アドバイス008 走り高跳びの助走と踏切について
(1)両腕スウィング

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito @ 9621 ANALYSIS)

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 中学女子四種競技のMKさんのケース

 MKさんは中学2年生です。
 そのMKさんの走り高跳びの試合を見ました。
 ちょうど1m40の高さにトライアルしているところでした。
 3回とも失敗でした。その前の1m35のときは見られませんでした。
 MKさんは、バーに垂直な直線助走から始めて、3歩前のマークを踏んで、曲線助走に移ります。背面跳びでほとんど標準となっているJ型の助走です。
 この助走は、よくスピードが乗っていて、すばらしいものでした。
 しかし、MKさんの跳躍を見ると、踏切で流れています。
 高く跳ぶ感じがなく、早くバーのほうに傾き、低い跳躍です。
 これだけしっかりとした、速い助走をしていたら、過去に私が指導した中学女子なら、1m45以上は跳んでいました。しかし、MKさんの記録は1m35です。
 いったい何がよくないのか。

 実は、MKさんは踏切前に、両腕スウィングを行っているのです。
 それも、両肘を大きく左右に開いて、腕全体を水平気味に後方へと振って、そのあと脇を絞めて、身体のそばを通して、上へと振り上げるものです。

 この、大きな両腕スウィングは、昔、富沢選手というベリーロールの選手がやっていて、日本記録を出していました。
 このような、大きな両腕スウィングをすると、上半身が後ろに引っ張られ、身体の軸が斜め後方へと傾くことになります。
 直線的な助走をするベリーロールでは、とても重要な技術です。

 以前走り高跳びの選手だったとき、私も、この両腕スウィングを試みたことがありました。
 いや、その前に、肘を横に出すのではなく、身体の近くを通して、腕を後方へと振ってから、前方へと振り上げる、いわゆる、「振子」のような、小さな両腕スウィングを試みて、その当時の記録をうまく伸ばせることができました。
 当時の一般女子選手で、この振子型両腕スウィングを使って、日本のトップの記録を出した人もいました。

 私も、この技術で記録が伸びたので、もっとダイナミックな、鳥が翼を広げるような、横に肘を出して、大きく回転させるようにして腕を振り上げるもののほうが、腕の動きが速くなるから、もっと記録が伸びるだろうと考えたのでした。
 ところが、実際にやってみると、記録が伸びるどころか、かえって悪くなってしまいました。
 私は、この原因を考えました。
 そのときの、重要な要点は、助走と踏切の関係にあります。
 走り高跳びといっても、私はもう背面跳びの選手でした。
 中学生のころに、(1年生のとき)はさみ跳び(1m45)から始めて、先輩の指導により、ベリーロールをやったのですが、あまりうまく記録が伸びなかった(1m50)ので、(2年生のとき)再びはさみ跳びに戻して、秋に1m63を跳びました。
 3年生の春は1m65でした。
 そこで夏の通信陸上という試合のとき、他の地区の選手が背面跳びで1m68を跳んだというのと、たまたま、その選手のあとに私が跳ぶという試技順だったので、低い高さのとき、真似をして跳んでみると、うまくできそうなので、そのまま続けたら、1m71で優勝してしまいました。これは、当時の全国20位くらいの記録でした。
 秋の校内運動会のときは、靴で1m75を跳びました。当時の中学記録が1m80のときのことです。
 それから高校生になると、まわりは背面跳びの選手だらけで、私は、強くなるため、いろいろな技術を取り込んでいったというわけです。
 少し、自慢話をしてしまいましたが、背面跳びの重要な技術の一つとして、踏切前に曲線助走をやって、このまま踏切に入るということがあります。
 この曲線助走からの踏切という組み合わせのため、背面跳びの踏切では、身体の後傾だけではなく、曲線助走の内側に傾く、内傾ということが起こっているのです。
 つまり、背面跳びの踏切での、身体の軸の傾きは、立体的なものとして考えてゆく必要があるのです。
 直線助走のベリーロールだと、身体の後傾だけを問題にすればよかったのですが、曲線助走の背面跳びでは、さらに、カーブの内側に傾くということが、大切な技術となるわけです。

 MKさんがやっていた、鳥の翼型の大きな両腕スウィングをすると、せっかく曲線を走って内側に傾いていたものが、起きてしまうのです。
 私は高校生のころか大学生のころ、このことに気づき、両腕スウィングのクセが残ってしまっていたのですが、外側の腕の動きを極力小さくするという技術で、この問題をクリアーすることにしました。
 私は左脚踏切なので、外側の腕は右手です。
 右手のスウィングは、肘を広げず、小さく折りたたんで、小さく動かし、リズムをとるだけにしたのです。
 こうして私は、大学生のころ、なんとか1m91まで記録を伸ばし、教師になってからは十種競技を専門としたのですが、ここでも1m90などを跳んで得点をかせぐことができました。

 両腕スウィングのクセがついていなければ、ランニングのような腕振りでもよいのです。
 走り高跳びで高く飛ぶための秘密は、実は腕にあるのではありません。
 そのことについては、次回に、くわしく説明します。
 (Written by KLOTSUKI Kinohito, October 12, 2016)

 

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