地震波形の研究 Earthquake Wave Study
EWS36 K-NETサイトにある6チャンネルの地震波形データの見方(1)

黒月解析研究所 黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)

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 はじめに

 気象庁のサイト [1] にある地震波形データは、すべて3チャンネルとしてまとめられています。
 気象庁の地震波形データのファイルをダウンロードして、解凍し、TeraPad(もしくはメモ帳)で読むと、何行かの情報が記されたヘッダのあとに、加速度値としての、地震波形データが実数で並べられています。1行に3つずつです。左からNSチャンネル、EWチャンネル、UDチャンネルの3つです。この形で下にデータ数の行として続きます。これは分かりやすいものです。気象庁のデータファイルは、ひとつの観測点につき、ヘッダとデータが入った1つのものとなっています。
 K-NETのサイト [2] には、地震波形のサンプル画として、3チャンネルのものと並んで、6チャンネルのものがあります。K-NETのサイトにある説明を読むと、6チャンネルの地震波形データは、地表あたりに地震計が置かれて計測された3チャンネルと、同じ緯度経度の座標値の、地下深くに置かれた地震計による3チャンネルを並べたものなのだと分かりました。上側の3つが地下で、下側の3つが地表となっています。K-NETのファイルは観測点で1つではなく、チャンネルごとに1つずつとなっています。6チャンネルのときなら、記号で象徴すると、NS1, EW1, UD1, NS2, EW2, UD2の6つのファイルごとに、(情報)ヘッダと(振幅)データがまとめられています。これらのファイルで1が添えられているのが地下の観測値で、2は地表の観測値です。 
 最近になってようやく、K-NETのデータをダウンロードして、地震波形をソフトで描けるようになり、3チャンネルの波形だけでなく、6チャンネルの波形も解析することで、いろいろなことが理解できるようになりました。

 3チャンネル波形は、6チャンネル波形の「下半分」と同じものではない

 K-NETのサイトにある観測点として、「大阪」と名づけられているものに、3チャンネルと6チャンネルの2つがあります。3チャンネルの「大阪」は、OSK005というコードで、6チャンネルの「大阪」はOSKH05です。これらを緯度経度に基づいて調べると、意外と近くにあることが分かりました。
 図1は、3チャンネル(OSK005)と6チャンネル(OSKH05)の2つの観測点「大阪」の位置です。この図は、国土地理院のサイト「距離と方位角の計算」[3] に2つの観測点「大阪」の緯度経度を(十進法度単位で)入力して構成したものです。左に「地下鉄御堂筋線」があります。この地図の少し北に「新幹線の新大阪駅」がある、という位置です。

図1 3チャンネル(OSK005)と6チャンネル(OSKH05)の2つの観測点「大阪」の位置

 3チャンネル(OSK005)の「大阪」の地震計の海抜は4mです。
 6チャンネル(OSKH05)の「大阪」の地震計は地下と地表の2つあって、地表の海抜は1mですが、地下の海抜は-981.458mとあります。深く掘ったものです。しかも、この数字はミリメートルの単位まで表わされています。
 同じ「大阪」だと分かりにくいので、正式ではないかもしれませんが、それらの観測点がある地区名を添えて、OSK005を「大阪柴島」、OSKH05を「大阪長柄東」と名づけておきます。

図2 (a)OSK005「大阪柴島」と(b)OSKH05「大阪長柄東」の K-NETサンプル画像

 これらサンプル図を見ても、(a) OSK005「大阪柴島」の地震波形と、(b) OSKH05「大阪長柄東」の下3つ(地表の海抜1mで観測)とは違うということが分かるかもしれません。

