RaN321 地球人はどこにいるのか(75)ツバメ小屋(2)
Where is the earthian? The Swallow Hut(2)

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito @ 9621 ANALYSIS)

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 長びく梅雨

 突然梅雨が明けたかのような、からっと晴れて暑い日が続き、これで今年の梅雨も終わったのかと思ったのですが、そのようなニュースは流れず、やがて、ふただび、じとじとと雨が降り続きました。
 ツバメたちは、どこで二度目の交尾をやったのかは知りませんが、新たに作った、奥の蛍光灯の、傘の巣の中で、赤ら顔の雌が日中ずうっと居座っていることから、おそらく、何個かの卵を産んで暖めているようです。
 雄のツバメはというと、あまりすることがないのか、ほとんど現われません。卵を抱いている雌のツバメのために、何か食べられるものを採ってくるということは、やっていないようです。雌のツバメは、ときどき、巣を空けて、どこかに飛んで行っているときがありますから、きっと、自分の餌は自分で採りに行っているのでしょう。
 一回目の抱卵時期に比べ、この二回目の抱卵の時間は、ずいぶんと永くかかっているようです。きっと、梅雨の影響で、気温が低く抑えられてしまったからでしょう。

 雄はどこへ行った?

 ときどき、どうしているのかと心配になって、暗くなってから、懐中電灯をもって、ツバメ小屋の様子を見に行くことがあります。
 雄のツバメは、天井にある第三の蛍光灯の傘の上に乗って休んでいるのですが、その真下には、私の車があります。
 日中、どこかに車でゆこうとするとき、フロントガラスの助手席側に落ちているフンをぬぐう必要がありますが、第一の蛍光灯の傘はカラスに襲われたところだし、第二の蛍光灯の傘には巣があるし、その裏側は飛びつきにくいし、けっきょく、少し離れた、車の真上にある、第三の蛍光灯の傘の上ということになるわけなのでしょう。
 ところが、ある日、真夜中にもかかわらず、懐中電灯で見てみると、ここに雄ツバメの姿がありません。
 ツバメ小屋のあちらこちら、そして、車庫がわのあちらこちら、外の電柱や電線のあちらこちらと、かすかな光によるサーチライトで調べてみましたが、どこにも姿はありません。
 何日も、このようなことが続き、雄ツバメは、死んでしまったか、あるいは、どこかに、別の雌との巣を設けて、そちらへ行ってしまったのか、そんなふうに考えるしかありませんでした。

 母の言葉

 実家からやってきた母に、これらのことを説明したとき、母は、近所の人の意見を受け入れて、ツバメ小屋の前のシャッターを降ろしてはどうかと言い出しました。
 私は、そのように言い出した母の言葉をまったく聞くことはできず、他人の家の外観がきたないと言ってくる、そのような要求が不当なものであるということを、えんえんと反論しました。
 母は、近所との衝突を避けたほうが得だ、と言います。
 損だ、得だ、という判断なぞ、ここではまったく無意味だと、私は言い切ります。
 シャッターは絶対に降ろさない。
 外側だけきれいに見せかけておいて、中身は、ほとんどゴミ屋敷だったのを、ここまできれいにしたのに、それを隠せと言われて、はいそうですか、と言えるわけがない。
 私は、表に立てかけておいた、大きなスダレを取り外し、初めにあったように、窓ガラスの無い扉と、障子紙を貼っていない引き戸を、道路に面して現すことにしました。
 それから、母屋の二階にしまってあった、80年から100年は経っている、古い材木を使って作った、木製の植木鉢に、ひょうたんの苗を移して並べました。
 これが、この、隙間だらけの扉や引き戸にからまってゆくようにと。

