短距離ランニングフォーム解析 (12)FJ選手の詳細重心解析

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)@ 9621 ANALYSIS


PDF 短距離ランニングフォーム解析 (12)FJ選手の詳細重心解析

「スポーツ解析」ブランチページへもどる

 FJ選手のランニングフォーム


図1 FJ選手のランニングフォーム(2005年のもの)

 このフォームは100mのレース(予選)におけるものです。
 MR選手、NS選手、OZ選手は、私がいくらか指導しましたが、FJ選手と私とは何の関係もありません。OZ選手を指導していたころの、女子スプリンターです。OZ選手のフォームを調べに行ったとき、ランニングフォームの研究ためにと考え、画像を記録しておいたものについて解析しました。
 100mレースの中盤の連続するフォームを6歩分解析しましたが、ランニングフォームとして眺めると、それほど大きな変化は見られませんので、初めの2歩についてのみ描いておきます。

 FJ選手のキック局面と詳細フォームによる全重心速度解析グラフ

 次に、各キック局面のフォームについて、(左)キック足のつま先を固定して並べ、(中) 詳細フォームによる全重心解析グラフをおき、(左) グラフ中にある有効な詳細フォームを抜き出して描きました。全重心解析グラフの濃い水色のプロットが太い線になっているところの詳細フォームです。比較しやすいように、これらの詳細フォームは画像2コマ間の1/30秒と同じ間隔で抜き出しています。


図2 キック局面の解析 (a) 22←21←20←19

 全重心解析グラフの、濃い黄色でプロットされた、水平速度dx(G)の変化を見ると、詳細フォームの4番目から15番目あたりまで、ほとんど速度は増加しておらず、離陸の少し前のところで、かろうじて増えています。
 これは、キックの前半部分で、地面を真下に強く押すことによって、キック足のバネを使った、地面を「弾く」作用が、うまく行えていないことを意味しています。


図3 キック局面の解析 (b) 29←28←27←26

 このキック局面では、水平速度の増加はほとんどありません。速度維持のための、このようなフォームを「慣性フォーム」と呼ぶことにします。


図4 キック局面の解析 (c) 36←35←34←33

 前のキックが「慣性フォーム」であったためでしょう、このキックでは、最初の水平速度が低い値となっています。ここでも、前半部分では大きな変化はく、後半部分で水平速度を増加させています。後半型の「加速フォーム」です。


図5 キック局面の解析 (d)42←41←40

 このキック局面は3コマだけですが、この次のコマのフォームは明らかに離陸後のものでしたので、この解析に用いないでおきました。
 ここのところの濃い黄色でプロットされた、水平速度dx(G)の変化が、「高速ランニングフォーム」にもとづくものです。前半部分から水平速度が、同じような勾配で増加しています。「短距離ランニングフォーム解析 (8) ガトリン選手の詳細重心解析」で調べた、「図5 ガトリン選手(b) 155←145←135の詳細重心解析」のパターンも、このようになっていました。
 一般に、キックの後半部分でスピードを高めるという技術は、タイムトライアルなどで磨きあげてゆかなればならないもので、実際のスプリントレースのなかでも、意図的にピッチをあげようとしてエネルギーをつぎ込んでゆかなければなりません。ある程度実力をもったスプリンターは、この技術や能力に優れています。
 これに対して、「高速ランニングフォーム」における、キックの前半部分からの加速という技術は、やはりむつかしいものかもしれませんが、エネルギーという視点からは、ずうっとたやすいものなのです。


図6 キック局面の解析 (e) 50←49←48←47

 このキック局面では、前半での加速が、わずかに認められます。鉛直速度も前半に増えています。そして、後半へ向けて、水平速度が増加してゆきます。このフォ―ムが、これらの6歩の中で、いちばんよくまとまっていると思われます。もちろん「加速フォーム」です。


図7 キック局面の解析 (f) 57←56←55←54

 このキック局面は「慣性フォーム」でした。後半に水平速度が急激に低下していますが、この段階でブレーキをかける要素は考えられません。これは、中間あたりで、すでにキックの局面が終わり、空中に飛び出してしまっているためと考えられます。

 感想と考察

 FJ選手として説明してきましたが、画像そのものを使っていないので、FJ選手の名前を出しても問題は生じないでしょう。FJ選手は「藤崎理奈」選手です。2005年のころは日体大に所属していました。このころの日本の女子スプリンターの中ではトップクラスでした。
 画像を撮影した2005年ごろ、画像そのものを観察して、強い足首をもっている選手だなあと思ったことがあります。ビデオ画像をコマごとのBMP画像へと展開してあったのですが、当時は、さらなる解析を行わなかったかもしれません。ウェブで調べたところ、藤崎さんは2008年ごろに現役を引退したそうです。しかし、2012年になって、テレビ番組「ほこたて」の「一般の11歳と55歳のリレ―対決」で、いずれのチームも指導されていました。結果は55歳のチームが勝ちましたが、こちらの3走のかたのフォームが、「高速ランニングフォーム」に近いものだったことを見て、すこし驚きました。3走のところで大きく差がついていました。
 さて、今回の解析に関する考察です。
 ランニング解析プログラムruna.exeの機能が高まってきて、何年か前にF-BASICでいろいろと組み上げていたものを上回るようになってきました。これまでのソフトでは分からなかったことを明らかにできるようになったと思われます。
 日本の一流スプリンターのランニングフォームとして、まだ、わずかな人数だけしか解析していませんが、ここまでのまとめとして、次のように考えられます。
 スプリントランニングにおけるキック局面を、前半と後半に分けて、これらのところでの加速効果を組み合わせることにより、スピードを高めてゆくことができます。前半での加速効果のメカニズムは「高速ランニングフォーム」によるものです。後半での加速効果のメカニズムは、スウィング脚の動きやキック脚の膝の角度が大きくなるときの動きを使って、身体重心を押そうとするものです。藤崎さんのフォームでは、前半での加速効果の「兆し」が見られるものの、メインとなっているのは、後半での加速効果のようです。ただし、図6で明らかになったフォームは、前半と後半のメカニズムがうまく組み合わさっているようです。

 (Written by KULOTSUKI Kinohito, Oct 22 2012)

 

「スポーツ解析」ブランチページへもどる