短距離ランニングフォーム (5) TS選手
TS選手の中腰ベータクランクキックを調べよう

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito @ 9621 ANALYSIS)

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 TS選手の中腰ベータクランクキック

 TS選手のスプリントランニングについて「短距離ランニングフォーム解析 (27) TS選手のスプリント中間疾走の詳細重心解析」でとりあげました。
 ここでは6歩について調べていますが、実は7歩目も解析してありました。しかし、これらの5歩目や7歩目は、明らかに、しっかりと走るのをやめて、力を抜いていたものでした。間にある6歩目でも、力は抜いていそうでしたが、惰性でしょうか、大きな速度となっていました。
 これらの7歩を解析したあと、もっとしっかり力が込められているフォームは、それらの7歩の前にあるのかもしれないと思い立ち、その前の区間におけるランニングフォームを調べることにしました。
 それらの7歩について調べましたが、ちょうど7歩目、上記解析での番号と対応させるとしたら、0歩目に相当するものが、このときのランニングのトップスピードとなっていました。
 これが、今回とりあげる「TS選手の中腰ベータクランクキック」です。

 画像コマのステックピクチャー

これらの解析の手と脚は、赤が右を、青が左を示しています。


図1 画像コマのステックピクチャー(1歩の動き)


図2 画像コマのステックピクチャー(キック区間)

 図1の中から3〜6だけを取り出したものが図2です。3ではまだ地面にしっかりと接地していません。6ではすでに離陸し始めています。
 これらの4つのフォームをベースとして、これらの間にある詳細フォームを構成します。これは、それぞれのパーツ(ステック部分)の姿勢角がなめらかに変化してゆくとして、再構成したものです。
 このフォームにおいては、4と5の間を10分割した詳細フォームが、次の「有効詳細フォーム」となります。


図3 4と5から再構成した詳細フォーム
(@〜Bは図4のものと対応させるために添えたもの)

 有効詳細フォームとキックポイントのフォーム

 キックポイントのフォームというのは、このキック動作の中で、身体重心の水平速度(図4でのdG)がもっとも大きくなるときのものです。


図4 有効詳細フォームとキックポイントのフォーム



 @は有効詳細フォーム(有効キック区間)の開始フォームで、Bが終了フォームです。Aはキックポイントのフォームです。
 重心の色は、キック棒(キック脚と上半身のセット)が濃い黄色(左脚キックのときは水色)、全重心が黒色、スウィング脚が、それらの表示色(ここでは紺色)となっています。
 飛値(step) 1で記した、左の解析図における重心の動きを見ると、いずれも、ほぼ水平に移動しています。キック脚のかかとのところが大きく動いています。
 右の図でGO軸がどのようなものかを確認しておいてください。このときの動きでは、GO軸がしっかりと長くなろうとしています。そして、このときのGO軸がのびきってしまうところではなく、のび始めようとして(@)、詳細フォームで5つのところにキックポイント(A)があります。わずか1/60秒です。この間に力が生み出されて、このときのランニングスピードが決められるのです。
 ちょうど@のところにおいて、キック脚を強く動かしてパワーをこめ、同時にスウィング脚も、ピッチを上げて走ろうとする感覚で、力を込めて強く振り出します。しかし、そのとき、スウィング脚は@からAまで動けば、その役目は終わります。Bまで惰性で動くことでしょうが、それよりあと、あらためて力を入れ直して膝を高く引き上げる必要はありません。
 スウィング脚の膝から下の部分(下肢)が前方の下へと振り出されることもありますが、これは、@からAの間で、自然に起こることであれば問題ありません。しかし、Aよりあとで、意図的に振り出そうとするのは、身体重心の向きを下げたいとき以外は、あまり役立ちません。
 スウィング脚は、@のとき、どのような姿勢で、どのような位置にあってもかまいませんから、この瞬間に力をこめて、ピッチアップするという意図をもって、パワーをこめて前方へと1/60秒だけ振り出せばよいのです。
 キック脚のパワーとスウィング脚のパワーとを、ひとつのものとして生み出すことを目指してください。

 総合解析


図5 総合水平速度グラフと補助図

 図5の「フォーム分類グラフ」では、Aのキックフォームにおける、キック脚の、すねの姿勢角(下端の足首から後方へ伸ばした水平線からの角度)をθsとし、太ももの姿勢(下端の膝裏から後方へ伸ばした水平線からの角度)をθtとして、図に描いた領域で区別しています。
 このときのAは中腰ベータ(β)クランクキックとなります。ほぼ標準の腰の高さでもあり、ガンマ(γ)クランクキックに近いものと言えます。
 「総合水平速度グラフ」を見ると、このときのフォームについて、いろいろなことが分かります。このときのパターンは、たびたび紹介しているガトリン選手の中腰ガンマクランクキックのもの[1] と、内容として、とてもよく似ています。つまり、世界の一流スプリンターであるガトリン選手の技術を、ほぼ、なぞれているということになります。


図6 鉛直速度グラフと水平速度グラフ

 TGB鉛直速度グラフでは、ほぼ水平となっています。SK鉛直速度グラフからは、スウィング脚がほぼ水平に動かされていることが分かります。
 (Written by KULOTSUKI Kinohito, Feb 5, 2013)

 参照資料

[1] ガトリン選手の中腰ガンマクランクキックGat(gck)
 図Dと図Eのグラフの値は、上記TS選手と比較するため、身長を同じにし、ビデオ画像の速度を調整して、dGが10.0m/sとなるようにしました。


図A 画像コマのステックピクチャー(1歩の動き)


図B 画像コマのステックピクチャー(キック区間)

 1つ目のフォームは接地しているかもしれませんが、まだ力をこめていないように見えます。2つ目からキックとスウィングの動きが始まります。1つ目のポーズを見ると、かなりスウィング脚を「跳ね上げ」ており、2つ目から3つ目のところで、スウィング脚の膝が前方へと突き出され、膝下部分(下肢)が自然と下方へと振り降りています。これは意図的な動きではないように見えます。
 図Aの動きも参照すると、ガトリン選手は、スウィング脚のかかとをお尻のところまで巻き上げようとはせず、軽く上へと跳ね上げ、その状態で少し溜(た)めているように見えます。このことは、キック脚との位置関係ではなく、上半身との位置関係を見ることによって分かります。
 図Bの2では、スウィング脚の太ももが、キック脚の太ももと同じポジションにあります。これが接地のスタートフォームで、3が有効キック区間の終了となり、それらの中間あたりにキックポイントのフォームがあるわけです。
 スウィング脚を引き出す途中で少し溜(た)めておいて、タイミングを調整しておき、強く速く動かしたいところで、おもいっきり力を込めているのです。スウィング脚の動かし方としては、なかなかに優れたものだと思えます。


図C 有効詳細フォームとキックポイントのフォーム


図D 総合水平速度グラフと補助図


図E 鉛直速度グラフと水平速度グラフ

 図Eより、TGB鉛直速度グラフでは、10[d]のところで、わずかな力が加えられていますが、重心などは、ほぼ水平な動きとなっています。SK鉛直速度グラフからは、スウィング脚がダウンスウィングぎみに動かされていることが分かります。

 

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