地震波形の研究 Earthquake Wave Study
EWS4 自然な地震でP波とS波の初動を調べよう

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)

地震波の研究ブランチページへもどる

 自然な地震を探して観察しよう

 気象庁のサイトに「主な地震の強震観測データ」をまとめたページがあります[1]。
ここで「主な地震」のひとつを選ぶと、いくつかの「観測点」のデータをまとめた一覧表のページへと進みます。その一覧表の右端に「波形」と「ダウンロード」の項目があります。「波形」をクリックすると、気象庁でまとめられた、地震波形やスペクトル解析の図を見ることができます。「ダウンロード」をクリックすると、観測点情報と地震波形のデータへと移ります。これを保存して、適度に加工して、その地震波形のデータをソフトで読み込めるようにします。
 気象庁がまとめた「波形」の図を見ても、どれが「自然な地震」なのかは分かりません。
 「ダウンロード」のデータを使って、詳しく地震波形を描けるようにしましたが、それでも、かんたんに分かるというものでもありません。
 ここで「自然な地震」と判断しているものは、20年前に、ダイナマイトで起こした人工地震や、ボーリング孔につるした検層器で観測した、地面の中を伝わる弾性波(地震波の物理的な名称)の波形とあまり違わないパターンをもっているものです。
 その具体的な条件のようなものは、このあと、地震波形の実例を示して説明しようと思います。

 2014年11月22日22時08分 長野県北部の地震

 気象庁のサイトの「主な地震の強震観測データ」のところにある1995年以降の地震については、このリストにはない、2018年9月6日03時08分に起こった「北海道胆振東部地震」まで、選んだデータ数にはばらつきがありますが、ほとんど取り込んで観察してみました。
 ここのタイトルにあげた「2014年11月22日22時08分 長野県北部の地震」は、以前から親しんできた「普通の地震波形」の災害版のように見えます。おそらく、あまり大きくない、毎日のように起こっている地震なら、ほとんど「自然地震」とみなせることでしょう。
 言葉で語るより、実際の地震波形を見た方が理解は早いと思われます。
 次の図1は「(長野北部2014)長野市箱清水 (震央距離) 27.4km」です。
 TIME=[1](1サンプルを1ピクセルに描く), AMP=[2](最大振幅を縦の200ピクセルとする), MODE=[ac](加速度波形), NORM=[ALL](すべての最大振幅で正規化), START=[1300](開始位置のデータ数)となっています。
 震央距離が27.4kmと、比較的近いので、減衰してゆくS波の「しっぽ」のようなところは切れていますが、P波とS波の初動あたりや、S波の主要な部分は含まれています。
 この観測点でのデータならP波の初動はもちろん、S波の初動位置も、容易に読み取れることでしょう。P波の初動位置は、図2のように、振幅(AMP)を大きくすれば、かんたんに分かります。この図2では AMP=[X] (10倍)としました。

図1 (長野北部2014)長野市箱清水 (震央距離) 27.4km
(画像をクリック → 拡大画像へ)

図2 AMP=[X]での(長野北部2014)長野市箱清水 (震央距離) 27.4km


 S波の初動位置も、このケ―スなら、さほどむつかしくありませんが、もっと複雑な地震波形のケースで困らないように、これまでに組み上げていた eqwaz.exe を改良して、図3で示したような表示をするようにしました。これを新たに eqwoz.exe と呼ぶことにします。

図3 ミックスモードの(長野北部2014)長野市箱清水 (震央距離) 27.4km
(画像をクリック → 拡大画像へ)

