地震波形の研究 Earthquake Wave Study
EWS31 2016年熊本地震も「大きな音」とともに始まった

黒月解析研究所 黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)

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 はじめに

 2つ前のEWS29では、2018年大阪府北部地震と2016年熊本地震(1)において、UDチャンネルの初めのP波のところに、加速度波形で、大きな振幅のひし形のパターンがありますが、変位波形においては、まったく異なる変化を見せるということを示しました。
 大阪府北部地震では、上に凸の波形となるのに対して、熊本地震(1)ではほとんどゼロの波形となるのです。

図1 2018年大阪府北部地震と2016年熊本地震(1)のUDチャンネルP波の違い

 前回のEWS30では、2018年大阪府北部地震で、ゆれる前に「大きな音」がしたという記録を、ウェブに残されているものについて集めました。
 2018年大阪府北部地震の地震波形を観察すると、震源に近い観測点で、UDチャンネルにおいて、加速度波形では大きなひし形P波が認められます。これらの地震波形をデータの単位時間を掛けて2度積分した、変位波形においては、上に動いたことを示す、キャップ形のパターンが認められます。
 そこで、UDチャンネルのはじめのところのP波で、@加速度波形での大きな振幅のひし形波形、A変位波形での上向きの凸波形、これらの2つが「大きな音」の条件だと推論しました。
 しかし、この推論は勇み足だったかもしれません。
 「大阪府北部地震 大きな音」をキーワードとして調べたのでしたが、これでは片手落ちで、「熊本地震 大きな音」についても調べておかなければなりません。

 熊本地震 大きな音

 「熊本地震 大きな音」をキーワードとして、ウェブを調べ、次のサイトの内容を確認しました。青文字は引用文です。文中の太文字は黒月樹人によるものです。個人名などは編集で変更しました。もとのサイトには記録されています。

 [1] 日本経済新聞
 「ドン」経験ない揺れ 熊本地震、家屋倒れ道路陥没 2016/4/15 1:59
 同町にある熊本空港。「最初に 『 ドン 』 と大きな音がして、経験がない強い揺れが1分ほど続いた」。男性警備員によると、空港ビルの壁や柱にひびが入った。最終便の到着後で空港内に乗客はほとんど残っていなかったが、「航空機や建物に被害がないか急いで確認している」と話す。


 [2] デイリー新潮
 前震で震度7を記録した益城町(ましきまち)で暮らしていた人についての記事。
 「お風呂から上がって、家計簿をつけようと1階の居間の椅子に座ろうとしていた時でした。ドンッと大きな音がして、突き上げられるような感じになった。上を向いたら、夜空に星と月が見えたのです」


 [3] 産経ニュース
 揺れる分娩室で誕生…希望の命すくすく
 震度6強の本震が病院を襲ったのは、それから間もなくだった。わが子の誕生を心待ちにし、廊下のソファでうとうとしていた夫は「ドーン」という大きな音とともに床に投げ出された。


 [4] iRONNA
 現役獣医が見た熊本地震「猫ちゃんパニック」
 熊本地震発災時、「ドスン!」という大きな音と振動とともに経験したこともないほどの大きな揺れを経験しました。幸い、私が院長を務める竜之介動物病院は耐震性に優れた構造だったため、私の診察室は何もなかったかのようにいつも通りの診察ができましたが、薬品庫や処置室は悲惨な状態で足の踏み場もないほどでした。


 [5] 熊本地震体験記?震度7とはどういう地震なのか?
 それは突然大きな音で始まり、起こされました。家が激しくきしみ、身体がベッドの上を大きく行き来しました。

 [6] 荒牧平齋 平成28年熊本地震
 地震の前に音が聞こえるのです。ゴゴゴゴゴ・・・大型トラックが近づいてくるような、低い音なんです。 最初は気のせいかな?と思っていましたが、何度も繰り返される余震の前に同じような音が聞こえるので、だんだん確信してきました。 私には地震の予知能力があるのか!? ネットで調べてみたら、人体が揺れを感じるS波の前に来るP波は空気中でも伝わるので、その音が聞こえる事があるそうです。 なあ〜んだ・・・。 地震の前の音は聞こえない時もあるし、その音が聞こえたとしても、確信が持てないうちに(1〜2秒後に)地震が来るので、あまり役にはたたないですねえ。

 [7] 南海トラフ地震の予言がヤバすぎる件!
 そして25分頃、突然 ドン!!と大きな音がして ジム全体が大きく揺れました!

