地震波形の研究 Earthquake Wave Study
EWS40 P波の振幅比で見る2018大阪府北部地震の特異性

黒月解析研究所 黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)

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 はじめに

 EWS38EWS39で、加速度値についての地震波形において、波形振幅のビーク位置を判定し、P波やS波の平均振幅値を求められるようにしたことを説明しました。
 このようにすることにより、地震波形の振幅に関する特性を調べることができることを述べましたが、この段階では、まだスタート地点にすぎなかったようです。
 EWS38とEWS39の時点では、解析ソフトのTIME[1]とSLOW[1/2]とSLOW[1/4]だけしか使えませんでした。大部分の地震波形は、これで対応できますが、2011年の東北地方太平洋沖地震では TIME[2]〜TIME[16] も必要となります。
 また、このような、振幅に関する平均値を求めるアルゴリズムは、K-NET の地震波形のために構成したソフト eqka6.exe に組み込んだものですが、多くのデータを取り込んである気象庁の地震波形のための解析ソフト eqcca.exe にはありません。
 そこで、これらのソフトの改良のために時間がたくさん必要となってしまい、次の段階へ進むことができませんでした。

 3つの地震の3つの観測点における地震波形と振幅解析

 速度値や変位値についても、波形振幅のピーク値を判定して解析できるようにしましたが、このあとの解析はすべて加速度値について調べたものです。
 今回の解析では、「大阪府北部地震」[3], 「千葉県東方沖地震」[4], 「えびの北地震(仮称)」[5] について比較します。
 「千葉県東方沖地震」[4]は、気象庁のサイトにある「長周期地震動に関する観測情報(試行)」のページから選んだものです。地震の規模(マグニチュード)は6.0と推定されています。大阪府北部地震のマグニチュードが6.1なので、よく似た規模ですが、震源の深さが、大阪府北部地震では13kmであるのに対して、千葉県東方沖地震では50kmであり、これがかなり違います。
 「えびの北地震(仮称)」[5]はEWS38とEWS39で取り上げたものです。K-NETのサイトで調べました。マグニチュードは3.2で、かなり規模の小さな地震ですが、震源の深さが10kmとなっていて、大阪府北部地震の13kmと近いので、比較することにしました。
 次の図1から図3は、これらの地震から観測点を1つずつ選んで、P波とS波の振幅を調べた解析例です。

図1 2018大阪府北部地震「枚方市大垣内」, AMP[2], SLOW[1/2]
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図2 2013千葉県東方沖地震「香取市佐原平町」, AMP[2], TIME[2]
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図3 2018えびの北地震「小林(S地表)」, AMP[2], TIME[1]=SLOW[1/1]
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 波形振幅に関する5つの指標

 図1から図3の解析図の右上に、振幅に関する平均値や、それらの比をまとめた部分があります。これらの部分を取り出して、説明のための記号などを添えたものが、次の図4です。
 @からDは5つの指標です。
 @からBは3つのチャンネル NS, EW, UD における、S波の平均振幅に対する、P波の平均振幅の比です。
 (2018大阪府北部地震)枚方市大垣内 の1行目の数字について説明します。
 NSチャンネルのP波の区間にあるピーク数が35、その平均振幅値は56.525 [gal] です。S波の区間にあるピーク数が16で、その平均振幅値は199.228 [gal] です。これらの平均振幅値について、P/Sとして求めた、56.525/199.228=0.28 が指標@となります。@をNSチャンネルP/S振幅比と呼ぶことにします。
 AとBはチャンネルが変わるだけです。AはEWチャンネルP/S振幅比で、BはUDチャンネルP/S振幅比となります。
 CとDの指標は、表のように並べた振幅値を、今度は縦に比較します。
 (2018大阪府北部地震)枚方市大垣内 のP波の平均振幅値について説明します。
 Pns=56.525, Pew=61.988, Pud=181.317とします。[UD/NSEW] という記号は、スペースの関係で、分かりにくい表現となっていますが、この記号のまま書き記すとすれば、[UD/((NS+EW)/2)]となります。NSチャンネルの振幅平均値Pnsと、EWチャンネルの振幅平均値Pewの、2つの平均値で、UDチャンネルの振幅平均値Pudを割った値を指標Cとします。
 C = Pud/(( Pns+Pew)/2)=181.317/((56.525+61.988)/2)=181.317/59.2565=3.06
 同じ操作をS波について行ったものが指標Dです。
 NSEWという記号をNSとEWの平均値とすることにより、CをP波のUD/NSEW比、DをS波のUD/NSEW比と呼ぶことにします。

