短距離ランニングフォーム (4) IH選手
IH選手はサバンナキック加速フォームのコツをつかんだ

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito @ 9621 ANALYSIS)

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 ビデオ画像コマによるステックピクチャー

 IH選手に高速ランニングフォーム(サバンナキック)の走り方を指導しました。実際にどのようなフォームとなっているかを確認するため、フォームに注意して走ってもらい、それを撮影して解析しました。
 次に示すのは、ビデオ画像コマの静止フォームから構成したステックピクチャーです。青が左を、赤が右を示すようにしてあります。@などの奇数番号は右脚キックで、Aなどの偶数番号は左脚キックとなります。






図1 ビデオ画像コマによるステックピクチャー

 IH選手とAT選手とHR選手に、私は高速ランニングフォームを指導するとき、「世界の一流選手が使っている、もっと速く走れるフォーム」を教えると説明しました。
 初めにスキップAをきちんとなぞらせました。スキップAでは、もも上げ運動ではなく、脚を下におろすほうに意識を強く持ちます。膝は、地面をキックした反動で浮く程度に上げればよいこと、足首に力をこめてバネを感じさせることなどを注意して、私がやってみせて、真似させました。
 次にスキップBをやってもらいました。そして、スキップAからスキップBへと変化させ、高速ランニングフォームとしてのガンマクランクキックになるような運動を、私がやって、真似させました。
 しかし、途中にスキップBを入れると力が入りにくいように思えたので、スキップAから、水平スピードを上げていったスピードスキップAへと移り、そのまま高速ランニングフォームとしてのガンマクランクキックへ向かうことにしました。
 この段階でHR選手は高速ランニングフォームの動きになじんできました。AT選手は、上体を突っ込む姿勢と、やや後方でキックするという、自分の型が強く染み込んでいるので、なかなか真似られないようでした。これに対してIH選手は、私の動きをしっかりと真似すぎて、後方に残したスウィング脚の膝を伸ばしぎみにして、いわゆる、「スリ足走法」と呼ばれるものになっていました。おそらく、私の走る姿を外から見ると、スウィング脚を伸ばしぎみに引きだすところが目についてしまい、そこのところを真似なければいけないと思ってしまうのでしょう。
 このことに気がついて私はIH選手に、「スウィング脚は巻き込んでもよい」ということと「もっと大切なのは、キック脚の蹴り方のほう」だということを(たぶん)述べました。
 そして、IH選手は自分なりに体をあれこれと動かして、「キック脚の蹴り方」という要点をこなしながら、スピードが乗ってゆく、スウィング脚の扱い方を見出しました。そして、「これは速く走れる」とつぶやいて、ぐんぐん加速できるようになりました。
 このとき、私は、あまりうまく教えられなかったように思えますが、IH選手は、私の走っている様子と、幾つかのヒントを手掛かりとして、高速ランニングフォームのコツをつかんだようです。スポーツのトレーニングというものにおいては、ときどき、このようなことが起こります。私も、何から何まで、誰かから教わったというよりは、見て、やってみて、いわば、「人から盗んだ」という技術を寄せ集めてきたのです。
 高速ランニングフォームについての知識については、数多く見出してきた私でしたが、実際に高速ランニングフォームで走るという実技の面では、教えたほうのIH選手に先行されてしまったようです。そこで、IH選手がどのように走っているか、そして、AT選手とHR選手の走り方はどのようになっているかということを知るため、ビデオで撮影し、それを分析することにしました。
 その結果の一部が、今回の解析です。高速ランニングフォーム体験一日目でしかないIH選手のフォームが、図1に示してあります。絶対的なスピードは、もちろん、まだまだのレベルですが、これからどんどん速くなってゆく感じがします。
 詳しい解析によって明らかになったデータによると、これらのフォームの中では、3歩目(B)のものが、もっともすぐれています。地面を蹴る一瞬にパワーをこめる「空手パワーキック」がうまく行われており、体重の7.3倍相当の力が生み出されています。このとき、スウィング脚重心の速度も大きなものとなっており、しかも、ダウンスウィングとなっています。「これらの組み合わせがうまくいくと速く走れる」ということをIH選手は、自分の体をつかって味わったようです。

 キック局面のフォーム

 図2は「キック局面のフォーム」として「(左)接地4コマ、(中)有効キック区間、(右)キックポイント」を並べたものです。






図2 キック局面のフォーム
(左)接地4コマ、(中)有効キック区間、(右)キックポイント

 図2の「(左)接地4コマ」でBを見ると、右から2つのフォームでキック脚が膝で適度に曲げられ、全身の体重がキック足の裏を伝わって地面へと乗っている感じがします。そして、そのことによる伸張反射が起こり、3つ目のフォームでキック脚の足首と膝の角度が一気に変わって、GO軸を伸ばすことになり、これらのクランク構造により、腰を水平方向へと大きく前進させています。
 スウィング脚の膝は、高く上げようとしないで、膝に意識を集めて前進させようとし、このとき、膝下部分には力を入れないで、自然と下前方へと動くようにしています。このあたりの動きは、私のものとよく似ています。要するに、私のフォームにおいて、後方から引き出すスウィング脚を、もっと巻き上げてもかまわないというところだけ自己流として、残りの動きを私のフォームから真似たという感じです。
 それなら私は、逆に、IH選手のスウィング脚の運び方を真似ればよいのです。実は、そのように、少し巻きこんでダウンスウィングとするというフォームを身につけようとして反復しているのですが、ついつい忘れてしまうことがあるのです。おそらく、この日はすっかり忘れていたようです。
 IH選手のCとDのフォームでは、重心直下を真下へとキックするということを、追い求め過ぎたもののようです。アルファクランクキックやベータクランクキックで高速フォームを生み出すことは、あまりありません。身体重心直下(GO前傾角が0度)から力を入れ始めて、わずかばかり(およそ1/60秒)の時間、その力を地面に加えなければならないので、その終わりの瞬間のフォームとしては、ガンマクラクキック(GO前傾角で10度前後)となるのです。
 ここで、GO前傾角とは、全重心(G)と、キック足の支点(O)(スパイク面の拇指球あたり)を結ぶ線GOが、鉛直線から前に傾く角度のことです。
 このような言葉の定義を理解するより、図2の「(右)キックポイント」のフォームを見て、@〜Bのガンマクランクキックが、他のフォームとどのように違うかを見たほうが分かりやすいと思います。
 このようなフォームだけではなく、実際に、どのようなパワーを生み出すかということが伴わないと速く走れません。そのように出来るよう、ランニングトレーニングにおいて、何も考えずに走るのではなく、大切なことを何度も意識して走るようにしてください。すると、いつのまにか、あまり意識しなくても、ふと思って「スイッチを入れる」だけで、自分の体が自動的に動くようになるというわけです。
 (Written by KULOTSUKI Kinohito, Jan 31, 2013)

 

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