地震波形の研究 Earthquake Wave Study
EWS32 P波が無いから人工地震というのは誤り(2)熊本(1)山鹿

黒月解析研究所 黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)

地震波の研究ブランチページへもどる

 はじめに

 「EWS30 大阪府北部地震は「大きな音」とともに始まった」のあとのページとして「EWS31 2016年熊本地震も「大きな音」とともに始まった」というものの原稿は出来上がっているのですが、同時進行の形で、地震波形解析ソフトの改良が進み、これまで気象庁のサイト [1] にあるデータからだけ、地震波形のグラフを構成できなかったところ、まったく異なる書式で記されている、防災科学技術研究所 [2] のK-NETのデータについても、とりあつかうことができるようになりました。
 ウェブをサーフィンしてゆくと、日本で起こっている大きな地震のいくつかが「人工地震」であると主張しているサイトがあります。そこでは、いろいろな「状況証拠」が取り上げられていますが、「直接的な証拠」のようなものとしては、「地震波形にP波がないから人工地震だ」というものが主張されています。
 このような主張は、地震波についての研究や仕事をしてきたものとしては、まったく愚かな内容でしかありません。地震や爆発現象が生じたとき、P波は必ず発生するものです。そして、地震波形には、速度の違いこそあれ、たいていは、P波とS波が存在して、S波がやってきてからは、どちらも混じっているのです。
 話を戻します。この「地震波形の研究 Earthquake Wave Study」というシリーズを始めたさいしょのころ、「EWS3 P波が無いから人工地震というのは誤りです」というページをつくって、この問題について論じました。しかし、このとき私は、気象庁のデータを解析し始めていたものの、K-NETのデータは取り扱えなかったので、取り上げられていたK-NETのデータの代わりに、それに近い観測点のデータを気象庁にあるものから探して論じました。
 これでは議論がすれ違ってしまいます。
 今はK-NETのデータも取り扱うことができますので、問題となっていたK-NETの波形データを取り込んで、ほんとうのことを明らかにしたいと思います。

 K-NET のサイトで見ることのできる地震波形は特殊な条件のもの

 K-NETのサイトで地震波形のサンプル画像を見て、それを単純にコピペして、「P波が無いから人工地震というのは誤り」と主張している人たちは、このようなサンプル画像がどのような条件のもとで構成されているかということを、ほとんど理解していません。

 まず一つ目の重要な点は、@ 時間軸がきょくたんに縮められている ということです。
 もう一つの問題点は、A 3つのチャンネルの地震波形の振幅についての正規化の方法が、3チャンネル別々に最大振幅を求めて正規化するというものを使ってから表示している ということです。

 @について私は、最近観測されている地震波形のサンプリング周波数が100Hz、すなわち、1秒間に100データであることから、コンピューターのディスプレイの基本である1ピクセルに1データを表示することを基本スタイルとしました。100ピクセルで100データです。これを私は「リアルタイム」と例えています。これに対して、100データを50ピクセルに表すとすると、ビデオの「2倍速」となります。100データを200ピクセルに表すなら「2倍のスローモーション」となります。
 このようにたとえたとき、K-NETのサンプル画像は、すべて、「8倍速」とか「16倍速」のような、早送り表示なのです。
 Aについての正規化の方法として、私は [ALL] と [EACH] の2つのモードを区別しています。[ALL] では、NSチャンネル、EWチャンネル、UDチャンネルの波形すべての最大振幅値を求めて、それを基準として3つのチャンネルの波形の大きさを決めます。[EACH] は、チャンネルごとの最大振幅で、そのチャンネルの波形の大きさを決めるというものです。
 ほとんどの地震波形においては、NSチャンネルやEWチャンネルのS波の振幅が大きなものとなり、UDチャンネルの振幅は小さいものです。このようなとき、[EACH] の正規化法を用いると、UDチャンネルの波形が見かけ上大きく描かれることになります。
 気象庁のサンプル画像は [ALL] で正規化されていますが、K-NET のサンプル画像は [EACH] で正規化されています。このことを知らずに、比較して議論してゆくのは危険です。
 言葉で説明しましたが、実例を見てもらえば、分かってもらえることでしょう。
 次の図1は「K-NETサンプル画像 熊本(1)「山鹿市」(KMM002)」です。

図1 K-NETサンプル画像 熊本(1)「山鹿市」(KMM002)

 次の図2が、K-NET のサンプル画像を確認してから、この地震波形のデータをダウンロードして、私の解析ソフトで描いたものです。このようなデータをダウンロードするためには、あらかじめ登録しておく必要があります。
 この地震波形では、S波の到来位置を探すのはかなりむつかしい状態ですが、おおよそ赤い矢印のあたりにあります。P波の初動位置は、この信号が始まったところです。
 P波だけの部分はおよそ4秒続いています。P波は確かにあります。

図2 K-NETデータによる 熊本(1)「山鹿市」(KMM002)の地震波形 [ALL], AMP[1], TIME[1]
(画像をクリック → 拡大画像へ)

 この図2が「リアルタイム」(100データを100ピクセルに描いた)と呼んでいるTIME[1]でのものです。正規化は [ALL] で、振幅がAMP[1] なので、全体でもっとも大きな振幅をもっているEWチャンネルでだけ、縦方向に100ピクセルの高さに、ひとつの振幅が触れています。
 この地震波形の設定を変えて、正規化を [EACH] とし、間引かれる振幅の分を補うためAMP[2] として、時間軸を TIME[16] まで縮めたものが、次の図3です。
 私のソフトで変えられる時間軸は、ここまでですが、まだ図1には近づいていません。画像ソフトのペイントを使って、横幅だけを1/2にしたものが、その下の図4です。
 私のソフトでは、時間軸を縮めるとき、振幅データを間引く方法をとっているので、K-NET のサンプル図と完全に一致しません。

図3 K-NETデータによる 熊本(1)「山鹿市」の地震波形 [EACH], Amp[2], Time[16]
(画像をクリック → 拡大画像へ)

図4 図3を横だけ1/2に圧縮したもの  [EACH], Amp[2], Time[32]

> K-NETのサンプル図だけを見る人は、これにより、P波がどのようになっているのかを判断することが誤っていることを理解してほしいと思います。
 図2ではP波だけの区間は、この図でおよそ50mmの長さがあります。この区間が、図4では、50÷32=1.6 [mm] となります。図1では、中央の軸の左先端で、ほんの少しとがっている部分です。
 時間軸をこんなに圧縮し、しかも、正規化法を [EACH] として, UDチャンネルの振幅を大きくしたもので、P波があるかないか、全体の形状が爆発によるパターンだとか判断するのは、あきらかに間違っています。

 あとがき

 EWS3では、遠い観測点の「鹿児島大隅町」のデータについて調べていましたが、今回、それに対応するデータを読み込んで解析できるようになり、前回の解釈は間違っていたということが分かりました。これについて論じると、このページが終わらなくなりそうなので、タイトルを変えてまとめることにします。
  (Written by KLOTUKI Kinohito, Dec 2, 2018)

 参照資料

[1] 気象庁の主な地震の強震観測データ
[2] 防災科学技術研究所

 

地震波の研究ブランチページへもどる