地震波形の研究 Earthquake Wave Study
EWS44 2019年1月3日の熊本地震の異常性(2)P波とS波の振幅比

黒月解析研究所 黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)

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 はじめに

 2019年1月3日の熊本地震の震央と10観測点の位置を、国土地理院の「距離と方位角の計算」というサイト [1] で調べ、画像をコピペさせてもらって合成しました。次の図1です。

図1 2019年1月3日の熊本地震の震央の位置と10観測点の位置

 なぜ、このような画像を作ってみたいと思ったのかというと、防災科学技術研究所(NIED)の強震観測網(K-NET, KiK-net)[2] からダウンロードして再構成した地震波形を観察して、これまでの多くの地震では、ほとんど見たことのない、どう考えても、自然な断層ずれによる地震のものではないと考えられる地震波形の観測点がいくつかあって、その位置を確認したかったからです。

 P波とS波の振幅比の5つの指標

 次の図2で使ったのは、2016年の熊本地震(1)と呼んでいるもの [3] の、観測点「宇城市松橋町」で観測された地震波形です。
 伝統的な折れ線の表示で表し、中心軸から少し離れて振幅する波形のピークについて、時間位置と振幅を求められるようにしました。〇をつけてピーク位置を示していますが、コンピュータソフトのデータとして、それらのピーク位置の情報が保存されます。
 次に、P波とS波としてカウントする領域をマウスで指定します。このあたりを自動化するのは難しいので、主観的な判断が入り、それによって、げんみつには値が異なることになりますが、おおよその傾向は求められます。
 そして、NS, EW, UDの3チャンネルにおける、P波の区間にあるピークの平均振幅値と、S波の区間にあるピークの平均振幅値を求めます。
 これらの6つの平均振幅値についての比を考え、@からDの指標を定義しました。
 図2は、P波とS波の振幅比の5つの指標について、波形と指標の対応を示したものです。
 図3は、P波とS波の振幅比の5つの指標について、指標と用語の対応を示したものです。ここの@〜Dの後ろに添えてある記号は、あとから使うグラフでのシンボルです。

図2  P波とS波の振幅比の5つの指標(波形と指標の対応)

図3  P波とS波の振幅比の5つの指標(指標と用語の対応)

 2011年静岡県東部の地震

 おそらく自然な断層地震と想定されるものの代表例として、2011年におこった「静岡県東部の地震」[4] をとりあげます。
 この地震の地震波形データは気象庁のサイト [1] からダウンロードしたものです。これは「気象庁の主な地震の強震観測データ」として収録されており、マグニチュードは6.4です。

図4 静岡県東部地震の「富士宮市弓沢町」の地震波形

図5 静岡県東部地震の「富士宮市弓沢町」の地震波形でP波とS波の振幅比解析

 図4と図5で取り上げた「富士宮市弓沢町」を含めて12ヶ所の観測点で記録された地震波形について解析した5つの指標としての比を、横軸に「震源からの距離」、縦軸に「比」の値として表現したものが、次の図6です。

図6 2011年静岡県東部地震の5つの指標(震源からの距離, 比)

 2019年1月3日の熊本地震

 2019年1月3日の熊本地震の10観測点の地震波形について、P波とS波の振幅比について調べた5つの指標のグラフが、次の図7です。

図7 2019年熊本地震の5つの指標(震源からの距離, 比)

 図6と図7を見比べて、さいしょに気づく違いは、図7の2019年熊本地震において、「玉名」と「山鹿」のUDチャンネルにおけるP/S振幅比が3.0に近いところにあるということです。2011年静岡地震では「国分寺」で1.0を少し超えているものの、ほかはすべて1.0以下です。
 しかし、2019年熊本地震の異質なところは、図6と図7では見にくいのですが、別の指標に現れていました。

 NSチャンネルのP/S振幅比

 次の図8と図9で、2つの地震の、NSチャンネルのP/S振幅比を比較します。

図8 2011年静岡地震のNSチャンネルでのP/S振幅比

図9 2019年熊本地震のNSチャンネルでのP/S振幅比

 図8のパターンは、2011年の静岡地震だけのものではありません。これまで調べた多くの地震において、NSチャンネルのP/S振幅比は小さなものばかりでした。
 ところが、2019年熊本地震のNSチャンネルでのP/S振幅比(図9)においては、「山鹿」と「八女」で、0.5より大きくなっています。実は、このような値は、他の地震で生じたことのない、異常な値なのです。
 これらの「山鹿」と「八女」の地震波形を示します。S波の中に、大きな振幅のところがあるので、ごまかされてしまうかもしれませんが、ある程度の区間をとってS波の振幅の平均値を求めると、P波に比べて、それほど大きなものではないのです。
 逆に言うと、この2019年1月3日の地震においては、S波の振幅が小さすぎると観測されるケース(観測点の地震波形)があるということです。

