陸上競技の技術(13) ヤン・ゼレズニー選手のフォームから
ヤリ投の構えと投げのテクニックを学ぶ

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito @ 9621 ANALYSIS)

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 はじめに

 ヤン・ゼレズニー選手のトレーニングにおけるヤリ投ビデオ画像が、次のサイトにあります。
  Jan Zelezny.wmv
 この中にある、やや軽い助走によるフォームについて、ヤリ投解析ソフト(javo.exe)で調べました。
 そして、(私)黒月樹人のトレーニングにおけるヤリ投ビデオ画像と比較することにより、(主に私の)技術的な問題点を明らかにしようと思います。

 ヤン・ゼレズニー選手のヤリ投フォームと座標速度グラフ

 今回、このソフトの機能として、幾つかの座標に関する、各フォーム間の、水平速度(dx [m/s]))、鉛直速度(dy [m/s]))、絶対速度(V [m/s])を、図1のグラフのように表示できるようにしました。

 各フォーム間における点は、下図のフォームにおける座標点の絶対速度(V [m/s])で、それらをつらぬく線は、横軸にdx、縦軸にdyを対応させて描いた、動きの向きを表わしています。Vが2 [m/s]以下のものについては、線の長さを短くしています。
 プロット点の色と座標点の対応は、次のようになっています。

 紺色 <> ヤリの先端(座標番号 [26])
 赤色 <> ヤリを投げる右手の握り部分(座標番号 [9])
 緑色 <> ヤリを投げる右肩(座標番号 [6])
 黒色 <> 腰の中心点(右腰と左腰の中間位置、へその少し下あたり, 座標番号 [5])


図1 ヤン・ゼレズニー選手のヤリ投フォーム(下)と座標速度グラフ(上)

 黒月樹人のヤリ投フォームと座標速度グラフ

 ヤン・ゼレズニー選手のフォームと比較するのは、私(黒月樹人)のトレーニングにおける軽い7歩助走から投げたフォームです。これも図2のように解析しました。


図2 黒月樹人のヤリ投フォーム(下)と座標速度グラフ(上)

 おそらく、ヤリ投のメカニズムについて、よく理解している選手やコーチなら、図1と図2のフォームを比較するだけで、いろいろな技術点が指摘できることでしょうが、あいにく私は、そのような理解に達していませんので、このあと、フォームとグラフを見比べることで、問題点を明らかにしてゆこうと思います。

 ヤン・ゼレズニー選手と黒月樹人のフォームの比較

 図3として「ヤン・ゼレズニー選手(左)と黒月樹人(右)のヤリ投フォーム(下)と座標速度グラフ(上)」を構成し、これを見比べることにより、問題点を明らかにしようと思います。


図3 ヤン・ゼレズニー選手(左)と黒月樹人(右)の ヤリ投フォーム(下)と座標速度グラフ(上)

 座標速度グラフ(上)を見比べると、次のような違いがあることが分かります。

 (A) ヤン・ゼレズニー選手(左)の6-5-4-3のところで、全体の座標値がよくそろいつつ、5 [m/s] あたりを推移しているが、黒月樹人(右)の6-5-4-3のところでは、値がそろっておらず、平均的な速度値も小さい。

 (B) ヤン・ゼレズニー選手(左)の9-8のところでの、緑色(ヤリ肩 [6])の絶対速度Vが8 [m/s]あたりへと増大しているが、黒月樹人(右)の9-8のところでは、3 [m/s] あたりのまま、ほとんど大きくなろうとしていない。

 (C) ヤン・ゼレズニー選手(左)の10-9-8-7-6 のとこで、赤色と紺色の速度値が、最後に向かって増大しているが、黒月樹人(右)の10-9-8-7-6では、ほぼ一定の増加率で、10-9ではやや低下している。

 これらの(A)〜(C)の違いの原因は、ヤリ投フォーム(下)を比較することにより、あるていど推測することができます。

 (A) ヤン・ゼレズニー選手(左)と黒月樹人(右)の6-5のところのフォームの変化を見比べると、ここに動きの違いがあるということが分かります。ヤン・ゼレズニー選手(左)は重心を下げ気味にして、右脚キックを行っています。ここで、初め横向きになっていた右脚の膝を、進行方向の平面に取り込んで、全体が前へと進むようにしているのですが、黒月樹人(右)においては、このような動きが、はっきりと意識されていません。

 (B) 黒月樹人(右)は、前にある左脚で腰をブロックするだけで、全体の運動量が上半身へと移るものだと思っていたのですが、どうやら、それは幻想だったようです。このような運動量の移動は、ヤン・ゼレズニー選手(左)のように、もっと積極的に上半身を動かそうという意図のもとで生み出されるようです。

