地震波形の研究 Earthquake Wave Study
EWS21 地震波形を調べる新しい解析システムのコンパス解析

黒月解析研究所 黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)

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 コンパス解析のアイディア

 コンパス解析のアイディアを思いついた地震波形が、次の、2007年能登半島地震を「能登町宇出津」(震央距離)42.4kmのものでした。この時の解析波形は「変位」です。AMP[1]でTIME[1]です。さらに、重要な条件として、正規化の方法を [ALL] として、全体の最大振幅を求めて、これを基準として波形を描いています。
 おおよその値で説明しますが、NS波形(赤い線のところ)では20 [cm]で N の方にピークをもっており、EW波形(青い線ところ)では 8 [cm] で W のほうにピークがあります。
 すると、このときの変位の振幅は、NS軸での値ではなく、これらの振幅をベクトル合成した、北北西(NNW)あたりの軸のところで最大になるはずです。
 このような振幅値と向きを求めて描いたのが、CPS2としてある波形の、黄緑の線のある部分です。

図1 コンパス解析のアイディア
2007年能登半島地震を「能登町宇出津」(震央距離)42.4km
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 これがコンパス解析の基本的なアイディアです。図1で見えている波はS波で、P波の変位は、その前に、細い帯のようになっているところです。
 NS, EW, UDの3つのチャンネルのうち、UDについては、ここでは無視しています。
 このようにすると、NSとEWによる平面において、S波の振動方向が「見えて」くるはずだと考えたわけです。この解析例では、想像したとおりの理想的な結果がでています。S波は北北西と南南東の軸に沿って振動していると読み取れました。
 このようにして、新たな解析アルゴリズムを組み込んだ地震波形解析ソフトの名称は、これまでの eqwavelet.exe から eqcompass.exe と変えました。ただし、これまでに開発したウェーブレット解析の機能は組み込んだままです。つまり、これまでの機能にコンパス解析を加えた拡張版です。

 S波の伝わり方はいろいろ

 このようなアルゴリズムを組み込んだ解析ソフトで、これまで取り込んである地震波形を観察して驚いてしまいました。
 S波の伝わり方は、図1のように単純なものではなく、想像を超えるような複雑な状況であるということが、多くの波形を調べることによって分かってきました。
 次の図2は、2018年大阪府北部地震の「尼崎市昭和通」(震央距離)23.0kmの [2C] コンパス解析です。
 このときの、暗い青色で囲った部分について、スローモーションモードの [1/2] で AMP[4]にして、シングルチャンネルとして表示したものが図3です。

図2 2018年大阪府北部地震の「尼崎市昭和通」(震央距離)23.0kmの [2C] コンパス解析
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図3 2018年大阪府北部地震の「尼崎市昭和通」(震央距離)23.0kmの
[2S] コンパス解析 AMP[4], SLW[1/2]
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 もうひとつ取り上げたいと思います。次の図4は、2016年4月14日の熊本地震(1)の「天草市五和町」(震央距離)63.5kmの、[2C] コンパス解析です。
 このときの暗い青色の枠で囲った部分を、シングルチャンネルとして拡大したものが、図5です。

図4 2016年4月14日の熊本地震(1)の「天草市五和町」(震央距離)63.5kmの
[2C] コンパス解析
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図5 2016年4月14日の熊本地震(1)の「天草市五和町」(震央距離)63.5kmの
[2S] コンパス解析 AMP[4], SLOW[1/2]
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 このような解析結果について、S波がどのように動きながら伝わって来たかを言葉で説明しようとしても、うまくできそうもありません。
 図1、図2、図4に示した、見慣れたNS波形とEW波形を、単純にベクトル合成して、その結果を表現するという、とてもシンプルなアルゴリズムで、このように複雑な情報が現れたということに、驚いています。

 向きを変えて表示する

 この解析システムには問題もあります。
 次の図6は、2018年大阪府北部地震の「枚方市大垣内」(震央距離)4.7kmの、[2S] コンパス解析 AMP[4], SLOW[1/2] ですが、先端部分がメガホンのようになっています。これは、S波の振動の軸が東西方向を中心としているためです。
 このようなとき、東西南北の水平面を90度回転させて表示することができると、図7のようになって、分かりやすくなります。図6はデフォルトの [NeSw] モードで、図7は90度回転させた [eSwN] モードです。

図6 2018年大阪府北部地震の「枚方市大垣内」(震央距離)4.7kmの
[2S] コンパス解析 AMP{4}, SLOW[1/2], [NeSw]モード
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図7 2018年大阪府北部地震の「枚方市大垣内」(震央距離)4.7kmの
[2S] コンパス解析 AMP{4}, SLOW[1/2], [eSwN]モード
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 あとがき

 22日の夜、図1のもととなる、通常の3チャンネル波形解析のソフト画面をコンピューターのディスプレイに広げたまま、うとうととしながら、のちにコンパス解析となるアルゴリズムについて、頭の中で思考言語のボードを描いて、何かが浮かび上がるのを待っていました。
 眠ってはいないのですが、1時間から2時間ほど、ぼおっとしたあと、もう眠ってしまおうと思ったのでしたが、まだ夜の8時ごろで、うまく眠れません。
 10時ごろから、けっきょく眠れないので、浮かびあがっているアルゴリズムをプログラムに移植してしまおうと、起き上がってコンピューターに向かいました。
 プログラムを組み上げてゆくと、新しいアイディアがどんどんわいてきて、いつしか2時になりました。
 このページでは説明していない、UDチャンネルのデータも組み込んだ [3C] や [3S] のコンパス解析も、2時までに組みあげました。
 まるで、SF映画でよくあるパターンのような、まったく未知の惑星に降り立ったら、これまでに見たこともない世界が広がっていたという感じです。
 遠い宇宙や深い海底へゆかなくても、こんなに見慣れた世界に、まったく見たこともない「異次元の世界」への「扉」がありました。
 この「未知の世界」について探検してゆかなければなりません。
  (Written by KLOTUKI Kinohito, Oct 23, 2018)

 追記

 このEWS21をまとめたあと、この地震波形解析プログラムの eqcompass.exe を直していました。
 このとき、東西南北の対応に、一部誤った箇所がありましたので、それを訂正しました。
 このため、以前の図とは異なるところが生じましたので、新しい図を構成して入れ替えました。
 誕生したばかりのコンパス解析なので、まだあちこちにバグがあるかもしません。
 コンパス解析のコンパスとは、文房具で円を描くための道具の意味ではなく、地図などと照らし合わせるために使う方位磁石のコンパスをイメージしたものです。
 地震波形のP波やS波の振動の向きを方角として求め、それを表示できるようにするということを狙って構成したプログラムなので、コンパス(方位磁石)という言葉を組み込むことにしたわけです。
  (Written by KLOTUKI Kinohito, Oct 25, 2018)

 参照資料

[1] 気象庁の「主な地震の強震観測データ」
[2] 気象庁にある北海道胆振東部地震の観測データ
長周期地震動に関する観測情報(試行)
北海道胆振東部地震
「各観測点の加速度ファイル」 ここをクリックして acc.tar.gz を保存して解凍する
[3] 大阪府北部地震

 

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