 [8] 毎日新聞
 農業、Sさん(54)は20日午後11時20分すぎ、雷のようなドーンという音を聞いた。外に出て様子をうかがうと、土砂降りの中、裏手の竹林から、これまでに見たことのないような赤茶色の泥水が自宅敷地に流れ込んできた。近所の神社の境内が熊本地震で地割れしていたため斉藤さんは「危険だと思っていた」という。
 (中略)
 熊本市北区津浦町のがけ崩れ現場でも、住民が恐ろしかった夜を振り返った。近くの女性(68)は20日午後11時過ぎ、「ドンッ」という大きな音と竹が割れる「メリメリッ」という音を聞いた。「1時間ほどして消防隊員から『避難してください』と言われた。熊本地震で地盤が緩んでいるのかもしれない」と不安そうな様子だった。


 [9] ニュースイッチ NEWSWITCH 日刊工業新聞
 2016年04月17日 熊本市は16日未明に震度6強の大きな揺れに襲われた。それは午前1時20分を回った頃、バリバリという大きな音とともに来た。

 [10] 熊本地震|KKTくまもと県民テレビ
 熊本市中央区に住むSさんについての記事。
 昨年4月に引っ越してきて、すぐに起きた熊本地震。「ものすごい大きな音がして、何秒もしないうちに揺れ始めて、揺れがひどくなっていったのを覚えています」とSさんは振り返ります。


 黒月樹人のコメント

 ウェブにこれだけの記録が残されているわけですから、熊本地震においても、地震の揺れが来る前に「大きな音」がしていたと考えられます。
 熊本地震は2016年4月14日21時26分(これを熊本地震(1)としています)から始まり、大きなものがあと6回、小さな余震については数えきれないくらい起こっています。このため、上記の記録における表現にばらつきが見られます。
 表1は、強い7回の熊本地震のかんたんな特徴をまとめたものです。

表1 強い7回の熊本地震



 このあと、この表の順に、それぞれ1つの観測点の地震波形をとりあげ、加速度波形と変位波形を見比べます。

 熊本地震(1) の震源に近い波形

 熊本地震(1)においては、次の「宇城市松橋町」が震源に最も近い観測点ではありませんが、UDチャンネルのP波先頭部分に、大きな振幅のひし形波形が、くっきりと現れているので、これを取り上げました。もっと震源に近い観測点でも、ひし形のP波は現れています。
 図2は加速度波形で、図3は変位波形です。水平面でのNSチャンネルとEWチャンネルでは、加速度波形と変位波形とが、それなりに対応して、よく似たパターンとなっています。
 ところが、UDチャンネルの加速度波形と変位波形の対応を見ると、加速度波形で大きな振幅を持っている部分でも、変位波形では小さな振幅の波となっています。とくに、P波先端部分の、加速度波形でのひし形部分のところは、変位波形では、ほとんどゼロの値です。

図2 熊本地震(1) 宇城市松橋町 (震央距離) 15.8km 加速度波形
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図3 熊本地震(1) 宇城市松橋町 (震央距離) 15.8km 変位波形
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 熊本地震(2) の震源に近い波形

 図4の、熊本地震(2)の加速度波形を見ると、UDチャンネルでの振幅が、熊本地震(1)の「宇城市松橋町」のものより、かなり小さく現れています。P波のひし形波形と呼べるほどではありません。
 図5の変位波形では、UDチャンネルの変位は、ほとんど現れていません。

図4 熊本地震(2) 益城町宮園 (震央距離) 3.2km 加速度波形
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図5 熊本地震(2) 益城町宮園 (震央距離) 3.2km 変位波形
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 熊本地震(3) の震源に近い波形

 熊本地震(3)の「御船町御船」の加速度波形(図6)では、S波が比較的高周波となっています。
 下の図16として添えた「熊本地震(4)の震源近くの観測点の比R(Vp/Vs)とS波速度」を見ると、「御船町御船」のS波速度は3.14 [km/s] と、他の観測点より大きな値となっています。このことから、「御船町御船」あたりの地質は、かなり固いものと推測され、これが高周波となる理由のようです。
 ちなみに図16では、右上から左下に向かって、西原(Vs=2.44)、益城(2.31)、嘉島(2.49)、富合(2.24)、宇土(2.49)と、S波速度の小さな観測点が並んでいます。このあたりに白川が流れています。川によって運ばれた土砂が堆積して熊本平野になったので、軟弱な地質となり、S波も遅めとなっていると考えられます。
 図6の加速度波形におけるUDチャンネルでは、P波の先端部分にひし形のパターンはありません。水平面でS波があるところで、比較的大きな振幅となっています。
 図7の変位波形でのUDチャンネルの様子は、熊本地震(1)と(2)のパターンと違って、少し振幅が現れており、水平面のパターンと連動しているように見られます。

