地震波形の研究 Earthquake Wave Study
EWS6 ウェーブレット解析で地震波形の何が分かるか(1)

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)

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 S波の到達時刻が分かる

 これはかんたんな応用です。
 一般にP波は速度が速く、S波は速度が遅いので、P波の振動が長く続いていると、S波は、その振動の最中にやってくることとなり、P波の振動とS波の振動が重なって、複雑に変化することとなります。
 ただし、一般にP波は振動の周波数が高く、S波は振動の周波数が低いという傾向があります。この性質をたよりに、S波の初動時刻を判定することが多いのですが、このような周波数の違いが、あまりないケースもあって、P波の振動とS波の振動が重なっていると、S波を見極めるのがむつかしいということにもなります。
 このような、かなり複雑な状況のときでも、いろいろな周波数と振幅の振動が重なっている地震波形から、ウェーブレット解析で周波数の違いに応じた波だけを取り出してゆくことができるので、P波とS波を見分けることができます。
 このあと、具体的なケースを示して説明します。

 2007年能登半島地震 能登町宇出津 (震央距離) 42.4km

 比較的分かりやすい地震波形として、「2007年能登半島地震 能登町宇出津 (震央距離) 42.4km」を図1として取り上げます。
 ここでは振幅の拡大図を載せませんが、振幅を適度に拡大して読み取った、P波の初動位置はスケールで15.6のところで、スケールの0が41分50秒ですから、P波の初動時刻は42分5.6秒です。

図1 2007年能登半島地震 能登町宇出津 (震央距離) 42.4km
[略記号] 「35) 能登 能登」 (画像をクリック → 拡大画像へ)

 次の図2から図4は、図1のNS(北南), EW(東西), UD(上下) の3つの波形の一つずつについて、高周波のW2から低周波のW64までのウェーブレットによって取り出された、各周波数成分を並べたものです。

図2 「35) 能登 能登」のNS(北南)波形についてのウェーブレット解析
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 いちばん上の黒いNS波形で、S波の初動は、時刻スケールに添えた数で21.1のところだと読めます。
 下のウェーブレット波形を見ると、W16やW32では、20.6から、スプーンを横から見たようなパターンがありますが、これはウェーブレット解析にともなうもので、本質的には、その右にある、メキシカンハットの頭が入る部分のところだと考えられます。21.0あたりです。
 数字の21.0を秒数として、右上の、このグラフが始まる時刻09h41m50sに加えることにより、その時刻が出ます。42分11.0秒となります。

図3 「35) 能登 能登」のEW(東西)波形についてのウェーブレット解析
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 このEW波形のウェーブレット解析によるW16で、S波の初動時刻は、スケールで21.2(42分11.2秒)です。W32では、スケールで21.0(42分11.0秒)です。
 秒の単位で考えれば、42分11秒とすればよいでしょう。

図4 「35) 能登 能登」のUD(上下)波形についてのウェーブレット解析
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 このUD波形をウェーブレット解析で周波数成分に分けたものでは、W16において、42分11秒に、S波の影響とみなせる波が確認できますが、それ以前のP波のところにも、よく似た振幅の波があるので、この解析だけで判断するのは危険です。
 どうやら、平面の動きを観測するNS波形やEW波形では、S波の動きがとらえやすいようですが、上下の動きを観測するUD波形は、S波をはっきりととらえられないようです。

 次の図5から図9までは、もとのNS, EW, UDの3成分波形に対して、ウェーブレット波形の周波数を一つだけ選んで取り出した、地震波形の周波数成分波形を、それぞれ並べたものです。
 W2からW32までについて調べることができます。W64については省略しました。

図5 「35) 能登 能登」のNS, EW, UD波形についてのW2ウェーブレット解析
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図6 「35) 能登 能登」のNS, EW, UD波形についてのW4ウェーブレット解析
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図7 「35) 能登 能登」のNS, EW, UD波形についてのW8ウェーブレット解析
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図8 「35) 能登 能登」のNS, EW, UD波形についてのW16ウェーブレット解析
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図9 「35) 能登 能登」のNS, EW, UD波形についてのW32ウェーブレット解析
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 2007年能登半島地震 七尾市本府中町 (震央距離) 33.0km

 同じ2007年能登半島地震でも、「七尾市本府中町」で観測した地震波形(図10)は、S波の周波数が比較的高くなっており、P波とS波の周波数の違いが、S波の初動の判定を困難にしています。

図10 2007年能登半島地震 七尾市本府中町 (震央距離) 33.0km
[略記号] 「36) 能登 七尾」 (画像をクリック → 拡大画像へ)

 次の図11から図13は、図10のNS(北南), EW(東西), UD(上下) の3つの波形の一つずつについて、高周波のW2から低周波のW64までのウェーブレットによって取り出された、各周波数成分を並べたものです。
 図11のNS波では、スケールの18の値あたり、42分8秒がS波の初動時刻でしょうか。
 図12のEW波でも、やはりスケールの18の値あたりで、同じ時刻です。
 図13のUD波では、P波とS波で、振幅の違いがほとんどなく、はたして、その時刻から後の波がS波かどうかは、判定できません。
 もう少し細かく読んで、スケールで18.2、時刻として42分8.2秒としました。

図11 「36) 能登 七尾」のNS(北南)波形についてのウェーブレット解析
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図12 「36) 能登 七尾」のEW(東西)波形についてのウェーブレット解析
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図13 「36) 能登 七尾」のUD(上下)波形についてのウェーブレット解析
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 次の図14から図18までは、もとのNS, EW, UDの3成分波形に対して、ウェーブレット波形の周波数を一つだけ選んで取り出した、地震波形の周波数成分波形を、それぞれ並べたものです。

図14 「36) 能登 七尾」のNS, EW, UD波形についてのW2ウェーブレット解析
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図15 「36) 能登 七尾」のNS, EW, UD波形についてのW4ウェーブレット解析
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図16 「36) 能登 七尾」のNS, EW, UD波形についてのW8ウェーブレット解析
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図17 「36) 能登 七尾」のNS, EW, UD波形についてのW16ウェーブレット解析
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図18 「36) 能登 七尾」のNS, EW, UD波形についてのW32ウェーブレット解析
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 2007年の能登半島地震については、35) 能登 能登(42.4km)、36) 能登 七尾(33.0km)の他に、33) 能登 輪島(26.6km)と34) 能登 志賀(9.6km)のデータも見込んでありますから、これらを同様に解析して、次の表1の値を得ました。

表1 2007年能登半島地震の震央距離とP波S波初動時刻



 この値に基づいて「2007年能登半島地震のP波とS波の速度グラフ」を描いたところ、図19のようになりました。
 この表の回帰直線により、P波速度は6.18 [km/s] で、S波速度は3.62 [km/s] となりました。

図19 2007年能登半島地震のP波とS波の速度グラフ

 P波が生まれるときの違いが分かる

 その違いというのは、いったい何かと問われたとしても、明確な返答はできないかもしれません。
 それがいったい、どのようなメカニズムで違っているのか、ということが、まだ分かりません。
 実験をして調べてゆければ、研究も進むのでしょうが、相手が巨大な地震では、かんたんに実験するわけにもいきません。
 しかし、違いはあるのです。
 ここで取り上げるつもりでしたが、上記の「S波の到達時刻が分かる」の説明のための内容が多くなってしまいましたので、(EWS7は別のテーマでまとめてしまいましたので)あらためて紹介することにします。
 (Written by KLOTUKI Kinohito, Sep 29, 2018)

 参照資料

[1] 気象庁の「主な地震の強震観測データ」
[2] 2007年3月25日09時42分ころ 能登半島地震

 

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