アドバイス013 グリーン加速走がすぐにできる人
なかなかできない人

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito @ 9621 ANALYSIS)

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 グリーン加速走

 グリーン加速走というランニングフォームは、高速ランニングフォームのいくつかの部分フォームの一つとして、私が名づけたものです。
 私がいま、100mという距離での高速ランニングフォームを指導するとき、次の5つに分類して、一つずつ、実際に選手が身体を使って実行できるようにと、考えています。

表1 100mという距離での高速ランニングフォームの下部分類



 10年くらい前、私が高速ランニングフォームという用語を生み出して、世界のトップスプリンターたちがやっていたランニングフォームのことを、より詳しく調べだしたとき、上記のCだけについてしか、想定していませんでした。
 いや、ほんとうのところは、Bのグリーン加速走が中心的なものだったようです。
 私がそのころ、高速ランニングフォームを調べるときの、世界のトップスプリンターの具体的な対象は、世界記録を更新したモーリス・グリーン選手と、その次に世界のトップに立ったジャスティン・ガトリン選手でした。
 今思ってみると、彼ら二人のランニングフォームは、ほとんど区別することが無意味なくらい、よく似ているのです。
 ただ、そのときに、注目されていたランニングフォームの局面が異なっていただけなのかもしれません。
 そのころのガトリン選手のランニングフォームで目立っていたのは、Cのところのものでした。日本のコーチたちが驚くほどの、長いストライドを生み出していたのです。
 しかし、そのころ、薬物によって異常なまでに発達していたガトリン選手の太ももも、その制裁処置が解けて、再び世界のレースに復帰してきたとき、もちろん、スプリンターとしての太さはじゅうぶんあるものの、とくに目立って太いものではない、という状態に変化していました。
 そして、いま、ガトリン選手が磨きあげた、世界一のランニングフォームが、A ガトリンダッシュの部分です。
 とにかくスタートからの前半部分で、ガトリン選手に勝てる選手は一人もいません。
 日本では山縣選手が、それと同じような位置にいます。
 この二人は、スタートにおける動きがそっくりです。
 このような、ガトリンダッシュ(山縣ダッシュ)に続くものが、B グリーン加速走ですが、ガトリン選手も山縣選手も、そのような動きへと自然に変化しており、いつのまにか、C ツバメ走へとつながってゆきます。
 D キリン走というのは、絶好調のころの、ジャマイカのヨハン・ブレーク選手の、100m後半の動きを表現するために名づけたものです。
 おそらく、その上をいく、ウサイン・ボルト選手も、やっています。あの大きい身体で、100mの中盤あたりで、この段階にまで仕上げてしまうので、誰も太刀打ちすることはできません。

 高校男子K選手のケース

 K選手とは、陸上競技場で知り合いました。後輩らしい中学生たちにランニングフォームを指導していたのですが、そのK選手のスプリントランニングフォームが、かつて、日本のコーチたちが「キック脚の膝を固定したまま走る」高速ランニングフォームに気づく前に、日本中で指導していた、古いフォームだったので、「それでは速く走ることができない」と、高速ランニングフォームの C ツバメ走(そのときは、まだ細かな区別をしていなかったので、単に高速ランニングフォーム)を指導したのでした。
 それからしばらくして、スタートダッシュの技術が未熟だったので、自然なクラウチングスタートの姿勢などと、@ ロケットスタートの技術を指導しました。
 これらの指導は、彼が所属している高校のチーム練習とは別に、それらが終わったあとや、別の日に行っていました。
 あるとき、そのチーム内での彼の200mのタイムトライアルのランニングを見て、後半の C ツバメ走はうまくできていて、どんどんスピードアップできるものの、曲走路の走りがまだよくなくて、あまりそこでは目立ってスピードアップできていませんでした。
 そこのところは、実は、100mにおける B グリーン加速走でこなすべきところです。
 100mにおいてB グリーン加速走は、ほんのわずかな区間だけで現われるものですが、200mにおいては、前半の曲走路部分のほとんどで効果をもつものです。
 いつか、時間をとって、B グリーン加速走をK選手に教える必要があると、私は考えましたが、私はただの民間のボランティアコーチです。高校のチームに所属しているK選手に指導する機会を見つけるのには、ずいぶん時間がかかってしまいました。
 ここで少し物語を飛ばします。
 そして、11月20日(日)の本日、私はK選手に、B グリーン加速走を指導することができました。

 グリーン加速走がすぐにできる人、なかなかできない人

 これより、少し前のことでした。
 私は、陸上競技場にやって来て、走り幅跳びの準備をしている選手にB グリーン加速走を指導することとなりました。
 彼の助走フォームを見て、「それでは速く走ることはできない」と言って。
 いつもの殺し文句です。
 聞いてみると彼は、まだ中学3年生で、そのチームでの走り幅跳びのエースのようです。(走り幅跳びの)成績も比較的良いようですが、助走の走り方は、完全に「古いフォーム」でした。
 私が「デルタクランクキック」と呼ぶもので、キックポイントが重心直下から、ずいぶん後ろへ移っているものです。
 私はまず、スキップA(足首ではじける連続ももあげ)をやってもらい、その次に、スキップAゴーオン(徐々に水平スピードを大きくしていって、通常のランニングスピードへと変化させるもの)へとすすんだところ、彼は「分かった」と言って、自分がこれまでに体験したことのないフォームとスピードで走れるようになったことに驚きました。
 わずか10分の指導でした。
 しかも、走り幅跳びのピットでのこと。
 ほんの片手間の指導だったのに、また一人、高速ランニングフォームの使い手を生み出すことに成功したというわけです。
 このような経験があったので、11月20日(日)のトレーニングにおいても、私は次のようなメニューのもと、K選手にB グリーン加速走を指導しようとしたのですが、実は、なかなかうまくいきませんでした。