 このソフト eqwoz.exe では、黒い地震波形の下に、色のついた波形があります。これらはなにかというと、NSのところにある明るい緑の波形はEWで、EWのところにある濃い黄色の波形はUDで、UDのところにあるピンクの波形はNSです。サイクリックにずれて、隣の波形を描いておくことで、これらの波形が示す、動きの変化を読み取ろうとするのです。
 P波の部分は小さいので分かりにくいのですが、P波が地震波の進行方向を軸として振動するのに対して、S波はその軸に垂直な方向で振動します。
 このことから、P波の振動が続くところに、突然S波がやってきたら、振動のパターンが変わるだろうと考え、その変化の瞬間から、色のパターンが変わるようにできるといいな、と思って実験してみました。
 このケースでは、S波は、@周期が伸びる、A振幅が大きくなる、という条件を顕著に示していますので、このような工夫をしなくても分かるのですが、もう一つ、B振動の向きのパターンが変わる、ということを組み合わせることによって、より確かな判定をすることができます。
 もうひとつの工夫として、時刻を読み取るための「スケール(物差し)」を、3つの波形の、横軸の近くに入れました。ここの数字の単位は「秒」です。開始時刻プラス、このグラフでの秒数が、P波やS波の到達時刻となります。

 P波とS波の速度グラフ

 上に示した「(長野北部2014)長野市箱清水」は震央距離が27.4kmで、P波は08分23.4秒に、S波は08分29.0秒に到達しています。
 他のデータについても、これらの値を調べ、次の図4を構成しました。青がP波で、赤がS波です。これらの直線は回帰直線で、統計学の手法にのっとって計算して描きました。
 ここから求められる、この地震の平均的なP波速度は6.00 [km/s] で、S波速度は 3.27 [km/s] でした。

図4 長野北部2014年11月22日22h08mの地震のP波とS波の速度グラフ


 他の観測点の地震波形

 図4の「P波とS波の速度グラフ」で使った観測点は16です。震央距離とし2番目に近いのは、図1から図3で紹介した「長野市箱清水」です。のこりの15の観測点の地震波形を解析したものを、このあとの図として載せます。
 実は、図4の速度グラフを構成するために、P波とS波の初動位置を求めたのは、図1と図2で示した技法によってでした。
 図3のような「ミックスモード」の解析法を生み出したのは、そのあとのことです。
 このような、P波とS波の初動位置を判定する作業は、これまで、原波形の全体像を眺める、振幅を大木することでP波という信号がはじめに到来したとこを見つける、低周波となり振幅も大きくなるS波のまとまりを見極める、などの、テクニックに基づいて行ってきました。
 しかし、今回初めて、一般の大きな地震波形をいろいろと観察するようになり、これまで取得してきたテクニックだけでは決められない、というケースが現れてきました。
 この「ミックスモード」を生み出す前、もういくつかのアイディアを検討したのですが、アルゴリズムが複雑になるだろうということと、その成果が期待できそうなものにならないだろうという予測のもと、実現するには至っていません。
 もう一つ保留してある技法があります。ウェーブレット解析で、周波数ごとの時系列地震波形に分解してしまうというものです。
 それらの前に、ふと思い立った、色を変えて、NS(北南), EW(東西), UD(上下)のうち、2種類の波形を並べて比較するという「ミックスモード」という技法をテストして、これまで分からなかった情報を読み取ることができる、ということが分かりました。
 一般にS波は、P波よりも、低周波で大きな振幅となるものですが、遠方へと進むにつれ、振動のエネルギーを使い果たして、振幅を減衰させてしまい、P波の振幅と近いものとなることがあります。
 このようなときでも、P波は進行方向の軸に沿って前後に振動するということと、S波はその軸に対して横方向に振動するという性質の違いを手掛かりに、「ミックスモード」の色つき波形と黒い波形の、重なったり、反対の方向に現れたりするという、リズムのようなものが変わる地点を見出すことで、ここで性質の違う波がやってきている、ということを確認することができます。
 言葉だけではむつかしいので、具体的な観測波形を解析して説明します。

図5 (長野北部2014)大町市役所 (震央距離) 21.3m
(画像をクリック → 拡大画像へ)

