アドバイス010 走り高跳びの助走と踏切について
(3)助走スピードと踏切位置

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito @ 9621 ANALYSIS)

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 はじめに

 走り高跳び(とくに背面跳び)の初心者がおちいってしまう、いろいろな誤りについて説明したいと思います。
 今回、実は、走り高跳びの踏切を効果的に行うための、一連のドリルについて説明しようとおもっていました。
 しかし、10月14日(金)に、中学生たちの秋季陸上競技大会がありました。
 その女子走り高跳びの試合に、大きな、翼を広げるような両腕スウィングをしているため、踏切で内傾がなくなってしまって、低く流れる跳躍になってしまっていたMKさんが出場しました。
 前回の試合(10月9日(日)の甲賀市陸上競技会)の走り高跳びのMKさんの跳躍を見て、私は「大きな両腕スウィングの問題点」を(自分自身で過去に問題として認識していたので)見抜き、彼女の試合後、それが背面跳びにとっては逆効果の技術であること、両腕スウィングの動きを変えてしまうのは難しいので、外側の腕の振り込み動作を小さなものとすること、などを説明しておきました。

 10月14日(金)のMKさんの走り高跳び

 私はスタンドで見ていました。
 ときどき、スタンドからコーチが選手に指導することがありますが、それはルール違反です。コーチは、選手がグラウンドに入ったら、一人ですべての責任をとれるように指導しておくべきなのです。
 もっとも、MKさんと私は、選手とコーチといった関係ではありません。
 私が勝手に、これまで私がつかんできた技術を、誰か若い人たちに伝えたいと思って、やっているだけのことです。
 スタンドで見ていた私が記しておいたメモを紹介します。

 1m40 1回目 失敗。助走のスピードが不足。踏切前の3歩のところで、スピードが少し緩んだ。
 2回目 成功。少し滑らかに走れた。
 1m45 1回目 失敗。やはり踏切前の曲線を走る3歩のところで、助走スピードが落ちてしまう。もっと思い切ってつっこむこと。おしかった。空中で体のアーチがしっかりつくれていれば、これでも跳べた。
 2回目 失敗。 助走は少し滑らかになったが、空中で腰を早く落としすぎた。アーチをしっかりと作ること。
 3回目 失敗。踏切で砕けた。

 このようなメモを記したあと、このときの問題点が2つあることに気がつきました。
 そのことを説明しようと思ったのですが、@表彰式で(MKさんは2位だったのですが)あとの2人がなかなか来なかったので長時間束縛された、A表彰式はあとからということになり、4×100mリレーのアップと試合に移っていった、B試合後のミーティングが始まった、などの流れで、正式な指導者ではない私は、説明する機会を失ってしまいました。

 問題点の1つ目は、助走スピードのことです。2つ目は、踏切位置のことです。

 助走スピード

 背面跳びによる走り高跳びでは、直線助走のあと、大部分の選手は、最後の3歩を曲線でこなします。
 これが背面跳びの大きな要素の一つです。
 この曲線助走により、カーブを走るときの「向心力」が生ずるという現象(実は、この説明は物理的に正しくないと、高校生のころ地学の授業で習いました)が起こり、この(架空の)力を生み出すため、身体をカーブの内側に傾けることになります。
 この「向心力」は、助走の速さの2乗に比例して大きくなり、また、曲線助走のカーブが急なほど大きくなります。もちろん、選手の質量(体重)にも比例します。
 つまり、速度(の2乗)とカーブに関係して、背面跳びの踏切における内傾の大ききが決まってくるのです。
 そして、速度そのものの大きさが、高く跳ぶための原動力となります。
 私が記したメモは次の通りです。

 ラスト3歩で助走スピードが落ちないように、少し重心が下げて走っても、かえってスピードがあがるようにして、踏切に入る。
 このようなトレーニングをすること。(難)

 これは、私が走り高跳びの選手だったころの、もっとも重要なテーマでした。
 (難)と記しているように、かんたんにできることではありません。
 でも、これがどれだけうまくできるかによって、どれだけ高く跳べるかが決まるのです。
 MKさんだけではなく、走り高跳びをやっている全国のみなさん、このことは、トレーニングのときはもちろん、試合のときも、決して忘れてはいけません。

 踏切位置

 MKさんが1m40の1回目や、1m45の1回目と2回目の跳躍でバーを落としてしまったのは、アーチの作り方が甘いとメモしましたが、本質的な原因は、踏切位置がバーに近すぎるということにある、ということに思い当たりました。
 だから、MKさんは、バーに向かって上昇している状態で、バーに腰のあたりを触れさせてしまっていたのです。
 これまで、もっと低い高さしか跳べていなかったので、それにあった踏切位置のまま、高い高さに挑戦してしまったようです。
 だから、踏切前の3歩も、思い切りスピードを上げることができず、感覚的に、ついついスピードをゆるめていたものと考えられます。

 この対策としては、もう少し踏切位置が遠くなるように、3歩前のマークの位置をバーから遠ざけておくこと。
 そして、助走スピードが最後の3歩でゆるまないようにして、低い高さのときは、いくぶん平たいカーブの飛行曲線(軌跡といいます)としておき、高い高さで、ちょうどよくなるようにする。
 マークを3歩前から5歩前に変え、もっと曲線部分を長くとり、助走スピードを大きく上げておく。曲線のカーブの急さによってではなく、助走スピードの2乗によって、「向心力」を大きくして、必要な内傾を確保しておくという戦略(技術)です。
 このように考えてゆくことにより、背面跳びが、ベリーロールなどの古典的な走り高跳びから発展したのではなく、走り幅跳びの一変形だということが理解できます。
 背面跳びで強くなるためには、走り幅跳びで強くなっておくべきなのです。

 動きのドリル

 MKさんの試合を見ていて、低い高さのときは、両腕スウィングが形だけのものとなっていて、うまく内傾がえられていたのに、1m45のときは、これがいくぶん大きなものとなって、踏切の姿勢を邪魔していました。
 次のメモがあります。

 1m45の前の、芝生でのアップで、両腕振り込みの動きが(肘を横に大きく引く)大きなものになっていた。
 低い高さでは、小さくして、身体の軸を斜めにできていたのに。

 おそらく、これは無意識にやってしまっていたのでしょう。
 一度つけた自動的な動き(ダイナミックステレオタイプと言います。動きの空間的な固定といった意味の用語で、ソビエト連邦の教科書によく載っていました。)は、無意識になったとき、ついつい、古い動きへと戻ってしまいます。
 だから、意識的に、たくさんトレーニングしておいて、小さな両腕スウィングのほうが、無意識的な、自動的にやれる動きになるように、頭(小脳)のなかの動きのプログラムを書き換えておかなければなりません。
 まあ、わずか一週間前の注意が、身体にしみ込んでいるはずもないので、このメモは、単なる観察事実にすぎません。
 これからたっぷり時間をかけて、動きのプログラムを書き換えることです。

 あとがき

 毎日指導しているわけではないので、試合当日、これらのことを説明したとしても、それを理解して、覚えておき、トレーニングに生かすというのは、かなりむつかしいことです。
 ですから、こうして書いておきます。
 MKさんでなくても、このようなことが参考になる背面跳びの選手は、全国にたくさんいると思われます。
 みなさん、これらの知識を役立てて、強い選手になってください。
 (Written by KLOTSUKI Kinohito, October 16, 2016)

 

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