陸上競技の技術(11)
ヤン・ゼレズニー選手のヤリ初速度はどのような動きで生み出されているのか

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito @ 9621 ANALYSIS)

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 はじめに

 私のような、歳だけはとっていても「ヤリ投年齢」が(若いというより)幼稚なものが、形だけ整えて投げてみたところで、ヤリ投技術の本質的なところが明らかになるとは思えません。
 近くの高校には、60m台の男子高校生や40m台の女子高校生もいるにはいるのですが、私がヤリ投の研究とトレーニングを始めたのが、すでにインターハイが終わってからだったので、身近なサンプル画像が得られませんでした。
 そこで、画像としての質は落ちるのですが、次のウェブサイトにある、ヤン・ゼレズニー選手のトレーニングにおけるいろいろなパターンでのヤリ投ビデオ画像を1/4のスピードで再生し、それを(1秒間30コマ撮影の)ビデオで記録してから、もとのビデオでの連続コマ画像を選び出し、これらを私のヤリ投解析ソフト(javo.exe)で調べることにしました。
  Jan Zelezny.wmv
 このビデオでは、リズムをとるだけの、ステップの形だけをチェックする、遅い助走から始まって、少しずつ、助走スピードを上げてゆくところが、撮影方向も色々と変えて、何回も記録されています。左からのもの、右からのもの、そして、真後ろからのものなど、どこでどのような動きを意識するのかということが分かりやすく示されています。
 もちろん、そのようなことは、見る側が何度も観察して「盗まなければならないもの」で、何の解説もなされていず、ただ、男性歌手のポピュラー楽曲が流れているだけです。
 このような、「見て技術を盗む」というのは、罪に問われることもありませんし、無償ですむことなので、どんどん、このような「技」も磨いてゆくべきです。
 さて、これらのビデオから、ヤリ投におけるラストの7歩助走の動きにおける注意点なども「盗む」ことができますが、ここでは、ラストの7歩助走における、6「構え」と、7「投げ」のところだけを取り上げます。

 ヤン・ゼレズニー選手の「構え」

 図1は、ヤン・ゼレズニー選手の「構え」の動きを調べたものです。黒点は腰の中心部分(座標番号[5])、緑の点はヤリを投げるほうの肩([6])、赤色の点はヤリの握り([9])、紺色の点はヤリの穂先([26])です。
 表のdxは水平速度、dyは鉛直速度、Vは(真横から見たときのxy平面における)絶対速度です。そして、最後に、dxとdyから求めた、速度Vの角度を添えています。



図1 ヤン・ゼレズニー選手の「構え」の動き

 ヤン・ゼレズニー選手の「構え」の動きにおいて、注目すべき変化は、3→4)のところにおける、右脚キックにともなうスピードアップです。同時に、右大胸筋の「張り」によって、ヤリの1次加速が行われているようです。
 腰点([5])の速度が5.68 [m/s] で、右肩の動きと、ヤリ先の動きも、このような速度値に近いものとなっています。
 その後の動きを見ると、このような速度がどうなってしまったのかと思うような、少し動きが止まってしまったような局面があります。
 腰点([5])の速度を見ると、3→4)での強いキックのあと、5→6)でも大きくなっています。このとき、赤い右脚の膝が前方へと送られ、右脚全体が進行方向へ向きを変える動きとなっています。

 ヤン・ゼレズニー選手の「投げ」

 図2はヤン・ゼレズニー選手の「投げ」の動きを調べたものです。
 全助走からの全力の投げではなく、チェックポイントを確認するときの、やや軽い助走での投げです。
 1→2)のところで、横向きだった下半身が前方へと向きを変え、上半身の胴体が前方へと振られていますが、このとき、ヤリを持っている右肩が引き出されつつ、右腕の振り出しの動きが始まっていています。
 2→3)のところで、前方に置いたブロック脚の膝は、完璧に伸ばされているわけではありませんが、腰点([5])の速度Vが0.84 [m/s] となっており、ぴったり止まっている瞬間があります。このとき、ヤリの穂先([26])で求めた速度Vは13.45 [m/s]となっていますが、ヤリを握っている手の動き([9])から求めると、18.62 [m/s]となっています。このあたりの、値の不一致は、ビデオ画像の解像度に由来するものです。ここまで速い動きをとらえるのは(1秒間に30コマ撮影のビデオ画像では)難しいようです。
 上半身の振り子のバネによって肩が引き出されている状態の中で、腰が止まり、力が腕へと集中されて、強く速く振り出されて、ヤリの初速度が生み出されているわけです。この一瞬の、集中された動きが、とても見事です。



図2 ヤン・ゼレズニー選手の「投げ」の動き

 投擲肩([6])の動きの最大値は7.50[m/s] となっていて、図1での腰点の最大値、5.68 [m/s] より、3割ほど大きくなっています。
 図2で、腰(黒, [5])と右肩(緑, [6])の変化を見ると、腰の動きが止められて、上半身が振り出されていることが、よく分かります。
 上半身へ運動量を渡すというメカニズムが生じているようです。構えにおける助走スピードの2倍というわけにはいきませんが、1.5倍らいの効果はありそうです。
 ヤリの穂先の動きを見ると、「投げ」の最後のところで大きくなっていて、「振り切り」の動きが効果的に役だっているようです。
 このとき、腰の動きが4.32 [m/s] で、肩の動きが7.50 [m/s] で、ヤリ先が 26.84 [m/s] となっています。理論計算によると、この初速度でおよそ65mの飛距離となります。
 腕による加速分は26.84-7.51=19.33 [m/s] となります。
 ただし、これらの値はビデオの解像度が不十分なため、それほど厳密なものではありません。おおよその値としてながめておいてください。

 ヤリ投技術の大切なところは、図2の4コマ分の動きのところにあります。
 「陸上競技の技術(10) ヤリ投の初速度はどのような動きで生み出されているのか(2)」で解析した私の「投げ」では、6コマから7コマくらいかけています。まるで、スローモーション画像のようです。
 やはり、一流選手のフォームは素晴らしいものです。

 追記

 ここにおける解析結果は、世界記録をもつヤン・ゼレズニー選手のものとはいえ、トレーニングにおける、軽いリズム助走によるものです。
 実際の試合における助走はもっと速いものです。それについての解析は、まだ行っていません。
 (Written by KLOTSUKI Kinohito, Sep. 19, 2014)

 

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