アドバイス012 走り高跳びの助走と踏切について
(4)力学的に合理的な踏切動作のためのドリル

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito @ 9621 ANALYSIS)

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 はじめに

 走り高跳のトレーニングについての解説に戻ります。
 今回は、踏切で重要なポイントについて語ります。
 このことが身体で理解できている選手は、どんどん伸びます。
 しかし、これが分かっていなくて、誤解している人は、記録が停滞します。

 踏切脚を地面に刺して止まる

 私がまず、走り高跳びの踏切動作が、よく分かっていない選手に、やらせるドリルがあります。
 それは「踏切姿勢でとまるドリル」です。
 
 まず、ゆっくりと、歩いて、重心を下げ、走り高跳びの最後の3歩をなぞるように動きます。
 このときの重心の高さは、中腰歩行というドリルで練習しておくことができます。
 差別用語らしいので「小人(こびと)」という言葉が使いにくいのですが、「小人歩行」と私が呼んでいる、かなり重心を低くした中腰歩行が、走り高跳びの踏切3歩前の動作をマスターするのに有効です。
 重心を下げて踏切に入るのは、力学的に合理的なことなのです。
 「かかし抗力」と私が名付けた、水平な助走スピードを、かかしのように、地面に突っ張る「力を生み出すこと」で、鉛直速度を生み出すメカニズムがあります。
 この現象の、最も効果的な角度は、踏切脚の地面Oと身体重心Gとが、地面とつくる角度として、実は45度なのです。
 このような状況を生み出すためには、かなり重心を下げて、最後の3歩をこなさなければなりません。
 しかも、水平スピードを高めたままです。
 これが、とびきりむつかしい。
 私は、若いころ、このような状態を生み出すため、様々な工夫を思いつき、自分自身の身体でやれるようにトレーニングしました。
 やがて、重心を下げて最後のカーブを走ることより、重心の低さは無視して、そのときの助走スピードを大きくすることのほうが、大きな効果を生み出すということに、至りました。
 そして、追求すべき最大の要因として、助走スピードをいかにして、走り幅跳びのそれに近づけるかということを、新たなテーマとしてトレーニングするようになりました。

 すこし、違う方向へと議論が進んだようですが、その前に、合理的な踏切姿勢を作る必要があります。
 できるだけ速い助走スピードで、少し重心をおとして、なおかつ、カーブを走るようにして、踏切のときに、カーブの内側に傾いているようにしながら、助走スピードを踏切脚の「膝のところでストップし」、それによって、鉛直方向のスピードへと変換するというのが、「走り」高跳びの、走ることによる優位性なのです。
 何も助走しないで垂直に跳びあがる能力に比べて、助走をつけて跳びあがるほうが高く跳べるということは、バレーボールのバックアタックの選手が実証しています。
 バスケットボールでも、これは応用されています。
 あと、もっと切実に利用されているのが、棒高跳びです。
 棒高跳びと走り高跳びの力学的な仕組みは、とてもよく似ているのです。

 走り高跳びの踏切で、すぐに高く伸びあがろうとせず、踏切脚の膝に全体重を乗せるようにして、助走スピードによる水平の動きをとめようとするときのことは、棒高跳びで、ポールが最大限に曲がるときに、ちょうど、対応しています。
 このとき、地面との支点、棒高跳びではボックスの中のポールの先、走り高跳びでは踏切脚のスパイク面が地面と接しているときの中心、これらがまったく、力学的には同じものとして対応しています。
 この点をOとし、身体重心をGとしたとき、距離OGが、もっとも小さな値となったときに、「かかし効力」の効果が最大になって、助走スピードが鉛直スピードへと変換されるのです。
 そのときの線分OGが地面とつくる角度の理想値は45度です。
 棒高跳びの踏切動作で、この角度より小さくなってしまうと、「はいりこみすぎた」と判断されます。
 この角度より大きくなってしまうと、「早く上に上がり過ぎた」ということになって、いずれも、高くは身体が浮きません。
 最適の状態があるということは、棒高跳びのコーチなら、みんな知っていることです。
 ところが、このことが、走り高跳びでは、よく分かっていません。
 最適の、踏切動作、というものがあるのです。
 ところが、大部分の選手は、これから、遠ざかろうとしてトレーニングします。
 だから、記録が伸びないのです。
 記録を順調に伸ばすためには、これらの力学的なメカニズムを知って、合理的な動きを目指す必要があるのです。