 図5のAMP=[2] の解析図では、P波の青い矢印のところには何もないように見えていますが、図2のように、AMP=[X](10倍)などとして観察すると、そこに信号がやってきているということが分かります。このあとも、P波の初動位置を確認するための振幅拡大解析図は省略します。図5のAMP=[2] でも、0.4秒ほど遅れたあたりに信号があることが分かります。
 震源から近いところでは、S波も高い周波数の信号のままのようです。しかし、震源に近いところでは、P波の振幅よりS波の振幅のほうが大きくなって現われます。それらが、おもちゃの独楽を横倒しにしたようなパターンとなっていれば、その先端部分のあたりに、S波の初動があるはずです。
 図5でのS波の初動位置は、ミックスモードの技法にたよらずに判定しました。これだけ高周波だと、色のある波と黒い波とのリズムを見てゆくのは困難です。

図6 (長野北部2014)筑北村坂井 (震央距離) 31.2m
(画像をクリック → 拡大画像へ)

 図6の地震波形では、S波は低周波となって現れています。このことと、独楽の横倒しパターンを考慮して判定しました。

図7 (長野北部2014)長野市松代 (震央距離) 32.7m
(画像をクリック → 拡大画像へ)

 図7のS波については、EWの波形におけるパターンが決め手となっています。

図8 (長野北部2014)新潟県糸魚川市一の宮 (震央距離) 36.8km
(画像をクリック → 拡大画像へ)

 この「2014年長野県北部地震」の震源位置は、長野県と新潟県の県境あたりのようです。
 そこから長野県の領域に向かった地震波は、一般に高周波で、新潟県や富山県、石川県へと買った地震波は、低周波になるようです。おそらく地質の違いがあって、その影響だと考えられます。
 図8のように、P波もS波も低周波になっていると、ミックスモードの解析が使いやすくなります。
 赤いS波の矢印のところから、NSとEWの波がちょうど重なるようになっています。これはS波が北東と南西の軸に沿って振動していることを意味しています。それ以前のP波のところでは、規則的な対応は確認できません。

図9 (長野北部2014)安曇野市穂高支所 (震央距離) 39.2km
(画像をクリック → 拡大画像へ)

 図9のように、長野県北部の県境から、南の安曇野市へ向かった地震波は、高周波の波のままです。

図10 (長野北部2014)上田市上田古戦場公園 (震央距離) 43.2km
(画像をクリック → 拡大画像へ)

 これも高周波であり、S波の初動は、振幅の大きな独楽の横倒しパターンを探して判定しました。P波のところから、ときどき低周波が生じているので、むつかしくなっています。
 この地震波形で、おやっと思う部分があります。UDの信号で、P波の初動から1.5秒ほど経過した地点あたりに、大きな振幅があります。速度的には明らかにP波なのですが、「初期微動」とは言えない振幅の大きさです。いったいどのようなメカニズムで、このように大きな振幅のP波が生じるのでしょうか。

図11 (長野北部2014)富山県魚津市釈迦堂 (震央距離) 45.5km
(画像をクリック → 拡大画像へ)

 このケースでのS波初動の決め手は、EWの波による「低周波数」と「やや大きな振幅」です。

図12 (長野北部2014)上越市中ノ俣 (震央距離) 51.9km
(画像をクリック → 拡大画像へ)

 この「上越市中ノ俣」の地震波形では、S波の初動の位置を、NSとEWのリズムが変わったことを手掛かりにして決めました。
 ただし、その前の、P波の区間とみなせるところに、32.5秒(スケールでは12.5の位置)から始まる、周波数が低くて、振幅も徐々に大きくなる波があるということです。UDのところにも、同じ位置あたりに、低周波で大きな振幅の波があります。これらをS波と考えると、速度が4.0 [km/s] を越えてしまい、地表近くを伝わるS波の速度としては大きすぎます。

図13 (長野北部2014)上越市大手町 (震央距離) 56.0km
(画像をクリック → 拡大画像へ)

 この「上越市大手町」のデータでも、UDの33秒(スケールで13)のところに、低周波で振幅の大きな波があります。ここのところに、少し大きめの上下動が伝わってきているということになります。P波が生み出した「表面波」のような現象でしょうか。

図14 TIME[2] (長野北部2014)軽井沢市追分 (震央距離) 70.5km
(画像をクリック → 拡大画像へ)

