く、大きな振幅から始まることでしょう。
 断層のずれによるものだとしたら、NSやEWと同じくらいの振幅で、もっと小さいはずです。
 何かが高周波で振動しながら、その揺れを大きくしてゆき、そして、収束していったわけですが、それがいったい、どのような現象なのか、まだよく分かりません。
 ここまでのところを確認したのが、EWS12とEWS13でした。
 とりあえず、このような「異常な上下振動のP波としてのUDひし形波」というのは、これまで知られている断層地震として解釈できそうもないので、これについて、大阪府北部地震以外に、このような特徴をもつ波形がある地震があるかどうか調べてゆくことにしました。
 このような調査により、この現象を理解するための、何らかの「手がかり」が得られるかもしれませんから。

 (4) 「UDひし形波」の前に「謎の先行波」がある地震が見つかった

 EWS14では、やはりネタバレを避けるため、「異常な上下振動から始まる地震波形は他に見つかるか」とタイトルづけしていますが、そんなことを恐れず、もっとストレートにつけるとしたら「異常な上下振動から始まる地震波形が熊本地震(1)で見つかった」とすればよかったのかもしれません。
 一度このEWS14の下書きを書き終えて、ウェブで公開するのは明日にしようと、ひとたび眠ったのですが、悪夢のようなものを見て目が覚め、このとき観察していた「ひし形波形」の前に、小さな振動があるのだから、それが「謎の先行波」すなわち「この地震前の振動」なのかどうかを調べるべきだということに思いあたりました。
 もう眠れません。それを確認するのに何時間かかけて、そのとおりだったことを見出しました。
 こうして、熊本地震(1)においては、「UDチャンネルのひし形のP波波形」の直前に、「この地震の前の振動」があるということを見つけたのです。
 これまで、おかしな現象だと思って、べつべつに調べていた「謎の先行波」と「UDひし形波」が、ともにそろっていたわけです。
 ここまでがEWS14の内容です。
 次のEWS15では、「UDチャンネルのひし形のP波波形」が、これまでのものより、かなり細長くなっていますが、その条件と、「謎の先行波」をもつという条件をともに満たしている地震として、「2014年石狩地方南部地震」があるということが分かりました。
 この「2014年石狩地方南部地震」は、これまであまり注目されていませんでしたが、他の地震に比べ、震源の深さが浅すぎる(3kmとなっているデータもありますが、もっと浅い可能性もあります)という点で、疑惑をもたれていた地震です。
 これまで「人工地震の疑いがある」とされていた、いくつかの地震に見られた、「謎の先行波」と「UDひし形波」をともにもっているわけです。
 ここまでがEWS15で見つかったことで、このあと、このページのさいしょにあげた表1が、EWS15では表2として提示されていたわけです。
 このページでは、あまりに簡単にまとめられていた、この表についての項目の説明を補うことにより、これまでの地震波形の研究の「流れ」をまとめました。
 さてさて、しかしながら、謎はまだ解けていません。
 このあと、どのように調べてゆけばよいのか、まだ、とんと見当がついていない状態です。
  (Written by KLOTUKI Kinohito, Oct 12, 2018)

 参照資料

[1] 気象庁の「主な地震の強震観測データ」
[2] 気象庁にある北海道胆振東部地震の観測データ
長周期地震動に関する観測情報(試行)
北海道胆振東部地震
「各観測点の加速度ファイル」 ここをクリックして acc.tar.gz を保存して解凍する
[3] 平成30年北海道胆振東部地震【研究速報】 東京大学地震研究所
[4] EWS1 もう一度地震波形の研究をしよう
[5] EWS2 地震波形の解析ソフトを組み立てよう
[6] EWS3 P波が無いから人工地震というのは誤りです
[7] EWS4 自然な地震でP波とS波の初動を調べよう
[8] EWS5 ウェーブレット解析で地震波形を観察しよう
[9] EWS6 ウェーブレット解析で地震波形の何が分かるか(1)
[10] EWS7 平成30年北海道胆振東部地震の不思議な先行波
[11] EWS8 北海道胆振東部地震の厚真鹿沼での不思議な先行波
[12] EWS9 不思議な先行波は他の地震でも見つかるか
[13] EWS10 2004年新潟県中越地震波形を詳しく調べよう
[14] EWS11 いまなぜ地震波形の研究をするのか
[15] EWS12 2018年6月18日の大阪府北部地震で不思議なこと(1)
[16] EWS13 大阪府北部地震は異常な上下振動から始まった
[17] EWS14 異常な上下振動から始まる地震波形は他に見つかるか
[18] EWS15 異常な上下振動から始まる地震波形を探す

 

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