  3ch OSK005「大阪柴島」と6ch OSKH05「大阪長柄東」地表(S)のeqk6.exe解析波形

 図2のK-NETサンプル画像では、地震波形の全体像を見るために、120秒の観測データをすべて描くため、横軸の時間軸がきょくたんに縮められています。しかし、これらの地震波形の、P波やS波の主要な部分は20秒くらいの区間に収まっています。P波だけの部分は、2〜3秒しかありません。
 このような地震波形の、とくにP波やS波の初動位置を確認するために、もうすこし時間軸をのばして地震波形を描いたものを見ることにしたいと思います。
 K-NETサイトから(登録しておいて)ダウンロードした地震波形データを使って、私が組みあげた地震波形解析ソフトの eqk6.exe で表現したものが、次の図3などです。
 図3 はOSK005「大阪柴島」のeqk6.exe解析波形で、図4はOSKH05「大阪長柄東」の地表(Sとして区別)のeqk6.exe解析波形です。

図3  OSK005「大阪柴島」のeqk6.exe解析波形
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図4  OSKH05「大阪長柄東」の地表(Sとして区別)のeqk6.exe解析波形
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 図2では正規化法が、私のソフトのモードで [EACH] となっていますが、図3や図4では [ALL] としています。[EACH] では、それぞれのチャンネルの最大振幅を正規化の基準とします。[ALL] では、3つのチャンネルの最大振幅を基準として使いますから、チャンネルどうしの振幅を、見たままで比較することができます。
 しかし、このような区別で描いていますが、図3の [ALL] で使っている最大振幅は、EWチャンネルの正値がわの +282.883 [gal] です。このとき AMP[2] としているので、基準線から上に100ピセルのところでの振幅値は その半分の +141.442 です。
 これに対して、図4の [ALL] で使っている最大振幅は、UDチャンネルの正値がわの +310.017 [gal] です。このときも AMP[2] なので、基準線から上に100ピクセルでの振幅値は 半分の +155.008 です。
 つまり、全体として図3と図4とは、[ALL] の [ALL] ではなく、[ALL] の [EACH] となっているわけです。ですから、図3の中や、図4の中だけで、振幅の違いを比較することは出来ますが、図3と図4とを渡って、UDチャンネルどうしの振幅を、直接見たままで比較することができません。
 +141.442と +155.008 なので、よく似た値ですが、これは、たまたま近くで観測されていて、よく似た海抜の地表どうしだからでしょう。
 このようなことに気づいて、このままでは、げんみつな議論ができないと考え、地震波形解析ソフトの機能を拡張することにしました。

 6チャンネルOSKH05「大阪長柄東」の地表(S)と地下(G)のeqk6.exe解析波形

 これまで [ALL] という正規化法で用いる最大振幅の値は、観測された3チャンネルの波形から調べたものでした。このため、異なる観測点での [ALL] のための最大振幅値は、(よほどの偶然があったとはても)常に異なる値となっていました。
 そこで、[ALL] のための最大振幅値を、外から(データを読み取ったあとで)指定できるようにしました。
 図6などの eqk6.exe による解析画像の、上から2行目のスイッチ領域に、図5のような、外部指定の [ALL] 最大振幅値 [gal] 設定スイッチ を加えました。[OFF] は、外部指定をやめて、もとの3チャンネル波形から最大振幅値を求めるモードに戻すためのスイッチです。

図5 外部指定の [ALL] 最大振幅値 [gal] 設定スイッチ

 ここのところで AMP=200 [gal] を指定しました。この値は、実は、先に図7のための解析図をまとめるときに設定したものです。
 この同じ外部指定最大振幅のAMP=200 [gal] として、OSKH05「大阪長柄東」の地下(G)の地震波形を描いたものが、次の図6です。
 こうして、図6と図7は、共通の [ALL] の最大振幅値 AMP=200 [gal] を使って、直接見比べることができるようになりました。

