高速ランニングフォームのメカニズム(加筆・推敲)

黒月樹人(Kinohito KULOTSUKI)

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 身体重心の鉛直直下で、キック脚を後方に押し出すのではなく、下方に踏みつけるという動きだけで、スプリントランニングフォームが成立する。

このフォームを「高速ランニングフォーム」と呼ぶことにする。

このとき、キック脚の膝の角度は変化しないとみなされ、かつては「膝をロックしたキック」と名づけられていたが、キック脚の膝の角度は、わずかではあるが変化していた。私は、膝の角度を伸ばしきらないでキックを終える、このようなフォームを「クランクキック」と呼ぶことにしたが、調べてみると、大部分のスプリントランナーのフォームは、程度の違いこそあれ、このタイプのものであった。そこで、世界の一流選手のフォームを理解するため、「クランクキック」をアルファからデルタまでの4種類に分けることにした。最初に定義した「高速ランニングフォーム」は、このようにして分類したときの、アルファに近いベータクランクキックであった。

このような、ベータクランクキックのランニングフォームの力学的なメカニズムを調べる。図1は、この高速ランニングフォーム(ベータクランクキック)における、3つの主要な局面を描いたものである。

 図1における用語の説明から始めよう。影の身体に付属のWは腰点で、Kがキック脚の膝点、そして、Aはキック脚の足の拇指球である。時系列としてはおかしいが、添え字の時系列は132の順となる。Gは身体重心である。またSはスウィング脚の重心である。スウィング脚も腰点Wからぶら下がっているわけであるが、力学的には身体重心Gから、振り子のように、点線で描いた仮想の糸で、スウィング脚の重心Sにある重りがぶら下がっていると考えることができる。Hは身体重心の、地面からの高さである。

 「キックポイント」という言葉は、接地時の、身体重心の水平速度が最大値をとる瞬間を意味する。このような速度については、身体の各角度の変化を、コンピュータ内の身体ロボットに表現させ、その重心などを求めることによって調べた。

 これらの図において、「身体重心G」と「キック脚の膝点K」と「キック脚の足の拇指球A」を結んだ、△GKAの変化を見てゆこう。とくに、この△GKAの辺GAの長さに注目すると、132では、3の中間位置で、もっとも短くなっている。この長さが、キック脚に組み込まれたバネの様子を表わしている。

この状況においては、一つの重要な条件がある。それは、身体重心の高度Hを大きく変化させることができないということである。厳密には変化するのであるが、考察上、ほとんど変化しないと見ておける。これは、ランニング中の身体重心にはたらく「慣性」のためである。こうして、身体重心の高さを変えることができず、これにともなって、腰点Wの高さも変えられないということになる。よって、△GKAは、地面から身体重心までの高さの、Hの長さの幅の中で変化しなければならないということになる。

すると、拇指球Aが身体重心Gの、ちょうど真下にくるとき、辺GAの長さは、最も短くならざるをえない。しかし、キック脚は、このように縮められることを嫌い、アキレス腱を中心とした腱群が抵抗し、力を生み出す。そして、唯一逃げられる方向として、Gは、Aを後方へと送るのである。これは、ちょうど、GAの軸に沿って縮められたバネが、はじけるようにして伸びるような現象である。

スウィング脚の振り子は、この現象を、逆向きの運動によって補っている。スウィング脚の重心Sが、身体重心のほぼ直下で動くとき、この補助効果は、もっとも有効に作用する。

 補足をしておこう。図1Aのキック脚の、足首の角度が、ここで変わって、もっと小さくなるとする。つまり、踵が地面につくとしよう。すると、膝の角度が大きくなる。このとき、キック脚の膝まわりの腱や靭帯がゆるみつつ、△GKAは、この局面を通過することができる。これでは、キック脚で弾くことができない。

よって、力をこめて固めることのできる、強い足首をもっているということが、このときのメカニズムの重要な条件となる。

足首にあるアキレス腱や膝まわりの腱に、大きな負荷をかけることになる。このような効果を生み出すには、キック脚の膝や足首の角度を、ほとんど変えないようにして、大きな力を生み出してジャンプするトレーニングを行うとよい。

トレーニングで強化し、その後、きちんと休養させて超回復させる。これらの一つ一つを、ていねいに繰り返してゆくことである。

(2009.09.28 Written by Kinohito KULOTSUKI [@] KULOTSUKI ANALYSIS INSTITUTION, treeman9621@ray.ocn.ne.jp)

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