地震波形の研究 Earthquake Wave Study
EWS9 不思議な先行波は他の地震でも見つかるか

黒月解析研究所 黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)

地震波の研究ブランチページへもどる

 不思議な先行波

 観測された地震波形を調べてゆくと、地震が起こったときの揺れの様子を最初に伝えるP波の動きが始まる前に、かすかな振動が記録されていることがあります。
 ずうっと以前の地震波形の観測というのは、記録紙にペンで揺れを描いていたわけです。地質調査のための現場で人工地震の揺れを記録する方法も、25年ほど前までは、そうでした。記録媒体がロール紙から、フロッピーディスク、MOに変わってゆくところを、私は体験してきました。
 記録方法がアナログからデジタルに変わると、コンピューターの画面の中で、自由に、波形の振幅を変えることができます。
 アナログの時代には、P波の初動も、「心眼」で見なければなりませんでしたが、デシタルで取り扱えるようになると、ノイズと信号の違いさえ分かれば、信号の立ち上がるところは、(そのようなことができるコンピューターソフトさえあれば)誰でもかんたんに見分けることができるようになりました。
 20年前の私はBASICでしかプログラムを作ることができなかったので、自由自在というわけにはいきませんでした。今はC言語を使って、画像解析でウェーブレット関数を独自に生み出して使えるようになってきました。まあ、そこまでの技術はいらないのですが、地震波形解析プログラムのウェーブレット解析版(eqwavelet.exe)を構成して、ある程度知りたいことを知ることができる、多様な機能を組み込んだものを作りました。
 振幅の拡大倍率については、AMP[1]を標準として、AMP[2](2倍)、AMP[4](4倍)、AMP[X](10倍)を作って、これくらいでよいだろうと考えていましたが、こうなれば、ノイズと信号が見分けられるレベルまで拡大しようと考え、AMP[L](50倍)、AMP[C](100倍)、AMP[D](500倍)、AMP[M](1000倍)を加えました。これらの記号はローマ数字です。Mはメガの頭文字だと思います。このAMP[M]だと、ノイズのパターンが見えてきます。
 次の図1は、振幅の拡大倍率を AMP[M](1000倍)にして、(阪神淡路大震災)大阪中央区大手前という観測点で記録されたP波の初動位置前後を観察したものです。このとき、1995年のころの地震波形は50Hz(1秒間に50サンプル)で記録されていましたが、100Hzのデータで調べていますので、間を補間することにより、100Hzのデータに変換してあります。

図1 AMP[M]で見る(左から中)ノイズと(右)信号(地震波形)
(画像をクリック → 拡大画像へ)

 このような操作を行ってゆくと、本来は何もないはずの、地震波形のP波初動の前のところに、ノイズのパターンではない、信号としてまとまっているパターンが見つかることがあります。
 次の図2も、(2018北海道胆振東部)留萌市大町(震央距離143.6km)の観測波形の、P波初動前後を、AMP[M](1000倍)で見ています。上記の図1に現れているノイズとは異なるパターンで、振幅の変化のパターンが3つの成分波形で、ほぼ並んでおり、「先行波」の一種と考えられます。しかし、なにぶん、AMP[M] での観察であり、通常は、このようなレベルの信号について、細かく考察することはないと思われます。

図2 AMP[M]で見るAMP[M]で見る(左から中)先行波と(右)信号(地震波形)
(画像をクリック → 拡大画像へ)

 ここまではAMP[M](1000倍) でしたが、EWS7で取り上げた、北海道胆振東部地震の「名寄市大通り」で観測された地震波形のAMP[X](10倍)が、次の図3です。
 高々10倍の拡大で、このように現われてくるものを、ノイズと決めて無視しておくわけにはいきません。

図3 AMP[X]で見た、北海道胆振東部地震の「名寄市大通り」で観測された地震波形
(画像をクリック → 拡大画像へ)

 スプーンにもマッチ棒にも見えないかもしれませんが、この高周波の先行波の右端のやや大きな部分のところに、この地震波形のP波の初動が隠れています。こんな偶然があるはずがありません。
 しかも、NS, EW, UD の3つの波形成分のいずれにも、同じように現われています。これも不思議なことです。一般に UDの波形は、NSやEWの波形とは異なるパターンになります。振幅や、S波のあるなしで、かなり違ってきます。だから、こんなにきれいにそろっているというのが、かえってあやしいということになるのです。

  「地震前の振動」の探し方

 図3の北海道胆振東部地震の「名寄市大通り」は震央距離が191.9kmと、かなり遠いものです。
 ここに届くのなら、もっと近いところでも何らかの信号が記録されているだろうと考え、「厚真町鹿沼(震央距離)5.6km」の地震波形を調べました。
 (1) まずS波の初動位置を波形のパターンから求めます。
 (2) 次に、あらかじめ多くのデータで調べておいた、この地震における平均S波速度を使って、震央距離と震源の深さから求めた震源までの距離を伝わるS波の時間を計算します。
 (3) S波の初動時刻から、S波の旅時間を引けば、発震時の時刻がきまります。
 (4) こんどは右に向かって、P波の平均速度と震源までの距離から、P波の旅時間を数えれば、P波の初動位置が決まります。
 この方法には計算や速度の推定などでの誤差が組み込まれますから、少しのずれなら、目をつぶらなければなりませんが、図4のようなものなら、明らかに「地震前の振動」と分かります

