地震波形の研究 Earthquake Wave Study
EWS29 もうひとつの謎 UDチャンネルのひし形P波には2種類ある

黒月解析研究所 黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)

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 UDチャンネルとは

 実物を見たことはないのですが、全国にくまなく設置されている地震計は、地震波の振動の様子を、NS(北南)チャンネル、EW(東西)チャンネル、UD(上下)チャンネルの、3軸に沿って記録しているようです。1台の地震計なのか、3台に分けて設置してあるのか、ほんとうのところは知りません。(調べたところ、最近のものものでは3成分をひとつの装置で記録できるそうです)
 ともあれNSチャンネルとEWチャンネルで、地表の水平面での動きが分かります。それにUDチャンネルを組み合わせれば、3次元空間での動きをとらえたことになります。
 地震波形を観察してゆくと、平面での動きと、上下の動きとでは、かなり様子が違うということが分かってきます。
 とくに大きな違いは、NSチャンネルとEWチャンネルでくっきりと現れているS波が、UDチャンネルでは、ほとんど記録されないということです。
 次の図1は、このような特徴をとらえている、2011年福島県中通り地震「いわき市三和町」(震央距離15.1km)の加速度波形です。振幅AMP[2], 時間SLOW[1/2]としてあります。
 P波部分のNS(黄色)、EW(藤色)、UD(緑色)の振幅はほぼ同じくらいです。
 地震波形の多くは、ほとんど、このようなパターンを基本としています。
 ただし、S波の周波数がもっと高くて、黒いパターンを見せないものがありますが、P波の振幅に比べてS波の振幅が大きいという「原則」のようなものは、ほぼ守られているようです。
 この「原則」を裏切るのが、地下核実験での地震波形で、P波の振幅がとても大きく、S波はほとんど発生していないかの様相となります。
 同じ人工地震でも、ダイナマイトなどで起震して起こした弾性波探査で記録された地震波形では、やはりP波の振幅が小さくて、S波は遅れて大きな振幅で現れていたと思います。

図1 2011年福島県中通り地震「いわき市三和町」(震央距離15.1km)
加速度波形(ac), 振幅AMP[2], 時間SLOW[1/2]
P波部分のNS(黄色)、EW(藤色)、UD(緑色)の振幅はほぼ同じ
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 UDチャンネルのひし形P波とは

 気象庁のサイトにある「主な地震の強震観測データ」 [1] のページには、およそ40の、強い地震について取りあげられています。これらの観測地点についてすべて調べたわけではありませんが、少なくともP波速度とS波速度を調べられる程度の数については、それらの地震波形データを取り込んで、解析できるようにしてあります。
 これらのほとんどの地震は、図1のようなパターンを示しています。
 しかし、いくつかの地震では、次の図2や図3で示すような、UDチャンネルのP波のはじめのところの振幅が、水平面のNSチャンネルとEWチャンネルに比べ、きょくたんに大きくなっています。
 震源からの距離が遠くなると、このような特徴は薄められてしまいます。
 しかし、地震の波が通過する、途中の地質の状況のためか、かなり遠くでも、このような違いが現れてくるケースもあります。このようなものは解釈がむつかしいので、できるだけ震源に近い観測点での記録を観察することにします。
 図2は2018年大阪府北部地震「高槻市桃園町」(震央距離0.3km)の加速度波形(ac)です。
 図3は2016年熊本(1)「宇城市松橋町」(震央距離15.8km)の加速度波形(ac)です。
 いずれも、NSチャンネルやEWチャンネルに比べ、UDチャンネルでのP波の波形の振幅が大きくなっています。言い忘れましたが、これらのすべての解析図で、振幅の正規化のモードは [ALL] となっていますので、3つのチャンネルの振幅は、それらの中での最大振幅を基準としています。
 ですから、3つのチャンネルの波形の振幅の比較は、描かれた図のとおりに行うことができます。

図2 2018年大阪府北部地震「高槻市桃園町」(震央距離0.3km)
加速度波形(ac), 振幅AMP[2], 時間SLOW[1/2]
P波部分のNS(黄色)、EW(藤色)に比べてUD(緑色)の振幅はかなり大きくてひし形になっており、細かく見ると、小さなひし形と大きなひし形の2連になっている。
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図3 2016年熊本(1)「宇城市松橋町」(震央距離15.8km)
加速度波形(ac), 振幅AMP[2], 時間SLOW[1/2]
P波部分のNS(黄色)、EW(藤色)に比べてUD(緑色)の振幅はかなり大きなひし形になっている。
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 図1の加速度波形を変位波形へと変えると

 ここまでの解析図はすべて、加速度波形(ac)でした。
 この加速度振幅値 [gal]=[cm/s/s] に、1サンプリングデータあたりの時間 0.01[s] を掛けて加えてゆくことにより、速度値 [cm/s] の波形となります。さらに、この速度値 [cm/s] に1サンプリングデータあたりの時間 0.01[s] を掛けて加えてゆくことにより、変位値 [cm] の波形が得られます。
 上記の図1で示した加速度波形を、このようにして変換した変位波形にしたものが、次の図4です。
 P波部分のNS(黄色)、EW(藤色)、UD(緑色)の振幅の様子は、(細かな違いを無視すれば)ほぼ同じとみなせます。

