地震波形の研究 Earthquake Wave Study
EWS34 P波が無いから人工地震というのは誤り(4)KGS013 大隅

黒月解析研究所 黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)

地震波の研究ブランチページへもどる

 はじめに

 EWS32で予告したデータについて取り扱います。
 問題となるのは「EWS3 P波が無いから人工地震というのは誤りです」 [1] の (5) 「124km離れた鹿児島県大隅町」です。
 HARMONIES ハーモニーズ(Ameblo版) 地震波形を見ればわかる!熊本地震=人工地震 [2] に、次のような記述があります。

 震央から37km離れた山鹿市や、56km離れた人吉市、124km離れた鹿児島県大隅町でもP波が無いのがわかります。

 EWS3を構成した時点ではK-NET[3] のデータを地震波形として表現できなかったため、データを利用できていた気象庁のサイトから、(5)の近くの観測点として、「鹿屋市新栄町」を選んで、これについて調べました。
 これでは「水掛け論」です。
 また、HARMONIES ハーモニーズ(Ameblo版) 地震波形を見ればわかる!熊本地震=人工地震 [2] では図としてK-NETの「熊本県熊本市(KMM006)」のサンプル図だけが取り上げられていましたが、「124km離れた鹿児島県大隅町」の図は無かったため、K-NETのサイトを調べ、「鹿児島(KGS012)」のサンプル図をコピペしたのでしたが、これは私の誤りで、調べ直したところ、「大隅(KGS013)」のデータが別にありました。
 まったく「はずれ」のデータについて論じていたわけです。
 現時点ではK-NETのデータもダウンロードして地震波形を描くことができますので、該当するデータについて解析します。

 KGS013 大隅

 「KGS013 大隅」とコード化されているK-NETでの観測点は、図1の朱色のひし形マークのところにあります。間違っていた「KGS012 鹿児島」は、地図の鹿児島市のわずかに北です。熊本の震源からの距離は同じくらいでしたが、かなり離れています。この図は、国土地理院の「距離と方位角の計算」 [4] からコピペしたものです。

図1 「KGS013 大隅」のK-NETでの観測点

 図2がK-NETのサイトで調べた、熊本(1)の地震における、観測点「KSG013 大隅」のサンプル画像です。
 この図を見て、P波やS波について論じるのは、地震波形についての専門家でもむつかしいと思われます。この波形はS波だらけであり、P波が無いと、専門家ではない人が判断してしまうのを責められないなあと思ってしまいます。

図2 K-NET KSG013 大隅 サンプル画像

 K-NET KGS013 大隅 のデータ解析

 K-NETにおいて、熊本(1)の地震についての「KSG013 大隅」のデータをダウンロードして、K-NETデータ専用地震波形解析ソフト eqk.exe で地震波形を解析できるようにしました。
 図2のデータの下の方に時間の目盛りがあります。0秒から92秒までとなっています。
 図2(これは縮小画像)をクリックすると、K-NETのサイトからコピペした原寸の画像のページへ進みます。それに基づいて計測したところ、0-92秒は408ピクセルでした。この値から、1秒は4.43ピセルで表されているということになります。
 さて、次の図3は、K-NET 「KSG013 大隅」のダウンロードデータをeqk.exeで再構成した地震波形です。正規化は[ALL]で、振幅は少し大きくしてAMP[2]で、時間軸がTIME[1]となっています。
 この図3も縮小してあるものですが、波形が描かれている横軸の範囲は1024×1.5=1536 [ピクセル]です。TIME[1] のときは、1秒の100データを100ピクセルに描くようにしてあります。1秒は100ピクセルです。
 TIME[2] のときなら、1秒のデータは50ピクセルに描きます。この関係で、「1秒が4.43ピクセル」をTIME[x]に換算すると、およそTIME[23] となります。
 TIME[1]で1536ピクセルは15.36秒ですから、92秒のデータをすべて見るためには、92÷15.36=5.99 なので、6枚の解析図が必要です。

図3 K-NET KSG013 大隅 eqk.exe による波形
 [ALL], AMP[2], TIME[1]
(画像をクリック → 拡大画像へ)

