RaN365 ソマチットは「生きた化石」なのだろうか
Is Somatid a Living Fossil?

黒月樹人(◇田中タケシ)@黒月解析研究所

ランダムノート2017ブランチページへもどる

 Life on a Young Planet(若い惑星上の生命) [3]

 この本の日本語名は、少し文字が小さくなっている副題まで記せば、「生命 最初の30億年 地球に刻まれた進化の足跡」[3] となっています。若い惑星(Young Planet)というのは、地球を含めたうえでの、この宇宙のいろいろな惑星ことを想定しているようです。しかし、その具体的な資料が得られているのは、もっぱら、この地球について、だけのようなのですが。
 この本は2005年に(日本語訳として)出版されています。「生物はなぜ誕生したのか 生命の起源と進化の最新科学」(2016年刊)[1] を読み終えて、この著者の一人が書いている「恐竜はなぜ鳥に進化したのか 絶滅も進化も酸素濃度が決めた」[2] が、部屋の書棚にあって、とちゅうまでしか読み進んでいないことに気づきました。さらに、コンピュータのためのプリンターが置いてある陰のあたりから、この「生命」[3] を見つけたのですが、こちらは、まったく読んでいません。2005年のころ私が何をしていたかというと、陶器の会社で仕事をしていて、釉薬の本については、いろいろと読んでいたのですが、こんな科学啓蒙書を買っていたなんて、ちょっとわけが分かりません。
 同じころのことですが、2005年の初版本での「猫でもわかるゲームプログラミング」[4]という本を、これはすごいな、と思って買ったとき、その内容についてはちんぷんかんぷんだったということを憶えています。ところが2008年か2009年ごろの失業時代に、新しい仕事を得るため、Basicだけでは無力だと思い、独学でC言語を学習するときが来て、C言語なら画像解析もできるはず、と考えて、書棚にあった「猫でも…」[4] のサンプルプログラムを一行ずつ入力していったのでした。
 すこし戻りますが、「生命」[3] は、とてもむつかしい本です。まだ最後まで読み切っていません。理科の分野としては、地学ということになります。「生物はなぜ誕生したのか」[1] も「恐竜はなぜ鳥に進化したのか」[2] も同じ地学分野の本なのですが、それらが、私たちにもなじみ深い恐竜や鳥について述べているのに対して、「生命」[3] であらわれる生物のイメージが、なかなかつかめません。ほとんどは、地球の古い時代の岩石地層についての調査物語と、それにかかわる生物学の歴史のようなものだからです。
 たまたま私は、大学での専攻が(理学部の)生物学科だったのですが、あまりふかくかかわらなかったので(途中で数学に専攻を変えたため)、バチルス・サチルスと、クラミドモナスと、ショウジョウバエくらいしか記憶にありません。そのころはまだ、葉緑体もミトコンドリアも、外来の微生物の共生によって定着したことだとも知られていないころでした。

 私たちは細菌の世界に適応した生き物

 「生命」[3] の第2章「生命の系統樹」のところでは、まず、このタイトルのことがらが確認されています。それについての、印象的な部分を引用しておきます。

 われわれが細菌の世界に適応進化したのであって、その逆ではない。(中略)動物は進化の甘美なトッピングかもしないが、細菌がケーキの本体なのである。([3] p35)

 私たちは真核生物という分類に入りますが、それに対するのは原核生物です。これらの違いは、細胞の中の「核」が膜につつまれている(真核生物)か、つつまれていない(原核生物)か、だったと思います。
 形や大きさで多様なのは真核生物のほうですが、エネルギー代謝においては、原核生物の多様さが際立っています。
 そのことを知るために、真核生物におけるエネルギー代謝の方法が3種類しかないことが説明されています。

 (E1) 好気的(酸素)呼吸
 (E2) 発酵
 (E3) 光合成 ◇ 太陽の光のエネルギーにより、水から電子を得て、酸素を作る

 原核生物の代謝の多様性

 原核生物の代謝には、いろいろなものがあることについて説明されています。

 (E1) 酸素を使って呼吸する
 (E4) 溶解した硝酸塩を使って呼吸する
 (E5) 硫酸イオンを使う
 (E6) 鉄の酸化物を使う
 (E7) マンガンの酸化物を使う
 (E8) 二酸化炭素を酢酸と反応させてメタンを発生させる
 (E9) 硫化水素で電子を供給して光合成し、硫黄と硫酸塩を供与する(シアノバクテリア)

 このあと説明の体系が混乱しています。
 「光合成」と「化学合成」の違いがあるという説明になってゆきます。

 シアノバクテリアは、五種類ある光合成細菌のうちの一種類にすぎない。ほかの種類では、電子は、硫化水素か、水素か、有機分子によってしか供給されず、酸素がでることはない。([3] p38)