(1) 重心直下を押さえて進む「速歩き(→小走り)」100m×5本
(2) スキップA 100m×2本
(3) 直走路での、グリーン加速走の指導
  (a) スキップAゴーオンからのもの
  (b) かるいスタンディングスタートからのもの
  (c) 歩行のスピードで形をなぞるもの
  …
(4) 直走路での(スタンディングスタートで)
  @ロケットスタート→Aガトリンダッシュ→Bグリーン加速走
(5) 曲走路での(スタンディングスタートで)
  @ロケットスタート→Aガトリンダッシュ→Bグリーン加速走
(6) 椅子を3つ使っての「正式な腕立て伏せ」7回×3セット

 (3)と(4)と(5)についての距離と本数は、とくに指定していません。距離は60mくらいで、本数は(3)10〜20本、(4)10本まで、(5)数本くらい、でしたでしょうか。
 (1)〜(6)のトレーニング時間は、ほぼ2時間でした。

 中学3年の走り幅跳びの選手だと10分もかからなかったのに、(3)での、(a) スキップAゴーオンからのもの、で、K選手は、なかなか、Bグリーン加速走、にはなりません。
 いわゆる「古いフォーム」に近いもので、キック脚の足首で地面をなぞる(後方に送る、後方へとはじく)ようにして、走ってしまいます。
 100mを11秒3で走る選手なので、そのような走り方でも、かなり速く思えてしまうのですが、私が指導しようとしているものとは、まったく違います。
 この指導のとき、私は、この違いについての説明を思いつき、K選手に話しました。
 「中学生の走り幅跳びの選手の場合は、まったくの古いフォームだった。そこから、グリーン加速走への変化は、まったく異なるものとして取り扱われるので、新しいランニングフォ―ムとして取り込まれる。
 ところが、君(K選手)の場合は、後半の高速ランニングフォーム(ツバメ走)も知っているし、グリーン加速走と近いけれど、ちょっと本質的には違うフォームのようなものを知っている。だから、区別がつかないんだ。」

 もちろん、私は高速ランニングフォームの「(歩くだけではなく)走る見本」ですから、私が走って見せて、これをなぞるようにと言うのですが、K選手は、うまくまねることができません。

 私はK選手のフォームを観察し、私のものと何が違うのかを分析しました。

 (P) 膝の引き出しのときに、膝以外の部分の力が抜けていないため、その後のキックにおける位置が狂ってしまう。
 (Q) 足首が固定できていないので、キック足の接地時間が永くなってしまって、「力を地面に伝えて加速する」というものではなく、地面をタイヤのようになぞって動きを変えるという、「動きの速さでスピードを生み出す」というものになってしまっている。

 とくに(Q)については、えんえんと説明しました。

 「動き」で走ろうとしているのが、今も、日本のトップクラスのスプリンターのほとんどであり、「力」で加速するということに気づいているスプリンターは、ほとんどいない。
 「動き」に囚われてしまうと、やがて、そこでスピード障害が起こって、伸びなくなってしまう。
 しかし、「力」の方だと、空手の技に終わりがないように、いくらでも鍛えてゆくことができる。
 だから、見かけは同じようでも、「古い走り方の加速走」と「高速ランニングフォームとしてのグリーン加速走」とでは、まったく異なるのだ。
 そのことを身体で理解しないと、スピードの壁を突破することができない。

 (P) についての改善方法は、
 「これ以上本数を増やして行うと、けいれんが生じて、本日のメインテーマであるグリーン加速走のトレーニングができないから、5本と言ったけれど、2本にしておこう。」
と実際に私が言って減らした、100mでのスキップAを、もっとたくさんやることだと指導しました。
 100mでのスキッブAを5本くらいやるには、「無駄な力を抜く」ということを身体で覚えないと、まず、出来ないからです。
 かつて、指導した選手が20本やると言ったので、つきあって、いっしょにやったことがありますが、その日のトレーニングは、それだけで終わることになってしまいました。
 そのようなトレーニングの日があってもかまいませんが、他のトレーニングと組み合わせてゆこうとするなら、5本くらいで切り上げたほうがよいでしょう。
 5本が楽にできるようになったら、腰にウェイトをつけて行うことで、本数は増やさず、負荷を高めてゆくことができます。
 その次の負荷は、やや登坂で行うことです。
 登坂でウェイトをつけて行うことができれば、力を抜く段階はすでに通り越しており、必要なところで、もっと力を出すということへと力点が移ってゆくことになります。

 K選手は(5) 曲走路での(スタンディングスタートで)@ロケットスタート→Aガトリンダッシュ→Bグリーン加速走、の最後のあたりで、ようやく、Bグリーン加速走の動きができるようになりました。
 「次回のトレーニングで、ぱっと走らせてみて、グリーン加速走となっていなかったら、また、(さいころの)ふりだしからトレーニングするから」
と、私はK君に言って、このようなトレーニングのあとでも、最後に付け加えることのできる、「正式な腕立て伏せ」へと移ったのでした。
 (Written by KLOTSUKI Kinohito, November 20, 2016)

 

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