陸上競技の技術(16)
やり投フォームの技術的な問題点(女子4選手のケース)

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito @ 9621 ANALYSIS)

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 はじめに

 やり投の記録を伸ばすために、どのようなところを直してゆけばよいのか、どのようなところを強化してゆけばよいのか、このようなことを知りたいと思い、自分自身のフォームについて調べるだけではなく、他の選手のフォームについて調べることにしました。
 今回とりあつかうデータは、2014年10月12日(日)に行われた甲賀市民陸上大会の「やり投競技」に出場した高校生の投擲フォームです。男子8名と女子4名が参加しており、3回の投擲のうち、1回目と2回目について、ビデオ画像におさめ、これについて解析しました。
 ここでとりあつかう解析結果は、一般的に、やり投のフォームには、どのようなものがあるのかということを調べるためのもので、選手や指導者の了解を取っていないので、画像については公開しません。また、今回の記録についても、詳しく調べませんでした。おおよそ、男子は40メートルライン前後の記録で、女子は30メートル前後の記録でした。出場選手の高校名もおよそは分かりますが、これも割愛しておきます。
  男子8名については、投擲順にA選手からH選手と呼び、女子4選手については、同じくI選手からL選手と呼ぶことにします。男子8名と女子4名の2回ずつのデータなので24フォームとなりますが、これらを一気に取り扱うと、ページが増えすぎてしまいますので、今回は女子選手のフォームについての解析結果を示すことにします。
 今回取り扱うのは、やり投の助走から投げのうち、最後のところの、「構え」と「投げ」の2歩のところとします。全員、助走路をめいっぱい使って、長い助走でスピードを高めて、最後の「構え」に入っていました。

 「構え」と「投げ」の10コマフォームと速度グラフ

 女子4選手(I, J, K, L)の、「構え」と「投げ」の10コマフォームと、それについての速度グラフを、次に示します。
 1と2の数字は、1投目、2投目を意味します。I1はI選手の1投目ということになります。


図1 I選手の「構え」と「投げ」

 1回目に比べ2回目では、水平方向によく前進できていることが分かります。「構え」における右脚キックがうまく作用しているようです。
 ただし、この後の他選手に比べ、「構え」で、上半身が立ち過ぎているようです。


図2 I選手1回目の速度グラフ


図3 I選手2回目の速度グラフ

 速度グラフの5←1あたりを見比べると、1回目より2回目のほうがスピードアップできていることが分かります。ミニフォームを観察すると、2回目の5←4のところで、意図的にうまくキックできていることが分かります。
 ブロック脚による腰(黒)のブロックも、1回目では6←5のところですが、これはタイミングとして早すぎ、1回目では8←7のところにあるべきところです。
 これに対して、2回目のブロック脚による腰のブロックは8←7のところで行われており、このとき、ヤリを引く右肩(緑)の速度が大きくなっており、理想的な状況となっています。
 1回目のラストでは、ブロック脚の膝が伸びようとしていますが、2回目のラストでは膝が曲がったままとなってしまっています。


図4 J選手の「構え」と「投げ」

 J選手は7歩助走の5歩目のところで、少し高めに跳んでいるようで、6歩目の「構え」から7歩目の「投げ」へと進むところで、高い腰の位置から、沈みこむ形で前進しています。このような、「構え」の動きは、それはそれで、うまくいっているのでしょうが、7歩目のところでの、腰のブロックが甘いようです。


図5 J選手1回目の速度グラフ


図6 J選手2回目の速度グラフ

 腰(黒)の速度値の変化から、9←8のあたりでブロックされているようですが、これではタイミングとして遅すぎます。1回目も2回目も、ヤリを引く右肩(緑)の速度がやや高まっているように、7←6のところでブロックされる必要があります。
 胴体のひねりをガイドする左腕をふりまわすタイミングは8←7←6←5のところとなっており、これはよいかもしれませんが、この左腕を肘で折りたたんで、左脇のところに固めようとしています。このような動きは、砲丸投や円盤投で、胴体の回転軸を左肩あたりにもってくるためのものですが、やり投においては、このような回転軸は、胴体の中央の、首のあたりにおいて、左肩の動きの作用で、右肩を速く振りまわしたほうがよいと考えられます。


図7 K選手の「構え」と「投げ」

 「構え」のところで上半身が後ろに残され、「投げ」のところでは、板ばねのように、上半身が前方へと振られ、かなりダイナミックな動きとなっています。
 腰(黒)のブロックもうまいようで、最後にやや高く動いているのも、効果的なものとなっています。


図8 K選手1回目の速度グラフ


図9 K選手2回目の速度グラフ

 1回目の8←7←6のところで、腰(黒)のブロックがよく効いていて、右肩(緑)の速度が高まっています。このあたりの動きは理想的なものとなっています。
 2回目の6←5のところで、右脚キックがうまく効果を生み出して、全体のスピードが大きくなっています。このあと、腰(黒)のスピードが小さくなってゆくのに対応して、右肩(緑)より上のところのスピードが大きくなって、これらの4点の速度が上下に開いてゆくわけです。
 胴体のひねりをガイドする左腕の動きも大きなものとなっています。
 10←9のところでヤリの穂先(紺)のスピードが高まっていないのは、画像の切り方が悪いためです。


図10 L選手の「構え」と「投げ」

 K選手のフォームを見たあとでは、このL選手の動きは、かなりものたりなく思えてきます。7歩助走の動きにおける5歩目のところで、あまり高く浮いていないようで、「構え」のところの腰(黒)の動きが水平的です。また、この水平な動きも、あまり速く感じられません。
 おそらく、5歩目のところで、6歩目の右脚を先行させる「クロス」の動きが不十分なものとなっているようで、「構え」のところでの、上半身の後傾が甘くなっています。
 最後の「投げ」のところで、腰(黒)のブロックはうまくできているようです。


図11 L選手1回目の速度グラフ


図12 L選手2回目の速度グラフ

 「構え」でのスピードがあまり大きくないという問題点はありますが、このことが逆に作用して、「投げ」(9←8←7)における腰のブロックにおいて、運動量が上半身へと移され、右肩(緑)や右の握り(赤)のスピードがうまく高まっています。
 1回目も2回目も、9←8のところでの、4つの点のスピードが分離してゆくところが見事です。
 動きのダイナミックさは感じとれませんが、腰のブロックによって、それまで持っていた全身の運動量を、右肩を通して、ヤリへと引き渡す技術がうまくとらえられています。

 まとめ

 女子4選手のフォームを調べてきましたが、それぞれに個性があって、なかなか興味深い解析結果を得ることができました。
 I選手は「構え」のところでのスピードを高める技術に優れています。
 J選手は7歩助走の5歩目のところで高く浮いているようで、「構え」の6歩目で、その落下速度を前へ向けようとしていますが、「投げ」の7歩目のところでの腰のブロックが甘くなっています。
 K選手は「構え」での上半身の後傾が大きく、「投げ」での上半身のバネにもすぐれていて、とてもダイナミックな動きとなっています。
 L選手は「構え」でのスピードに劣りますが、「投げ」での腰のブロックで運動量を上半身へと移し、末端にあるヤリを加速する技術に優れています。
 最後に女子4選手のゼッケン番号を記しておきます。I(305)、J(122)、K(257)、L(376)となっています。
 (Written by KLOTSUKI Kinohito, Oct. 26, 2014)

 

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