 化学合成細菌は、光合成生物と同じく、二酸化炭素から炭素を手に入れるが、太陽光ではなく、化学反応によってエネルギーを取り込む。酸素や硝酸塩を、水素やメタン、あるいは還元された状態の鉄や硫黄や窒素と化合させ、反応で放出されるエネルギーを細胞に取り込ませる。([3] p38)

 これらの説明と同時に、大学での授業だったら、これらの化学反応についての科学式が、黒板などに記されることでしょう。それをせっせとノートに写して、試験の前には、まるごと暗記するわけです。
 こうやって、文章だけで読んでいっても、眠くなってしまいます。この本のおかげで、この夏は、しっかりと眠ることができました。

 ここで終わって(眠って)しまうわけにはいきません。
 このあと著者は、地球における化学サイクル(循環)において、原核生物が重要なはたらきをしていることについて説明しています。
 二酸化炭素について着目しての炭素循環や、空気中の窒素と土壌中などのアンモニウムや硝酸塩についての窒素循環においても、原核生物の代謝が必要だということです。

 リボソームRNAから見た「生命の系統樹」

 ここでは、著者による記述からポイントとなるところを引用して、まとめることにします。

 生物全体を網羅する系統史を作り上げる(ためには)… すべての生物に共通する分子的特性に立ち戻らなければならない。([3] p42)

 1965年、エミール・ズッカーカンドルとライナス・ポーリング(の論文で)
 DNAやタンパク質の化学構造も進化系統を反映している。([3] p42)

 カール・ウース(の成果として, 1977年)
 (1) すべての生物にリボソームがある
 (2) すべてのリボソームにRNAとタンパク質でできた機能的な複合体がある
 (3) さまざまな生物のあいだで、リボソームの小さなサブユニットに見つかるRNA分子の塩基配列を比べる
 (4) 生命の系統樹を描き出す([3] p42)

 このような科学上の進展があって、20世紀後半にはリボソームRNAから見た「生命の系統樹」というものが生み出されました。
 このとき、生命の大きな区分としてのドメインには、真核生物細菌のほかに、古細菌というものが存在するということが明らかになりました。
 古細菌の中で比較的有名なのがメタン生成菌です。古細菌はアーキアとも呼ばれています。

 系統樹にすると、古細菌は細菌よりむしろ真核生物に近い。([3] p44)

 1996年、古細菌メタノコックス・ヤンナスキイのゲノム(DNAに暗号化された遺伝情報)の全配列が公表され、この微生物が、すでにゲノムの配列が決定されている複数の細菌と11〜17パーセントしか共通の遺伝子をもっていないことが明らかになった。50パーセント以上の遺伝子は、真核生物にも細菌にも見つかっていない…([3] p44)

 このあと、もうすこし具体的な内容で、これらの3つのドメインの生物の関係が述べられています。

表1 3つのドメインの生物についての、いろいろな共通点



 これらの関係から、遺伝子の中には、あるドメインの「枝」から、別のドメインの「枝」へと渡ったものもあったらしいと、説明されてゆきます。
 「そうすると」というフレーズのあとに、次のようにまとめられています。

 現在の生物は遺伝子のキメラ(混成体)なのである。([3] p46)

 超高熱菌、好塩菌……細菌はさまざま

 ここのタイトルは微妙なものとなっています。
 著者は細菌について少し述べていますが、そのあと、古細菌についての「さまざまさ」について述べ始めます。だから、「超高熱菌、好塩菌……細菌はさまざま」というよりは、「超高熱菌、好塩菌……細菌や古細菌はさまざま」としたほうがよいかもしれません。

表2 とんでもなく変わった場所に住む古細菌



 ソマチットは「生きている化石」なのだろうか

 「生命 最初の30億年 地球に刻まれた進化の足跡」[3] においては、ソマチットのことなぞ、これっぽっちも語られていません。
 しかし、ここまで、ながながと記してきたのは、次の解析画像の意味を問いかけたいからです。
 次の図1にある「蛍光09画像」[4] についてのメモを記します。

    09) 海底熱水噴出孔のアーキアに注目する
    南マリアナ熱水活動域で得られた試料中の微生物細胞の蛍光顕微鏡写真
    微生物細胞は特定の遺伝子配列を認識する蛍光染色法で染色した。
    緑色がアーキア細胞で赤色がバクテリア細胞を示す。写真の横幅は約100μm。


 この蛍光顕微鏡写真においては、緑色がアーキア細胞赤色がバクテリア細胞だということです。

図1 蛍光09画像(左)とその拡大領域F〜H(右)

 図1の(右)に、拡大領域F〜Hを描きました。これはゴブリンアートのマップ機能における [16] 倍拡大領域です。
 上記のメモにより、図1(左)の蛍光09画像の横幅が約100ミクロンとありましたから、これから [16] 倍領域の横幅を求めると、約30ミクロンでした。
 次の図2は、蛍光09画像の[16] 倍F領域を拡大したものです。原画像はもっと大きなものですが、このページに収めるため、縮小しています。これを画像Fとします。