図6 OSKH05「大阪長柄東」の地下(G)の
最大振幅AMP200の [ALL] でのeqk6.exe解析波形
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図7 OSKH05「大阪長柄東」の地表(S)の
最大振幅AMP200の [ALL] でのeqk6.exe解析波形
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 図2の(b)OSKH05「大阪長柄東」の K-NETサンプル画像では、6つのチャンネルの波形が [EACH] で描かれていたので、振幅の違いを見比べることができませんでした。
 図3と図4では、それぞれ [ALL] ですが、[ALL] のための最大振幅値は、(よく似ていましたが)同じ値ではないので、げんみつには、図を越えて振幅を比較することができませんでした。
 図6と図7では、共通の最大振幅値 AMP=200 [gal] を決めて、それぞれ [ALL] として描きましたので、[ALL] の [ALL] と言えます。
 このような状態で、地表(S)の図7を見てから、地下(G)の図6を見ると、地下(G)のほうが震源に近いはずなのに、すべてのチャンネルの振幅が、とても小さいことが分かります。
 これは、一般的な傾向として認められることなのだろうか、という疑問が浮かび上がりました。
 確認するためには、調べるしかありません。OSKH05「大阪長柄東」以外で、観測点コードにHの記号がついている、他の6チャンネル観測点のデータを、いくつもダウンロードして解析しました。
 このあと、ページのタイトルを変えて、少しずつ示すことになると思いますが、この傾向は、すべての観測点で成立していました。
 この問題について考察を加える前に、[ALL] のための最大振幅値を外部指定するだけではなく、地下(G)と地表(S)のデータを、NS, EW, UDの3種類のチャンネルごとに比較するシステムについて次に説明しておきます。

 地下と地表の地震波形を共通の最大振幅値で [ALL] として正規化すると

 図5の 外部指定の [ALL] 最大振幅値 [gal] 設定スイッチ と同じ行で、向かって左側に、図8の K-NET 6chデータの分類スイッチ があります。[O] は3チャンネルデータの取り扱いに戻すための、デフォルトスイッチです。
 6チャンネルのデータは NS1, EW1, UD1, NS2, EW2, UD2 という6つのファイルとして保存してあります。これらの1が添えられた3つや、2が添えられた3つを、それぞれ3チャンネルのデータとして取り扱えるようにしてありますが、6つのデータをすべて読み取って、それらの組み合わせを選べるようにするのが、図8のスイッチです。
 [G]ではNS1, EW1, UD1を使います。[S]ではNS2, EW2, UD2を使います。これらはただの3チャンネルデータとしての表示です。
 [ns]では NS1と NS2 を使って、2つのチャンネル表示とします。このとき、外部振幅を指定しないと、2つの最大振幅のうちの大きいほうを使って [ALL] の正規化を行います。
 [ew] では EW1 と EW2 を使います。
 [ud] では UD1 と UD2 を使います。
 これらの表示も、共通の最大振幅値を決めておくほうが、比較しやすいので、次の図9から図11では、[ALL] のための最大振幅値を AMP=100 [gal] としました。

図8 K-NET 6chデータの分類スイッチ

図9  OSKH05「大阪長柄東」のNSチャンネルの地下(G)と地表(S)の波形
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図10  OSKH05「大阪長柄東」のEWチャンネルの地下(G)と地表(S)の波形
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図11  OSKH05「大阪長柄東」のUDチャンネルの地下(G)と地表(S)の波形
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 このようなスタイルで、地下(G)と地表(S)の波形について、各チャンネルで見比べたとき、一般的に地下(G)での振幅より、地表(S)での振幅のほうが、はるかに大きなものとなっています。
 とくに驚いたのは、UDチャンネルでの変化です。
 さらに、図6の地下(G)と図7の地表(S)の3チャンネルの波形の振幅を見比べ、次のような傾向があることが分かりました。

 (1) 地下(G)の3チャンネルの波形では、NSチャンネル、EWチャンネル、UDチャンネルの振幅が、P波のはじめや、あとのほうの主要なS波において、あまり変わらないものとなっている。