 棒高跳びと走り高跳びとは、できるだけ高く跳ぶという、同じ目的を持っていますので、力学的な仕組みがとてもよく似ています。
 棒高跳びのトレーニングで、砂場に深い穴(ボックスの代わり)を掘って、そこへポールを突っ込み、助走から踏み切って、ポールを大きく曲げる、というところをトレーニングするものがあります。
 これに対応するのが、「踏切姿勢でとまる」というドリルです。
 これは、とても重要なドリルなので、私が指導した走り高跳びの選手には、これだけを徹底的にやらせました。何十回ではなく、何百回も。しかも、毎日。
 しかし、このドリルは、そんなに疲れるものではありません。
 だからこそ、何度も何度もやって、身体が、何も考えなくても、自然と、そう動くようにしておくのです。

 具体的なポイントをまとめておきます。

 (1) 3歩以上の速足の助走をつけます。このとき、身体重心を、通常のランニングの高さから、中腰歩行の高さへと、滑らかに下げ、かつ、足の運びを速くして、助走スピードを高める意識を(小脳コンピュータのメモリーに)刷り込んでおきます。
 踏切3歩前のマークを踏んだと意識して、このような、沈み込みながら、さらに速く動くという感覚を身につけるようにします。

 (2) このトレーニングのときは、直線助走でかまいません。最後の3歩を曲線で運ぶのは、もっと助走スピードが本格的なものになって、カーブの内側に傾くことを利用することを組み込めるようになってからのことです。

 (3) 最後の1歩を踏み出すとき、その足を突き出す動作を素早くし、身体全身が一本の棒のようになることを意識します。まさに、案山子(かかし)のようになるのです。
 そして、その案山子の主軸が、理想的には斜め45度に傾くようにします。

 (4) この最後の1歩の動きで、身体の軸を少し回転させ、踏みきり足のつま先からかかとの軸が、助走の進行方向に対して、60度くらいの角度をもつようにします。90度だと、やりすぎです。膝や足首のじん帯を壊してしまう可能性があります。
 このとき、踏切脚の膝を支える筋肉群の力をほんの少し抜いてから、そこで助走の勢いを殺すように、外力で膝周りの筋肉群が引っ張られることを感じて、私が感覚として表現する、「膝に乗る」というポーズをとります。
 ここのところの動きの瞬間が、棒高跳びでポールが曲がり切った瞬間に対応します。

 (5) この「膝に乗る」瞬間に、腕の振り込みも、肩をなで肩にする動きと共に、踏切地点(地面における支点O、踏み切り足のスパイク面の中心)と、身体重心(G)との距離OGがもっとも短くなるように、斜めになっている身体の軸に沿わせます。
 しかし、このあと、これらの腕の、少なくともバーがわの腕は、素早く高く上げますので、肘は伸ばしきってしまうのではなく、ほんの少し(180度ではなく、90度でもなく、100度から150度くらいの角度で)曲げておきます。
 肩も、なで肩に見えるくらい、下げます。

 (6) 踏切足のスパイク面を、地面にピタリと吸い付くようにくっつけ、その中心のO点と、身体重心のGが斜め45度の線となって、斜めに地面に突き刺さり、その周囲に、まるで、ゲゲゲの鬼太郎にも出てくる、唐傘お化けのように、身体の他の部分を斜めにつりさげ、まさに、(少し曲がることで大きな力に耐えられるようになった)「膝に乗る」のです。

 踏切姿勢でとまる姿勢に続いて、跳びあがる

 合理的な踏切姿勢に入ることができたら、その次は、そこで止めてしまわずに、続いて、筋肉の反発する力を利用して跳びあがるということです。
 多くの選手が、このことは、かなり自然と行っています。
 ただ、その前に、理想的な姿勢が作れているか、そうではないか、によって、高く跳べるかどうかが異なってくるのです。
 分かりますか。
 実際には、着地地点を、砂場など、柔らかいところに設定して、バスケットボールのリンクに跳びつくように、高いところにある目標に跳びつく練習をします。
 このとき、助走スビードが大きくなるほど高く跳べるということと、ある種の理想的な重心の高さで踏切に入ったときに高く跳べる、ということを、自分の身体で見つけてください。
 上記のドリルがうまくできていて、低い重心の助走から斜め45度に身体の軸を地面に突き刺し、膝のバネを感じるように「膝に乗る」ポーズがとれていたら、助走スピードをあげてゆけば、それに応じて、高く跳べます。
 このとき、助走スピードは、徐々に速くしてゆくこと。
 急に上げ過ぎると、踏切脚の膝周りや足首まわりのじん帯を壊してしまいます。
 このようなトレーニングを行うことで、だんだんと強くなってゆきますから、それに合わせて、助走スピードもあげ、さらに高く跳べるように、もってゆきます。

