地震波形の研究 Earthquake Wave Study
EWS24 P波の押し引きの変位は断層のところで変わる
/ コンパス解析で大阪府北部地震波形のP波を観察する(3)

黒月解析研究所 黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)

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 はじめに

 このEWS24はEWS23の続きとなります。
 これまでに何を調べてきたかというと、気象庁などで観測されている地震計の3チャンネル波形のうち、水平面の振動を記録している、NS(北南)チャンネルとEW(東西)チャンネルの地震波形の、まったく同じ時刻(2000年ごろからは100Hzで記録されているので100分の1秒ごとに同じ時刻)の、2チャンネルの振幅を、正負を考慮しつつベクトル合成することにより、その瞬間の振幅の大きさと、それが揺れた方角が分かるということを利用して、これらの2要素をともに表現する、コンパス解析というシステムを生み出しました。
 このアルゴリズムでプログラムして地震波形をコンパス解析したところ、P波は鳥のくちばしと頭部のように見え、さいしょのS波は、まるで鳥の翼のように見えました。
 さらには、S波の中には、扇子のように広がりつつ、クルクル回るものもありました。
 これらの解析図を見て、はじめは、その美しさに見とれていただけでしたが、やがて、P波のところの振動の方角が、比較的安定していて、ほぼ同じのように見えていることが分かりました。
 理論的には、P波は波の進行方向を軸として、圧縮と伸びを繰り返しているとされます。加速度の振動は、まさに、そのようになっていて、鋭い針のような振動が記録されています。
 この加速度に時間を掛けて積分すると、速度になります。
 さらに、速度に時間を掛けて積分すると、変位となります。
 この変位になると、これは固体の岩石などが受ける変化を示したものですから、おそらく、P波が伝わることによって、押されて進むのだと、考えられます。
 そのように考えるのが普通だと思われます。
 しかし、自然現象では、いろいろなことが起こるものです。

 EWS23のまとめ

 EWS23で示した最後の図を次の図1とします。
 ここには、2018年6月18日7時58分に起こった、大阪府北部地震の震央(×)と、比較的近い4つの観測点が示されています。
 これらの観測点のそばに切り貼りした「コンパス解析」によって、P波が来た方角が示されています。

図1 大阪府北部地震の震央(×)と、比較的近い4つの観測点におけるコンパス解析
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 震央と観測点とP波ベクトル

 このページの解析のため、新たな解析ソフトを組み上げました。これはane.exe といいます。
 中央に震央をマークし、その近くにある観測点を、これらの緯度と経度の情報からプロットします。
 このとき、緯度の1度の長さと経度の1度の長さが微妙に異なるということを、国土地理院の地図で緯度経度のグリッドを描いて調べているときに気がつきました。このとき緯度のほうが1.215倍長くなるようです。
 もうひとつ、これまで使ってきている eqcompass.exe の機能を拡張して、P波が進む方角と、その瞬間の振幅とが表示されるようにしました。
 これらの数値を読み取って、ベクトルの先の矢印はつけていませんが、赤い丸の観測点の中心から外に向かって伸びた(暗い)青色の線が、ベクトルの向き(P波による変位の方角)と長さ(変位)を示しています。
 この中に組み込んだ、コンパス解析の図は、図1から切り貼りしたものです。震央と観測点とP波ベクトルを描くプログラムの ane.exe の機能にはありません。

図2 震央と観測点とP波ベクトルを描くプログラム
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 P波の変位ベクトル解析

 このあとの説明にも役立ちますので、地震の震央と観測点を描いたマップに、コンパス解析で調べたP波の(もっとも大きな変位となるあたりについての)変位をベクトルとして表示する、このシステムを、P波の変位ベクトル解析と呼ぶことにします。
 震央にとても近い「高槻市桃園町」と「高槻市消防本部」を含め、これらの6つの観測点の解析を進めていたときは、何の疑問もわきませんでした。
 それでは、さらに遠くなってゆくと、どのようになるのかと考えるのが自然です。
 まずは、高槻から京都のほうへと向かってゆきました。
 枚方から国道307号線が始まり、滋賀県へと向かってゆきますが、その方角、東のほうはどうなのか。
 寝屋川や茨木より南や西にも、数多くの地震計が設置され、この地震の記録がとられています。
 遠くのほうの観測点を除き、ほぼこの近辺の、地震波形について調べた、P波の変位ベクトル解析の結果が、次の図3です。
 ここには、P波は震源から放射状に広がって進んでゆくものだという、自然な解釈から外れる解析結果がいくつも見られます。
 これについて詳しく調べてゆくのは困難だと(とりあえず)あきらめ、もっと自然な地震のデータを先に調べてみようと考えました。

図3  大阪府北部地震におけるP波の変位ベクトル解析
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 2014年長野県北部地震についてのP波の変位ベクトル解析

 自然な地震として選んだ、2014年の長野県北部地震について、地震波形を取り込み、コンパス解析してP波の変位ベクトルの値を調べ、P波の変位ベクトルのための ane.exe にデータを組み込んで、実行させました。
 驚いたことに、さらに状況は複雑になっていました。
 震央に近いほとんどの観測点で、P波による変位は、外へと広がらずに、内側を向いていたのです。
 よく見ると、いくつかの方角で、「自然な向き」を示していました。
 たとえば、「上越中ノ俣」「上越大手」「小千谷」「新潟空港」への、「北東の窓」です。
 あとひとつ「大町」がありますが、あとはみんな、震央のほうを向いています。

図4 2014年長野県北部地震についてのP波の変位ベクトル解析(全体)
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 長野県北部地震について断層を描いてみる

