地震波形の研究 Earthquake Wave Study
EWS47 2019年1月26日熊本地震をP波とS波の振幅比で見た異常性

黒月解析研究所 黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)

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 はじめに

 2019年1月26日に熊本の和水町で起こった地震は、同じ震源位置で起こった1月3日の地震より、震度もマグニチュードも小さく、目立った被害もなかったようで、いつしか、この地震のことも忘れられてゆくのかもしれません。
 しかし、1月26日の熊本和水町で起こった地震は、これまで日本で観測された地震のなかで、特別にユニークなものです。このユニークさは、異常さと言い換えることもできます。
 地震が1回起ったとき、現在では、数多くの観測点で、その地震波形が記録されます。それらの大部分の記録に何の異常が認められなくても、1か所の観測点で明らかな異常波形が見つかるとなれば、それはやはり異常な地震だと考えられます。
 1月26日の熊本地震では、震源に対して山側となる東側に位置する「山鹿」での地震波形が、典型的な爆発型地震波形でした。
 これらの地震波形について、P波とS波の振幅比を調べると、和水町に隣接する菊池市の観測点「菊池」に、かなりユニークな特徴があるということが分かりました。

図1 「震央」と観測点「山鹿」「菊池S」「久留米」「八女」「宇土」「玉名」の位置
(※国土地理院の距離と方位角の計算[2]より構成)

 NSチャンネルのP波とS波の振幅比

 観測点において、地震波形は、NSチャンネル, EWチャンネル, UDチャンネルという3つの地震計で記録されます。NSチャンネルとEWチャンネルは、水平面での動きを、便宜的に北南(NS)と東西(EW)で分解したものです。これに対してUDチャンネルは、上下(UD)の動きを記録します。
 これらの幾何的な配置が、実際にやってくる地震の揺れに対して、いろいろな対応を生み出します。たとえば、深い震源の真上近くに観測点があると、P波の揺れは上下方向が主になるので、UDチャンネルでは大きな振幅になりがちですが、NSチャンネルとEWチャンネルでは感じ取りにくくなって、小さな振幅となる傾向があります。
 ところが、2019年1月3日と1月26日の熊本地震では、震源の東に位置する「山鹿」と「菊池」では、NSチャンネルとEWチャンネルにおいても、P波のさいしょの振幅が、そのあとに現れるはずのS波に相当する位置での振幅に比べ、振幅比としてのP/Sが、とても大きな値でした。
 このようなことから、震源で何らかの爆発現象が起ったと考えられます。
 「山鹿」と「菊池」では爆発型の地震波形でしたが、震源に対して西側に位置する「玉名」では通常の地震波形が観測されています。あまりはっきりとしたことは断定できませんが、震源に対して東側は山地であるのに対して、西側は海に向かっており、堆積地層となっているのではないと推測できます。
 解説ばかり書き記してしまいましたが、ここで取り扱う「NSチャンネルのP波とS波の振幅比」についての解析グラフについて説明します。
 次の図2から図4は、3つの地震における観測点の地震波形からNSチャンネルに着目して、それらのP波とS波の振幅比を求めてプロットしたものです。縦軸はP/Sの振幅比、横軸は震源から観測点までの距離です。この距離は、震央距離と震源の深さから、ピタゴラスの法則で求めたものです。
 図2は「2018-12-11えびの北地震」のデータです。同じ九州の熊本地方で起こった地震ですが、平凡な特徴だけが目立つ、これまで日本で起こってきた「自然な」地震の代表として取り上げました。いわばコントロール(対照実験)です。
 「自然な」もしくは「通常の」地震波形では、P波の振幅が小さく、S波の振幅が大きくなるので、P/Sは1.0より小さな値となります。0.2あたりが、標準的な値です。観測点「小林」での値がやや大きくなっていますが、このような変化は、特別な異常とはみなせないレベルです。
 この図2(えびの北地震)のデータに対して、図3は「2019-01-03 熊本地震」のデータです。「山鹿」と「八女」の値が0.5より大きくなっていますが、とくに驚くほどの値ではありません。
 ところが図4の「2019-01-26 熊本地震」のデータでは、「菊池S」(このときのSは地表の地震計の意味で、地下はGで表しています)での値が2.0を超えています。驚くべき値です。他にも「山鹿」「八女」「甘木」で1.0以上です。これらも異常な値です。

