スプリントランニングフォームの分類

黒月樹人(Kinohito KULOTSUKI)@黒月解析研究所

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 スプリントランニングのフォームを分類するとき、キックのときの、最もスピードが大きくなる瞬間を基準にすると分かりやすい。この瞬間のことを、私は「キックポイント」と呼んでいる。これとよく似た言葉として「パワーポイント」があるが、厳密に述べると、「パワーポイント」と「キックポイント」には、少し時間的なズレがある。最も大きな力を加えた瞬間を「パワーポイント」と呼ぶのだろうが、このときの力によって加速度が生じ、それまでのランニングスピードに加算して、実際に速度が高まって「キックポイント」となるまでに、わずかながら時間が必要となるのだ。この現象を、観測データから分析して見出したとき、私は、少し、感動を覚えたことがある。しかし、ランナーの感覚的な時間では、ほぼ同じぐらいの瞬間である。私の研究資料を読み直してみると、これらの瞬間を区別せず、まとめて「パワーポジション」と呼んでいる。


1  スプリントランニングフォームにおける多様なパワーポジションのフォーム

かつて、スプリントランニングの加速は、キック脚の膝の角度を大きくすることによって得られていると考えられていた。スタートダッシュのときの動きを見れば、それが正しいことだと考えてしまう。東京で世界陸上が行われたとき、ランニングフォームなどの観測と分析が行われ、このとき、世界の一流ランナーは、スプリントランニングのキックにおいて、キック脚の膝の角度を、ほとんど変えないで、そのキックを終えていることが発見された。このとき、このフォームに対してつけられていた呼び名は「膝をロックしたキック」というものであったが、長くて扱いにくいので、このフォームに「クランクキック」というシンプルな名前をつけることにした。膝の角度を大きくする動作を、「膝を伸ばす」と表現するが、従来のイメージであった、「膝を伸ばしてのキック」を「ピストンキック」と呼ぶことがあったので、これの対照的な名前として、「クランクキック」としたのである。


2  パワーポジションのフォームを分類するための二つの指標 太ももの立位角(θt)と脛の立位角(θs)

独自に開発したシステムによってランニングフォームを調べ、これを分類しようとして、図2に示した太ももの立位角(θt)脛の立位角(θs)という二つの指標を設定した。

この指標に基づいて、図1に例示したような、多様なスプリントランニングフォームにおけるパワーポジションの瞬間のフォームを調べたところ、図3のようなプロットが得られた。これらは、いくつかのグループに分離しているようなので、図3のようにまとめることにした。グラフの右に、サンプルデータの一部をつけた。全員のものではない。

4は、図3のプロットにより分類づけられた、スプリントランニングフォームの、各分類群のパワーポジションのフォーム例である。ここで、イプシロン(ε)クランクキックは、通常のランニングにおけるフォームではなく、走幅跳びの踏切一歩前のところで現れるフォームである。


3  パワーポジションのフォームにおける 太ももの立位角(θt)と脛の立位角(θs)によって分類した スプリントランニングフォーム


4 スプリントランニングフォーム分類群のパワーホジションのフォーム

「ピストンキック」と「クランクキック」の言葉を定義してみたものの、実際にランナーのフォームを調べてみると、トップスピードに近いレベルでのフォームでは、ほとんどのランナーが、クランクキックであった。つまり、ほとんどのスプリンターは、すでに、膝を伸ばしきらない状態で、スピードピークポイントを終えていて、そのあと膝がのびるものの、何の効果も生み出していなかったのである。ただ、世界の一流ランナーは、キックポイントが過ぎるや、その足をさっさと前方へと引きもどしていたのに比べ、日本のランナーたちは、キックポイントが過ぎていて、それ以上膝を伸ばしても、スピードを高めるためには、何の効果がないということを知らないため、後方へと脚を送り出し、膝を折って、まきこんで、脚を折りたたんで前に運ぶ技術というものを磨き上げることに専心していた。このため、ハムストリングスを極端に発達させてきたのだし、肉離れの危険にも怯えつつ、困難なトレーニングをこなしてきたのである。

さて、ランニングフォームを、キックポイントのフォームで区別し、「ピストンキック」と「クランクキック」と呼び分けるとすると、大部分の選手が、見かけ上ピストンキックに見えていても、無駄な動きを数々のバリエーションでつけているだけで、力学的な本質をとらえたとき、それらはみんなクランクキックなのであった。これでは研究が進まない。そこで私は、これらのクランクキック群を、いくつかの小さなグループに分類することにした。このときの手続きは、上記の図1〜図4に示したものである。

身体重心の鉛直直下にキック足の接地支点があるときに、キックポイントがある状態から、明らかにピストンキックと見なせるフォームの、少し前の状態までを、最初に調べたランナーたちの分析データプロットにおける分布のまとまりぐあいをみて、これらを4つに分けることにした。このとき、後ろに振り出した脚をどのように前方へ運ぶかという技術については、まったく無視することにした。かくして、キック脚の膝が曲がった状態でキックを終えるものから、伸ばして終えるものまで、「アルファ(α)クランクキック」「ベータ(β)クランクキック」「ガンマ(γ)クランクキック」「デルタ(δ)クランクキック」「ピストンキック」と5つに分けることとなった。しかし、「アルファクランクキック」と分類されるフォームが現れることがあるが、これは、実際には加速しておらず、現実的なものではないので、研究の対象から外すことにした。心理的には、身体重心の鉛直直下でキックポイントがあると思っていても、物理的な効果が生じているのは、もう少し後の位置になる。よって、スプリントランニングフォームをキックポイントで分類すると、「ベータ(β)クランクキック」「ガンマ(γ)クランクキック」「デルタ(δ)クランクキック」「ピストンキック」の4つになる。図3と図4にあるイプシロン(ε)クランクキックは、通常のランニングにおけるフォームではなく、走幅跳びの踏切一歩前のところで現れるフォームである。

実は、この分類体系は、中長距離のランニングフォームにおいても適用できる。これについては、別のタイトルのページで述べることにしたい。

(2009.09.25 Written by Kinohito KULOTSUKI [@] KULOTSUKI ANALYSIS INSTITUTION, )

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