 このデータでもP波とS波の境界(S波の到来時刻)は含まれているのですが、S波の部分が少ないため、分かりにくいので、TIME[2] とした次の図4とします。

図4 K-NET KSG013 大隅 eqk.exe による加速度波形
 [ALL], AMP[2], TIME[2]
(画像をクリック → 拡大画像へ)

 実は、向かって左の半分くらいがP波だけのところで、右の半分くらいがS波も混じっているところなのですが、このデータのままで、それを判断するのは、とてもむつかしいことです。
 図4の表現は、地震計で観測される加速度値の波形です。この値に、1データの時間0.01秒を掛けて積分すると、速度波形となります。さらに時間を掛けて積分すると、変位波形となります。
 次の図5は、加速度値の図4から構成した変位波形です。

図5 K-NET KSG013 大隅 eqk.exe による変位波形
 [ALL], AMP[2], TIME[2]
(画像をクリック → 拡大画像へ)

 よけい分からなくなったと思っている人も多いことでしょう。
 ここからUDチャンネルについては無視して、水平面の動きをとらえたNSチャンネルとEWチャンネルの波形から構成したコンパス解析の波形を3段目に描きます。
 次の図6が、3段目をコンパス解析のCPS2 としたものです。
 コンパス解析の波形は、1データごとに、ゆれる方向にあわせて、角度をつけて振幅値の棒グラフを描写するというものです。

図6 K-NET KSG013 大隅 eqk.exe による変位波形
 [ALL], AMP[2], TIME[2] のコンパス解析(Black)
(画像をクリック → 拡大画像へ)

 向かって右1/3のあたりで、CPS2の波形は、鳥の翼や虫の羽根のように広がっています。これは波の向きがゆっくり変わっているためで、明らかにS波の特徴です。
 向かって左のほうのP波では、斜めの方向がほぼ一定です。これがP波の特徴です。
 それでは、その境目はどこにあるのでしょうか。
 この図では分かりにくいので、ソフトを工夫して、別の表現を用意しています。
 次の図7から図9につけてある、Green, Pink, Redは仮称です。正式名称は、まだ考えてありません。色が違うだけではなく、その本質的な違いは、色の付け方の違いにあります。
 Greenの色の付け方は、数学の座標における4つの象限で変えてあるということです。この方法がいちばん簡単でした。色の境界は、北―南、西―東の2本の軸のところです。
 Pinkの色の付け方は、同じく4色なのですが、境界が斜めのところで、北東―南西、南東-北西の2本の軸です。
 Redはもっと一般化したもので、連続的に色が変化するようにしてあります。

 (※)このあとの解析を見直し、内容を訂正しました

 これらの解析のCPS2のところを観察すると、P波では主に「北西」と「南東」の向きに「揺れの軸」が傾いているということが分かります。このようなパターンを観察しながら時間軸を右へと移してゆくと、図中の数字で25のあたりに「北東」に傾く「揺れの軸」が突然現れ、そこから主に「北東」と「南西」に揺れる波が続き、やがて、大きく向きを変えて扇子や翼のように見えるパターンへと変わってゆきます。これらの変化から、データ開始時から25秒のところからS波がやって来たと判断できます。このデータは26分43秒から始まっていますから、それに25秒を足して26分68秒、つまり27分08秒がS波の初動時刻です。

図7 K-NET KSG013 大隅 eqk.exe による変位波形
 [ALL], AMP[2], TIME[2] のコンパス解析(Green)
(画像をクリック → 拡大画像へ)

図8 K-NET KSG013 大隅 eqk.exe による変位波形
 [ALL], AMP[2], TIME[2] のコンパス解析(Pink)
(画像をクリック → 拡大画像へ)

図9 K-NET KSG013 大隅 eqk.exe による変位波形
 [ALL], AMP[2], TIME[2] のコンパス解析(Red)
(画像をクリック → 拡大画像へ)

 図4の加速度TIME[2]波形に、P波マークとS波マークを描き加えたものが、次の図10です。
 UDチャンネルでは、ほとんど根拠となる変化を見出すことができません。一般にUDチャンネルは、S波の影響は現れにくいものです。