 (C) これは、ヤリを引き出す、ヤリ肩とヤリ腕の使い方の違いに由来する現象のようです。ヤン・ゼレズニー選手(左)は、ヤリ腕の肘をまず先行させてから、肘から先の腕をムチのように使って、最後の加速を行っていますが、黒月樹人(右)は、腕を肘のところで伸ばしたまま振りまわそうとしています。これでは、最後にムチのような、速い腕先端の動きを生み出すことができません。

 これらの技術における問題点を総合すると、黒月樹人(右)における、ヤリ投のメカニズムに関する考え方が、ヤン・ゼレズニー選手(左)のものと、かなり違うということが分かります。
 黒月樹人(右)は、@前の左脚で腰をブロックすることにより、Aそれまで全身でもっていた運動量が上半身へと移され、それにより、Bヤリ肩が引き出され、Cそれによってヤリが加速されたのち、D最後にヤリ腕の動きによって、加速の仕上げが行われると考えていました。すなわち、@→A→B→C→Dという時系列の流れがあると考えていたのです。
 ところが、ヤン・ゼレズニー選手(左)のフォームと速度値の変化を観察すると、どうも、このような流れとはなっておらず、もっと「同時」的なとらえかたをしているようです。そのことを示す証拠が、(B)として現れた、ヤリ肩の速度値の大きな変化です。ヤン・ゼレズニー選手(左)においては、@→A→B→Cの変化が、Dの変化と同時に行われているのです。あるいは、Dの前半→@→A→B→C→Dの後半、のようにとらえることもできます。Dの前半においては、右脚キックが行われ、ここですでに、ヤリを肩と腕で投げる動作が始まっています。肩と腕によってヤリを投げる動作が始まっている、その中で、もっとも力がこもって、加速が大きくなるところで、@→A→B→Cの、上半身の運動量が大きくなって右肩が突然速く動くという現象が組み込まれているのです。
 黒月樹人(右)は「下半身の動き→胴体の動き→腕の動き」が時間的なズレをもって、ほぼ分かれているのに対して、ヤン・ゼレズニー選手(左)においては、時間的なズレはあるものの、あまり分かれておらず、同時に行われているところが、かなり重なって組みこまれているわけです。
 野球選手の外野手による遠投や、ピッチャーの投球における動作を思い起こすと、このような、動作の重なりによって、もっと一体化したものだということに思いあたります。
 (私)黒月樹人(右)は、ここのところのとらえかたを大きく誤っていたようです。つまり、ヤン・ゼレズニー選手(左)のような、一流選手のヤリ投においては、右脚キックと右腕での投げ動作とは、ほとんど同時にスタートして、腕の投げ動作が続きながら、下半身と胴体の動きへと変化してゆくのです。
 よくよく考えてみれば、他の投擲種目や、走高跳などの跳躍種目でも、このような、動きの組み合わせと変化は、ばらばらに分離しているものではなく、重なりあっているものでした。

 基準点を一致させてのヤリ投フォームの比較

 次の図4は「ヤン・ゼレズニー選手(左)と黒月樹人(右)の、それぞれの基準点を一致させてのヤリ投フォーム」です。


図4 ヤン・ゼレズニー選手(左)と黒月樹人(右)の
それぞれの基準点を一致させてのヤリ投フォーム

 図4を比較すると、ヤリ投フォームについての問題点が、もっと直感的に分かります。

 (D) ヤン・ゼレズニー選手(左)では、右脚キックにより、全体の前への動きが大きなものとなっています。黒月樹人(右)は、腰が高いままで、意図的な右脚キックは見られず、前へ進む動きが小さなものとなっています。

 (E) 前方への、ストップ脚が、ヤン・ゼレズニー選手(左)では、よく伸びています。黒月樹人(右)では、意図的な伸ばし動作が見られません。

 (F) ヤリを投げる腕の動作が、ヤン・ゼレズニー選手(左)のほうが早く始動しています。ほぼ右脚キックと同時に、右腕の投げ動作が始まろうとしています。黒月樹人(右)では、右脚キックがはっきり見られていないので、右腕の動作だけが孤立しているように見えます。

 (G) ヤリ肩の緑の点が、ヤン・ゼレズニー選手(左)では、腕の強い振りきりとあわせて、突然大きく動くところがありますが、黒月樹人(右)では、ほぼ同じ(小さな)速度で動いています。

 (H) ヤリを投げる腕の使い方も、ヤン・ゼレズニー選手(左)では肘を曲げて先行させていますが、黒月樹人(右)では肘を伸ばして腕全体を振りまわしているので、最後に大きな動きを生み出すことができていません。

