高速ランニングフォームのための基礎能力 1
◇B 高速ランニングフォームのための基礎能力

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)

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 高速ランニングフォームのための基礎能力として、どのようなものがあるのか

 まずは、足首まわりの強さ。そして、膝の強さ。さらには、キック脚による、スウィングしてのキック動作の強化。リバウンドジャンプのバネの強化。それから、エネルギーシステムの発達。力を抜くことと入れることの変化、つまり、リラクセイションとアクセントの身体の動きにおけるパフォーマンス。他にもあるかもしれない。
 このように分析するのは、なかなか難しいものだ。
 多くのランナーを育てた、経験豊富なコーチであれば、目の前にいる選手に、いくつかテストを行って、どのような能力が不足しているのかを判断し、それを補うためのトレーニングを考えることだろう。
 生徒を指導していた教師のころ、私は、チームの選手が一人も故障せず、すくすくと能力を発達させてゆけるようにと、さまざまな配慮をしていた。しかし、一般人となり、都市で、ボランティアのコーチのようなことをしていたときは、ほとんど継続して選手を観察することができなかったので、能力を高めるためのノウハウを教えることはできたが、全体のトレーニング負荷についての配慮をすることができず、結果的に、何人もの選手を故障させてしまった。
 これから、トレーニングのための具体的な運動を幾つか取り上げて、それらを行うときの注意点を述べてゆくが、これらのトレーニングが効果を生むためには、日々のトレーニングや、その回復までを考えた、コンディショニングの問題を、それぞれ個別に解決してゆかなければならない。そのことは、結局、このページを読んでゆく選手やコーチの責任となる。

 速筋、腱、靭帯の強化と動き

 スキップA(動き、スピード持久力のための補強)

 「スキップA」という名称は、マック式トレーニングに由来する。しかし、それ以前から、日本においても、この運動に近いものは存在していたし、古くからおこなわれてきた。「腿あげ」あるいは「連続腿あげ」である。しかし、このような言葉に関するイメージでは、脚の腿を引き上げることに着目してしまい、そのような能力を発達させることを目指してしまいがちになる。このような意識をもって行う「腿あげ運動」は、ごく短い距離や回数しか行えない。
 ところが、高速ランニングフォームのために行うべき「腿あげ運動」のスキップAは、「腿あげ運動」と呼ぶより、「腿の振り下ろし運動」と呼んだほうがよいだろう。運動のポイントは、膝や腿を引き上げるほうにではなく、振り下ろすほうにある。膝や腿は、地面を蹴ったときの反動によって、自然に上がるように心掛ける。高速ランニングフォームのメカニズムのため、地面を蹴るときには、足首を固く保ち、踵を地面につけないように心掛ける。結果的に踵が地面についてもかまわない。ここでの要点は、足首の角度をできるだけ固定するように意図して、足首まわりにある腱や靭帯の弾力をバネとして利用することにある。このような注意点のもとで行うとき、無理に膝や腿をあげようとしないので、比較的長い距離で、回数も多く行うことができる。そこで、この運動においては、基本的な継続距離を100mとするのがよいだろう。この距離をこなすという現実に対面したとき、上記の注意点が、すんなりと吸収できるようになる。この運動では、足首や膝への負荷も、それほど大きなものではないので、距離と回数をこなし、基礎的な強化を無理なくおこなうことができる。100mで5本から10本程度行うことができるようにする。これがクリアーできれば、腰に2〜5キログラムほどの重りをつけて行うようにする。