 この図14から下の図18までは、時間軸の単位が変わって、TIME[2] となります。開始位置の後の表示が、2倍に圧縮されます。スケールの目盛数値は2倍になります。つまり、TIME[1] では100ピクセルに100サンプルデータを表示していたのですが、TIME[2] では、100ピクセルに200サンプルデータ分を表示するわけです。このとき、連続する2データの平均値を1つのピクセルに表示します。
 S波の初動位置は、低周波の波が始まることで判定しました。
 震央距離が大きくなると、P波の振幅とS波の振幅が、よく似た大きさになります。

図15 TIME[2] (長野北部2014)諏訪市湖岸通り (震央距離) 74.3km
(画像をクリック → 拡大画像へ)

 P波の部分がまさに「初期微動」と呼ばれる状態に落ち着いています。
 S波の初動位置は、低周波の波が現れるところで読み取りました

図16 TIME[2] (長野北部2014)能登町宇出津 (震央距離) 94.8km
(画像をクリック → 拡大画像へ)

 このケースでも、P波の区間に、低周波の波が生じています。このケースでは、NS波形とEW波形のリズムが変わるところを、S波の初動位置としました。

図17 TIME[2] (長野北部2014)小千谷市城内 (震央距離) 105.9km
(画像をクリック → 拡大画像へ)

 S波の初動位置は、低周波、振幅、色のリズム、この3点を考慮して判定しました。

図18 TIME[2] (長野北部2014)輪島市鳳至 (震央距離) 117.8km
(画像をクリック → 拡大画像へ)

 このケースにおいては、典型的な、魚の形のようなS波のセットが見えています。こちらを鯛(タイ)とすると、P波のほうは秋刀魚(サンマ)のような形で伸びています。
 次の図9は TIME=[4] です。

図19 TIME[4] (長野北部2014)新潟空港 (震央距離) 176.9km
(画像をクリック → 拡大画像へ)

 S波の初動位置は、ここで間違いないでしょう。
 S波は地表に対して、水平方向の真横に振動しているようです。NSとEWの波形は関連していますが、上下動のUDには、S波の影響と考えられそうな揺れは記録されていません。かなり遅れたあたりに低周波の波があります。S波のエネルギーが集まった「表面波」のあたりでしょうか。
 図19は TIME[4] で表示していますが、S波の初動位置を TIME[1] で表示すると、次の図20のようになります(振幅は4倍)。新潟のほうへ向かった他の地震波と同じように、低周波の波として伝わっています。

図20 TIME[1] (長野北部2014)新潟空港 (震央距離) 176.9km
(画像をクリック → 拡大画像へ)

 「自然な地震」の波形パターン

 今回取り上げた、2014年の長野北部地震は、これまで「自然な地震」と見なされてきたものの特徴を示しています。
 おそらく、地中の断層に沿って、地面の地層が動いたときの地震というものが生み出す地震波形というものは、このようなものだと考えられます。
 P波の振幅は、S波に比べて、かなり小さいのが普通です。
 震源から遠くなると、P波の振幅と、S波の振幅が近づくこともありますが、震源から179.6kmの「新潟空港」の地震波形でも、P波に比べて、S波の振幅は大きいので、区別ができます。
 NS(南北)とEW(東西)の波形は、水平面の動きの基準をNS軸とEW軸にとっただけで、どちらが優位になるかというような違いは考えられません。地震と観測点の位置関係で変わってくると考えられます。
 これに対して、これらのNS, EW と、UD(上下)の関係は違ってくるようです。
 今回の地震について、P波の平均速度は 6.00 [km/s] で、S波は 3.27 [km/s] でした。P波速度が 7〜8 [km/s], S波速度が 4 [km/s] というのは、もっと地球を深く潜って伝わる地震波の速度のようです。
 一般には、地層の硬さによって、これらの速度は変わってきますが、このような距離を伝わる地震では、いろいろな地層の効果がならされて、よく似た値になるようです。
  (Written by KLOTUKI Kinohito, Sep 24, 2018)

 参照資料

[1] 気象庁の「主な地震の強震観測データ」

 

地震波の研究ブランチページへもどる