アドバイス007
 高速ランニングフォーム習得の前にやっておくべきこと(3)
スプリントランニングに必要な筋スピードや筋力の要素を高める

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito @ 9621 ANALYSIS)

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 はじめに

 「やっておくべきこと(1)」はクレアチンリン酸エネルギーシステムの発達でした。
 100mなどのスタートから加速走の段階でのパワーやピッチの不足は、ほとんど、この問題をクリアーすることによって解決できます。
 「やっておくべきこと(2)」はグリコーゲンエネルギーシステムの発達でした。
 200mや400mのランニングのためには、こちらのほうが重要です。
 400mについては、さらにいろいろなことを考えてゆく必要がありますが、むつかしくなりますので、ここでは説明しません。
 「やっておくべきこと(3)」として取り上げたいのは、(マック式スプリントトレーニング理論の)「筋スピード」や「筋力」です。
 投てき選手のようなマッチョになる必要はありませんが、スプリントランナーの筋肉は、それなりにまとまって、よく発達しています。その内容としての、全身の「バネ」にも優れている必要があります。

 スプリントランニングに必要な筋スピードや筋力の要素を高める

 ここで使っている「筋スピード」と「筋力」という用語は、マック式短距離トレーニングから来ています。しかし、この違いというと、私にはよく分かりません。
 かつて私は、東京で大学生や高校生をボランティアで指導していたことがありますが、そのころから私は、これらの要素の代わりに、「速筋」という言葉を使うようになりました。
 「筋力」を「静的な筋力」と「動的な筋力」と区別すると分かりやすいかもしれません。
 腕相撲などで使うのは「静的な筋力」です。これに対して、野球のボールや砲丸を投げるというときは「動的な筋力」です。
 これも、かんたんに区分できるものではありません。
 そこで、根本的なところを見て、何が、そのような力を生み出しているのかというと、人間の身体を構成している筋肉だと気づきます。
 この筋肉については、かんたんに分類しますが、速筋と遅筋と、それらの中間的な筋肉があります。この中間的な筋肉はトレーニングによって、速筋の補助的なものにも変わりますし、遅筋の補助的なものにも変わります。しかし、その効力は、本来の速筋や遅筋より劣るものです。
 そして、年齢が進み、中年や老年になると、速筋が少なくなってしまいます。スプリンターとしての能力が30歳ごろにピークとなるのも、この現象がかかわっているようです。
 マスターズ陸上をやっていると、このことがよく分かります。
 私も中年のころ(40歳あたり)、砲丸投や円盤投の生涯記録のようなもののレベルになっていました(試合で出していませんが)。これは、速筋が衰えているにも関わらず、中間的な筋肉を増やすことによって、総合的な筋力が高まっていたからです。
 しかし、跳躍種目や短距離種目の能力は、どんどん落ちてゆきました。
 ともあれ、私たちが持っている筋肉には、速筋と遅筋と、中間的な筋肉があることを知っておいてください。
 短距離走の100m競争を考えてみましょう。
 このときのスタートダッシュのあたりでは、できるだけ大きな筋力が必要となります。そして、スピードが高まるにつれて、筋力の大きさではなく、スピードを伴った筋力へと変わります。
 このいずれの段階でも、大きな効果を生み出すのが、速筋です。

 スプリンターに必要な速筋の強化法

 かんたんに説明します。
 速筋ではない一般的な筋肉の強化法と、速筋の強化法は違います。
 速筋ではない一般的な筋肉の鍛え方は、バーベルを挙げるというときのように、筋肉が収縮して力を生み出すことを、意志の力などで変えてゆくというものです。
 これに対して、速筋の強化法では、はんたいに、筋肉に外から力が加えられて、筋肉が伸ばされることによる刺激が必要なのです。

 たとえば、ベンチを2つ、間を少し開けて置き、そこに腕と脚を左右のベンチに乗せて、間の谷間に胴体を下げる、正式な腕立て伏せについて考えます。
 多くの人は、腕を使って身体を押し上げることにより、筋力が発達すると考えていますが、ほんとうは、その逆で、身体が沈むときの動きを腕でブレーキをかけるとき、そのとき使っている筋肉が、外力(このときは重力)に引っ張られることにより、(速筋による)筋力が発達するのです。

 スプリンターの基礎的な筋力は、脚やおしりの筋肉によるものです。
 これらの筋肉郡の中にある速筋を発達させるために役立つのが、リバウンドジャンプです。空中から落ちてくる身体を、再び反発して、空へとはじけさせるのが、リバウンドジャンプです。

