より詳しい 高速ランニングフォームのメカニズム

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito @ 9621 ANALYSIS)

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 これまでの高速ランニングフォームのメカニズム

 図1は、高速ランニングフォームにおける、接地@とキックポイントAのフォームを、これまでの高速ランニングフォームのメカニズムを表わすために描いたものです。(a)では支点(O1, O2)を離して、(b)では支点(O)を共通にして表示しました。


図1 これまでの高速ランニングフォームのメカニズムのモデル

 これまでの高速ランニングフォームのメカニズムとは、次の(1)と(2)の条件が成立するとき、(3)が成立するというものでした。
 (1) 腰点(W)、膝点(K)、支点(O)の、△WKO の腰点(W)と支点(O)をむすぶ辺 WO が、キック動作によって、いくらか長くなる。
 (2) 走っていることの慣性により、全重心がほぼ水平に移動しようとしているため、腰点(W)の地面からの高さが変わらない。
 (3) 支点(O)に対して腰点(W)の水平位置が前進する。全重心は腰点(W)の動きとほぼ連動しているので、腰点(W)の前進がスピードとむすびつく。

 しかし、このような理解のメカニズムでは、高速ランニングフォームで走っているスプリンターなどが、大きなキック脚重心水平速度(dK)を生み出しているということをうまく説明することができないということが分かってきました。
 そこで、大きなキック脚重心水平速度(dK)を生み出す高速ランニングフォームの、より詳しいメカニズムについて考えます。

 より詳しい 高速ランニングフォームのメカニズム

 次の図2は、高速ランニングフォームにおける接地@とキックポイントAを新たな視点のもとに描いたものです。新たな視点というのは、図1では無視していた踵点(H)の役目について考えるため、キック脚の膝から下の部分をひとまとめにするというものです。キック脚の足首を点として考えると複雑になってしまうので、膝点(K)、踵点(H)、支点(O)の、△KHO について注目します。@の緑の三角形とAの水色の三角形では、厳密なことを言うと、少し異なっていますが、この後の考察に際しては、ほぼ同じ形をしたものと見なします。そのほうが分かりやすいし、本質的なことを見失わないと考えてのことです。これらの△KHO を(キック脚の)膝下三角形と呼ぶことにします。


図2 高速ランニングフォームにおける接地@とキックポイントA

 (A) @でキック脚が地面に向かって振り下されます。キック脚の膝下三角形の踵点(H)が地面に接するか近づいたあと、足首のバネによって反発し、踵点を跳ね上がらせます。すると、形を変えないと見なしている膝下三角形を前方へ傾けることとなり、膝点(K)をより前方へと進ませます。これがAの状態です。
 (B) このような変化と同時に、キック脚の太もも(WK)の姿勢角が大きくなって、腰点(W)が上半身を引き連れて、前へと進んだ膝点(K)の上に乗ってゆきます。このような動作は、キック脚の太ももと上半身の胴体が作る角度が変わることによって生まれます。キック脚の太ももと上半身の胴体の中間にある、腰が前に出る(または、腰を入れる)という感覚になります。
 (C) スウィング脚は、独自に動くことにより、全体のスピードに上乗せをしつつ、(A)と(B)の変化を補助します。

 新たな視点のもとでの高速ランニングフォームにおけるメカニズムについての説明は、これらの(A)〜(C)で終わります。
 図2に示したキック脚やスウィング脚の動きで、身体各部の重心がどのような速度を得て、それらが最終的に、全重心の速度へと構成されるかという視点で、より厳密に考えてゆくこともできますが、説明がはんざつになってしまって(A)〜(C)の説明を弱めてしまいますので、ここでは述べないことにします。
 (A)〜(C)による、新たな視点のもとでの高速ランニングフォームにおけるメカニズムを理解することで、より速く走るためには次のようなことを試みればよいということが分かります。

