地震波形の研究 Earthquake Wave Study
EWS42 2019年1月3日の熊本地震のP波とS波(1)KMM002 山鹿

黒月解析研究所 黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)

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 はじめに

 地震というものは、いつも突然に起こるものです。とはいえ、2016年に起こっていた熊本地震の、3年越しの「余震」とみなせるような、位置と規模の地震が起こりました。ちょうど私は、この年末から年始にかけて、2016年の熊本地震について、P波とS波の振幅の比が、どのような特徴をもっているかという解析ページをまとめていました。これをウェブにあげておかなければ、と思っていたところに、新しい熊本地震が起こってしまい、書き上げていたページの構成を、一から組み直さなければならないということになりました。
 地震が起こった1月3日の、その翌日の4日、防災科学技術研究所(NIED)の強震観測網(K-NET, KiK-net)のサイト [1] に、この地震のデータが現れていました。観測点として196サイトありましたが、さすがに、これらのすべてを調べるのは時間がかかりますので、震源から比較的近い10か所の観測点のデータをダウンロードして、私の地震波形解析プログラム(K-NETデータではeqka6.exe)で調べられるようにしました。

 K-NET KMM002 山鹿

 今回調べた10か所の観測点の地震波形も、K-NETのサイトにあるサンプル図で見ると、これまで「爆発波形」とみなされたり、「P波がない」とされたりしたもののように思えてしまうかもしれません。
 たとえば、次のような、観測点「山鹿」(震央距離8.2km)のサンプル図では、上からNSチャンネル、EWチャンネル、UDチャンネルの3つの波形において、初期微動としてのP波が「無い」ように思えてしまうことでしょう。

図1  K-NET KMM002「山鹿」でのサンプル図

 何度もご注意申し上げていますが、このサイトのサンプル図においては、同じ緯度経度で地下と地表の2つの地震計の記録を並べている、6チャンネル表示の都合もあって(と私は推測しているのですが)、地震波形の正規化法が、私のソフトの用語で、[ALL] ではなく [EACH] となっています。
 これは、3つのチャンネルの振幅の最大値を見ると確認できます。ただし、この「山鹿」においては、いつもの状況とは違って、UDチャンネルの最大値が86であり、NSの68、Eの55に比べ、もっとも大きくなっています。これは普通のこととは言えないかもしれません。
 もう一つの注意点は、時間軸がきょくたんに圧縮されているということです。図1の原画像で調べたところ、このサンプル図の時間軸は、私のソフトの用語で、ちょうど TIME[25] でした。
 いきなりTIME[1] の解析を示すと、つながりが分かりにくいので、このダウンロードデータについて私のソフトで表示した地震波形の TIME[16] を、次の図2とします。

図2 ダウンロードデータから描いた観測点「山鹿」の地震波形
振幅の基準を50.0としたときの [ALL] , AMP[1], TIME[16]

 これをTIME[1] として描いたものが、次の図3です。

図3 ダウンロードデータから描いた観測点「山鹿」の地震波形(折れ線)
振幅の基準を50.0としたときの [ALL] , AMP[1], TIME[1]

 P波とS波の境目はどこにあるか

 P波とS波の境目というのは、S波が最初にやって来た位置(S波の到来位置、S波の初動時刻)のことです。図3のNSチャンネルとEWチャンネルで、急に振幅が大きくなり、折れ線の間隔が広くなった(波の周波数が小さくなった)ところがあります。このあたりの波はおそらくS波です。しかし、げんみつなことを言うと、ここがP波とS波の境界ではありません。
 このことを詳しく調べるため、私が開発したコンパス解析を用います。
 まずは、その準備として、図3の折れ線波形を、図4の棒グラフ波形に変えます。

図4 ダウンロードデータから描いた観測点「山鹿」の加速度地震波形(棒グラフ)
振幅の基準を50.0としたときの [ALL] , AMP[1], TIME[1]

 ここまでの地震波形は、観測されたままの加速度値によるものです。
 これをベースとして、速度波形へと変換し、さらに、変位波形へと変換します。
 このとき、解析の都合で、正規化の [ALL] を、3チャンネル波形の最大値を基準とするものに戻しておきます。
 また、見やすくするため、振幅をAMP[2] とします。

図5 ダウンロードデータから描いた観測点「山鹿」の変位地震波形(棒グラフ)
3チャンネル波形の最大振幅による [ALL] , AMP[2], TIME[1]