 両脚で行うリバウンドジャンプとして、私がサバンナジャンプと呼んでいるものがあります。アフリカの人々が、やりと盾をもって、垂直に飛び上がるのを繰り返すダンスをやっている画像をみたことがありませんか。あれです。
 地面で反発するとき、膝の角度を曲げすぎないようにします。実際は少し曲がりますが、膝を伸ばしたままリバウンドする感覚です。
 60回を1セットとして、何セットかを繰り返します。
 負荷を高めるためには、腰にウェイトベルトをつけて行います。

 ハードルやミニハードルを両脚で飛び超えるというときは、上へのジャンプが狙いとなりますので、少し効果が違ってきます。
 ハードルやミニハードルを使ったリバウンドジャンプという種目もありますが、かなり高度なものとなりますし、故障を呼ぶ危険がともないます。
 ですから、私は選手たちにやらせません。

 片脚で行うリバウンドジャンプには、いろいろなものがあります。
 片脚跳躍走やバウンディングが、昔から、よく行われてきました。
 これらも、100m(〜200m)くらいの距離で、最後は筋肉のなかのエネルギーが途切れてしまうようにする、オールアウトへともってゆくと、効果が高まります。
 以前、生徒に(選手に)400mの片脚跳躍走をやらせたことがありますが、これは「拷問」のようなものでした。せいぜい、こなせるのは200mまででしょう。大学生で400mランナーには、200mの片脚跳躍走をやらせたことがあります。
 そういえば、私が中学生だったころ、200mのトラック一周の片脚跳躍走を、先輩の指示でやったことがありました。でも、あまりのつらさに泣きそうになりました。
 私が3年生の先輩になったとき、下級生にやらせたのは、100mの片脚跳躍走でした。下級生を先にやらせておいて、後から私が、片脚だけで走るがごとく、もうスピードで追い抜くのです。バネがあって、身体も軽かったので、そんなことができたのでしょう。大人になってからは無理でした。

 マック式短距離トレーニングでは、ランニングフォームをなぞりながらのジャンプ運動がありました。
 現在の私のトレーニング体系ではロングステップスキップB(Long Step Skip B)と呼びます。次のページに画像があります。
 高速ランニングフォームのためのトレーニングメニュー(12) 速く走るための走の基本ドリル(画像2)
 このあたりのページで紹介している、高く飛んだり、距離をのばしたりする、ランニングフォームのドリルも、効果的なものです。
 これらのランニングとジャンプを組み合わせたドリルも、距離を長く(100mくらいまで)とる、腰にウェイトベルトをつけて行う、などにより、負荷を高めてゆくことができます。
 ハードルやミニハードルを使わないので安全です。

 ハムストリングス(ふとももの裏側)を鍛えるドリルとして、ゴリラジャンプやボルゾフジャンプがあります。これらは、砲丸投げのオブライエン投法の姿勢をして、片脚を後ろに伸ばし、片脚で立ち、上半身を水平にして、前進または後退(ゴリラジャンプ)したり、上方に跳ぶ(ボルゾフジャンプ)ものです。
 ゴリラジャンプで台に跳び乗ったり降りたりするのは、強度が高いものですが、故障する可能性があるので、今ではやっていません。
 ハムストリングスを鍛えるのは、腹這いになって、かかとを引いてもらって耐えるというのが、かんたんなトレーニングです。これは、柱などに端を固定したゴムチューブで代用することができます。私がハムストリングスの肉離れをやったときのリハビリ法は、これでした。こうして強化したハムストリングスを見て、高校のときの指導者の先生は、「おまえ、すごい筋肉やなあ」と驚いておられました。近畿選手権の100mでやってしまったハムストリングスの肉離れの対応策としてテーピングをしてもらっていたときのことです。

 まとめておきます。
 速筋を発達させるには、外力によって筋肉が引っ張られるようにして負荷をかけることです。

 ちなみに、速筋繊維にしかるべき負荷がかかったときは、翌日にではなく、翌々日に激しい筋肉痛が生じます。速筋が一度部分的に壊れて、ふたたび作り直そうとするときの現象です。
 速筋トレーニングでは、このことも考慮して、翌々日に身体が動かなくてもよいというときにだけ行います。
 (Written by KLOTSUKI Kinohito, October 2, 2016)

 

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