RaN349 遅発性自閉症は抗生物質の投与で始まった

黒月樹人(◇田中タケシ)@黒月解析研究所

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 はじめに

 これまで私たちは、何らかの精神疾患におちいったとき、その原因が遺伝にあると、暗黙のうちに判断したり、判断されてきたかもしれません。
 あるいは、その本人の、意志の弱さや、性格における何らかのかたより、考え方そのものとかに、その原因があるのだとも。
 そのような視点が広まっているので、多くの人々は、(日本の某首相や某市の某市長のように)精神疾患であることを隠すようになり、多くのケースで、その病人そのものを、社会の中で「隔離」するようになっています(精神病院だけでなく、なんとか学園とか、自閉症という名の精神疾患の子供や若者について)。
 ところが、いま読んでいる「あなたの体は9割が細菌」という本 [1] では、これらとまったく異なる、新たな視点のことが述べられています。
 その象徴となる一文がありましたので、ここに引用します。

 20世紀前半には微生物が引き起こす病気がつぎつぎと明らかになったが、脳という器官の不具合だけは、微生物とは無関係なものとして例外扱いされてきた。
 腎臓や心臓の不具合をカウンセリングで治そうとするのが無益なことは、だれにでもわかる。
 なのに、脳の不具合だけはカウンセリングで治せると信じられていたのは、いまとなっては笑止千万だ。
 脳以外の臓器がおかしくなれば、私たちは外部の原因を考える。
 ところが脳(心)がおかしくなったときは、本人か、親か、生活習慣のせいにされる。
([1] p113)

 ここで「親か」とあるところは、「遺伝形質か」と読みかえることができます。

 第3章「心を操る微生物」へ進むまえに

 この本 [1] の、第1章「21世紀の病気」と、第2章「あらゆる病気は腸からはじまる」のところは、長い「まえふり」でした。いわば、落語でいう「まくら」のようなものです。何も関係がないわけではないのですが、いきなり本質的な物語に入ろうとしても、基礎的な知識が不足していては、その物語の本質的な意味や価値が分かりづらいと考えられて、その下準備をしているように感じ取れました。
 ここでの中心的な言葉があります。
 それは21世紀病というものです。20世紀の後半から増えだしてきた疾患で、それまではなかったようなものが、たくさん現われだしてきているというのです。
 たとえば、アレルギーや自己免疫疾患、自閉症です。花粉症は、人類の遺伝子に組み込まれた病気ではなかったはずです。グルテンに由来する、小麦アレルギーが、もし、ずうっと昔からあったとしたら、人類は、ここまで増えていなかったはずです。
 第3章「心を操る微生物」のところに、私たちが知っておくべき、大切な物語のことが記されています。
 ここは、ちょっとしたドラマのような構成になっていて、この章をゆっくり読んでゆくと、その最後のあたりで、私は感動が高まってきて、涙が出そうになりました。
 同じような感動を味わうためには、この本を直接読むのがよいでしょう。
 そうはいっても、ここで、このようにまとめてしまえば、何も記すことがなくなります。
 ここでは、ここのところのドラマがどのように展開してゆくのかということの、あらすじを、かんたんにまとめることにします。

 遅発性自閉症は抗生物質の投与で始まった

 もし、ここのところの物語を映画にするとしたら、その主人公は、一人の母親ということになるでしょう。
 この本 [1] では、どうやら、本名で記されているようです([1] P100)。エレン・ボルトという名です。
 家族写真も2枚、P144の次のカラーページにあります。
 その上の写真には、若いころのエレン・ボルトと、幼い長女のエリン、まだ幼児だった三男のアンドルーが写っています。このときのアンドルーは、まだ自閉症になっていません。
 物語に戻ります。
 アンドルーが生後15ヶ月検診で小児科を訪れたとき、そのときの医師が、アンドルーの耳を覗きこみ、滲出液(しんしゅつえき)がたまっているのを見つけ、「耳に感染症ができているから抗生物質で治療する必要がある」と述べ、このあと、20日にわたって、抗生物質が処方されたのだそうです。
 ところが、一時的に治ったかに見えていたのでしたが、再発したため、さらに30日もの間、抗生物質の治療が続けられました。
 このような経過で、アンドルーのふるまいが変わっていったそうです。