 まとめ

 ヤリ投動作をビデオで撮影し、ヤリ投解析ソフト(javo.exe)で調べることにより、いろいろな座標における速度値の変化や、基準点を一致させて描いたフォームを比較するという方法で、ヤリ投のフォームにおける問題点が明らかになりました。
 ビデオ撮影としては、1つのビデオで、ほぼ真横から撮影するだけですが、それを展開した静止画像からステックピクチャーを起こし、基準点についてまとめ、重要となる座標を読みとって、平均的な速度を求めてグラフ化するだけでも、このように、いろいろな問題点についての、確かな根拠となるものを見出すことができるということが分かりました。
 おそらく、私のような、ヤリ投技術の未熟なものだけでなく、それなりの記録をもつ選手のフォームにおいても、記録向上のための問題点を見出すことができることでしょう。
 (Written by KLOTSUKI Kinohito, Sep. 24, 2014)

 あとがき

 このページをまとめた翌日の午後、いつもトレーニングにゆく陸上競技場へと向かい、隣接している芝生広場において、木の棒による自作のヤリ(609g)で、上記の解析結果の効果を調べることしました。
 この解析の結果を知るまでの私は、ヤリ投のテクニックは「ひとつひとつ」つなげていって、それらの効果を積み重ねてゆくものだと考えていました。ところが、ここでの解析により、「ひとつひとつ」といって分けてゆくものではなく、時間的なずれはあるものの、幾つもの動きを「ほとんど同時に」おこなってゆかなければならないということに気づきました。
 そこで、トレーニングにおいて、次のように意識しました。

 (右手投げの選手として説明しますが)7歩助走の6歩目の右脚キックのすぐあと、身体が空中にあるときから、右腕による「投げ」をはじめて、それが続いている間に、左脚によるブロックで腰がとまり、地面に支点ができたことを利用して、もっとも大きな力を生み出すことができ、「投げ」での力のピークをむかえるようにする。このような動きの流れを基本として、ここに、腰のブロックによる、上半身のバネを使った、右肩の、前への「突き出し」を合わせる。そのために、もう少し前から始まる、左手のガイドによる「胴体のひねり」を組みこむ。

 このような、いくつもの動きは、「ひとつひとつ」が離散的に並ぶというものではなく、まるで多色版画の製作のように、ひとつの動きの「上に」(少しずつ時間をずらせて)「重ねてゆく」というものだということが分かりました。
 つまり、「ひとつの動きとして」組み込んでゆくのですが、わずかな「ズレ」や、動きの継続など、複雑なノウハウはあるのです。
 このような「動きの一体化」を目指したところ、ヤリの飛距離はきちんと伸びてゆくということを実感することができました。
 これまでは、なんだか分からないものの、タイミングがあったときに、すいすいとヤリが飛ぶ、といった状況だったのですが、タイミングはいつも合っているので、あとは、ヤリの投射角あたりがよくなくて、うまく飛ばないというようになってきました。この問題は、失敗したあと、ヤリが飛んでゆく方向和をイメージして力を込めることにより、すいすいと飛ぶように修正することができるようになりました。
 何回か、このようなことを、ほぼうまくまとめられるようになったら、あとは、「投げでの力の集中」へと意識を集め、ヤリの初速を大きくするということを心がけました。
 これらのことがうまくいくと、ヤリは、気持ちよく、すいすいと飛んでゆきます。
 助走は、7歩助走の3から始めて、F←E←D←C←Bの(←のところが1歩となりますので)4歩助走としたのですが、D←C←B(の2歩)で力強くダッシュして、F←Eにおけるスピードが上がると、うまくヤリが加速できるようになりました。
  「構えE」から「投げF」のところの要素が、あるていどうまくこなせるようになっているのかもしれません。
 これなら、F←E←D←C←B←A←@←(0)の7歩助走や、それ以前の「助走のための助走」を、さらにつけても効果があがってゆくかもしません。
 おそらく、このときのフォームは、ヤン・ゼレズニーのものへと近づいていっていると思われますが、ビデオ撮影の準備をしていなかったので、よく分かりません。
 飛距離は確実に伸びていますので、何かが良くなっていることは確かです。
 およそ2時間投げ続けましたが、肩も肘も、まったく痛くなく、筋肉の疲れという感じもありませんでした。とにかく、フォームがうまくいったらベスト記録は出るのです。
 ちょっとヤリ投がおもしろくなってきたかもしれません。陸上競技というスポーツでは、とにかく、自分の記録が伸びないことには、やっている意味が分からなくなってきます。
 (Written by KLOTSUKI Kinohito, Sep. 25, 2014)

 

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