幽霊変換 (PHANTOM TRANSFORMATIONS)
黒月樹人
(KULOTSUKI Kinohito)
幽霊変換 (PHANTOM TRANSFORMATIONS)
幽霊変換 (PHANTOM TRANSFORMATIONS) テキスト版

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 要約

 ローレンツ変換には歴史がある。ガリレイ変換はダランベルシアンに対して余剰項を生み出すが、ローレンツ変換は生み出さない。これが、ローレンツ変換の歴史が終わった理由である。しかし私は、ガリレイ変換とダランベルシアンの関係の解析において、矛盾があることに気づいた。もし、この矛盾が無くなるようにすると、ガリレイ変換はダランベルシアンに対して余剰項を持たないようになる。すると、ローレンツ変換は存在理由を失う。

 1. 緒言

 ローレンツ変換を構成している二つの考え方については、ローレンツが独自に生み出したというものではなく、そこに、何人かの先駆者たちから成る歴史が存在する。局所時間という発想が現れたのは、ポアンカレ(1900)が最初だと私は思っていた。ところが、局所時間となる、時間の変化を示す式は、すでにフォークト(1887)によって生み出されていた。それから、ローレンツ(1895)、ラーモア(1897)、ローレンツ(1899)、ラーモア(1900)、ポアンカレ(1900)、ローレンツ(1904)、ポアンカレ(1905)へと続き、最後にアインシュタイン(1905)へとたどりつく[1]。フォークト(1887)からローレンツ(1904)までの式の変化は、まるで試行錯誤のように見える。ところが、ポアンカレ(1905)とアインシュタイン(1905)における、ローレンツ変換の式は、これ以降変化する兆しがない。現代のテキストの幾つかでは、次のような根拠があって、ローレンツ変換の形式が定まったと説明されている。それには、ダランベルシアンが深く関係している。

 2. ダランベルシアン

 ダランベルシアンは、ラプラシアンの4次元への拡張だと説明されることがあるが、これは派生理由ではないだろう。この作用素としてのダランベルシアンが生まれる前に、この前駆体は、3次元の波動方程式(1)の形で存在していた。ここで、aは波が進む速度である。光や電磁波を扱うときには、aは光速度cへと置き換えられる。

   ∂u2/∂t2=a2(∂u2/∂x2∂u2/∂y2∂u2/∂z2)                             (1)

ダランベルシアン()は、(1)を次のように変形して定義される。何らかの関数がuの位置に入ったとき、この関数は波動関数と見なされる。

   □u[(1/a2)2/∂t22/∂x22/∂y22/∂z2]u0                     (2)

 3. ガリレイ不変性

 力と速度と加速度の方向をx軸上に限定したとき、ニュートンの運動方程式は(3)である。このとき、ガリレイ変換は(4)となる。

   fmd2x/dt2                                                     (3)

   x’xvt                                                       (4)

 (4)より(5)へと変形し、このx(3)に代入して(6)を得る。

   xx’vt                                                       (5)

   fmd2(x’vt)/dt2m(d/dt){dx’/dtv}md2x’/dt2                   (6)

 (3)(6)を見比べると、xx’に変わっている。ニュートンの運動方程式は、ガリレイ変換前の座標値xとガリレイ変換後の座標値x’とで、方程式の形が変わらない。このようなとき、「ニュートンの方程式はガリレイ不変性をもつ」という。あるいは、「ニュートンの方程式はガリレイ不変である」とも表現される。

一般にダランベルシアンは (t, x, y, z) 4変数を取り扱うので、ガリレイ変換も、次の形式(7)で考える。作用素としてのダランベルシアンは(8)式である。

x’xvt,   y’y,   z’z,   t’t                                (7)

□=(1/a2)2/∂t22/∂x22/∂y22/∂z2                             (8)

 (7)の最初の式を、xx’vt へと変形する。t’tなのでxx’vt’ と考えられる。すると、xx’t’2変数の関数f (x’,t’) と見なすことができる。そこで、(9)のように偏微分することになる。また、∂x’/∂t∂t’/∂tについて、(7)より(10)式を得る。

   (1/a2)(2/∂t2)[f](1/a2)(∂/∂t)(∂/∂t)[f]

(1/a2)(∂/∂t) {(∂x’/∂t) (∂/∂x’)(∂t’/∂t) (∂/∂t’)}[f]          (9)

   ∂x’/∂t=−v,   ∂t’/∂t1                                           (10)

 (10)(9)に代入して、整理し、関数fをとって、次の(11)を得る。このとき、そして、これ以後、全角の/の後ろにある、積の因子は分母にあるものとする。

   (1/a2)(2/∂t2)[f](1/a2) {v (∂/∂x’)(∂/∂t’)} {v (∂/∂x’)(∂/∂t’)}[f]

(1/a2) {v2 (2/∂x’2)2v(2∂x’∂t’)(2/∂t’2)}[f]