図2 2018年12月11日 えびの北地震 NSチャンネルのP波とS波の振幅比

図3 2019年1月3日 熊本地震 NSチャンネルのP波とS波の振幅比

図4 2019年1月26日 熊本地震 NSチャンネルのP波とS波の振幅比

 EWチャンネルのP波とS波の振幅比

 NSチャンネルとEWチャンネルは、地表面で90度方向が変わっただけです。もし、震源の周囲の地形に、東西南北に関して何も偏りがないとすれば、とくに違う性質は現れないかもしれません。しかし、実際には、地中の地層の硬軟などの性質が複雑に影響して、違いも生まれてくるようです。
 コントロールの「2018-12-11 えびの北地震」(図5)では、すべて0.5以下の標準的な値です。
 図6の「201-01-03 熊本地震」では、0.5を超える値が出ていますが、1.0は超えていません。
 これらに対して、図7の「201-01-26 熊本地震」では、「山鹿」「菊池S」「久留米」で1.0を超えています。

図5 2018年12月11日 えびの北地震 EWチャンネルのP波とS波の振幅比

図6 2019年1月3日 熊本地震 EWチャンネルのP波とS波の振幅比

図7 2019年1月26日 熊本地震 EWチャンネルのP波とS波の振幅比

 UDチャンネルのP波とS波の振幅比

 UDチャンネルは観測点で上下の動きを記録します。
 震源の近くではもちろん、下から上へ向かう振動が優勢になりますから、P波の振幅が大きくなります。これに対してS波は、生じていたとしても、P波の進行方向に対して90度横に揺れるのが原則ですから、水平面に平行な向きの揺れとなり、上下の成分は小さくなって、UDチャンネルでは記録しにくくなります。このため、一般にUDチャンネルでは、P/Sの振幅比は大きく現れがちです。
 図8の「2018-12-11 えびの北地震」では「小林」で1.5を少し上回っています。この「小林」という観測点には、ほかにない何らの特徴がありそうです。しかし、他の観測点では1.0を下回っています。
 図9の「2019-01-03 熊本地震」では、震源に近い「玉名」と「山鹿」で3.0に近い値となっています。これらは異常な値とみなせます。
 さらに図10の「2019-01-26 熊本地震」では、「山鹿」「玉名」「菊池S」「久留米」「甘木」の5つの観測点で2.0から3.0の値となっています。これだけあるということは、このときの地震が、かなり特別な状況で起こったということを示していると考えられます。

図8 2018年12月11日 えびの北地震 UDチャンネルのP波とS波の振幅比

図9 2019年1月3日 熊本地震 UDチャンネルのP波とS波の振幅比

図10 2019年1月26日 熊本地震 UDチャンネルのP波とS波の振幅比

 2019年1月26日熊本地震の「菊池S」の地震波形

 次の図11は2019年1月26日熊本地震の「菊池S」の地震波形です。
 「山鹿」の地震波形と同じくらいの、爆発型地震波形と見なせます。
 S波が現れそうな位置は、この地震波形が記録されてから18.2秒あたりのはずですが、S波として認められそうなパターンがありません。そのあとの波もS波の性質を確認できません。
 上記のP波とS波の振幅比は、S波の位置はこのあたりのはず、と推定して求めています。NSチャンネルのP波の振幅に対して、4秒後からあたりのS波の位置相当の振幅が、とても小さくなっています。これはかなり異常な波形です。

図11 2019年1月26日熊本地震の「菊池S」の地震波形
(※)ALL Amp2 Time1
(画像をクリック → 拡大画像へ)

 (Written by KLOTUKI Kinohito, Feb 6, 2019)

 参照資料

[1] 防災科学研究所(NIED)の強震観測網(K-NET.KiK-net)
[2] 距離と方位角の計算(国土地理院)

 

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