 (2) 地表(S)の3チャンネルの波形では、NSチャンネルとEWチャンネルにおいて、主要なS波の部分の振幅が大きくなっている。

 (3) 地表(S)の3チャンネルの波形では、UDチャンネルにおいて、P波のはじめの部分の振幅が大きくなっている。

 (4) 地表(S)の3チャンネルの波形では、UDチャンネルにおいて、主要なS波の振幅が目立って大きなものとなっていない。

 解釈

 これらの観測事実から、次のような解釈が成り立つものと考えられます。

 (A) 地下(G)深くにおいては、地震波形がいま伝わってきている空間位置において、宇宙空間や水の中の真空や水のかわりに、固い岩盤がぎっしりとつまっているということになり、周囲の状況は同じようなものとみなせる。ここでは地球の重力の向きの影響は、ほとんどないと考えられる。
 だから、地震波形の振幅は、地中の空間にどのような座標軸を設定しても、ほとんど変わらないということになる。
 わずかに、それまで伝わって来たS波の振動の向きが、水平面に平行になっているらしく、NSとEWチャンネルで大きめとなる。

 (B) この地震波は、観測点の地表に向かうとき、地表に沿って伝わるより、あるていど地下を伝わるほうが速いので、かならず、さいごは、地下から地表へ上向きに伝わる。
 このように波が進む方向が定まったとすると、P波は波が進む軸に対して前後に振動する縦波なので、地表近くでは、おもに上下方向に振動する。
 すると、3つのチャンネルの地震計のなかで、UDチャンネルがもっとも、この動きをとらえやすいということになる。

 (C) S波の振動方向は、一般的には、地震波が進む方向に対して横の向きとなるので、地震波が地下から地表に向かうとき、S波の振動する方向は、地表面に平行な面に含まれることになる。
 すると、地表の3つのチャンネルの中で、S波の動きをとらえやすいのは、水平面に平行な動きをとらえるために設置されている、NSチャンネルとEWチャンネルとなる。
 これに対して、UDチャンネルにおいては、地表面に垂直な動きに対応しているので、地表面に平行な動きには鈍感となる。S波の影響も受けるだろうが、うまくとらえることができない。

 (D) 全体的な傾向として、地震波は、固い岩盤がぎっしり詰まった地下深くでは、周囲の岩盤を大きく動かすことができないで、エネルギーはある程度保っているものの、それを解放することができないままでいる。ところが、岩盤の固さや重みによる圧迫から解放される地表近くにやってくると、そのエネルギーを解放することができるようになって、地表のいろいろなものを大きく揺らすことになる。

 あとがき

 K-NETの観測点データの中の6チャンネルの地震波形について、それらの振幅値を、共通の最大振幅値を外部指定することで、正規化して観察することにより、緯度経度の同じ位置でも、地下(G)と地表(S)とでは、地震波形の振幅パターンなどの意味が大きく異なるということが分かりました。
 大都市の中心部では、市役所や消防署(あるいは気象観測所)などの建物のどこかに地震計が設置されているとき、周囲のいろいろな振動ノイズをひらってしまうという恐れがあります。地震の加速度波形の周波数はかなり高いものですから、通常の交通機関の振動なら無視してくれるかもしれませんが、工事現場で使われる削岩機の振動などはノイズとなってしまうのではないでしょうか。これでも低周波かもしれません。でも、何らかの高周波の振動ノイズが生まれる可能性は高いことでしょう。
 しかし、このような地表の振動ノイズも、地下深くでは、ほとんど影響されないはずです。
 3チャンネルのOSK005「大阪柴島」の地震計のそばには、阪急千里線が通っています。この位置は問題が多いということで、少し離れたOSKH05「大阪長柄東」に、新たに地震計を設置することとし、地下深くにも地震計を置くものとしたのではないでしょうか。
 ひょっとすると、地下深くのほうが、より震源に近いのだから、震源の情報をとらえやすいと考えられたのかもしれません。
 ところが、今回解析したところ、地震波は、地下深くでは、あまり特徴が現れておらず、その地震波が地表にやって来てから、P波やS波の加速度振幅が大きくなって、地表の建物などに影響を与えます。地震波という怪物は、地下ではじっとがまんして静かに移動し、地表で正体を現して大暴れするようです。
 (Written by KLOTUKI Kinohito, Dec 8 2018)

 参照資料

[1] 気象庁の主な地震の強震観測データ
[2] 防災科学技術研究所 強震観測網 K-NET
[3] 国土地理院のサイト「距離と方位角の計算」

 

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