(1/a2)(2/∂t2)(v2/a2) (2/∂x’2)(2v /a2) (2∂x’∂t’)(1/a2) (2/∂t’2)     (11)

 2/∂x2を調べるための準備として、(7)より(12)を求める。これを使って(13)を得る。

∂x’/∂x1,   ∂t’/∂x0                                            (12)

2/∂x2{(∂/∂x’) (∂x’/∂x)(∂/∂t’) (∂t’/∂x)}2

{(∂/∂x’)×1(∂/∂t’)×0}2

2/∂x’2                                                   (13)

 ところで(7)より(14)を得る。(15)は明らかである。(14)(15)から(16)が成立する。

∂y’/∂y1,   ∂z’/∂z1                                            (14)

∂y’/∂y’1,   ∂z’/∂z’1                                           (15)

∂/∂y∂/∂y’,   ∂/∂z∂/∂z’                                         (16)

 (11),(13),(16)(8)に代入して、(17)を得る[2]。ここで、□は変換後の座標値によるダランベルシアンである。このとき、TGをダランベルシアンのガリレイ尻尾と呼ぼう。このTGが出現するため、「ダランベルシアンはガリレイ不変ではない」とされている。

□=□(v2/a2) (2/∂x’2)(2v /a2) (2∂x’∂t’)                        (17)

TG(v2/a2) (2/∂x’2)(2v /a2) (2∂x’∂t’)                            (18)

4. ローレンツ変換の決定

 ローレンツ変換のスタートを(19)に記す。ここでp, q, r, s は未定係数である。他の条件や既知の速度vを利用して(変換前後の原点の移動速度を考慮することで−q/pvq/s=−vを求め)(19)(20)へと書き換えることができる[3]。そして、ここから、(21)(23)を得る。

   x’pxqt,  y’ y,  z’ z,  t’rxst                           (19)

   x’p(xv t),  y’ y,  z’ z,  t’rxpt                         (20)

   (1/c2)(∂2/∂t2) (1/c2){p2v2 (∂2/∂x’2)2p2v(∂2∂x’∂t’)p2(∂2/∂t’2)}       (21)

   −2/∂x2=−{p2 (∂2/∂x’ 2) 2pr(∂2∂x’∂t’)r2 (∂2/∂t’ 2)}               (22)

   −2/∂y2 =−2/∂y’2,   2/∂z2 =−2/∂z’2                          (23)

 これらの計算結果を総合して、(24)を得る。ここに現れた尻尾の項TLを恒等的にゼロとするという要請を組み込んで、prが決まる。

   □=□TL

TL{(v2/c2)p2p2+1}(∂2/∂x’ 2) 2p{ pv /c2r }(∂2∂x’∂t’)

{ p2/c21/c2r2}(∂2/∂t’2)                                   (24)

   p1(1v2/c2)1/2,   r=−v{c2 (1v2/c2)1/2 }                    (25)

 (25)(20)へ代入すると、ローレンツ変換(26)が得られる。

x’=γ(xvt),   y’y,   z’z,   t’= γ(tvx/c2),   γ=1/(1v2/c2)1/2    (26)

ローレンツ変換は、ダランベルシアンのローレンツ尻尾TLを恒等的にゼロとして得られているのだから、もちろん「ダランベルシアンはローレンツ不変」である。かくして、ローレンツ変換は、座標値の変換後も、ダランベルシアンの形を変えず、これと強く関連している、マクスウェルの電磁理論が通用する世界を保障する。このことが、ローレンツ変換の形式を、最終的に決めた理由であると考えられている。

 5. 幽霊の尻尾

 さて、ガリレイ変換の(7)の並びを逆にしてみようここから、(28)の作用素を導くことができる。そして、(28)をダランベルシアン(8)に代入して(29)を得る。

  t’t,   z’z,   y’y,   x’xvt                               (27)

/∂t’/∂t,   ∂/∂z’/∂z,   ∂/∂y’/∂y,   ∂/∂x’/∂x              (28)

□=□                                                        (29)

 ダランベルシアンのガリレイ尻尾TGが消えてしまった。いったい何が起こったのか。

違いは「t’t」と「x’xvt」の優先権にあるのかもしれない。(11)の解析では「t’t」から導かれるはずの「/∂t’/∂t」が無視されて、「(1/a2)2/∂t2」から、ダランベルシアンのガリレイ尻尾TGが生まれた。「/∂t’/∂t」が無視されてしまうのは何故なのか。「t’t」でなく「x’xvt」を優先しなければならないという、数学的な理由は無いはずである。「t’t」を優先したときと「x’xvt」を優先したときとで、解析結果が異なるというのでは、数学的に矛盾していることになる。問題は優先権にはない。では、どこに問題があるのか。