図10 K-NET KSG013 大隅 eqk.exe による加速度波形
 [ALL], AMP[2], TIME[2] Pマーク, Sマーク入り
(画像をクリック → 拡大画像へ)

 まとめ

 以前の解析では、このような波形では、「P波が減衰していて見えなくなっている」と判断していましたが、これは間違っていました。
 減衰していたのはS波のほうで、そのため、S波の特徴がうまく現れておらず、振幅が大きくなるということや、周波数が低くなる、という2大特徴をあてにすることができません。
 唯一あてになる特徴は、P波とS波とでは、振動の軸の方向が変わるというものです。
 私が開発したコンパス解析は、実はさらに進化していて、色分けコンパス解析というものになっています(図7〜図9)。これを使えば、P波とS波の本質的な違いを、色のパターンの変化という特徴に置き換えて見ることができるので、厳密な解析が可能となります。
 これらによる上記の解析の結果、P波の初動は観測開始時刻から14秒のところに、S波の到来は25秒のところにあると分かりました。K-NETのサンプル画像(図2)に、これらの位置を矢印で記したものを図11として示します。

図11  K-NET KSG013 大隅 サンプル画像におけるP波とS波の初動
(画像をクリック → 拡大画像へ)

 あとがき

 (ダイナマイトなどによる起震で生じた人工の)地震波形について、P波やS波の初動位置を読み取って、データとしてまとめて調査書をまとめるという仕事をしていたころは、この「KGS013 大隅」のように複雑なパターンに出会ったことはなかったと思います。なぜかというと、調査していたところが、地表から1kmもない部分だったので、距離としても近いものだし、地質が軟弱だったので、S波は低周波数で、大きな振幅をもって現れていたからです。
 P波やS波の初動位置について困っていたのではなく、S波のその後の重ね合わせなどで、大きな振幅になることを考慮しつつ、地震波形全体のパターンの特徴を読み取り、その情報を利用して、地中のどのあたりの深さに反射面があるかということを調べていたのです。
 今回調べている、もっと広い範囲、かつ、深いところを通って、いくつもの観測点にやってくる、大きな自然(としておきます)地震のデータをたくさん見てきましたが、いろいろなものがあるなあと、あらためて驚いています。
 地震波形の研究を始めた今年の9月の中頃にくらべ、S波の初動位置の読み取り技術の精度は、かなり高まって来たと思えます。
 しかし、このような技術をどのように生かすことができるかは、ちょっとよく分かりません。

 ご注意もうしあげます

 K-NET のサイトにあるサンプル画像を、いろいろ調べて、核爆発による地震波形のパターンによく似ているから、これは自然地震ではなく人工地震だと主張している人に、ご注意もうしあげます。
 K-NET のサンプル画像は、@時間軸がきょくたんに短縮されている、A振幅の正規化法がチャンネルごとになっているのでUDチャンネルが強調されすぎる、これらの2点のため、(このことを知らない人には)正しく解釈できないものとなっています。
 気象庁やK-NET で公開されている地震波形のデータは、これを取り込んで、(縦軸の)振幅や(横軸の)時間を自由に変えることができるソフトが(制作するのは専門のプログラマーでもよいのですが)利用できる研究者や技術者のために提供されているものです。
 そのような技術をもたない人は利用してはいけないというわけではありません。そのような技術をもたない人は、限られた「視点」しかもつことができない、ということなのです。
 上記の図2しか見ることができない人は、図3で展開された、時間軸で拡大された地震波形を見ていないということを、知ってください。
 地震波形に関して大切なのは、図2のような全体像だけではなく、図3のような、詳細な部分像と全体像を関連づけて見ることができるということなのです。
 (Written by KLOTUKI Kinohito, Dec 5 2018)

 参照資料

[1] EWS3 P波が無いから人工地震というのは誤りです
[2] HARMONIES ハーモニーズ(Ameblo版) 地震波形を見ればわかる!熊本地震=人工地震
[3] 防災科学技術研究所 強震観測網 K-NET
[4] 国土地理院の「距離と方位角の計算」

 

地震波の研究ブランチページへもどる