 スキップA→その動きでの自然なランニング

 スキップAの運動とランニングを連続して行うメニューは、何十年も前から、全国の中学校や高等学校のチーム、あるいは大学のチームでも、繰り返し行っている。しかし、それらをグラウンドで観察すると、正しく行っているチームはどこにもないように思える。少なくとも、私が観察したチームの中には、一つもなかった。このメニューの意味は、何十年間も勘違いされたままになっている。私も、かつては、まったく意味のない運動をやらせていた。思い出してほしい、スキップAの運動距離がすぎるや、まったく別の、自分自身にしみ込んだランニングフォームで走りだしたのではないだろうか。
 この運動の意味が分かったのは、まったく最近のことである。「スキップA →ランニング」もしくは「スキップA +ランニング」とあるとき、スキップAに、それとは関係の薄いランニングフォームのランニングを付け加えるのではなく、スキップAの動きからつながってゆくものとして、区切りが分からないようにして、自然とランニングへ変化すべきなのである。このメニューでは、スキップAの動きが、そのままランニングのメカニズムへとつながってゆくべきなのである。
 スキップAの運動では、キック脚は、重心直下を踏みしめるだけである。だが、この動きこそが、高速ランニングフォームの基本的なものであり、この動きにより、ランニングにおける水平加速が成しとげられる。
 このことを体で覚えることなく、これまでは、地面を後ろへと押さなければ水平速度は得られないという考えに支配されて、キック効率が劣るフォームを強化し続けてきたのだ。

 スキップB(動き、速筋強化のための補強)

 スキップBは、スキップAの運動をベースとして、地面をキックした後に引き上げた膝から下の部分を、前方へと振り出して、それを振り戻し、地面をキックするものである。こちらも、何十年と、多くの指導者により、若い選手に教えられてきたはずであり、たいていのランナーは、この運動を行うことができる。
 しかし、その大部分のランナーは、この運動が、大きなスウィングを行って、キック脚の先端部分を後方へと振り戻すスピードを高めるための補助運動だと思っている。私が何百人もの生徒に教えていたころも、そのように考えていた。ただし、この運動は膝への負荷が大きすぎるということで、骨格や靭帯が発育途上であった中学生たちには、故障を恐れて、あまりやらせなかった。
 ところで、このスキップBの運動における要点を間違って教えていたことに気がついたことがあったのだが、そのとき私は教師を辞めていて、指導する教え子もいなかった。せっかく閃いて判断した、スキップBに関する考え方の訂正を、私の記憶だけに閉じ込めておくのは残念なので、かつてのライバルチームの指導者のところへ行って、このアイディアを話した。
 「スキップBをやらせてきたが、この運動で、スイングの大きさだけに集中して、接地時に足首で力を抜き、遅いスピードでだけ前進するようにしていたのは間違いだった。このスキップBの運動が正しく行われたら、自然と移動速度が高まっていって、ランニングスピードとなってゆくはずなのだ。」
 このような内容だった。ライバルだった指導者は、私のチームが勝てないほどのリレーメンバーを育てていいたのだが、やがて、彼の教え子たちは、全国でトップクラスのリレーチームへと変貌した。
 スキップBという運動では、前方で大きく振りだして、振り戻すキック脚の、先端部分の、スパイクをつけた足部分を、足首を固めるように意識して、ハンマーヘッドのようにイメージし、地面の真下へと、まるで杭を打つかのように、振り下ろすべきなのである。このとき、上半身の姿勢を、少し後方へと傾けておくのは、このときの抗力を、鉛直方向へと向けておくためである。かくして、このトレーニングでは、上方へとジャンプして、あまり前進することなく、上方から落ちてくる身体の重みを利用して、大きな負荷を加えることができる。
 このように、上半身を後ろへと傾けておくのは、トレーニング負荷を調節するためのものであり、本来は、上半身を垂直に立て、やがて、前方へと傾けるべきものであったのだ。このとき、高速ランニングフォームのメカニズムが働いて、自然と水平速度が高まり、スキップBという補強ではなく、ただのランニングへと移ってしまう。
 このことは、決して悪い事ではなく、接地時において、足首の力を抜き、力を分散させてしまうことのほうが間違っていたのだ。スキップBという運動は、ランニングスピードを高めるためのものであり、それが効果的に作用したとき、スキップBという運動は消えてしまい、ただのランニングに変わってしまう。それこそが、この運動の存在意義だったのである。

 スキップB→その動きでの自然なランニング

 上記の考察で、明らかになったことだろう。
 スキップBからランニングへと移るとき、スキップBとは無関係の、キック脚を車のタイヤのように見立てたランニングフォームへと、断続的に変化させるのでは、スキップBという補助運動を行う意味がない。
 スキップBからランニングへと移るときは、上半身の傾きを、後傾から前傾へと変化させてゆくにつれて、スキップBの運動が自然と消えて行き、それと同時に、自然と水平スピードが高まって、自然なランニングフォームが現れてくるようにすべきなのである。