 不機嫌に引きこもっていたかと思うと、とつぜん怒り出し、一日じゅう叫び声を上げる。
 下痢が止まらず、大量の粘液と、未消化の食べ物が出てきた。
([1] p101)
 手足は痩せて腹だけ膨らんできた。
 ひざを曲げずに、つま先立ちで歩く。
 部屋のドアのところ立ったまま、半時間も電気のスイッチを入れたり切ったりする。
 甲高い叫び声を上げる。
([1] pp101-102)

 両親は、このように変わってしまったアンドルーを、何人もの医者に見せ、その理由を知ろうとしました。
 やがて、アンドルーは2歳1ヶ月になって、ようやく自閉症と診断されたのだそうです。
 私は、このようなふるまいをする若者を、少し働いたことのある、某学園で見ました。
 彼らは、自閉症だったのだ。私はこの本を読んで、初めて知りました。

 自閉症は先天的なものではない

 自閉症についての、著者のまとめが、p102あたりにあります。
 自閉症についての映画「レインマン」の説明や、自閉症という病名が、アメリカの精神医学者レオ・カナーによって、1943年に命名されたことが記されています。
 このあと、この自閉症という病気については、命名者のレオ・カナーが考えたセオリーが広まってゆきます。
 その中に、自閉症は先天的なものである、という考えがあります。
 しかし、アンドルーの母親のエレン・ボルトは、それが「誤診」だと思ったのだそうです。
 そうではありませんか。
 1歳を少し過ぎた15ヶ月検診のころまで、息子のアンドルーは、ごく普通の幼児だったわけです。
 エレンにとっては、四人目の子供です。
 その子が普通か異常かは、すでに三人も子供を産み育てている母親なら分かってあたりまえのことです。
 もし、自閉症が遺伝疾患だとしたら、遺伝子の確率から、もう一人くらい自閉症になっていてもおかしくありません。
 でも、両親もいたって健全だし、これまでの子供3人も、普通に育っています。
 そして、何よりも、アンドルーの自閉症としてのふるまいは、50日も続けられた抗生物質の投与にともなって現われだしたのです。
 アンドルーが自閉症になった理由を、母親と父親の遺伝子のせいにされる、というのは、その当人である母親として、とうてい、なっとくできるものではないはずです。
 ここから、エレン・ボルトの挑戦が始まります。

 自閉症と破傷風菌のつながり

 エレン・ボルトは、科学者の心がけに富む人でした。
 彼女は、息子のアンドルーがなぜ自閉症になったのかを知ろうとして、息子のふるまいを徹底的に観察しました。
 それと並行して、公共図書館で、関係しそうな文献を調べて、それを読み漁りました。
 ここのところに、意外なエピソードがあります。
 息子のアンドルーのことを見てもらうために訪れた医師の一人が、エレンに、本気で調べるつもりなら医学論文を読まなければいけないと助言した([1] 104)のだそうです。
 そして、母親のエレンは、息子の耳の治療に使われた抗生物質を疑うきっかけとなる論文を見つけた([1] p105)そうです。
 それは、抗生物質の治療後に、一部の人に、長期の、重症の下痢が出現する、クロストリジウム・ディフィシル感染症についての、最新の研究論文だった。([1] P105)
 このように記されています。
 この研究論文から、エレンは一つの仮説を思いつきました。
 ここでは、その仮設の流れを、段階的に分けてまとめます。

 (1) クロストリジウム・ディフィシル感染症を引き起こす細菌の一つ、破傷風菌(クロストリジウム・テタニ)が、息子のアンドルーに感染した。
 (2) その破傷風菌は、息子アンドルーの場合、腸に入った。
 (3) アンドルーの腸では、抗生物質の投与のため、通常なら、そのような破傷風菌を封じ込める腸内細菌群が殺されていた。
 (4) 空っぽになっていたアンドルーの腸内で、破傷風菌が増殖した。
 (5) 破傷風菌が産出した神経毒素が、何らかの形で、アンドルーの脳に到達して、その機能を狂わせた。

