短距離ランニングフォーム解析 (6) ガトリン選手

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)@ 9621 ANALYSIS

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 2001年ガトリン選手のキック局面のフォーム

 2012年のロンドンオリンピックの100mで3位となったガトリン選手は、薬物使用のため、何年間か試合に出られなかったが、見事に復活した。
 次に示すフォームは、2001年のときのものである。ただし、コンピュータソフトに組み込んだシミュレーションロボットの骨格サイズは、日本人ぐらいのものとなっている。高速ランニングフォームのサンプルとして、中年で、しかも、たいして走るのが速くない、私のようなもののフォームを示しているようでは、説得力もなくなってしまう。私が提供するのは骨格サイズだけにして、シミュレーションロボットには、2001年のガトリン選手のフォームを、画像にもとづいて再現してもらった。


図1 2001年のガトリン選手のキック局面

 このようなステックピクチャーを描く元となった画像は、テレビで放映されたものをビデオで録画したものとなっていた。そのとき、ランナーの進行方向は向かって右だったと思う。メインスタンドから100mを観察するときの画像だった。解析の都合で、ランナーを向かって左向きとしたので、ここでは、赤い線で描いたほうが左で、青い線で描いたほうが右ということになる。
 (a) 左脚キックのフォームと、(b) 右脚キックのフォームとでは、微妙なところが幾つか異なっている。
 まずは、身体重心(G(##), 黒丸)の変化を見よう。55←45←35と並べてある、(a) 左脚キックのほうでは、G(35)からG(45)にかけて、少し上向きに動いている。そして、G(45)とG(55)は、ほぼ同じ高さである。これに対して、155←145←135と並べてある、(b) 右脚キックのほうでは、G(135)からG(145)にかけて、少し下向きに動いている。そして、G(145)とG(155)は、ほぼ同じ高さである。
 キック脚の拇指球(A)のあたりを見ると、中間フォームの45では、踵が少し浮いているのに対して、145では、まだ地面についている。
 スウィング脚の重心(Sとする、左右の違いによって色は異なる)の移動距離を見ると、(a) 左脚キックのほうでは、G(35)からG(45)にかけて、(b) 右脚キックのほうでは、G(135)からG(145)にかけてのほうが、それぞれ長くなっている。
 これらの観察結果から、(a) 左脚キックのフォームでは35と45の間にキックポイントがあり、(b) 右脚キックのフォームでは145と155の間にキックポイントがあると推定できる。キック足の拇指球位置としてあるAに対する、身体重心Gの位置で考えると、(a) 左脚キックのフォームでは、GはAを越えていなくて、(b) 右脚キックのフォームでは、GはAを越えているということになる。  55と155のフォームを見比べると、55のほうが、スウィング脚の膝が高く上がり、キック脚の膝下部分が大きく傾いている。つまり、55のほうが、よりスピード感があるということである。
 ガトリン選手の左右のフォームを見比べたとき、高速ランニングフォームとして、より効果をもつのは、(a) 左脚キックの、45←35のところの動きであると考えられる。次の図2として、45←35だけのフォームを取り出して示す。


図2 高速ランニングフォームの効果的なキック局面

 図2のフォーム35を見ると、身体重心G(黒丸)の鉛直直下地点より、キック足の踵は、ちょうどそのあたりか、幾分前にある。キック足の接地位置は、身体重心直下ではなく、1足長だけ前となるのである。
 フォーム35とフォーム45の間のどこかにキックポイントがある。ここでは、およそ、それらの中間あたりだと考えてもよいだろう。キックポイントは、身体重心G(黒丸)が、キック足の土踏まずの真上あたりにあるときだと見なすことができる。まさに、身体重心直下で力を込めるのである。
 フォーム35において、スウィング脚の太ももは、ちょうど、キック脚の太ももと並ぶような位置にある。スウィング脚の膝はきょくたんに折りたたまれることなく、この膝で、膝下部分を引っぱっているという状態になっている。こほうが、スウィング脚の重心を水平に移動させやすいはずである。この局面では、スウィング脚の膝を高く引き上げようとするのではなく、できるだけ前へと出すことに集中すべきであり、ちようど、フォーム45のような膝の高さのとき、スウィング脚の重心は、最も効率よく前へと引きだされる。
 フォーム35の少し後で、キック脚全体に力がこめられ、その反動で、フォーム45での、踵が浮くことになる。このとき、キック脚の膝の角度は大きくなっていない。逆に小さくなっている。これは、キック脚の、膝にくっついている筋肉群が、引っ張られながら力を生み出しているということを示している。ここに、高速ランニングフォームの本質的な要因が潜んでいる。高速ランニングフォームでは、筋肉が縮むときに生み出す力ではなく、筋肉が伸ばされるときに生み出す力を利用しているのである。一般に、このようなときの筋力のほうが、はるかに大きい。
 フォーム145とフォーム155のほうを見ると、キック脚の膝の角度は大きくなっている。こちらは、筋肉が縮むときに生み出す力をつかおうとしていることになる。まったく異なる原理で走っていることになるわけだ。
 以上のことから、高速ランニングフォームの本質は、筋肉が伸ばされるときに生み出す力を利用するというところにあることが分かった。そのためには、フォーム35とフォーム45のイメージをしっかりと覚え、それを身体になぞらせる必要がある。
 (Written by KULOTSUKI Kinohito, Oct 15, 2012)

 追記

  この後、数日かけて、解析プログラムを改良し、より詳細な分析ができるようにした。そして、それを使って、これらのフォームを調べたところ、加速ができているのは、(a) 左脚キックのほうではなく、(b) 右脚キックのほうであるということが分かった。図2として取りあげて考察すべきだったのは、45←35 のほうではなく、145←135のほうであった。これは、分かってみれば、このような段階でも分かることだった。つまり、45←35で加速が生じていたとすると、次の55←45では、もっと大きな移動距離となっていなければならない。ところが、そうはなっていない。
 (Written by KULOTSUKI Kinohito, Oct 19, 2012)

 

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