高速ランニングフォームのための基礎能力2/速筋補強のコツ
Basic Ability for High-Speed Running Form (2)
/ Art of Fast Muscle Reinforcement

黒月樹人(Kinohito KULOTSUKI)@黒月解析研究所


PDF 高速ランニングフォームのための基礎能力2/速筋補強のコツ

「スポーツ解析」ブランチページへもどる

 はじめに

 次の項目について解説するつもりで、ほぼ2年間が経過した。
  <1> トランポリンジャンプ
  <2> ウェイトつきトランポリンジャンプ
  <3> エネルギーシステムの強化とリラクセイション
  <4> クレアチンリン酸
  <5> グリコーゲン

 これらについて独立に説明するのではなく、次の2つの枠組みを持ち出して、より総合的に語ることにしたい。
  ◇1 速筋補強のコツ(<1>, <2>)
  ◇2 ランニングのためのエネルギーシステム(<3>, <4>,<5>)


 ◇1-1 速筋補強のコツ

 筋肉には速筋と遅筋の違いがある。げんみつに言うと、この中間的なものもあるようだ。速筋と遅筋の配合は、遺伝子によって、ある程度決まっているようで、昔、中学生たちを指導していたとき、兄弟姉妹で得意種目が同じになってしまうという現象を、たびたび観察した。スプリンターやジャンパー、そして、投擲選手は、速筋繊維の多い筋肉をもっている者のほうが有利であり、長距離選手では、その逆の、遅筋繊維が多いほうがよい。これらの成分比の違いは、げんみつに言うと、注射器の針を筋肉に刺して筋組織を抽出し、染色をして顕微鏡で観察するのだそうだが、たぶん、これはかなり痛い。そのようなことをしなくても、短距離走の記録や、立ち三段跳びなどのバネの記録と、長距離走のタイムをとって、グラフにプロットしてみれば、おおよそのことが分かる。ただし、中学生などの成長期まっただなかの選手では、まだ筋肉が発達しきっていないことがあり、判断が難しい。
 陸上競技の種目には、速筋中心の選手や、遅筋中心の選手ではなく、その中間の、いろいろと混じっていて、あまり偏りのない筋肉となる遺伝子をもっている選手にも、ちょうど良い種目が幾つかあるので、救われる。走る種目では中距離走があり、跳ぶ種目では、棒高跳のような技術的に複雑なものは、筋繊維の種類にこだわる必要がない。かなり難しい種目ではあるが、女子の七種競技は、かなりバランスのとれた種目で構成されている。男子の十種競技については、速筋繊維が多いほうが、高得点に結びつく。
 速筋と遅筋の成分比は遺伝子によって、ほぼ決まっているとしても、トレーニングによって、それらの筋繊維の太さを変えることができるので、ある程度、体の能力を変えてゆくことができる。
 ウェイトトレーニングというものがある。体重をいくらでも増やしてかまわない、無差別級主導型の、投擲種目では、このようなウェイトトレーニングで筋肉量をどんどん増やしてゆけばよいということになる。ところが、跳躍や短距離走においては、自分自身の体重を移動させることが問題となるので、ことは単純に片付かない。これらの種目が混じっている混成種目でも、体重のコントロールをしながら、筋出力を高めるという問題に悩みながらトレーニングすることになる。
 速筋繊維を発達させるには、通常のウェイトトレーニングとは、少し異なるコツがある。このコツを知ってトレーニングしないと、オーバーウェイトとなったり、筋出力が高まらなかったりして、強くなりたいという目的に合わなくなってしまう。
 通常のウェイトトレーニングでは、自分の意志と努力によって、筋肉に命令を出し、重いものを持ちあげるとか、遠くへ投げるとかの動作を行う。このとき、筋肉は縮むことによって力を生み出している。
 ところが、これでは速筋繊維は発達しない。速筋繊維を発達させる。つまり、速筋繊維を作りかえるためには、外から大きな力を加えて、筋肉が伸びるときに、その筋肉が抵抗するようにして、大きな力を出さなければならないのである。通常のウェイトトレーニグでの力の出し方と、まったく逆になっている。このようなとき、筋繊維は、自分で出す力よりも、何倍も大きな力につりあう力を生み出す。これには、細胞としての筋繊維の構造などの耐性も関係してくることだろう。
 そして、外から大きな力を加えられ、それに筋繊維が対抗するとき、筋肉細胞の中で、ある種の破壊が起こり、その後、しばらくの間、その筋肉は正常に力を生み出すことができず、壊れた状態となる。これが、一般的に言われている、「筋肉に身が入った」というときの現象である。このような外力による「危機」を回避しなければならないと肉体が判断し、より大きな外力に耐えうる筋組織を生み出そうとする。かくして、もっぱら、速筋繊維が中心的に強化され、太くなるのである。
 このような速筋繊維トレーニングが効果的だったかどうかは、二日後に分かる。筋肉の破壊は、すぐには行われず、ほぼ一日はなんともないのだが、二日後に、当該筋肉に激しい痛みが生じ、ほぼ使いものにならない状態となる。ランニングや跳躍のための速筋トレーニングをしっかりやった二日後の朝は、布団やベッドから起きるのが困難となり、会社や学校にゆくのがむつかしい状態になる。しかし、それで何もかも活動しないですむわけにはいかず、ほぼリモートコントロールのロボット状態となった肉体に乗って、日々の活動を続けなければならない。もちろん、陸上競技のトレーニングとしては、あまり出来ることはない。腹筋や背筋、あるいは上半身の補強をするなり、補助員やマネージャーやグラウンドキーパーのような立場を貫いて、肉体的には休養すべきである。
 この筋肉痛が消え去って、肉体のコンディションが良くなったとき、ふと感じてみると、より強くなっていることに気がつくことだろう。