 前を通りがかった女性

 ある日、ツバメ小屋の前を通りかがった、自転車に乗った女性が、突然立ち止まり、たまたま表にいた私に声をかけてきました。
 毎日この前を通っているのだけれど、ここに、こんなものができて、いったい何だろうと思っていたのだそうです。
 私は、いつも覗いている、板壁の節穴を示しましたが、身長の違いで、そこには届かないというので、ひょうたんのために作ってある、木の枠だらけの扉で囲った後ろの通路を案内し、ツバメ小屋の横の通路にある、少し大きな空き窓を示して、あの蛍光灯の傘のところにツバメの巣があるでしょう、以前は、もっと手前の蛍光灯に巣があったのですが、ヒナが孵ったとたにカラスに襲われたので、こんなふうに、小屋を作って、カラスがやってこないようにしたのです、と説明しました。
 すると、その女性は、このような古い板で、何が作られたのかと思っていたこと、このような建物が、汚いというのではなく、ずうっと、いいなぁと思っていたことを語りだしました。
 じゃあ、道の駅なんかに生産者の顔写真が示してあるように、顔写真入りで、私はこの建物が好きです、というシールを、このへんに貼っておきましょうよ、と私はジョークの口調で語りました。
 曲がった板で壁が隙間なく貼られているのは、カラスを含め、外からツバメの巣が見えないようにということだし、適度に上のほうが開いているのも、ツバメの通り道だということで、まったく合理的な造りだということを納得してもらい、最後の決めゼリフは、「一日で組み上げました」というもの。それも、かなり、よかったようで、その人は、好意的な雰囲気を残して、自転車をこいでゆきました。
 「こんなものは汚い」と思っている人は、「これは何か」などと聞かないものだ、と私は思います。私だって、近所の町を見て「これは汚い」と思うことはありますが、たんに思うだけで、何かと聞いてみたくなるのは、「これはすごい」と思うときだけです。
 表に出ていた私に、これは何かと聞いてきたのは、もう一人、隣に住んでいる小学生の男の子が一人いたのですが、ツバメの巣を見せて、これはカラスからツバメの巣を守るための小屋なんだと言って、それで終わり。彼は納得して、となりの家へと向かってゆきました。

 二度目のヒナが生まれたらしい

 梅雨明けかと思い違えた、暑い日が二日続いたとき、巣にこもっていた雌ツバメが、巣の縁に止まって、その巣の中を覗いています。これは変です。
 雌ツバメが餌を採りに行っている間に、脚立を持ってきて、巣の中を覗こうとしましたが、天井につけた蛍光灯の傘の巣です、巣の底を見るには、自分の頭が天井に当たってしまい、うまくいきません。
 風呂場へといって、髭剃り用に吊るしてあった、小さな鏡を取り外し、ツバメ小屋へ戻って脚立に乗り、その鏡を天井に近づけて、それで巣の中を覗くことができました。
 浅い巣の底には、黒いものがあります。ヒナのようです。卵の殻のようなものはありません。黒いものは、ただ、そこにあるだけで、動こうとはしません。
 死産なのだろうか。
 だから、あきらめて、雌ツバメは巣を空けたのかもしれない。

 その翌日か翌々日

 これはツバメたちの出来事なのだからしかたがないと覚悟を決めていたものの、ひょっとしたら、と思って、目覚めたあと、表のツバメ小屋を見に行きました。
 すると、どうやら、巣の中で何かが鳴いているようです。
 雌ツバメは、もう卵ではないものを、あいかわらず抱いていました。
 やがて、ツバメが外で餌を採って来て、そのヒナに与えるようになりました。
 すると、雌ツバメが戻って来たあと、餌をやって、ツバメ小屋の上の隙間から外に飛び出たかとおもうと、ほんのわずかな間をおいて、ツバメが餌をもってきます。
 雄だ。ヒナが生まれるまで、いったい、どこで何をしていたのか。
 まるで、その二羽は、いっしょに餌を採って、いっしょに戻って来て、交代で続けて餌をやっているかのようなタイミングでした。
 二羽とも生きていた。
 ああ、それと、巣を鏡で覗いたときは、二羽のヒナだと思っていたのですが、ぴいぴいとくちばしを出して餌をねだる、そのくちばしは三つありました。三羽のヒナを二羽の親で育てるのなら、なんとかなるかもしれません。

 それからのこと

 夜になって、雄がどこにいるのか分からないという状態につづき、雌も夜には巣に戻らないということになっていました。
 なぜなのか、私にはよく分かりません。
 きっと、これらのツバメの考えたことなのだろうと、ぐっすり眠っているヒナたちの巣を懐中電灯で確認して、自分の部屋へと戻ります。
 人間の夫婦だったら、そのようなこともあるのかもしれませんが、いったい、どうしているのやら。
 朝になって確認すると、二羽とも、せっせと餌を採りに行って戻ってくるようです。
 自分たちの住み処は別で、昼間だけ、子育ての「仕事」にやってくる、という感じです。
 そのようなことがあたりまえになっていたのですが、本日、少し気になって、夜に、ツバメ小屋を見に行くと、車庫の天井の蛍光灯の傘に一羽、ツバメ小屋の巣の傘に一羽、少し離れて、二羽とも戻って来ています。
 昨日までと、今日の夜とは、いったい何が違うのか。
 どうも、ツバメたちの考えていることは、よく分かりません。
 (Written by KLOTSUKI Kinohito, July 15, 2016)

 

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