地震波形の研究 Earthquake Wave Study
EWS28 謎の先行波をもつ地震がこんなにあるのはおかしい

黒月解析研究所 黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)

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 謎の先行波をもつ地震がこんなにあるのはおかしい

 新しいページをまとめることなく、1週間(以上)が過ぎました。
 この間に何をしていたのかというと、せっせと地震波形の研究をすすめていました。
 コンパス解析について発展させてゆくのは一時保留して、「謎の先行波」がある地震を見つけようとしたところ、想像以上の数で見つかりだしました。
 ここでふと考えこんでしまいました。
 明らかに「異常な現象」であるはずの「謎の先行波」がある地震が、こんなにたくさんあるというのでは、「異常な現象」とは言えません。
 自然な地震として、何らかの違いがあって、このように、「謎の先行波」が認められるものと、認められないものとに分かれるという可能性が浮かび上がってきました。
 あるいは、このような「謎の先行波」の存在を判定する方法に、盲点のようなものによる誤りが潜んでいるという可能性も考えられます。
 この段階で立ち止まり、これらの疑問についての調査を行う必要があると考えました。

 謎の先行波が無い地震を確認しておこう

 これまで自然な地震だと勝手に判断して、あまり多くのデータについて調べていなかったものについても、多くの観測点のデータを調べることにより、より正確な回帰直線を描いて、P波とS波の回帰直線が、確かに、震源からの距離 0 [km] のあたりで交わるかどうか、調べました。

図1 2003年十勝沖地震のP波とS波の速度グラフ
P波とS波の回帰直線が距離0 [km] で交わっている → 先行波はない

 図1としてあげた「2003年十勝沖地震」だけではありません。「1995年兵庫県南部地震」から「2018年島根県西部地震」まで、およそ30あまりの大きな地震について、データを十分にそろえてから、P波とS波の初動位置を注意深く読み取り、P波とS波の速度グラフを構成して調べました。
 このような作業を続けて、P波やS波の初動位置(x=震源からの距離, y=時刻)をプロットして、それぞれの回帰直線を描いたものを眺めているうちに、比較的距離が近いグループと、遠いグループとでは、回帰直線に対する「並び方」が違うかもしれないと気づきました。

 地震の波が通ってくる地質が違うとP波速度とS波速度が違ってくる

 震源に近いところと、震源から遠いところとでは、P波やS波の速度が違っているので、それらの回帰直線の傾きが、微妙に違うようです。
 このことは、地震の波が、地表近くを伝わってくるときと、もっと深いところを通ってくる遠いときとでは、P波やS波の速度が違うということで説明できます。
 たとえば、2018年の6月18日におこった大阪府北部地震では、震源から近い(30km以内の)大阪や京都での観測点にやって来たP波の平均速度は5.02 [km/s] で、S波の平均速度は2.91 [km/s] です。これにたいして、2003年9月26日におこった十勝沖地震では、90kmから300kmの観測点しかなくて、それらのデータを使って調べたP波の平均速度は7.57 [km/s] で、S波の平均速度は3.82 [km/s] です。

図2 2018年の大阪府北部地震(震源から30km以内)のP波とS波の速度グラフ
P波とS波の回帰直線が距離0 [km] で交わっている → 先行波はない

 大阪府北部地震では、淀川に沿って広がった沖積平野の部分(だけではあありませんが)を、地震の波が通ってきます。十勝沖地震のケースでは、大部分の距離で、海底の下にある、固く締まった玄武岩のところを通ってきます。
 P波の初動位置に基づいた回帰直線と、S波の回帰直線とが、震源からの距離 0 [km] で交わるかどうかで判定してゆく、「謎の先行波」を見つける方法において、比較的浅い地中を通ってくるものと、深い地中を通ってくるものとを、いっしょに混ぜてしまうと、異なる傾きをもった回帰直線を組み合わせてしまうことになります。

 異なる深さを通ってくる地震波形のデータを見合わせてしまうと

 次の図3は2018年北海道胆振東部地震(全データ)のP波とS波の速度グラフです。このとき、P波とS波の回帰直線が距離0 [km] で交わっていないので、これまで「先行波がある」と判断していました。
 ところが、このデータについて、震源からの距離 70kmのところで区切って、それより近いグループと遠いグループに分けて、それぞれ解析すると、図4と図5のようになって、いずれも回帰直線が距離0kmのところで交わります。
 近いグループも遠いグループも、「先行波がない」ということになります。