図4  AMP[4]で見た、北海道胆振東部地震の「厚真町鹿沼」の「地震前の振動」
(画像をクリック → 拡大画像へ)

 2014年の長野県北部地震

 2014年の長野県北部地震は、おそらく、自然な地震として考えられるものでしょう。地殻に圧力が加わり、断層のところで、左右の地層がずれるときに生ずる振動が地震波形として伝わったと考えられます。メカニズムが容易に理解できる地震の波形では、@P波が高周波で振幅が小さい、AS波が低周波で振幅が大きい、という状態になるようです。
 これが地震波形の「常識」だと思っていましたが、今回、日本の地震波形をたくさん観察してみると、P波とS波の周波数がほとんど変わらない、という地震波形もありました。
 P波とS波の振幅の減衰の様子も、伝わる距離が長くなって、P波のほうが強く減衰して見えなくなるものもあれば、S波が強く減衰してP波と同じくらいになったりします。現実の世界では、いろいろなことが起こるようです。

図5 (長野北部2014)南魚沼六日町 (震央距離)26.4km
(画像をクリック → 拡大画像へ)

図6 (長野北部2014)長野県箱清水(震央距離)27.4km
(画像をクリック → 拡大画像へ)

 2014年の長野県北部の地震について、ここでは2例だけを取り上げましたが、マークの位置関係に矛盾はなさそうで、P波の前に、発震前の振動は確認できません。

 2018年の大阪北部地震

 2018年6月18日7時58分に起こった、大阪北部地震の地震波形について調べました。
 図7は震央距離0.3kmの「高槻市桃園町」での観測波形です。ほぼ震源の真上なので、震源までの距離は、震源の深さ13kmとしました。
 この地震における平均P波速度は4.52 [km/s] で、平均S波速度は 2.8 [km/s] でした。他の地震のデータに比べて、遅いものとなっています。他の地震では、花崗岩や玄武岩などの、しっかりとした火成岩による地盤の中を伝わるのに対して、大阪平野あたりは、淀川などによる堆積層のようですから、このような値になるのかもしれません。

図7 (大阪府北部)高槻市桃園町(震央距離)0.3km
(画像をクリック → 拡大画像へ)

図8 (大阪府北部)枚方市大垣内(震央距離)4.7km
(画像をクリック → 拡大画像へ)

 図8の「枚方市大垣内」のデータでも調べてみました。S波の初動位置は明瞭です。ここから発震時の時刻をもとめ、次にP波の到達時刻を計算しましたが、ほぼとらえています。
 P波の前に何か信号のようなものがないか調べてみましたが、AMP[M]でかすかに現われる、ノイズ状の信号や、観測機器のクセのような機械的なノイズなどしか確認できませんでした。
 この大坂北部地震の問題点は「先行波」というより、UN波形のP波が、他のNS波形やEW波形に比べて、非常に大きな振幅となっていることです。地震が起こった瞬間、水平面の動きより、上下の動きのほうが勝っていたのです。これがいったいどのようなメカニズムによるのか。私も分からないし、地震研究の専門家にも分かっていないようです。
 この問題については、あらためて、データを整理して考察したいと思います。

 2016年の熊本地震

 2016年の熊本地震は群発地震と呼ばれているように、たくさん起こっていますが、その中で、最初に起こったものを調べました。
 P波の初動位置には問題がないようですが、この地震も、UD波形のP波の振幅だけが異常に大きいという問題を抱えています。
 この問題についても、さらに解析を進めて、あらためて考察したいと思います。

図9 (2016熊本1)宇城市松橋町(震央距離)15.8km
(画像をクリック → 拡大画像へ)

 2004年の新潟県中越地震

 2004年の新潟県中越地震も震度7を記録した大きな地震です。
 これについて、同様にしらべたところ、発震時からの計算で求めたP波の初動位置が、観測波形から認められる初動位置とは、すこしずれています。
 図10の「小千谷市城内」だけでなく、図11の「新潟小国町法坂」でも、少しずれています。
 ここで「先行波がある」と判断できるかどうかは、まだ微妙なところです。ここで使った判定システムが信頼できるかどうか、もう少し調べる必要があります。

図10 (新潟県中越地震)小千谷市城内(震央距離)6.6km
(画像をクリック → 拡大画像へ)

図11 (新潟県中越地震)新潟小国町法坂(震央距離)13.8km
(画像をクリック → 拡大画像へ)

 まとめ

 「北海道胆振東部地震」で見つかった、P波の初動位置の前にある「謎の先行波」のようなものが、他の地震波形にあるか調べました。
 すべての観測波形について調べたわけではありませんが、「2014年の長野県北部地震」、「2018年の大阪北部地震」、「2016年の熊本地震」については、震源に近い観測波形での、S波の初動時刻と発震時とP波の初動時刻についての、つじつまは合っていました。
 「2004年の新潟県中越地震」では、P波の初動時刻の「計算による推定位置」と「観測位置」に「ずれ」がありました。しかし、これからただちに「先行波」があったと判断できるほど、明瞭なものではありません。
 さらに詳しく調べたいと思います。
 (Written by KLOTUKI Kinohito, Oct 4, 2018)

 参照資料

[1] 気象庁の「主な地震の強震観測データ」

 

地震波の研究ブランチページへもどる