 コンパス解析ではUDチャンネルについてのデータはしばらく忘れて、水平面の震動を記録したNSチャンネルとEWチャンネルとを使います。同じ時刻における、これらの2チャンネルの振幅から、この瞬間の震動の方角を求めることができます。たとえば、N側に1でE側に1なら、NEの方角に1.414(ルート2)の大きさとなります。ベクトルの計算をするだけです。
 このような考えで、UDチャンネルの代わりに、方角と大きさを表示したCPS2(2チャンネルによるコンパス解析)を表示したものが、次の図6です。
 向かって左下にあるコンパス形の凡例色のような配色で色づけてあります。棒で描いていますが、実際は円の1/8の細い扇形で色を区切っています。

図6 ダウンロードデータから描いた観測点「山鹿」の変位地震波形(棒グラフ)
NS, EWチャンネル波形から求めたプリズム解析CPS2
3チャンネル波形の最大振幅による [ALL] , AMP[2], TIME[1]

 P波からS波へと変わるところを見やすくするため、図6の時間軸TIME[1] を横に2倍伸ばして、TIME[0.5]=SLOW[1/2] としたものが、次の図7です。
 このケースでは、色のパターンの違いではなく、P波の変位がほとんどEW軸に沿っているのに対して、Sと赤矢印のところから、(NSで)N側と(EWで)W側に振幅を持って、おおよそNWの方角に動き出しているということで、ここからS波が始まるということが分かります。
 S波は、このときの地震データの開始から17.4秒の位置から始まっています。

図7 ダウンロードデータから描いた観測点「山鹿」の変位地震波形(棒グラフ)
NS, EWチャンネル波形から求めたプリズム解析CPS2
3チャンネル波形の最大振幅による [ALL] , AMP[2], Time[0.5]=SLOW[1/2]

 まとめ

 K-NET KMM002「山鹿」の地震波形は、NS, EW, UDの3つのチャンネルで、いずれも大きな振幅から始まっています。
 そのため、これらはすべてS波であり、P波がないと考えてしまう人がいます。
 しかし、これは誤りです。
 とても大きな距離を伝わってゆくとき、P波の振幅が減衰して見えなくなるということが考えられてきましたが、最近の地震計は高性能であり、しかも、データがデジタルで記録されるので、P波が消えてしまったというケースは、ほとんどありません。
 今回調べた観測点は、地震の震央から50km以内の距離です。このようなとき、さいしょに現れているのは、間違いなくP波です。
 今回の地震の波形で問題となるのは、S波がどこから始まっていて、S波の主要な部分がどのようになっているかということです。
 図8を見て、P波とS波の違いを見ると、UDチャンネルでは、NSやEWのチャンネルと様子が違うということが分かります。地表に置かれた地震計のUDチャンネルは、上下動だけを記録するものです。今回の地震の震源は地下10kmで、観測点「山鹿」の震央距離は8.2kmとなっており、地震の震動は、ほぼ地下から地表に向かって上がってきています。このとき、P波の動く軸は、ほぼ上下になっています。すると、理論としてS波はP波の軸に対して90度横に向くということになっていますから、S波の震動する軸は水平面と平行な面に含まれることになります。このような動きについては、UDチャンネルは応答しないようになっていますから、UDチャンネルはS波が記録されないということになります。
 UDチャンネルの波形だけを見て「爆発波形だ」と考えてしまう人は、上記のようなメカニズムのことが分かっていません。
 「爆発波形」での大きな特徴というのは、NSチャンネルとEWチャンネルにおいて、初めのP波の振幅が大きいということなのです。
 そして、地下で何かが爆発して、等方に広がる動きが生じたときには、S波が生じるメカニズムへとつながらないので、NSとEWのチャンネルでS波が記録されにくいということになります。
 このように考えて、あらためて図8の「山鹿」の地震波形を見ると、NSチャンネルとEWチャンネルにおいてP波の振幅が大きく、それに比べ、S波の振幅が小さいことから、これは地下で何かかが爆発して生じた波形であると考えたほうが自然だと思えてきます。
 しかし、このデータだけで、そのように考えるのは危険です。他のデータも調べる必要があります。
ちなみに、図9は、図1のK-NET KMM002「山鹿」でのサンプル図に、S波の到来位置を赤い縦線で描いたものです。
  (Written by KLOTUKI Kinohito, Jan 4, 2019)

図8 (図3の)図3 ダウンロードデータから描いた観測点「山鹿」の地震波形(折れ線)に
P波とS波の境界(S波の到来位置)を赤い線で描いたもの

図9  K-NET KMM002「山鹿」でのサンプル図に
P波とS波の境界(S波の到来位置)を赤い線で描いたもの

 参照資料

[1] 防災科学技術研究所(NIED)の強震観測網(K-NET, KiK-net)

 

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