 より速く走るためのテクニック

 足首の強いバネ キック脚によって地面を下方へと押すように力を加えるとき、キック足の踵が、強い力で反発を受けて、すばやく弾けるようにします。このために、あらかじめキック脚の足首をじゅうぶんに強化しておきます。また、キック時に力をこめて、より大きなバネを内蔵しているかのような状態にします。このようなバネの力を引き出すため、キック脚を(適度に)地面に強く叩きつけます。このことにより、足首のバネにかかわる伸張反射を強くすばやいものとすることができます。キック脚を地面に強く叩きつけるときの強さは、スタートダッシュのときほど強くなくてもよいのですが、平凡な叩き方では、足首のバネを効果的に引き出すことができません。キック脚全体のバネに対してではなく、足首のバネに対しての、適度な強さで叩くわけです。スタートダッシュのときより小さなパワーが利用されることでスピードを加速できるのは、すでに、ある程度のスピードで走っているからです。

 重心の適度な高さ キック足の踵の浮きに対応して、キック脚の膝が前方へと進むようにします。このためには、このときのランニングにおける重心の高さが、適度な位置になければなりません。ランニングフォームの分類で用いている「腰高」ではなく「中腰」の姿勢となっていることが望ましいのです。図1や図2における接地フォーム@のときの、キック脚の膝がのびきって接地するようでは「腰高フォーム」となってしまいます。キック脚の膝がやや曲がった状態でキックできるような、重心の低い「中腰フォーム」を心がけておく必要があります。

 ヒップドライブ能力 このようなキック動作と連携して、腰が前方へと進むようにします。「腰を入れる」と表現される動き(ヒップドライブ)です。このような動きを生み出すのは背筋や臀筋と考えられます。体幹を鍛えておき、ここにある大きな筋肉群からの力を使って走ります。このことが注目されてきたのは、「腰を入れて走る」という技術が、それなりの効果を生み出すからです。

 スウィング脚の速さ スウィング脚の胴体に対する動き(相対スウィング)は、その質量に見合ったものとして、全体のスピードへと加算されます。スウィング脚の質量は、全身のおよそ1/4なので、スウィング脚の胴体に対する動きは、係数1/4を掛けてから、全体のスピードへと加算されることになります。このため、スウィング脚の効果は、全体のスピードに対して、わずか10%を受け持つだけにとどまります。しかし、スウィング脚の意図的な動きは、腰を前方へと引きだすことを補助します。また、キック脚の膝を前方へと突きだすことにも影響するかもしれません。スウィング脚を速く引き出すことにより、ピッチが速くなったと感じられます。実際には、スウィング脚を速く引き出す動作以外のところで、全体の動作を遅くして、タイミングをとっていますので、トップスピードにあるランナーのピッチは、ほぼ同じ値(7/30秒)となっています。スウィング脚を速く引き出すのは、このような動作によって、腰を入れる動きが速くなり、このことが全体のスピードを大きくするからです。

 ダウンスウィング気味に スウィング脚の役目として、全体のスピードにおける鉛直成分を調整するというものがあります。スウィング脚の膝を前方へと引きだすとき、高く引き上げないで、無理なく出てゆく高さとします。また、後方から引き出すとき、スウィング脚の重心をやや高めに保っておくことによって、ダウンスウィング気味に引き出すようにします。このとき、スウィング脚の膝下部分に力を入れずに、自由に動くようにしておきます。これにより、自然なダウンスウィングの動きとなります。

 シンクロキック これらの、膝下三角形による足首キックと、「腰を入れる」ヒップドライブと、胴体に対するスウィング脚の動きとしての相対スウィングの3つは、図1や図2の、接地@からキックポイントAへと変化する、1/60秒ほどの動きにおいて、出力のピークを合わせること(シンクロキック)が重要となります。足首キックが遅れてしまうと、水平速度への変換効率が劣ったフォーム(デルタクランクキックやピストンキック)となってしまいます。相対スウィングのタイミングが遅れているランナーも数多くみられます。足首キックとヒップドライブがうまくシンクロしたときの感覚は「キック脚に重心が乗ってゆく」と表現されているものかもしれません。
 (Written by KULOTSUKI Kinohito, April 22, 2013)

 

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