 エレンは「自閉症と破傷風菌」とい論文をまとめて発表した

 上記の仮説のところは、p105あたりでした。
 このあと、この物語の展開が続いてゆきますが、このリーフページでは、その途中のことを割愛して、一気にp127へと進むことにします。
 ただし、この間に起こったことは、エレンの仮説を検証するための、さまざまな取り組みです。
 エレンの仮説に興味を持った医師と巡り合い、いろいろなことを調べて行ったのです。
 そして、その仮説に基づいて、自閉症の息子への治療が行われました。
 それは、ある種の効果があって、息子のアンドルーの自閉症は治りかけたのですが、残念ながら、治療のための時期が遅くなってしまっており、アンドルーの脳は完全には回復しなかったそうです。

 1998年、エレン・ボルトは人生初の科学論文「自閉症と破傷風菌」を執筆し、それは、メディカル・ハイポセシス誌に掲載された。
 本来なら保護の役割をする、腸内マイクロバイオータ
(腸内細菌叢のことらしい)が、抗生物質で破壊されたあと、その腸内で、破傷風菌が増殖することが原因で、自閉症が起こる、と説いた論文だ。([1] p127)

 このあと、この本の著者による、この論文についての評価の部分があります。

 腸内細菌の組成比が変わると、その人の行動も変わりうる、という概念の扉を開いた。([1] p127)

 この物語のエピローグ

 エレン・ボルトの論文発表の前後のところに、この物語のエピローグとなりそうなことが述べられています。
 そのキーワードの一つは、ロボガットというもので、これは、エマ・アレン・ヴェルコーという微生物学者が開発した、嫌気性(酸素があると生きられない)腸内細菌を培養することのできる装置のことで、具体的に、(嫌気性腸内細菌のための)腸外生息地マシンとも表現されています。
 この装置が開発されるまで、嫌気性の腸内細菌を研究室で培養するのは、とても困難なことで、それがネックとなって、腸内細菌が、人間にとってどのような役割をしているかということの研究が進まなかったのだそうです。
 ここで少し飛んで、すでに第4章となっているp145の横にあるカラーページに、そのロボガット(ガットはgutで腸のこと、ロボはロボットの略称でしょう)の写真があります。
 それを使っている女性は、カナダのゲルフ大学の大学院生だそうですが、はっきりと、その名が、エリン・ボルトと記されています。
 彼女は、自閉症児のアンドルー・ボルトの姉であり、エレン・ボルトの娘です。
 母親の仕事を引き継ぎ、世の中の自閉症児の母親たちに代わって、この病気の謎に挑んでいる([1] p128)のだそうです。

 あとがき

 この本 [1] の、ほんの一部についてだけ、かんたんにまとめてみました。
 もちろん最後まで読みました。
 腸内微生物が、いかに、私たち人間の健康や、意識のあり方についてまで関係しているかということが、このように分かりだしてきたというのは、ほんとうに、ごくごく最近のことです。
 これまでの(そして現在の)医療では、このような、腸内細菌と人間との共生関係のことが、ほとんど理解されていず、抗生物質があふれるほどに投与されています。
 この物語を読むだけでも、生後1歳の幼児に、抗生物質を50日も続けて投与するという、現代医学の考え方が、明らかに間違っているとわかります。さらには、一生治らないことになってしまった、アンドルーのような自閉症を生み出しているということは、どのようにとらえればよいのでしょうか。
 ここでは自閉症だけが取り上げられていますが、グルテンについて述べられている資料との関連で、どうやら、大部分の精神疾患は、抗生物質などの薬と、食物繊維の不足による腸内細菌叢の変化と([1]の後半で述べられています)、グルテンなどの害毒物質による、脳の炎症によって生み出されている、という仮説が浮かび上がってきました。
 それと、もうひとつ、腸内細菌と、私たちの細胞が、何らかの形で、生命体としての意志を伝えあっているという仮説を説明できる情報があります。
 そのことを説明している本のことについては、別のリーフページで述べるつもりです。
 (Written by KLOTSUKI Kinohito, March 12, 2017)

 参照資料

[1] あなたの体は9割が細菌 原タイトル10% HUMAN、アランナ・コリン(著)、矢野真知子(訳)、河出書房新社(刊)、2016-8-30

 

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