ADAMS,MAY,IKD選手の踏切3歩前から踏切までのキックポイント

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)

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 ADAMS 選手は踏切3歩前では、通常のランニングフォームであるが、踏切2歩前では、少し腰高のポーズをとっている。この1歩を少し高い重心で跳んで、続く、踏切1歩前では、沈み込みやすくしておくというフォームかもしれない。

 これに対して、右端にある、IKD 選 手の踏切3歩前から踏切1歩前では、身体重心直下より、かなり後方でキックポイントを生み出しており、特に、踏切2歩前のフォームでは、身体重心の鉛直速度もマイナスの値で、ここで深く沈み込もうとしていることが分かる。ひょっとすると、この踏切2歩前の動作のため、その前の、踏切3歩前のキックで、いく ぶん力を抜いているのかもしれない。しかし、踏切直前の、1歩前では、このような、身体重心の低いフォームで、かなり大きな速度を生み出している。複雑な動作を組み合わせて、かつ、大きな水平速度を生み出そうとしていることがうかがえる。

 そこで、中央に並べてあるMAY 選手のフォームに目を移すと、踏切前の特別な動きは、踏切1歩前に見られるぐらいで、あまり複雑なことはやっていないように見える。しかし、MAY 選手は、この、踏切2歩前から踏切にかけて、助走速度をうまく高めているのである。実は、踏切3歩前までの助走速度は、他の選手ほどには速くない。そして、シンプルな動作で踏み切ってしまい、それでも、けっこう記録がでるわけである。
 ADAMS 選手とMAY 選手は、踏切において、身体重心の水平速度と鉛直速度が、ともに増大する区間が長いが、IKD 選手では短くなっており、その前に、身体重心の水平速度を減らしつつ鉛直速度を増やす区間がある。この跳躍では、水平速度をあまり減らしていないようだが、他の跳躍で、もっと極端に水平速度を減らしているケースが見られる。
 これらのランニングフォームについて、キック脚の膝下部分が受け持つ速度 VX(kn) (オリーブ色)と、キック脚の膝上部分が受け持つ速度 VX(th) (緑 色)のパターンを比較してみると、いろいろな組み合わせのものがあるということが分かる。ここでは、踏切前の動き方が、それぞれ異なるシステムで構成され ていると考えられるので、単純に比較できないが、通常のランニングフォームにおけるパターンを調べると、ランニングスピードを高めるための条件のようなも のが分かることがある。踏切でのパターンを比較してみると、ADAMS 選手とMAY 選手が、キック脚の膝下部分が受け持つ速度 VX(kn) (オリーブ色)を、ある値で維持していようとしているのに対して、IKD 選手は、キック脚の膝下部分が受け持つ速度 VX(kn) (オリーブ色)が急激に低下して、代わりに、キック脚の膝上部分が受け持つ速度 VX(th) (緑色)を増大させようとしていることが分かる。このことと、このときの姿勢から見ても、このとき、キック脚の膝下部分には、じゅうぶんな力がこめられていないと考えられる。
 これらのグラフの下端を0線として、身体重心を規準にしたときの、スウィング脚重心の水平速度 VX(sw) がプロットしてある。直接、これらの鉛直速度についてもプロットすれば明らかなのだが、MAY 選手の踏切で、離陸寸前に、この水平速度 VX(sw) が減っていることが分かるが、おそらく、このとき、スウィング脚は、それまで持っていた運動量を、鉛直方向の成分へと変換したとみなせるわけである。
 走幅跳の助走 と踏切は、このように、いろいろと調べてみると、かなり複雑な現象が潜んでいるということが分かってくる。これらの性質や特徴をどのように利用して、記録を伸ばしてゆくのかというところは、おそらく、各選手の身体能力や経験をふまえて、いろいろと考えてゆかなければならないことだろう。

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