アドバイス009 走り高跳びの助走と踏切について
(2)かかし抗力とスプリング抗力

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito @ 9621 ANALYSIS)

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 はじめに

 走り高跳び(とくに背面跳び)の初心者がおちいってしまう、いろいろな誤りについて説明したいと思います。
 今回は、踏切における、身体全体と踏切脚の使い方について(その1回目)、です。

 たいていの背面跳びの初心者は、踏切でとにかく高く跳ぼうとします

 たいていの背面跳びの初心者は、踏切でとにかく高く跳ぼうとして、伸びあがることに動きを集中させようとしますが、これがもっとも大きな間違いなのです。
 私が言うことは、なかなか理解されません。
 走り高跳びは、できるだけ高く跳ぶ種目なのだから、踏切で上に伸びようとすることによって、より高く跳べるのだと、多くの人が考えているようです。
 ところが私は、上に伸びようとするのは、まず忘れて、下に沈み込んで、全体重を踏切脚の「膝に乗せて」、一瞬ストップして、スピードと体重による勢いを、その瞬間に止めるようにしなさいと指導します。
 いえ、そのように指導してきました。
 そして、そのことが身体の運動感覚として、うまく分かった選手は、上に伸びあがらなくても、高いところまで跳べるのです。

 走り高跳びの踏切の力学

 私がもっと若かったころ、高校生や大学生や、教師をやっていたころには、走り高跳びの踏切でどのようなことが起こっているのかということは、まだよくわかっていませんでした。(現在でも、はっきり理解していない人が多くいます。)
 そのことは、私が高校生のころ、指導してくださっていた高校の陸上部の顧問の岡野先生の、大学時代の友人らしい、大阪体育大学の田村先生(そのころは助教授だったかも)から聞かされていました。
 田村先生は、走り高跳びの踏切のときに、筋肉が引っ張られて大きな力を生み出す、速筋の効果について語ってくださいましたが、物理学的な力がどのように作用しているのかということは、まだうまく説明されていないのだそうです。
 私は(「魂の役割」が「学者」なので)走り高跳びで記録を出すということよりも、どのようなメカニズム(力学)で、走り高跳びの踏切が成立しているのか、ということを知りたいということに関心が向かっていました。
 予備校に通っていたころに、あるとき電車に乗っていましたが、その座席に座って、高校生のときに習った積分の考え方を使えば、なんとか説明できるかもしれないと思いつきました。
 そして、力学的な道具は、数学や物理学(の力学)で習いたてのベクトルでした。
 つまり、ベクトルで力がどのように作用しているのかということを考え、さらに、積分の説明を応用して、小さな時間 Δt の間に、どのように変化してゆくのかということを、モデルを立てて、少しずつ調べてゆくことにしました。
 このあたりの結論は、図を描いても、かなりむつかしいことになりますので、これらのプロセスは省いて、分かったことについて語ります。

 かかし抗力とスプリング抗力

 走り高跳びの踏切では、走って来た水平スピードを、身体の軸を含めた踏切脚で変換して、上向きの鉛直スピードへと変えているのです。
 もっとも効率の良い踏切技術ができたとしても、水平スピードのベクトルの向きを上向き45度の方向へ変えることができるだけです。
 このとき、この45度の向きのベクトルは、最大で、水平スピードの0.71倍です。
 その斜めのベクトルの鉛直成分は、そのまた0.71倍となりますから、さいしょの水平スピードの0.50倍です。
 これは、踏切において、身体の軸が斜め45度あたりの状態で、その踏切での時間が極限的に短いときの、理論上での値です。
 実際は、もっと時間がかかってしまいますので、それぞれの角度が変わってゆき、それをコンピュータのシミュレーションで計算してみると、水平スピードから得られる鉛直成分は0.50より小さなものとなります。
 このようにして、助走による水平スピードから鉛直スピードを得るときに生み出される、地面からの反作用の力(これを抗力といいます)が、「かかし抗力」なのです。
 まるでかかしが、水平スピードをもっていながら、地面に先っぽを突き刺して、そのあとはじけ飛ぶのと同じ現象なので、私は、これを「かかし抗力」と呼ぶことにしました。
 このようなことが終わっても、まだ地面を離れていなくて、伸びあがる余地を残しているとき、地面を押して、上向きの反作用を受け取るときの力を、スプリングを(春ではなく)バネとして、「スプリング抗力」と呼んだのです。

 まとめ

 走り高跳びの踏切においては、助走による水平スピードを、身体でうまく止めることによって(このときの力が「かかし抗力」)、鉛直スピードへと変換し、さらに、伸びあがることができる(このときの力が「スプリング抗力」)ときは、さらに鉛直スピードを大きくすることができます。
 このようなことが分かったら、最初のことが間違いだと説明することができます。
 つまり、踏切でとにかく上へと伸びあがろうとするのは、「かかし抗力」の効果を忘れて、「スプリント抗力」だけにたよろうとしているということです。
 「かかし抗力」による効果と「スプリング抗力」による効果の比率は、選手によってまちまちですが、圧倒的に「かかし抗力」による効果のほうが大きいのです。
 私の経験ですが、私が1m90ほどを跳んでいたとき、ほとんど「スプリング抗力」による効果を感じていませんでした。とにかく、助走を速くして、踏切前で沈みこみながらカーブをまわり、踏切で「踏切脚の膝に体重を乗せて」ストップする感覚が得られたら、あとは勝手に1m90を超える高さまで、身体の重心が浮くのです。

 つづく

 それでは、どのようにして、「かかし抗力」の効果を生み出すのかという、もっと技術的なことについては、次回に説明します。
 (Written by KLOTSUKI Kinohito, October 13, 2016)

 

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