 何か「壁のようなもの」があって、そこを通るとき、向きが反対になる。
 そのようなイメージがわきました。「壁のようなもの」として「断層」が考えられます。
 長野県のこのあたりにある断層を調べました。
 有名なものがありました。「糸魚川静岡構造線」です。「糸魚川」と名づけられた観測点があったので、これにはすぐ思い当たりました。しかし、「信濃川断層帯」については知りませんでした。
 この地震の震源は「糸魚川静岡構造線」としての断層の、すぐ近くに震源があって、ほんのわずかだけ東に位置しているようです。
 「237大町」と「239安曇野」は、この断層で理解できますが、「471松本」と「238諏訪」については、まだうまく説明できません。これらの観測点は、かなり微妙な位置にあります。
 震源から東に向かうP波は、確実に一度(糸魚川静岡構造線の)断層面を通らなければなりません。
 西に向かうP波も、信濃川断層帯をくぐってゆかなければなりません。
 そのメカニズムはまだよく分かりませんが、P波が断層面を通るとき、反対側の地層を少し引き戻すように動かすということになります。
 これをたとえるとしたら、大工道具のカンナの刃を動かすとき、カンナの頭をたたくときの様子に似ています。これはまだ仮説としての考え方です。検証はしていません。

図5 長野県北部地震についてのP波の変位ベクトル解析(中央部)と断層
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 大阪府北部地震について断層を描いてみる

 細かな部分までは説明しきれていませんが、長野県北部地震についてのP波の変位ベクトル解析においては、P波が断層を通るか、断層の無い「窓」のところを進むかによって、コンパス解析におけるP波の方角が理解できることが分かってきました。
 実は、大阪北部地震のP波の変位ベクトル解析の図3を眺めていて、「枚方」と「精華町」の間に何があるのかと考え、このあたりに確か「断層」があったはずだと思い当たりました。
 奈良県の生駒市あたりまで車でいって、そこから近鉄に乗り継いで、大阪の天王寺にある陸上競技場へ日本選手権を見に行ったことがあります。そのとき、大阪平野と生駒山系の境目の様子を見て、琵琶湖と比良山系のところや、伊賀上野と多羅尾のところと同じだと思いました。平地から突然急な傾斜の山が壁のように立ちはだかっています。このような地形は、たいてい、断層によって生じているということを学んだ覚えがあります。
 図6に描いた生駒断層帯は、四条畷のところで分岐しています。また、濃い黄色で描いた断層も、おそらく生駒断層帯の一部でしょうが、枚方市にある国道307号線の支点あたりと交差しています。
 青い線で描いたのは、有馬-高槻断層帯のようです。あまり意識したことはなかったのですが、大阪で仕事をしていたこともあり、このあたりから急に山が始まっていて、そこらあたりが、新たな宅地の造成地となるため、その工事の前の地質調査のための、弾性波探査に出かけたことがありました。
 それと垂直になっている、緑の線で描いた断層の名前はよくわかりませんが、ちょうど大阪大学の少し西あたりにあります。高槻から走り始めたP波が、東南へ向かったとき、さいしょに通過しなければならない断層です。これより東にはさらに何本か断層があります。
 この緑色の断層の向きで、大阪平野の南西に、上町断層があるようですが、ここでの解析では、その影響を受けていないようです。
 これらの断層が、正断層なのか、逆断層なのか、あるいは横ずれ断層なのか、さらに詳しく調べる必要がありそうです。

図6 大阪府北部地震におけるP波の変位ベクトル解析と断層
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 京都と滋賀の間に花折断層があります。有馬-高槻断層帯の北側に、京都西山断層帯もあるようです。すべてを描くのはたいへんなので割愛しました。
 図1や図2でとりあげた「島本町」「枚方」「寝屋川」「茨木」までの経路は、うまく、これらの断層の壁を避けています。「四条畷」と「大東市」は壁際すれすれです。「亀岡市」や「南丹波市」も、うまく空いた「窓」を通ってP波が伝わっているようです。
 京都の「(河原町)御池」までは、なんとか前を向いてP波が進んでいるようですが、「大津御陵(大津市役所のあるところ)」では横を向いています。この間に比叡山があって、その西側が花折断層だったと思います。琵琶湖岸に沿って琵琶湖西岸断層帯もあります。
 調べていて分かったのですが、宇治川断層や木津川断層もあるようです。これらの川は断層のところを削るようにして流れているようです。和束谷断層も、信楽から木津へ向かう近道となっているので、よく知っていたことになります。
 奈良盆地東縁断層帯は、名阪自動車道を伊賀上野市あたりから西に向かって走れば、奈良盆地へ降りる急な斜面があるので実感できます。奈良盆地から東を望んで、急に山がせせりあがっているところということになります。
 まさに、日本列島のいろいろな地形は、断層と川による浸食と堆積によって形作られてきたといえるでしょう。地震波形の研究をやり始めて、よく分かりました。日本は断層だらけの島国なのです。
 ただし、すべての地震が、断層の動きで起こっているとは言えないようです。
 とくに、今回の中心的なテーマなっている、大阪府北部地震では、動いた断層が特定できないそうです。
 今回示したコンパス解析による、P波の変位ベクトル解析でも、この震源から出たP波は、周囲に少し広がっている、断層の無い領域や、断層の無い「窓」を通って、「自然な」向きで進んでいます。
 図5で示した長野県北部地震のほうが「普通」であって、大阪府北部地震は「異常」だと言えるかもしれません。
  (Written by KLOTUKI Kinohito, Oct 31, 2018)

 参照資料

[1] 長周期地震動に関する観測情報(試行)
北海道胆振東部地震
「各観測点の加速度ファイル」 ここをクリックして acc.tar.gz を保存して解凍する
[3] 2018-06-18大阪府北部地震
[4] 距離と方位角の計算 国土土地理院の地図
[5] 2014-11-22長野県北部地震

 

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