すると、残っているところはここしかない。「xx’vt’」から「xx’t’2変数の関数f (x’,t’) と見なすことができる」とした部分だ。この記述は正しいのだろうか。(9)の式を導いた根拠は、合成関数の微分の公式にあるようだ。これには、いろいろな場合分けがあるが、最も近いものを次に取り上げよう。

   uf(x ,y), xg(s,t), yh(s,t)                                   (30)

   u/∂s(∂u/∂x)(∂x/∂s)(∂u/∂y)(∂y/∂s)                             (31)

   u/∂t(∂u/∂x)(∂x/∂t)(∂u/∂y)(∂y/∂t)                             (32)

 (9)の前に書いた条件を、(30)と比較して書けば、次のようになる。

   xf(x’ ,t’), x’g(x,t), t’h(x,t)                                  (33)

 ここで、t’の関数h(x,t)については、xの項の係数が0であると考えて処理することもできるだろう。よって、t’h(t)と見なすことについては問題がない。しかし、x’の関数g(x,t)については、どうだろうか。ここにはxが入っている。xf(x’ ,t’)x’g(x,t) t’h(t)を代入すると、次のようになる。

   xf(g(x,t) , h(t))                                              (34)

 これでは、まだxについて整理できていないことになる。左辺にも右辺にもxが含まれているのだから、これを整理して、右辺には、xを含まない式を導かなければならない。このことを具体的に行ってみよう。ガリレイ変換で(9)を導くときの条件の式は、次のようになる。

   xx’vt’,   x’xvt,   t’t                                 (35)

 xx’vt’x’xvtt’tを代入して、これらを整理しよう。

   xxvtvtx                                              (36)

 関数のように見えたf(x’ ,t’)xとなってしまった。これは明らかに2変数の関数ではない。xを、何らかの独立した2変数で表す関数なぞ、まったく規定されていなかったのである。ダランベルシアンのガリレイ尻尾が生み出されたとき、ガリレイ変換の式(7)から(9)式が導かれた。この(7)(9)のプロセスを、私は詳細に再構成する。このように、論理の流れを( #)(#)で表すことにし、論理がつながらないところは、( #)(#)としよう。すると、(7)(9)のプロセスの詳細を、これまでの式の記号で、次のように書くことができる。

   (7)(35)(34) (30)(32)(9)

 xx’t’2変数の関数と考えて、(7)(9)としたプロセスは、(34)(30)の間で断絶しているので、まったくの幻だったのである。

ダランベルシアンをガリレイ変換で処理して、変換前のダランベルシアン()に対して、変換後のダランベルシアン(’)には、余剰項としてのガリレイ尻尾TGが現れると、これまで考えられてきたが、このガリレイ尻尾TGは存在しなかったことになる。まさに幻の尻尾なのだ。

このとき、何故、あらためてローレンツ変換のようなものを生み出さなければならないのだろうか。ダランベルシアンのガリレイ尻尾は、もう存在していないのである。

 このような考察をローレンツ変換に関する、(20)から(21)(22)へ向かう処理に、そのまま適用することができる。ここでも、xx’t’2変数の関数と見なされているが、x’は中にxを含んでいるので、まだ整理されておらず、このように考えることはできない。さらに、tx’t’2変数の関数と見なされているが、t’は中にtを含んでいるので、まだ整理されておらず、これも正しくない。よって、(20)を仮定しても、ただちに(21)(22)の式を生み出すことはできないのである。(20)よりyzの項を取り除いて(37)を得る。これらから、xtを求めて(38)を得る。例えば、(38)xの式に、(37)(38)tの式を代入して、xについて整理すると、(40)となる。

   x’p(xv t),   t’rxpt                                      (37)

   xp1x’v t,   tp1(t’ rx)                                 (38)

   xp1p(xv t)v p1(t’ rx)                                  (39)

    xv p1(t’ rx)v p1(t’ rx)

    x                                                          (40)

 ガリレイ変換と同じことが起こった。ローレンツ変換の導出において仮定した(20)の式の中には、実体のある合成関数は何も構成されていなかったのである。だから、(21)(22)のような合成関数の微分の公式へと、論理をつづけてゆくことはできない。

これらのことから、ローレンツ変換での尻尾が幻であることが言えるだけでなく、ローレンツ変換そのものが、何ら実体のあるものではないということが言える。すなわち、ローレンツ変換は、まったくの幻だったのである。まさしく幽霊のようなものだ。

 参照文献

[1] 英文ウィキペディアの「ローレンツ変換の歴史」

http://en.wikipedia.org/wiki/History_of_Lorentz_transformations

[2] 牟田泰三, 岩波講座 現代の物理学2 電磁力学 7章 相対論的不変性 7-1 運動系における電磁力学 b) Galilei 変換 pp.126129

[3] 牟田泰三, 岩波講座 現代の物理学2 電磁力学 7章 相対論的不変性 7-1 運動系における電磁力学 c) Lorentz 変換 pp.129130

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