図4 地震波形の平均振幅値とそれによる比による5つの指標

 5つの指標 (1) 大阪府北部地震と千葉県東方沖地震

 地震波形のP波やS波の振幅値について求めた平均値から、上記の@〜Dの指標を定義しました。
 これらの5つ指標が、地震ごとに、どのような特徴を持つのかを見るためのソフト amp.exe を組み上げました。
 次の図5は「大阪府北部地震の5つの指標@〜D」です。縦軸は、これらの指標の値(すべて比なので無次元の数値)で、横軸は 震源からの距離 [km]です。
 さらに図6は「千葉県東方沖地震の5つの指標@〜D」です。この地震は震源の深さが50kmなので、震源からの距離が50km以上であり、たまたま、大阪府地震のデータを比較的震源から近いものだけを集めたので、間があいて区別できるので、いっしょに図7としました。

図5 大阪府北部地震の5つの指標@〜D
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図6 千葉県東方沖地震の5つの指標@〜D
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図7 大阪府北部地震と千葉県東方沖地震の5つの指標@〜D
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 図7では、震源からの距離が30km以下は「大阪府北部地震」で、50km以上は「千葉県東方沖地震」です。とくに、指標CのP波のUD/NSEW比において違いが認められますが、「大阪府北部地震」で、震源からの距離が50km以上のとき、Cの指標の位置が低いのであれば、違いはないということになります。
 これらの比較は、論理的なものとは言えませんでした。

 5つの指標 (2) 大阪府北部地震2 と えびの北地震

 上記の疑問に応じて、大阪府本部地震のデータとして、震源からの距離が30km以上のものをいくつか選び出し、それらの観測点における地震波形についてのP波とS波の振幅を解析して、これらの5つの指標@〜Dを読み取り、「大阪府北部地震2」として、あらためて amp.exe による解析でグラフ化しました。
 図8が、その「大阪府北部地震2(データを増やしたもの)の5つの指標@〜D」です。
 震源からの距離50kmより大きな領域での指標C(赤い〇)は、図6や図7での、千葉県東方沖のものと同じくらいか、やや小さな値となっています。

図8 大阪府北部地震2(データを増やしたもの)の5つの指標@〜D
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 図8では指標@〜Dをすべて表示していますが、このあとの図9から図13では、各指標だけで表示します。

図9 大阪府北部地震2(データを増やしたもの)の指標@
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 指標@に関しては、震源からの距離は、ほとんど関係ないようです。NSチャンネルのS波に対するP波は、常に小さな振幅となっています。

図10 大阪府北部地震2(データを増やしたもの)の指標A
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 NSチャンネルとEWチャンネルとは、水平面で、任意に2つの座標軸を設定するとき、地球磁場にかかわる東西南北を採用しただけです。地震波に関して、磁場の影響は考えられませんから、NSチャンネルとEWチャンネルに本質的な違いはないはずです。
 この図10では、観測点の「伊賀」がひとつ特異な値となっていますが、他の観測点のAの値は、図9の指標@と同じように、震源からの距離にかかわらず、同じくらいの小さな値のままです。
 「伊賀」のデータだけが異質だということの原因は不明ですが、このように1例だけであるとき、何らかの特殊な理由があったものとみなして、全体的な傾向として含めないでおきます。

図11 大阪府北部地震2(データを増やしたもの)の指標B
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 指標BはUDチャンネルについてのP波とS波の振幅比ですが、これは、震源からの距離に関して、やや傾向が見られるようです。

図12 大阪府北部地震2(データを増やしたもの)の指標C
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 この指標Cにおいて、震源からの距離が大きく影響して現れています。
 指標Cというのは、P波だけについての、NSチャンネルとEWチャンネルの平均値に対する、UDチャンネルの比です。これまでUNチャンネルの大きな振幅のひし形P波と呼んで注目してきた現象についての指標と見なせます。
 これまでたんに「大きい」とか「異常な」と表現してきたことの、指標としての数値表現が明確に示せるようになりました。

