中長距離ランニングフォーム解析 (2)
Y57選手とT59選手の800mペース走は直走路と曲走路で何が違うのか

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)@ 9621 ANALYSIS

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 はじめに

 中長距離ランニングフォーム解析(1)では、Y57選手の直走路における800mペース走について詳しく調べました。この流れでゆくと、今回の(2)では、Y57選手の曲走路における800mペース走について解析すべきかもしれませんが、T59選手(私Treeman9621の略記号)の直走路と曲走路における800mペース走についての解析も加えて、それらの比較により、800mペース走におけるランニングフォームの違いを調べようと思います。

 スピード能力3要素と全身速度dGの関係

 図1は「Y57選手とT59選手の直走路と曲走路におけるスピード能力3要素と全身速度dGの関係」をまとめたものです。


図1  Y57選手とT59選手の直走路と曲走路における
スピード能力3要素と全身速度dGの関係

 Y57選手は、曲走路の中盤において、スピードアップを試みています。全身速度dGの変化を見ると、塗りつぶされたプロットの右脚キックと、中空プロットの左脚キックとで、加速能力に「差」があることが分かります。dGの変化に、キック脚重心水平速度dKの変化が伴っています。キック脚によるdKエンジンが、このときの加速のベースとなっています。この中盤スピードアップの終わりごろから、ヒップドライブ速度p(dT-dK)が大きくなっていますが、全身速度dGは、さほど加速されていません。相対スウィング速度q(dS-dB)は、ほぼ一定の値で推移しています。
 T59選手のケースでは、直走路と曲走路において、とくべつな違いは見当たりません。Y57選手のデータと見比べることにより、T59選手の特徴が浮かび上がってきます。T59選手は、左脚キックでときどき大きなスピードを生み出すことがあり、dKエンジンがそのベースとなっています。このとき、ヒップドライブ速度p(dT-dK)も協調しているようです。しかし、それ以外のキックフォームにおいてヒップドライブ速度p(dT-dK)は、あまり強調されていません。相対スウィング速度q(dS-dB)は、ほぼ一定の値で推移しています。
 Y57選手のdGグラフで、上に突出しているピークでのフォーム(加速フォーム)は、ガンマクランクキック(γ)とデルタクランクキック(δ)の2種類となっています。これに対してT59選手のdGグラフでの加速フォームは、ガンマクランクキック(γ)、ガンマデルタクランクキック(gd)、アルファクランクキック(α)、ベータクランクキック(β)となっています。Y57選手においても、アルファクランクキック(α)やベータクランクキック(β)は出現していますが、いずれも加速フォームとしては利用されていません。
 直走路と曲走路のランニングフォームの違いとして、「曲走路においては右脚キックフォームと左脚キックフォームに何らかの違いがある」と予想していたのでしたが、このような、800mペースのランニングにおいては、一般的に成立することではなく、Y57選手がスピードアップした数歩においてだけ、「曲走路における左右の違い」が現れました。このとき、曲走路の内側に着く、左脚キックフォームのほうが(dGグラフのピークとなる)加速フォームとなっています。これは、曲走路の内側のキックフォームのほうが、高速ランニングフォームとしてのガンマクランクキックを生み出しやすいという、これまでの経験と合っています。曲走路においては、内側の左脚キックがより強くなり、加速フォームとしての効率も良くなると考えられます。

 特徴的なキックフォームの比較(Y57選手)

 図1の解析グラフを見て、特徴的なキックフォームを幾つか選び、それらの、キックフォームステックピクチャー表示と、ランナー感覚の動きを描きます。
 Y57選手に関しては、曲走路における、解析9歩目のガンマクランクキックγ(9)と、解析6歩目のガンマデルタクランクキックgd(6)と、解析11歩目のデルタクランクキックδ(11)を観察します。これらはいずれも、曲走路における(dGグラフのピーク位置にある)加速フォームです。


図2 Y57選手 曲走路γ(9)


図3 Y57選手 曲走路gd(6)


図4 Y57選手 曲走路δ(11)

 Y57選手の、図2〜図4のキックフォームを観察すると、図1では最も大きなdG値を生み出している曲走路δ(11)では、キック脚の動きが大きく(詳細フォームの面積が大きい)、使ったエネルギーも、それに応じて大きいものだったと考えられます。短距離種目のランニングであれば、絶対値としてのdG値が大きいということは重要なことですが、800mなどの中距離種目においては、出力エネルギーと得られる速度との関係も考慮する必要があります。
 図3の曲走路gd(6)は、かなりの腰高フォームで、接地時に沈み込んだものの、そのとき得られている位置エネルギーの蓄えを、再び、高く跳ぶための位置エネルギーにあてていることとなり、水平スピードを効率よく高めるものとはなっていません。
 これらの中で、出力エネルギーと水平速度の、両方を考慮して、もっともすぐれたものは、図2のガンマクランクキック曲走路γ(9)です。大きなキック脚重心水平速度dKの値が生み出されており、他の2つのスピード能力が平均的なものであっても、大きなdG値となっています。このフォームを安定的に、かつ、意図的に

 特徴的なキックフォームの比較(T59選手)

 T59選手に関しては、まず、直走路の解析10歩目のガンマクランクキックγ(10)と、曲走路の解析5歩目のガンマクランクキックγ(5)を取り上げます。これらは、いずれも、キック脚重心水平速度dKとヒップドライブ速度p(dT-dK)が、ともに大きくなって、全速度dGの値を大きくしているフォームで、ランニングフォームの効率として理想的な加速フォームとなっています。もう一種類、これに次ぐ加速フォームとして、直走路のガンマデルタクランクキックgd(3)と、曲走路のガンマデルタクランクキックgd(2)を取り上げます。


図5 T59選手 直走路γ(10)


図6 T59選手 曲走路γ(5)

 図5と図6に示したT59選手のガンマクランクキックは、動きが小さいにもかかわらず、もっとも大きなdG値を生み出しています。このとき、大きなdK値だけでなく、適度に大きなヒップドライブ速度p(dT-dK)も生み出しており、効率的なランニングフォームとしては、(自画自賛ではありますが)理想的なものと考えられます。このようなフォームを連続して生み出せれば、きっと、速く走れるのでしょうが、まだまだ、そのような状態には至っていません。ここのところが、トレーニングの妙であるとも言えます。


図7 T59選手 直走路gd(3)


図8 T59選手 曲走路gd(2)

 図7と図8はT59選手の直走路gd(3)と曲走路gd(2)です。いずれもガンマデルタクランクキックgdですが、ここに並べて観察してみると、大きな違いがあることが分かります。解析データをまとめたノートで確認したところ、直走路gd(3)は腰高フォームであり、曲走路gd(2)は中腰フォームでした。図1の解析結果より、全重心水平速度dGの値は、いずれも7 [m/s] くらいです。キック脚の動き(詳細フォームの面積)を見て、出力エネルギーの大小を推定すると、やはり、中腰フォームの曲走路gd(2)のほうが優れていると考えられます。

 dKエンジンに関しての解析データも準備してありますが、説明の観点が多くなりすぎてしまいますので、それについての解析は、次のページで行いたいと思います。
 (Written by Kinohito KULOTSUKI, July 21, 2013)

 

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