図10  KMM002 山鹿 (震央距離8.2km)

図11  FKO013 八女 (震央距離25.2km)

 EWチャンネルのP/S振幅比

 次に、EWチャンネルのP/S振幅比について比較します。
 図12の2011年静岡地震のパターンは、多くの地震の典型例です。NSチャンネルとEWチャンネルは、水平面の動きを調べるため、たまたま東西南北の直交軸が選ばれただけで、違いは、震源と観測点の位置関係や、その間の地下の地質によって生じるものと考えられます。
 EWチャンネルの比較においても、2019年1月3日の熊本地震では、異質(もしくは異常)な値を表している観測点が認められます。
 「山鹿」に引き続いて、「甘木」と「玉名」が、通常の値ではありません。

図12 2011年静岡地震のEWチャンネルでのP/S振幅比

図13 2019年熊本地震のEWチャンネルでのP/S振幅比

 「甘木」と「玉名」における地震波形を示します。
 「山鹿」や「八女」の地震波形に比べ、異常性は少し下がりますが、(自然な断層ずれ地震とみなされる)図4の2011年静岡地震に比べ、P波の初めのところに、これまで「ひし形波形」と呼んできた、大きな振幅の波群があります。さらに、これまではUDチャンネルに現れていた「ひし形波形」がNSチャンネルとEWチャンネルでも現れているという点で、かなり異質です。
 「爆発形の地震波形」の本質的な特徴は、P波が3つのチャンネルのいずれにおいても、大きな振幅から始まっているということなのです。
 2019年1月3日の熊本地震は、いくつかの観測点における地震波形において、このような特徴を示しています。

図14  FKO010 甘木 (震央距離47.4km)

図15  KMM03 玉名 (震央距離8.8km)

 まとめ

 2019年1月3日に熊本で起こった地震について、10の観測点のP波とS波の振幅比を調べました。
 これまでに調べてある、多くの地震と比較したところ、次のような特徴がありました。

 (1) 「山鹿」と「玉名(玉名Hではないほう)」で、UDチャンネルのP/S振幅比が、異常に大きな値を示した。
 (2) 「山鹿」と「八女」で、NSチャンネルのP/S振幅比が、通常では見られてこなかった0.5を超える値を示した。
 (3) 「山鹿」と、少し異常さは下がるものの、「甘木」と「玉名(玉名Hではないほう)」で、EWチャンネルのP/S振幅比が、通常のレベルを超える値を示した。

 図1の震央と観測点の位置図を見ると、「山鹿」と「玉名(玉名Hではないほう)」は、震央に対して反対側に位置しているものの、震央距離が同じくらいであり、地下の震源からの地震の波が進む(水平面に対する)角度が斜め45度あたりになって、P波の感受性が、水平面での動きをとらえるNS, EWチャンネルと、鉛直方向の動きをとらえるUDチャンネルとで、ほぼ同じようになると考えられます。
 これに対して、最も近い「玉名H」では、震源からP波が、ほぼ垂直にあがってきて、UDチャンネルの感受性は高いものの、NSとEWチャンネルでは鈍くなります。このため、見かけ上、普通の地震波形に近い状態になると見なせます。
 もう少し離れた観測点では、地震の波が進む方向が、水平面に対して、より小さな角度の経路となるとみなすと、P波に対するNSとEWの感受性が高まると思われます。
 距離による減衰があるものの、「八女」のNSチャンネルでは、P波の「ひし形波形」が比較的大きな状態で保存されているようです。
 他の観測点では、うまく保存されていませんが、もともとの、震源での揺れが、P波において大きなものであったからこそ、「八女」という観測点で、その「正体」を現したと考えられます。
 「玉名(玉名Hではないほう)」では、S波の一番初めの振幅だけが大きくなっていますが、これも自然な断層ずれの地震とは異なる特徴です。
 このことが、見かけ上「玉名(玉名Hではないほう)」の地震波形の異常さを、打ち消してしまっています。
 「山鹿」の地震波形は、NS, EW, UDの3つのチャンネルにおけるP/S振幅比が、すべて異常な値を示しています。
 この「山鹿」の地震波形は、これまでの地震波形にはないものであると言えるかもしれません。
 この「山鹿」の地震波形から、地下の震源で「断層がずれた」のではなく、「何らかの爆発的な現象」が起こったのではないかと考えられます。
 しかし、このときの「何らかの爆発的な現象」が、どのようなことであったのかということまでは、ここまでの解析では分かりません。
  (Written by KLOTUKI Kinohito, Jan 13, 2019)

 参照資料

[1] 国土地理院の「距離と方位角の計算」
[2] 防災科学技術研究所(NIED)の強震観測網(K-NET, KiK-net)
[3] 2016年の熊本地震(1)
[4] 2011年静岡県東部の地震

 

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