 スキップA→スキップB→その動きでの自然なランニング

 上記の説明の、これは単なる応用にすぎない。
 これらの三種類の運動は、自然な変化で、つながっているのであり、高速ランニングフォームの力学的なメカニズムは、スキップAに始まり、スキップBで強化されて、効果的なランニングフォームへと組み込まれてゆく。ここでは、このことを確認できればよい。
 スキップAやスキップBの距離や回数を減らしてゆき、ランナーは、最初の一歩から、高速ランニングフォームを始められるようにする。
 かくして、スキップAとスキップBの運動は、筋力や動きのスピードを強化するための、補強としての運動へと、役目を変えてゆくことになる。

 片脚跳躍走(距離, スピード, ウェイトつき)

 片脚跳躍走という運動の歴史は、かなり長い。初期のオリンピックの時代において、日本のジャンプ陣が活躍していたとき、日本のジャンプ選手が、脚力を強化するための運動として、この片脚跳躍走を繰り返したという。このことを私は、中学一年生だったとき、跳躍パートの先輩から聞かされた。そして、その先輩が私にさせたトレーニングというものが、運動場に描かれてある一周200mのトラックを、片脚でぴょんぴょんと跳び続けるというものだった。これはきつかった。トレーニングの効果が現れてきたのは、二年生の秋ごろからだったか、私は、ようやく、郡の大会で、走高跳で活躍できるようになっていた。もちろん、トレーニングで、この片脚跳躍走だけをやっていたわけではない。
 運動場の200mトラックの中に、走高跳のための砂場があって、ここにある砂をスコップで掘り返し、盛り上げるというのが、走高跳パートの新米がいつも行うべき作業だったが、振り返ってみると、このときの作業によって、背中の筋肉が強化されたようにも思える。グラウンドの端にある、走幅跳用の砂場では、掘り返すだけでよかったから、スコップで砂を放り投げるという作業はあまり必要とされなかった。ただし、棒高跳をやらせてもらうには、やはり、砂を盛り上げなければならなかった。
 近くの山にある、上下差のあるコースでエンドレスリレーをやらされたりもしたが、これもきつかった。ほとんど、むちゃくちゃな、ハードなトレーニングを思いつく先輩達には逆らえなかった。彼らは、県大会や近畿大会で活躍している実力者だったからだ。陸上競技を専門として教える先生は、まだ、県内でも、わずかな状態で、私が一年生のときの陸上競技部の指導者はテニスを得意としていた。しかし、引き受けた陸上競技部で、近畿大会や県大会で活躍するような先輩たちを何人も育て上げたのである。その先生も、私が二年生になるとき転勤してしまい、二年生になったとき、私たちの指導者は三年生の先輩ということになった。
 そして、私たちが三年生になったときには、後輩たちにトレーニングメニューを与えて、私たちが指導するようになっていた。顧問の先生は、見ていないと危険だと考えて、体操部のほうをいつも指導しておられた。
 三年生になった私は、下級生たちにも、片脚跳躍走をやらせた。ただし、200mという距離ではなく、直線の100mというものだったと思う。このとき、私は、下級生たちを先にスタートさせておいて、後から、片脚だけで、走るスピードに近い状態で、追いぬいてゆくのを楽しんでいた。片脚だけでぴょんぴょんしているのに、まるで走っているかのように、脚を大きく回すように動くことができていた。このことを思い出すと、まるで夢のようでもある。
 東京でボランティアのコーチのようなものをやっていたとき、指導していた大学生たちにも、片脚跳躍走を試みさせたが、スプリンターやジャンパーの中に、片脚だけで走れるものは一人もいなかった。垂直跳びは60cmほどしか跳べなかった。明らかに基礎的な能力が発達していない状態でありながら、100mの記録だけは、まあまあのものをもっている。シーズン中は、ほとんどタイムトライアルだけをやっているような状態だった。これでは記録を伸ばす余地がない。もっと潜在力を高めるトレーニングを組み込む必要がある。このことを理解させ、いろいろなことを改善してゆくことにより、42〜43秒台だった男子400mリレーのレベルが、やがて40秒台へと向上した。
 片脚跳躍走のトレーニングを、200mの距離で、100mの距離で、そして、40mくらいの、短い距離で、いろいろなスピードレベルのものを行わせた。そのころ、大学生や高校生たちは、日本のスプリントトレーニングとして、サッカー選手などがやっているダンスのようなものをやっていたが、それがランニングスピードを向上させるために、どのように役立つのか、私には分からなかった。脚の運動として、いろいろなドリルがあって、テキストに載っているものを、実際にやって見せてほしいと頼まれ、何時間もかけて、それらをやったこともある。こんなにバリエーションを広げても、それらが目指しているランニングというものの、力学的なメカニズムが、まだ明らかになっていない状態だった。「はずれ」の運動が、数多く含まれていたとしても不思議ではない。
 高速ランニングフォームの力学的なメカニズムが分かったのは、ごく最近のことであり、私が大学生たちを指導していたころより後のことである。現時点の理解に基づくと、高速ランニングフォームの力学的なメカニズムに沿っている補助運動の中で、もっとも効果的であり、かつ強力なものは、「片脚跳躍走」であるように思う。
 片脚跳躍走においては、キック脚を後方へと流している時間は無い。キックが終わったら、ただちに前方へと運ぶことになる。そのキックも、後方へと押しているのではなく、空中から落ちた瞬間にはじけている。このとき、キック脚に対するスウィング脚の動きも、アクセントを効かせて、このキック脚の弾くキックに合わせなければ、大きな水平速度が得られない。これらの特徴は、まったく、高速ランニングフォームにおけるものと、ほとんど同じである。
 私は、キック脚の動きのピークと、スウィング脚の動きのピークが一致しているようなランニングフォームを「シンクロキック」と呼ぶことにしていたが、スプリントランニングフォーム以上に、中長距離のランニングフォームにおいては、この「シンクロキック」が、数多く現れていた。特に、高橋尚子選手が名手だった。スプリントランニングフォームでの名手は、ガトリン選手であった。
 通常のランニングフォームでは、シンクロキックを探す必要があったが、大きなスピードを生み出すことができているときの片脚跳躍走では、ほとんどがシンクロキックである。このメカニズムなくしては、スピードアップが難しい。このような片脚跳躍走の、トレーニングにおける一つの極が、次の「完全片脚走」というものである。