図2 蛍光09画像の[16] 倍F領域を拡大したもの(画像F) code=09[16]F 

 次の図3は、画像Fのストライプ解析(marble step4)です。
 このmarble(墨流し)解析では、ストライプの隙間の色として、もとの色が幾分か残るようにしています。
 緑色がアーキア細胞赤色がバクテリア細胞でした。
 各細胞の中心軸あたりを図4として抜き出しましたが、これらを見比べると、パターンに違いがあります。

図3 画像Fのストライプ解析(marble step4)code=09[16]F_Strp(marble)step4
(画像をクリック → 拡大原画像へ)

図4 アーキア細胞(a)とバクテリア細胞(b)の中心軸あたりのパターン

 (a) アーキア細胞の中心軸あたりのパターンは、かなり細かく、(b) バクテリア細胞のほうでは、荒くなっています。
 そして、(a) アーキア細胞の中心軸あたりのパターンは、これまで、いろいろな微生物の画像で見てきたような、ソマチットのパターンとみなすことができます。
 他のアーキア細胞でも、このようなソマチット・パターンが見られるのでしょうか。
 次の図5は、蛍光09画像の[16] 倍G領域を拡大したもの(これを画像Gとします)について、ストライプ解析のマーブル(step4)としたものです。

図5 画像Gのストライプ解析(marble step4)code=09[16]G_Strp(marble)step4
(画像をクリック → 拡大原画像へ)

 蛍光09画像の [16]倍拡大領域のA〜Eが図6にあります。これらの中から、緑色のアーキア細胞が多く写っている領域Aと領域Dについて、ストライプ解析(marble step4)を行い、図7と図8に示しました。
 さらに、図8の、拡大原画像のアーキア細胞について切り出したものを図9としました。

図6 蛍光09画像の拡大領域A〜E

図7 画像Aのストライプ解析(marble step4)code=09[16]A_Strp(marble)step4
(画像をクリック → 拡大原画像へ)

図8 画像Dのストライプ解析(marble step4)code=09[16]D_Strp(marble)step4
(画像をクリック → 拡大原画像へ)

図9 (図8の)拡大原画像のアーキア細胞

 これらの解析画像から、緑色のアーキア細胞は、中心軸あたりに、ソマチット・パターンがあると認められます。
 図3や図4での、赤いバクテリア細胞では、このようなソマチット・パターンは見られませんが、図7に写っている、短い細胞では、ソマチット・パターンが2つあるようにも見えています。
 バクテリア細胞とアーキア細胞における、これらの違いは、表1で確認した、細胞膜の違いによるものかもしれません。
 あるいは、2種類の染色方法の違いが、細胞膜をとらえる能力に反映しているのかもしれません。
 上記メモに「特定の遺伝子配列を認識する蛍光染色法」とありましたが、このことの具体的な意味が分かれば、何か、次の「手がかり」のようなものが得られるかもしれません。
 カール・ウースが1977年に、すべての生物細胞にあるリボソームの中の、リボソームRNAの遺伝子配列を調べて「生命の系統樹」を組み上げたということでした。
 ということは、こうして見出された古細菌(アーキア)にも、リボソームRNAが存在するということです。
 もし、これらのソマチット・パターンが、まさに、ソマチットによるものだとしたら、ソマチットの「正体」の候補として、この「リボソームRNA」があげられるのではないでしょうか。
 しかし、これはまだ「仮説」にもならない、ただの「思いつき」にすぎません。
 このような問いを明らかにするには、さらなる観測や実験が必要です。
 (Written by KLOTSUKI Kinohito, September 26, 2017)

 参照資料

[1] 「生物はなぜ誕生したのか 生命の起源と進化の最新科学」、ピーター・ウォード/ジョゼフ・カーシュヴィンク(著)、梶山あゆみ(訳)、河出書房新社(刊)2016-1-30
[2] 「恐竜はなぜ鳥に進化したのか 絶滅も進化も酸素濃度が決めた」、ピーター・D・ウォード(著)、垂水雄二(訳)、文芸春秋(刊)2008-2-15
[3] 「生命 最初の30億年 地球に刻まれた進化の足跡」、アンドルー・H・ノール(著)、斎藤隆央(訳)、紀伊国屋書店(刊)2005-7-17
[4] 海底熱水噴出孔のアーキアに注目する
南マリアナ熱水活動域で得られた試料中の微生物細胞の蛍光顕微鏡写真
微生物細胞は特定の遺伝子配列を認識する蛍光染色法で染色した。
緑色がアーキア細胞で赤色がバクテリア細胞を示す。写真の横幅は約100μm。

 

ランダムノート2017ブランチページへもどる