 ◇1-2 速筋強化のための効果的なトレーニング

 ウェイトトレーニングにおいて、最大荷重でバーベルを上げ下ろしするのではなく、最大荷重の80%とか60%とかの重さで、スピードを高めて行い、反復回数も多くするというものが、このような速筋強化に役立つと考えられて、取り組まれた。
 低い飛び箱のようなものを並べて、そこへ飛び乗り、さらに、飛び降りたとき、そのまま、次の台へと飛ぶことが、ジャンパーやスプリンターの筋力強化に役立つと考えられた。
 三段跳という種目は、速筋強化のトレーニングとして、効果がありすぎるくらいであるが、あまりに強度が高すぎて、数多く反復することができない。
 色々な高さのハードルジャンプも、ほぼ、これらと同じ効果が期待できる。しかし、限界ぎりぎりの高さのハードルを飛び越えるトレーニングでは、疲れが出てきたとき、ハードルを越えそこなって故障することがある。この状態を恐れるあまり、余力を残すような高さや回数にしてしまうと、効果的にトレーニングすることができない。
 ミニハードルによって、ハードル間の距離をコントロールして、各種の跳躍運動を行うことも、速筋繊維強化のトレーニングとなる。これも、とことんまで疲れさせて行うには危険をともなう。
 そこで、最終的に私が採用して、多くの選手に勧めてきたのが、バーベルはもちろん、踏み台やハードルなどの器具を使わない、身体のみを使ったリバウンドジャンプである。
 もっともシンプルで、古くから行われているのが、片足跳躍走である。片足だけでケンケンして行う鬼ごっこなども、ルールを工夫して、たくさんやらせた。距離やスピードに変化をつけて、いろいろなレベルで負荷をかけることができる。
 もうひとつ、非常にシンプルで、アフリカのどこかの種族がダンスの一種として行っている、「連続垂直リバウンドジャンプ」である。私は「疑似トランポリンジャンプ」と呼んでいた。トランポリンをつかって立ち飛びを続ける動きを、トランポリンを使わないで行うので「疑似」とつけた。呼び名は「アフリカンダンス」でも「連続落下ジャンプ」でもかまわない。両足による真上へのジャンプである。空中からの落下を足首のバネで受け止め、ボールがバウンドするように、何度も上に飛び上がる。運動エネルギーを補うため、バレーボールのアタッカーのように、両腕によるスウィングを利用する。
 土のグラウンドや、オールウェザーのゴムの上、あるいは、体育館などの板張りの床のような、少し弾力のある面で行うべきであり、決して、コンクリートやアスファルト面の上で行ってはならない。
 回数に指定がある。経験的なものであるが、連続60回を1セットとして5〜10セット行う。窓ガラスのようなものか鏡があれば、それに自分を写して、高さを確認しながら行うとよい。ミニハードルを越えるといった用具を利用してはならない。これは、オールアウトになるまで追い込んでも故障しないために重要なことである。
 けっきょく、この運動では、比較的小さな負荷でありながらも、高い所からの落下を足首まわりの腱や筋肉で受け止めることによって、筋肉に外力を加え、さらに、回数で追い込むことにより、筋肉をオールアウトにもってゆく。事故による故障を避け、効果的に、どのような能力の選手に対しても、それなりの運動効果をもたらすことができる。
 片足跳躍走でも応用できるが、この「疑似トランポリンジャンプ」の負荷量を段階的に高めてゆくため、胴体に「おもり」をつける方法がある。かつては、その「おもり」として、自転車の古チューブに砂を入れ、両端を紐でくくって砂が漏れ出さないようにし、その紐で腰に巻き付けた。当時入れていたのは砂だったが、砂鉄が手に入れば、もうすこし重くできる。東京で活動していたとき、東急ハンズで鉛塊が売られていたので、それを加工し、自転車のゴムチューブに入れたり、皮を加工して巻きこんで、腰に装着できるようにした。最終的に私が使っているのは、市販されている、ウォーキングの負荷として利用する、足首に巻きつけるタイプの「おもり」である。これに金属リンクや布ベルト、プラスチックのバックルなどを組み合わせて、柔らかいチャンピオンベルトのようなものを作った(図1)。



 この「おもり」には、おそらく砂鉄が入っているものと考えられる。運動中も、重いだけで、振動などでの痛みを感じることはない。市販の「足首おもり」は左右2セットあるので、2つ制作することができる。体重80キロ台の私で、一つ1.5kgのものを使用しているので、女子なら1kgのもので、男子なら1.5kg〜2kgのものでよいはずである。
 私がランニングやスキップAなどの補強で「ウェイトつき」と表わしてある運動は、ほぼ、このような、1kg〜4kgの加重を腰につけたものと考えてほしい。ランニングやジャンプでは、ほぼ1セットで、運動自体の強度が弱いスキップAや、スピードを追求しない片足跳躍走、クレアチン燐酸エネルギーシステム強化のための60mダッシュでは、スピードを抑えた状態(コントロールスピード)で、2セット装着することもある。

 (Written by Kinohito KULOTSUKI, Aug 29. 2011)

「スポーツ解析」ブランチページへもどる