 完全片脚走(片脚だけによる自然なランニングフォームでの片脚跳躍走)

 現在の私は、これができない。筋肉のバネもないし、体重も重すぎる。指導していた大学生たちも、一人もできなかった。しかし、中学三年生のときの私が、この運動を完全に行っていたという記憶がある。力が未熟な下級生たちをウサギのように逃げさせ、片脚だけで走って、狩りのオオカミの気分で、どんどん抜いて、悦にいっていたのである。そのころの私は、体重も軽く、そのせいで、1500mの生涯ベスト記録も出している。体重と筋力の関係が、特別なものであったようだ。
 おそらく、スプリンターではなく、ジャンパーの中で、あるいは、ハードラーの中で探せば、この運動ができる選手を見つけることもできるだろう。それらの資質をもった選手に、高速ランニングフォームのコツやヒントを指導して、それなりの身体を発達させてゆけば、スプリントを専門にやっている選手を追い抜く可能性があるかもしれない。逆に、スプリント専門の選手は、自分の潜在的な可能性を大きくするため、この運動にチャレンジしてほしい。片脚だけの跳躍走で、まるで、ふつうに走っているかのように、膝を高くあげ、前方で大きくスウィングしてから、地面を蹴り、すぐさま、次の一歩の動作へと移るのである。

 高速ランニングフォームのための基礎能力/前半のまとめ

 完全片脚走と、スキップBを、それぞれ100m続けることができるようになれば、高速ランニングフォームの基礎的な能力は、かなりのところまで身についたと考えてよいだろう。

 トランポリンジャンプ
 ウェイトつきトランポリンジャンプ
 エネルギーシステムの強化とリラクセイション
 クレアチンリン酸系エネルギーシステム
 グリコーゲン系エネルギーシステム


 これらについても語らないと、このページのテーマについては、まとまらないが、ページ数が増えてきたので、これらの項目についての解説は、次のウェブページへと送ろう。
 (2009.10.01 Written by KULOTSUKI Kinohito)

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