RaN375 北海道胆振東部地震にもP波はある

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)

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 はじめに

 2018年9月6日の午前3時15分ごろ、ふと目が覚めた。コンピューターを起こしてウェブをチェックし、3時8分に北海道で大きな地震が起こったことを知った。まだ夜が明けておらず、ニュースでは、人々が街に出て、スマホを頼りに情報を集めていると知らせていた。
 6時ごろから、ヘリコプターなどからの映像も入って来た。とんでもなく大きな地震だということが分かってきた。
 刻々と時間がたつにつれ、ウェブにも、いろいろな情報が現われだした。
 この中に、今回の地震が自然地震ではなく、人工地震であるという情報を発信しているサイトがいくつかあった。
 それらをチェックしてゆくと、今回の地震波形がP波をもっていないから人工地震であるという主張が見られた。
 これは、自然地震と人工地震の、地震波形のパターンを、間違って判別していることによる誤解と考えられる。
 このことを、今回の地震における観測データを調べることによって説明しよう。

 観測データ

 2018年9月6日の3時8分に起こった地震の波形は「防災科学技術研究所」[1]のサイトから得た。

図1 防災科学技術研究所で地震波形を指定するページ

 「地震一覧」のところで、2018/09/06-03:08を探してクリックする。
 「強振記録一覧」のところで、観測点名を選んでクリックする。
 右側に現れる「強振記録波形」の画像をクリックすると、図2が現れる。

図2 早来(はやきた)での地震波形

 3つの地震波形が並んでいるが、他のサイトでの表示を参照すると、上から「南北方向」「東西方向」「上下方向」の動きを調べる地震計の、これは「加速度」を調べたものと思われる。
 縦軸の振幅の単位が [gal] となっているが、これは加速度の単位である。震源に近いと、この値が大きい。遠くになると小さくなる。これらの地震波形では、最大振幅を同じ幅に描いているので、比較するときにきは、この最大振幅の加速度の値を考慮しておく必要がある。
 横軸は時間が秒で表されている。ただし、このときの時間0が、どのような時刻であるかが、その下に添えられているので、これを考慮して、他の観測地点でのデータを比較する必要がある。

 P波とS波の初動位置

 「強振記録一覧」から、次の6つの観測地点を選んだ。
 表の並びに従って、「震央距離」と「観測点名」を組み合わせて、0016早来(はやきた)、0033苫小牧、0072札幌、0121池田、0215野辺地(のへじ)、0241十和田、とした。池田(町)は帯広市の少し東にある。野辺地と十和田(市)は青森県である。
 これらの観測地点における地震波形をコピペして、P波とS波の初動位置を特定した。
 P波の初動位置はかんたんに見つけられる。ベースとなるノイズ波形から、地震振動が始まるところである。
 S波の初動位置はむつかしい。私は40歳代のころ地震波形を観測して解析する仕事についていた。弾性波探査というもので、ダイナマイトの爆発などによる地震波形を、地表に並べた観測機器で記録して、それらのデータから、地中の様子を解析するのである。どちらかというと、自然地震ではなく、人工地震のデータのほうを見てきたことになる。
 ダイナマイトではなく、地面に丸い鉄板を置いて、金属ハンマーでたたいて振動を起こすという方法もあった。これも人工地震と言えよう。
 ただし、私が見てきたのは、もっぱら、変位波形である。これを時間微分すると、速度波形となり、さらに時間微分すると加速度波形となる。
 このようなわけで、今回のデータのような加速度波形は、あまり得意ではないが、私なりにS波の初動位置を判定してみた。
 青い縦線がP波の初動位置で、赤い縦線がS波の初動位置である。ペイントで箱を描く機能を使って、時間軸のところまで縦線を伸ばした。




図3 6つの観測点における地震波形のP波とS波の初動位置

 P波とS波の速度

 図3に示した6つの観測点における地震波形のP波とS波の初動位置の時刻を読み取り、震央距離と到達時刻を、表1としてまとめた。
 このデータにもとづき、P波とS波の距離と時間の対応を図4としてまとめた。
 これらのデータを数学的に処理して、直線を決めるのが本来の方法であるが、ここでは目測で判断して引いた。
 図4のグラフによる解析で推定される、この地震の震源における発振時刻は、びったり、3時8分00秒であった。
 横軸の数字は震央距離であるが、これは地表で計測した距離であり、震源の深度は37km(推定値)なので、震源からの距離は震央からの距離より、少し長くなる。



図4 P波とS波の距離と時間の対応

 表1の中に入れた0200(推定)の観測点は、P波とS波の速度を求めるための、仮想の位置である。震央距離200kmは、図4のグラフによる解析から、震源からの距離として220kmであると分かる。
 この距離をP波は29秒で走っているから、P波速度は 220/29=7.59 [km/s] となる。かなり速い。
 S波は56秒で走っているから、S波速度は 220/56=3.93 [km/s] である。これもS波としては、かなり速い。
 硬い地殻を通る地震波の速度としては、まずまず妥当な値と言える。

 考察

 今回の「北海道胆振(いぶり)東部地震」の本震と考えられる、2018年9月6日午前3時8分00秒の地震で、「P波が無い」とみなされるのは誤解であり、P波は確かにある。
 S波もある。
 (Written by KLOTSUKI Kinohito, Sep 9, 2018)

 参照資料

[1] 「防災科学技術研究所」

 

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