図6 熊本地震(3) 御船町御船 (震央距離) 2.7km 加速度波形
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図7 熊本地震(3)  御船町御船 (震央距離) 2.7km 変位波形
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 熊本地震(4) の震源に近い波形

 熊本地震(4)の「嘉島町上島」という観測点は、下の図16に示したように、震央(赤い?)から一番近いのですが、S波速度は2.49 [km/s] と、小さめです。
 熊本地震(4)の震源から「嘉島町上島」という観測点へ向かうあたりは、地盤が弱く、UDチャンネルで大きな振幅の加速度波形の揺れが生じていても、変位波形としては、ほとんど振幅として現れないようになるようです。

図8 熊本地震(4) 嘉島町上島 (震央距離) 2.0km 加速度波形
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図9 熊本地震(4) 嘉島町上島 (震央距離) 2.0km 変位波形
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 熊本地震(5) の震源に近い波形

 熊本地震(5)の震央は、下の図17の5と添えた赤い〇の位置ですが、図16にある「大津町大津」の近くになります。このあたりの地質は少し固いようですが、「御船町御船」ほどではなさそうです。
 加速度波形では、UDチャンネルにひし形パターンはなく、変位波形で、ほとんど振幅として現れません。

図10 熊本地震(5) 大津町大津 (震央距離) 3.0km 加速度波形
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図11 熊本地震(5) 大津町大津 (震央距離) 3.0km 変位波形
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 熊本地震(6) の震源に近い波形

 下の図7で熊本地震(6)の震央が、他のものとかなり離れています。この地震は熊本平野でではなく、阿蘇山の少し北東で起こっています。熊本県阿蘇地方の地震と、呼び名も違います。
 阿蘇山の近くでもあり、岩盤としては固いようです。加速度波形でのUDチャンネルの振動は、それほど目立ったものではありませんが、変位波形で、それなりに小さく振幅が現れています。水平面でのS波の動きに連動しているのかもしれません。

図12 熊本地震(6) 産山村山鹿 (震央距離) 4.6km 加速度波形
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図13 熊本地震(6) 産山村山鹿 (震央距離) 4.6km 変位波形
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 熊本地震(7) の震源に近い波形

 「菊陽町久保田」という観測点がある菊陽町は、図16で描いていませんが、大津と合志の中間あたりの、少し南に位置します。白川の近くでもあり、地盤は固くないと推測されます。
 図14の加速度波形を見ると、UDチャンネルのP波の先端のところに、大きな振幅のひし形パターンがあります。
 図15の変位波形では、ひし形パターンの前半のあたりで、下に少しへこんでいます。他の部分ではほとんどゼロです。
 熊本地震(1)と熊本地震(7)において、加速度波形のUDチャンネルP波先端部分に、大きな振幅のひし形パターンがあるけれど、他の地震においては現れていません。このような違いが何故生じるのかということは分かりません。

図14 熊本地震(7) 菊陽町久保田 (震央距離) 1.4km 加速度波形
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図15 熊本地震(7) 菊陽町久保田 (震央距離) 1.4km 変位波形
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図16 熊本地震(4)の震源近くの観測点の比R(Vp/Vs)とS波速度

図17 熊本地震の震央位置(?は1回目)

 まとめと考察

 熊本地震のうち、大きな地震とされている7つについて、震源に近い観測点の、加速度波形と変位波形で、UDチャンネルの様子が、どのようになっているかを見てきました。
 加速度波形のUDチャンネルP波先頭部分にひし形パターンが認められるのは、熊本地震(1)と熊本地震(7)でした。他の熊本地震(2)から熊本地震(6)においては認められませんでした。
 加速度波形で大きな振幅として現れているひし形パターンのところで、その変位波形を見ると、熊本地震(7)では少し下に動いているようですが、熊本地震(1)ではほとんど動いていません。
 熊本地震(2)から熊本地震(6)においては、地質が固いところで、水平面の動きと連動して変位するようですが、固くないところでは、まったく独立しているらしく、ほとんど変位していません。
 はじめに、「熊本地震」と「大きな音」のウェブ調査をしましたが、可能性として、このような「大きな音」は、UDチャンネルのP波先頭部分に、大きな振幅のひし形波形をもつ、熊本地震(1)もしくは熊本地震(7)の、震源近くで観測されたと推定されます。
 変位そのものがほとんどなくても、加速度の振動として大きな値をもつということが、大きな音を生み出す原因であると言えそうです。
  (Written by KLOTUKI Kinohito, Dec 2, 2018)

 参照資料

[1] 熊本地震(1)
[2] 熊本地震(2)
[3] 熊本地震(3)
[4] 熊本地震(4)
[5] 熊本地震(5)
[6] 熊本地震(6)
[7] 熊本地震(7)

 

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