図3 2018年北海道胆振東部地震(全データ)のP波とS波の速度グラフ
P波とS波の回帰直線が距離0 [km] で交わっていない → 先行波がある

図4 2018年北海道胆振東部地震(70km以下)のP波とS波の速度グラフ
P波とS波の回帰直線が距離0 [km] で交わっている → 先行波がない

図5 2018年北海道胆振東部地震(70km以上)のP波とS波の速度グラフ
P波とS波の回帰直線が距離0 [km] で交わっている → 先行波がない

 謎の先行波があると間違って判定していた地震

 これまでに「謎の先行波がある地震」と考えていたものがいくつかありましたが、データ数を増やし、コンパス解析の新技術も駆使してS波の到来位置を見出し、震源から比較的近い観測点のデータをグループとして分けることにより、P波とS波の回帰直線が距離 0 [km] あたりで交わるようになりました。
 これまで「謎の先行波」があると判定していた地震として、次のようなものがあります。

表1 「謎の先行波」があると判定していた地震



 「2018-9-6 北海道胆振東部地震」については、上記図3から図5で示しました。
 このあとの図で、「2004年 新潟中越地震」、「熊本地震(1) 2016-4-14 21h26m」、「2014-7-8 石狩地方南部地震」、「2008-6-14 岩手・宮城名入り地震」についての、震源から近いグループのP波とS波の速度グラフを示します。

図6 「2004年 新潟中越地震」(61km以下)のP波とS波の速度グラフ
P波とS波の回帰直線が距離0 [km] で交わっている → 先行波がない

図7 「熊本地震(1) 2016-4-14 21h26m」(41km以下)のP波とS波の速度グラフ
P波とS波の回帰直線が距離0 [km] で交わっている → 先行波がない

図8 「2014-7-8 石狩地方南部地震」(41km以下)のP波とS波の速度グラフ
P波とS波の回帰直線が距離0 [km] で交わっている → 先行波がない

図9 「2008-6-14 岩手・宮城内陸地震」(61km以下)のP波とS波の速度グラフ
P波とS波の回帰直線が距離0 [km] で交わっている → 先行波がない

 あとがき

 北海道胆振東部地震の地震波形をデータとして読み取り、それを波形グラフとして描くという目的から、この研究を始めました。
 そのとき、この地震には「先行波」があるということを知り、それがいったいどのようなものかということを知りたかったわけです。
 この地震の観測点の一つである「名寄市大通」に記録されていた「謎の先行波」(図10)を見出し、それでは、もっと近いところの地震波形にも、これと由来を同じくする振動の記録が残されているはずだと考えました。

図10 北海道胆振東部地震の「名寄市大通」にある「謎の先行波」

 ここまでほぼ2か月かけて、えんえんとデータを調べてゆき、「謎の先行波」をもつ地震を見つけようとしてきました。
 ところが、ここに至って、それを見つける方法が間違っていたということが分かりました。
 比較的浅いところを通ってくる地震波と、深いところも通ってくる地震波とでは、P波やS波の平均速度が異なることになるので、ほんとうなら、それらの平均速度に応じた(P波とS波合わせて)4本の回帰直線を引くべきところを、2本の回帰直線で交わるかどうかを調べていたわけです。
 これでは、正しい結果は得られません。
 こうして、これまで「謎の先行波」があると判断していた地震の多くについて、そのようなものが無いということになりました。
 しかし、これで「謎の先行波」はすべてなくなったというわけではありません。
 このような、震源から近いグループをまとめて、同じような深さの地層を通ってくる地震波について調べるという方法を使っても、いくつかの地震では、P波とS波の回帰直線が距離 0 [km] のところで交わらないということがおこります。
 このことが、はたして、「謎の先行波」にむすびつくことなのか、それとも、まだなにか見落としていることがあって、そのために、そのように現れてくるのか、さらに調べてゆく必要があります。
  (Written by KLOTUKI Kinohito, Nov 19, 2018)

 参照資料

[1] 主な地震の強震観測データ

 

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