 走り高跳びのクリアランスのための工夫

 上記のトレーニングだけをやってしまうと、重心は高く浮きますが、バーをうまくクリアーできないということがおこってしまいます。
 そこで、少し妥協をするというか、調整をすることになります。
 踏切の後半で、身体の軸が伸びて、バーがわの腕を頭より高く持ち上げておき、離陸する瞬間の少し前に、まだ地面と接しているときですが、この右腕の先端をバーがわに振るのです。
 この動作によって、力学的な表現で、身体の軸の、回転モーメントが生じます。
 かんたんに言うと、空中で身体が水平になって、そのあと、下半身がバーより浮くような、バーを中心として、それを背中がなぞるような回転のための「勢い」(専門的には、角運動量)が得られるのです。
 このような回転モーメントは、軸の端っこでの動きが、より効果的なものとなります。同じ力でも、回転の中心から離れたところで作用させることで、より大きな回転モーメントを生み出すことができるからです。
 身体の軸をバーの方へ振ろうとすると、流れて、低い跳躍となってしまいます。
 身体はあくまで高く伸びあがろうとして、バーがわの腕だけを振るのです。
 そして、空中で、身体の縦の長さが短くなるような姿勢をとることにより、この回転のスピードが速くなります。
 これをうまくコントロールするのが、腕です。
 そして、両脚を膝で90度に曲げ、さらに、又のところで広げることにより、身体の縦軸の長さを短くすることができ、回転の速さが増します。
 このままでは、両脚の膝から下でバーをひっかけてしまう可能性がありますから、太ももがバーの上に来たあたりで、膝から下だけを、跳ね上げるように、太ももの軸に合わせて、つまり、脚全体をまっすぐにして、そのあと、腰を落とすようにして、全身でVの形を作ります。これでバーはクリアーできます。
 ここのところでMの姿勢をとると、お尻でバーを落としたり、膝から下の部分(多くのケースでは足首あたり)でバーを落としてしまいます。
 まとめると、太ももがバーを越えるまでは、アーチをしっかりとつくり、膝から下も膝で90度まげて、低くさせておきますが、このあと、膝から下だけを振り上げ、身体を一直線にしたあと、すでにバーを越えている腰を落として、Vの姿勢をとり、脚全体をバーから遠く離してしまいます。
 空中での腕の位置ですが、身体を弓とみなしての、弦のような位置にもってゆく(バーがわでリードした腕、左脚踏切の人の右手)という方法が今では主流ですが、過去には、両腕を身体の横に沿えて、「気をつけ!」のポーズをとる方法もありました。
 しかし、このときの腕がバーをひっかけることもあるというので、両手を腹の上にもってきて、ややクロスさせ、まるで、両手で局部(性器のあたり)を隠すようなポーズをとる選手がいました。これは男性でしたが、女性がやっても、これはスポーツの世界でのことですので、合理的な動きです。少しもおかしなことではありません。

 まとめ

 走り高跳びの踏切で重要なのは、高く跳ぼうとすることではなく、低く地面に刺さって、助走スピードから、鉛直スピードを引き出すことです。
 このときに作用する力を、私は(今から30何年か前に)「かかし抗力」と名づけたのです。これは、助走スピードにブレーキをかけて、鉛直速度として変換しつくすまで作用します。そのあとは「スプリング抗力」として、自分で伸びあがろうとする動きに代わります。
 このメカニズムが身体で理解できたら、あとは、助走スピードをどんどんとあげてゆき、それに見合った踏切での大きな力が出せるように身体を強化することです。
 記録が停滞したら、ここのところをまずチェックして、動きの形そのものに問題点が無かったら、さらに助走スピードを上げることにチャレンジします。
 背面跳びの助走は、まだまだ、走り幅跳びの助走にまで、近づいていません。
 重すぎず、強い膝と足首を生み出すことができれば、もっと助走スピードは、あげることができ、それによって、より大きな鉛直スピードを生み出すことができます。
 (Written by KLOTSUKI Kinohito, November 1, 2016)

 

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