図4 2011年福島県中通り地震「いわき市三和町」(震央距離15.1km)
変位波形(le), 振幅AMP[2], 時間SLOW[1/2]
P波部分のNS(黄色)、EW(藤色)、UD(緑色)の振幅の様子はほぼ同じ
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 UDチャンネルのひし形P波がある図2と図3の加速度波形を変位波形に変えると

 図2 2018年大阪府北部地震「高槻市桃園町」(震央距離0.3km)の加速度波形を変位波形に変換すると、次の図5となります。
 加速度波形では、P波のはじめのところに、大きな振幅のひし形パターンがあったのですが、これらの「積分」の「積分」としての変位波形では、U(上)方向に動いたことを示しています。水平面での動きはほとんどありませんが、上下方向の動きとして、突然上に動いたことになります。
 このような現象の証拠は、大きな音がしたとか、突然上に突き上げられた、とかの記録として残されているようですが、地震波形として、このように記録されています。
 このようなUDチャンネルでの変位波形は、かなり特殊なケースです。
 この大阪府北部地震では、何か異常なことが起ったと考えられます。
 これまでの地震のメカニズムで説明できるものではないようです。

図5 2018年大阪府北部地震「高槻市桃園町」(震央距離0.3km)
変位波形(le), 振幅AMP[2], 時間SLOW[1/2]
UD(赤色)の変位振幅は大きなものとして現れている。
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 もうひとつの、UDチャンネルひし形P波のパターンを示す、熊本(1)「宇城市」松橋町」(震央距離15.8km)の加速度波形から、変位波形に変換したものが、次の図6です。
 ここでまた、異常としか思えないことが起こっています。
 図3で見たように、UDチャンネルのP波のはじめのところには、大きな振幅で全体がひし形になっていたのに、それを「積分」してさらに「積分」した変位波形では、変位の振幅が、ほとんどないのです。
 加速度波形では現れているのに、変位波形では何も現れていません。
 加速度として激しく揺れたものの、ただ単に揺れただけで、地面を移動させていないということになります。
 この現象は、大阪府北部地震とは、まったく異なるものだということになります。
 いったい何が起ったのか、よく分かりません。

図6 2016年熊本(1)「宇城市松橋町」(震央距離15.8km)
変位波形(le) 振幅AMP[2], 時間SLOW[1/2]
UD(青色)の変位振幅は、ほとんど現れていない。
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 ここまでのまとめ

 上記の地震波形で問題となる部分だけを切り出して、表1としてまとめました。
 大阪府北部地震「高槻市桃園町」のひし形P波部分は、変位波形として、上に動いたことを示しています。
 これに対して、熊本(1)「宇城市松橋町」では、加速度波形としては、大きな振動が記録されていますが、上にも下にも動いていません。

表1 UDひし形加速度波形P波の変位波形への変化



 さらなる観察

 UDチャンネルの加速度波形だけを取り出して並べたものが、次の図7です。
 (上)熊本(1)に対して、(下)大阪府北部では、かなり周波数が高くなっています。これも違いのひとつと言えます。熊本(1)の地震に対して、大阪府北部の地震では、より高い周波数の振動が起こっています。これは、ひょっとすると、地震が起こったところと観測点の間の地質の違いによるものかもしません。しかし、熊本あたりより大阪の高槻のほうが、より固い地盤なのでしょうか。調べていないので確かなことは言えませんが、固くはないとみるべきではないでしょうか。しかも、これほどの周波数の違いとして現われるほどの違いがあるのでしょうか。

図7 UD波形の比較 (上)熊本(1) SLOW[1/2], (下)大阪北部 SLOW[1/2]
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 次の図8は、(下)大阪府北部の方の時間をSLOW[1/4]としたものです。
 これで、波による針状のスパイクの太さが同じくらいになりました。
 パターンとしての違いだけを観察すると、(上)熊本(1)では大きなひし形がP波の先頭にひとつあるだけのようですが、(下)大阪北部では、小さなひし形と大きなひし形が分離して連なり、さらに、少しスパイクの幅が乱れた、より大きなひし形の波があるように見えます。
 P波のはじめのところに、大きな振幅のひし形の振動がある、ということは同じですが、このように詳しく観察してゆくと、いろいろな違いが見えてきます。
 詳しいことはよく分かりませんが、熊本(1)の地震と大阪府北部の地震とでは、異なったメカニズムで地震が起こったと考えられます。
 さらに、これらは、図1のような、(自然な断層地震とみなされる)2011年福島県中通り地震とは、かなり異なったメカニズムであると考えられます。

図8 UD波形の比較 (上)熊本(1) SLOW[1/2], (下)大阪北部 SLOW[1/4]
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 あとがき

 この解析ページでは、自然な断層地震と考えられるものの代表として2011年福島県中通り地震をとりあげ、よく分からないメカニズムの地震として、熊本(1)と大阪府北部地震について考察しました。
 しかし、UDチャンネルのP波部分に、大きな振幅のひし形波形をもっている地震は、この2つだけではありません。
 他の地震の解析は、これから詳しく調べてゆくつもりです。
  (Written by KLOTUKI Kinohito, Nov 24, 2018)

 参照資料

[1] 主な地震の強震観測データ
[2] 2011年福島県中通り地震
[3] 2018年大阪府北部地震
[4] 2016年熊本(1)
  (同)地方公共団体の地震計による地震波形

 

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