図13 大阪府北部地震2(データを増やしたもの)の指標D
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 この指標Dは、S波についての、NSチャンネルとEWチャンネルの平均値に対するUNチャンネルの比です。
 1.0より小さな領域に分布しているという傾向が見られます。
 UDチャンネルは、上下方向の振動を記録するチャンネルです。地表に設置されている地震計が記録するとき、地下から地表に向かって地震波が進むと、P波の振動をもっともとらえやすいのがUDチャンネルとなり、進行方向に対して横に揺れるとされるS波は、UDチャンネルでもっともとらえにくくなります。
 このようなメカニズムが、指標Cと指標Dの一般的な傾向の理由として説明できます。
 このことを考慮したうえで、これらの傾向が、それぞれの地震において、どのような違いを見せるのかということを調べたいと思います。

 えびの北地震の5つの指標@〜D

 EWS38とEWS39でとりあげた「えびの北地震」[5] について、P波とS波の振幅に関する指標@〜Dを調べました。
 図14が、その解析結果です。震源の深さが10kmであり、九州南部の内陸地震なので、震源に近い震央距離数kmくらいの観測点から、遠くまで、いろいろな距離のデータが得られます。グラフは横に広く分布しています。
 しかし、指標Cの赤い〇の分布を見ると、大阪府北部地震のようにはなっていません。震源から近いものについても小さな値です。

図14 えびの北地震の5つの指標@〜D
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 3つの地震についての指標Cの比較

 地震波形を振幅について調べるとき、P波についての指標Cについて着目すると、地震についての違いが分かりそうです。
 今回取り上げた3つの地震について、指標Cのグラフだけを、次の図15から図17として並べます。

図15 えびの北地震の指標C
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図16(=図12) 大阪府北部地震2(データを増やしたもの)の指標C
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図17 千葉県東方沖地震の指標C
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 図15の「えびの北地震」や、図17の「千葉県東方沖地震」に比べると、図16の「大阪府北部地震」においては、震源からの距離で30kmを少し下回る距離のところで、指標Cが大きな値となっており、かなり異質です。
 図17の「千葉県東方沖地震の指標C」は、図15や図16のものに比べ、やや大きな値として分布しています。おそらくこれは、このときの震源の深さが50kmと、かなり深いところにあって、ここからの地震波が、これらの観測点へ、ほぼ地下から地表への向きで進んできたためと考えられます。このような地震波の経路のため、UDチャンネルの振幅増加の効果が強められたのではないでしょうか。

 あとがき

 ようやく、大阪府北部地震の加速度波形における、UDチャンネルの大きな振幅のひし形P波が異質であるということを、振幅を読み取り、S波に対する比、他のチャンネルに対する比などを調べグラフとして表示して見ることにより、直感的にも論理的にも確かなこととして理解できるようになりました。
 これまでの解析と観察によれば、震源のほとんど真上ともいえる「高槻市桃園町」や「高槻市消防本部」の地震波形の異質さだけが目立っていましたが、今回の解析により、他にも(略称で)「尼崎」「伊丹」「千船」「御池」「枚方」「箕面」「茶屋町」での指標Cの値がかなり大きく、この地震の震源近くのいろいろなところで、この地震の異質さが現れているということが分かりました。
 しかし、大阪府北部地震[3] についての、このような異質さは、異質さの基準となる地震として、千葉県東方沖地震[4] と えびの北地震[5] という、わずか2例の地震と比べただけの評価です。
 さらにいろいろなことを調べてゆくうちに、これらの評価が変わってしまうという可能性もあります。
 とりあえず、このページの意味は、このような解析法が使えるようになった、ということにしておいてください。
  (Written by KLOTUKI Kinohito, Dec 22, 2018)

 参照資料

[1] 気象庁の主な地震の強震観測データ
[2] 防災科学技術研究所 強震観測網 K-NET
[3] 大阪府北部地震(気象庁データ 2018-06-18 07時58分)
[4] 千葉県東方沖地震(気象庁データ 2013-12-14 13時06分)
[5] えびの北地震(仮称)(K-NETデータ 2018-12-11 01時05分)

 

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