地震波形の研究 Earthquake Wave Study
EWS5 ウェーブレット解析で地震波形を観察しよう

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)

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 ウェーブレット解析が現れたころ

 ウェーブレット解析が現れたころ、私はちょうど、ボーリング孔を利用して、周囲の地層を伝わる弾性波(剛体を伝わる波の正式名称、規模の大きなものは地震波と呼ばれている)のP波速度やS波速度を調べていました。
 一般に、このような地震波というものは、声にたとえると、高い声や低い声が混じっているようなもので、周波数の高い、針のような振動から、周波数の低い、水面の穏やかな波のようなものが混じって、組み合わさり、複雑な形状の波となっています。
 ウェーブレット解析が現れる前は、フーリエ解析というものを使いました。これは、いろいろな周波数のサイン波やコサイン波を組み合わせて、観測された波のようなパターンを再構成しようというものです。逆解析という、むつかしい手続きになり、かんたんにはゆかないこともあります。計算の手順を工夫して、速く行う高速フーリエ変換という技法もありましたが、そのメカニズムを理解するのは、かなりむつかしいことでした。
 気象庁のサイトなどで示されているグラフの一つに、スペクトル解析(フーリエスペクトル)というものがあります。これは、フーリエ解析の応用で、地震波を構成している波の周波数に対して、振幅が強いなど、優勢なものをグラフとして表現するものです。
 これも、地震波の性質を知るための、ひとつの指標ですが、私は、これをあまり利用しませんでした。
 なぜかというと、このスペクトル解析では、時系列の情報が失われてしまうからです。
 たとえば、高周波の針のような振動が優勢だとしても、それがP波の初動あたりにあるのか、S波までの中盤にあるのか、S波に近いところに向かって振幅が大きくなってゆくのとでは、おそらく、違う現象が起こっているはずだからです。
 ウェーブレット解析は、このようなことを知りたいという期待に応えてくれるものです。
 しかも、複雑な逆解析ではなく、シンプルな順解析なのですから、コツさえつかめば、すいすいと行ってゆけるのです。

 ウェーブレット解析とは

 直訳すると、小波による解析です。まず、ウェーブレットと呼ばれる、ツールとしての小さな波を作ります。もっとかんたんなもの(ハール、Haar)から、直交性という性質をもつもの(ドゥベシィ, Daubechies)まで、いろいろありますが、初期のころに生まれて、形がきれいで、実際の地震波によく似ているので、図1に示した、メキシカンハット(Mexican Hat)を使っていました。
 この曲線を描く関数は複雑ですが、パイなどを使った係数と、対数関数ですから、コンピューターを使って作れば描くことができます。

図1 メキシカンハット, Mexican Hat (32)

 ウェーブレット解析で使うウェーブレットには条件があります。それは、正の領域の面積と負の領域の面積を同じにし、それを計算で求めてから、その値で振幅を割ることにより、正の面積が1で、負の面積も1(値としては-1)としておくことです。
 図1は(32)と添えていますが、このときの横幅は、32×8=256です。
 1から始まる256ピクセルの直線部分に、図1の正規化したウェーブレットを、端から順にかけてゆき、その和をとると、1-1で0となります。
 もっとも大きくなるのが、振幅は違っていてもいいのですが、かんたんのため、ちょうどこの形と同じ波形の波があって、このウェーブレットを端からかけて加えてゆけば、正の値の和が1×1=1で、負の値が(-1)×(-1)=1となり、2となります。
 逆向きになっていれば、-2となります。
 こうして、似ている程度に合わせて、-2から2までの値を返してくれます。もとの振幅が大きければ、それに比例して大きくなります。
 もっと周波数の低い、ゆったりとした波の場合、直線に近いものとなるので、0に近い値しか返ってきません。
 このようなメカニズムで、ウェーブレット解析では、使っているウェーブレットに近い周波数の波だけを調べて、その振幅や向きを値として記録してゆくわけです。

 ウェーブレット解析で地震波形を観察しよう

 地震波形解析プログラムは、機能を大きく変えたとき、その呼び名も少しずつ変えて、 eqwaz.exe(基本) → eqwoz.exe(色で比較) → eqwavelet.exe(ウェーブレット解析) と変化しています。
 このあと示すのは eqwavelet.exe によるものです。
 次の図2は、eqwavelet.exe に含まれている、基本の eqwaz.exe による表現です。
 TIME=[1], AMP=[1], MODE=[ac](加速度波形), NORM=[ALL], START=1600となっています。
 上から、NS(北南の振動), EW(東西の振動), UD(上下の振動) で、空間の3次元をカバーしています。
 地震としては、2018年6月18日の大阪府北部地震 [1] です。
 観測地点は「高槻市桃園町」 [2] です。
 震央距離は0.3kmとなっています。ただし、震源の深度が13km(暫定値)とされていますから、震源からの距離は、およそ13kmとなります。

図2 対象地震波形 (大阪府北部)高槻市桃園町 (震央距離) 0.3km
(スイッチ略号) 11) osk 桃園
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 プログラムの表示スペースの関係で、NS(北南), EW(東西), UD(上下) の一つずつを取り上げて、これをベースとして、W2からW64のツールとなるウェーブレットを作り、ベースの上を移動しながら、掛け算して和をとって、抽出した波形を描いています。
 図1の波形はW32に相当します。ただし、正の面積が1となるように正規化して、上下に圧縮して使っています。
 P波の初動位置は、振幅の値を適度に大きくして行けば、見つけることができます。
 S波の初動位置が、このウェーブレット解析では、中ぐらいの周波数のところを見れば、容易に見つけることができます。この例では、W8やW16の解析波形を見れば、S波が始まるようすだけを見ることができます。
 これらのウェーブレット解析波形が組み合わさっていたのが、US波形でした。
 図4はEW波のウェーブレット解析で、図5がUD波のウェーブレット解析です。

図3 11) osk 桃園 のNS波についてのウェーブレット解析
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図4 11) osk 桃園 のEW波についてのウェーブレット解析
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図5 11) osk 桃園 のUD波についてのウェーブレット解析
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 自然な地震と推定される地震波形を、このようにウェーブレット解析したものや、自然かどうか分からなくても、他のいろいろな地震の波形をウェーブレット解析して、それらを比較すると、この、大阪府北部地震というものが、「普通ではない」ということが分かってきます。
 そのことを論理的に説明するためには、「自然な」とか「異常な」というレッテルを貼らずに、まずは、いろいろな地震の波形をウェーブレット解析したとき、どのようなパターンに分類できるかということを調べてゆかなければなりません。
 地震波形の研究というものは、けっこう地道で、根気のいるものなのです。
 (Written by KLOTUKI Kinohito, Sep 26, 2018)

 参照資料

[1] 気象庁の「主な地震の強震観測データ」
[2] 2018年6月19日7時58分 大阪府北部の地震

 

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